私が望むとき、仮面ライダーは蘇る   作:妄想作家

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 変身したあとの彼の戦いは、苛烈と言う言葉が似合う戦いだった。

 

 輝く紅の目と、風にたなびく赤いマフラー、グローブに包まれた拳を振るえば相手の装甲はひび割れ、その脚を振り上げれば簡単に四肢を折り曲げて自由を奪う。

 

 姿形は似てても、彼の言う通り大量発生型相変異バッタオーグたちとは性能が違った。

 

「あの時戦ってた奴よりも、随分とお粗末だな」

 

 一文字はそう言っている間にも、敵をまた一人地面に這い蹲らせた。

 

「貴様は、今やっていることが、何を意味するのか分かっているのか!」

 

 バッタオーグの一人がバッタの名に恥じぬ脚力でライダーの眼前に迫り、黒い拳を振るう。しかし、その全てがライダーに当たらず、逆にカウンターで仮面にヒビを入れられている。

ヒビが入るほどのパンチでバッタオーグは後退した。

 

「我らが首領の、偉大な計画を邪魔してただで済むと思うなァ!」

 

「ハッ! 女の子一人殺そうと追い回す奴らのことなんて分かりたくもないな。それに、ショッカーの裏切り者である俺がお前達の邪魔するのに理由なんているわけがない」

 

 ライダーからはっきりとした拒絶を告げられ、バッタオーグの憤りが強くなるのを感じた。

 ライダーは後ろから組み付いてきていた他のバッタオーグの腕を振りほどく。そして、間髪入れずに回し蹴りを叩き込み相手を突き飛ばした、そして、未だ立香を諦めようとしないバッタオーグたちの次の攻撃に備えるために立香を背に隠す。

 

 正直、彼が変身してから今この瞬間まで、立香は置いてけぼりのような状態である。彼女の頭の中では、さっきの声は何だったのかという疑問と、先程変身してから肌に感じられるほどに増した一文字の暴力性への衝撃と、命の危機を脱しそうだという希望でぐちゃぐちゃなのだ。

 

「お嬢ちゃん」

 

「え!? あっ、あ、はい!」

 

 だが、その悪循環となった思考ループは、一文字に話しかけられたことで一旦思考がリセットされた。少しどもった返事になったことを恥じているくらいには、今の一文字の声は先程の優しいお兄さんの雰囲気がある。

 

「俺が来たからにはもう大丈夫だ。あんな粗製の粗製に負けるほどヤワじゃないからな。俺に任せてくれ」

 

「そ、粗製……えっと! うん、任せた!」

 

 任せた、という言葉を聞いて、彼のマスクの下の顔が何故か笑ったような気がした。

 

「サーヴァントってのは初めてだが、あんたみたいなのは、所謂、"良い"マスターなんだろうな」

 

 倒れていたバッタオーグが、その脚を震わせながら起き上がる。先程の回し蹴りを見事に腹に食らっていたせいで胸部装甲はひび割れ、その下の配線や基盤のスパークが見える。

 

「なぜだ……貴様もSHOCKERに造られたオーグのはずだ! なぜ裏切ったのだ!」

 

「なぜ、だと?」

 

 リーダー格の問いかけに、一文字の返事から初めて拒絶ではなく強い感情の発露が見える。

 

「まぁお前の言う通り、SHOCKERによって俺はこの体を手に入れたさ。あぁ、本音を言えばこの力をくれたことには感謝してる節もある」

 

 マスターとサーヴァントの間には、契約によるパスが繋がっており、マスターはサーヴァントの過去を夢として観測することがあるらしい。

 

 一文字の脳裏に思い浮かぶのは、一人の女性の願いの言葉。

 

 赤いマフラーはバイク乗りの証、そして、赤はヒーローの色。

 

「だが、それとこれとは話は別だ。絶望に漬け込み、魂の自由を奪うSHOCKERを許しはしない!」

 

 ライダーとの魔力パスから、深い悲しみと喪失感。やるせなさが伝わってくる。

 

「俺は……SHOCKERの敵、人類の味方、一文字隼人」

 

 令呪が熱く燃えていると錯覚するほどにの感情の嵐に、呼応するように脈打っている。

 

一文字は、一度たりとも忘れたことはなかった。あの時、洗脳された自分を救い出して、この力に名前をくれた彼女の願いを。

だからこそ、彼は名乗る。覚悟を拳に、怒りを赤い双眸に。

 

「あの時、あの瞬間から…今でも俺は、仮面ライダー第2号だ!」

 

 その名前がどんなに大切なものなのか、彼の心が、魂が伝わった。

 

「貴様のその名前……そして下らない行動目的、全て意味のない世迷い言にすぎない! その力で得た幸せを理解しようとしない愚か者が!」

 

