私が望むとき、仮面ライダーは蘇る 作:妄想作家
「ルリ子が信じた人間を、信じることにしよう」
「あとを頼む」
「結局、また一人かよ」
夢を見て、飛び起きた。内容は朧気だ。
哀しく、悲しく、寂しい。
愛されたい。愛したい。幸せになりたい。許せない。許したい。許してほしい。
相反する思いに苛まれた男達の魂の叫びが、暗い空間に反響していた。
顔は見えないのに、その下で汗と涙を流し、血を吐きながら自分の目指す幸せのために足掻いた戦士の一挙一動は、私の瞼に鮮明に焼き付いている。
マフラーはバイク乗りの証。ヒーローといえば赤。
それが誰かなんて、考えなくてもわかった。
私とカドックは、合流した後に仮の拠点を探すことにした。
この街での行動かどこまで敵に把握されているかは分からないが、できるだけ身を隠せて、雨風をしのげる場所。
幸いにして、ここは都会であった。立ち並ぶビルには多くのテナントが入っており、隠れ場所にはちょうどいい。
しかし、そこで一文字さんの方からいい場所を知っていると提案があった。
そうしてたどり着いたのは郊外の一軒家。2階建てのアンティークな装飾が施された扉を、我が家のように開く一文字さんに、私とカドックはとりあえず黙ってついていった。
「ほう、この家が残存していたとはな」
「アンチショッカー同盟は、あの後も活動していた。お嬢さんに感謝しておくんだな」
「不思議な気分だ。まさか、自分と敵対していた頃のセーフハウスに、休息を求めるなんてな」
「お嬢さんの手前やるつもりはないが、俺一人だったら叩き出してやってるところだ」
「あぁ、感謝している」
私達のサーヴァントは変わらず、距離が近くて遠い、仲は良くないのになぜか噛み合っているという凸凹さであった。
「藤丸、あの二人あのままでいいのか?」
カドックはあの二人の関係について不安を抱いているようだ。
私は……私は何故か不安に思っていない。まぁ、今までの旅路の経験もあるし、そもそもむりやり仲直り? させようとしたってあの二人の性格を考えれば拗れるだけだ。
前の戦いの禍根はまだ残ってるなと驚きはしたけど、まぁインド英雄組とかギリシャ組みたいな血気盛んな様子でもないので、私の答えはこうだ。
「うーん、まぁ、なんとかなるよ!」
それを聞いたカドックは項垂れる。
「……はぁ」
「ちょっと、ため息つくことないでしょ、もう。そんなんじゃ幸福が逃げちゃうよ!」