「この俺が、他人から奪う幸福で安らぎを覚えるわけがないだろう。そんなもの得たところで、俺の心は何一つすっきりしない!」

 

 ダメージの大きさから震えていた体は、いつしか怒りの震えに変わっていた。バッタオーグはもはや我慢ならないと言わんばかりに吠え、それと同時に残りのバッタオーグが襲いかかってきた。

 

 集団戦闘において邪魔なバイクから降りていた彼らは、太腿に装備していた伸縮式特殊警棒を振り伸ばして襲いかかってくる。

 

「マスター! 掴まれ!」

 

「うん!? えっ、うわぁあああ!」

 

 ライダーに言われるがまま腕に捕まった私は、そのままライダーに抱かれて空へ跳ねた。

 

 私を抱えているのにもかかわらず、全く苦にしている様子もないライダーのスペックの高さに驚きながらも、わたしたちの目の前にはビルの壁面が迫る。

 

「ライダー、着地とか諸々任せたよ!?」

 

「あぁ、任せてくれ!」

 

 そしてライダーは、そのまま壁面を再び蹴り跳ねる。

 

 向かう先は上空……ではなく、地上に向けてだ。

 

 ちょうど武器が空振りしたバッタオーグの集団を通り過ぎたことで距離が空いた。

 

 急いでバイクに跨がる彼らを見ながら視線で彼に問いかける。

 

 

「どうするの?」と。

 

 それに対して彼は得意げに黒いコートを翻した。コートを翻したことで一瞬塞がれた視界が戻れば、彼の隣には白い車体に赤いラインが入ったバイクが現れていた。

 

「俺の相棒、名をサイクロン。俺の仮面ライダーとしてのスペックはこのバイクがあって初めてフルスペックになる。こいつで風を切る感覚は最高だぞ。マスターもきっと気に入るさ」

 

 彼はそう言ってバイクに跨り、私に赤色のヘルメットを投げ渡してくる。

 

「私、金時のゴールデンベアー号しか乗ったことないから楽しみだな」

 

「ゴールデンベアー号? マシンの名前かなにかか」

 

 ライダーから初めて嬉しそうな声が聞けた。

 

「そうだよ、あなたと同じライダークラスのサーヴァントで、うーん、言われてみたら何処かあなたのその姿に雰囲気似てるかも。腰のベルトとか格闘メインなとことか」

 

 バッタオーグたちがバイクで迫ってきた。

 

「金時というと、あの金太郎か?まさかライダーだとは、なかなか面白そうな奴だな。俺は一人が好きな方だが、その上で金時とツーリングでもしてみたい」

 

「それいいね! きっと金時も喜ぶよ。それはゴールデンだな! って」

 

 ライダーの腰に手を回して体を寄せる。

 

「派手な表現だ。だが嫌いじゃない」

 

 サイクロンのアクセルを回すと、エンジンが唸りを上げる。早く走らせろ。俺は何時だって準備万端だと主張しているかのように響くエンジン音が頼もしい。

 

「捕まってろマスター、フルスロットルだ!」

 

「うん! ぶっ飛ばせぇ!」

 

 風になったかと錯覚するほどの速さ、金時の後ろに乗せてもらったときとは違う速さの感覚に、先程まであった死ぬかもしれないという危機感は消え去り、今の彼女は純粋にバイクの速さを楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 周りに散らばる赤黒い飛沫と、マスクの破片。

 別の場所で藤丸立香がライダーの手でバッタオーグたちの群れから逃走したとき、カドックもまた危機から脱していた。

 

 カドックは魔術師だ。48人目の彼女とは違い、血筋もあり、才もある。彼もまた、大量発生型相変異バッタオーグに追われていたが、命の危機を脱したのは彼の宿す魔術の才だけでは不可能であった。

 

 では、なぜ彼はバッタオーグからの襲撃を逃れることができたのか。

 

 それは、彼もまた、サーヴァントのマスターになる資格を持つものであったからに他ならない。

 

 だが、彼は自分で呼び出したわけではない。

 

 カドックを助けたサーヴァントは、どこからともなく舞い降りできたのだ。

 

 彼もまた、ライダーのクラスであった。

 

 バッタオーグとは似ても似つかないその仮面には、揺るぎない意志を感じ取ることができる。たなびくマフラーはまるで純粋さを表すかのように穢れのない白であった。

 

「……」

 

「……」

 

 そして、二人はバッタオーグの残骸の真ん中で立ち尽くす。お互いの顔を見ながら、一言も発せずにいる。

 

 いや、カドックからすると言葉が出ないのだ。行動だけ見ると味方のように見えるが、そんな希望的観測は安易に持つことが危険だ。だからこそ、彼は目の前のサーヴァントの出方を伺っていた。

 

 しかし、いつまで経っても何も話さない。

 カドックはふと思った。

 

 もしかして、向こうも僕の出方を見てるのか? 

 

 

 と。

 

「……あの」

 

「お前は」

 

 意を決して口を開いたカドックに、ライダーはあろうことか言葉を被せ口を開いてきた。

 

 

「お前は、私を喚んだのか」

 

「いや……、僕が喚んだ覚えはないんだが……」

 

「そうか」

 

 カドックの脳内はもうすでに、こいつ面倒くさいぞと警告を発している。

 

「では、私は誰に呼ばれたのか。まぁ、良い。お前もどうやらマスターのようだ。召喚されて出てきてみれば、見覚えのある連中にやられかけてる為助けたが、大丈夫か」

 

「……あぁ、問題ない。僕はカドック。カドック・ゼムルプス。ライダー、あなたのおかげで助かったよ。ありがとう」

 

「カドックか。礼なら不要だ。必要と思ったことをやっただけだ」

 

「いや、命を助けてもらった恩にはちゃんと礼を言いたいんだ。じゃなきゃ、いつかあったときにあいつになんて詰められるかわかんないし……」

 

『受けた恩に礼も言えないなんて。カドック、私そういうの良くないと思うわ』

 

 なんだか幻聴が聞こえた気がする。というか、絶対彼女ならこんなこと言ってくるだろう。

 

「ほう、大切な人がいるのか。ならばその礼は受け取ろう」

 

「あぁ、そうしてくれ。……ライダー、あなたが召喚された理由だが……まぁ心当たりがないでもないんだ」

 

 

「なに? それはどういうことだ」

 

 

 なんか慣れてきたなとカドックは思った。このサーヴァント、言いたいことは全部言ってくるんだと気付いてからは話しやすい。なんせ、腹芸の一つもしてこないものに思考を張り巡らしたとて、ただ徒労に終わるだけなのだ。

 

「仲間が一人、おそらく同じようにこの街で襲われている。多分そこでサーヴァントを召喚したんだ。そのときにライダー、君は連鎖召喚されてここに現れたんだと思う」

 

「連鎖召喚……縁を辿り複数の霊基が連続的に現れるというものか。なるほど……奴らか」

 

 初めて感情が現れた発言に少しどきりとする。少し嫌そうな感じだ。

 

「カドック、お前さっき仲間がいるといったな。合流するぞ」

 

「え? あぁ、合流するのは構わないが……どうやってだ?」

 

「お前達に、私達SHOCKERの技術を説明してもわからんだろうが敢えて言う」

 

 まさかの返答に、カドックは唾を飲む。

 

 こいつは、今私達SHOCKERと、自らが今地に伏した黒仮面の連中と同じ組織だと自白したのだ。

 

「あぁ、勘違いするな。私はもうSHOCKERに戻る気などない。そして疑問に答えよう」

 

 

 なんのことはなくサラリと疑念を否定したライダーは仮面を外し、その長髪を靡かせて口を開く。

 

 仮面の下から覗いたその眼光の鋭さは冷たさを宿す目だった。病的に見える細さと、神秘的とも言えるその所作はまるでどこかの宗教の教祖のようにも思えた。

 

 

「恐らく呼ばれたのは仮面ライダーだ。奴のプラーナを追う」

 

 そして、気づけば彼の後ろには白いバイクが現れていた。

 

「後ろに乗れ、カドック。これでもライダーだ、どれ、楽しいツーリングと行こう」

 

 ライダーはいつの間にか手に持っていた銀色のヘルメットを被り、カドックに黒いヘルメットを渡してきた。

 

「いや、楽しめるのか、この状況……」

 

 カドックが後ろに乗ったのを確認してバイクは唸りを上げて風を切る。

 ……まぁ……たしかに……この風を切る感覚は……悔しいが楽しいかもしれない。

 

「カドック。お前は名前を教えてくれたが、名乗るのを忘れていたな」

 

 いや、名乗るつもり無いのかと思っていたんだが、という言葉は飲み込む。やっぱり彼女に少し影響され始めてるかもと頭の片隅で思った。

 

 

「緑川イチロー、またの名を仮面ライダー第0号」

 

 

 なんだか、ホームズと旅したトラオムを思い出すなと、カドックは思っていた。

 

 

 そして、カドックの耳に聞こえたのは、ビルを挟んだ向こう側から聞こえるバイクの甲高い唸り声と、爆発音。

 

 藤丸立香と仮面ライダー第2号、カドック・ゼムルプスと仮面ライダー第0号。

 

 彼らの邂逅は、すぐそこまで迫っていた。




読んでくれてありがとう。

2023/07/22
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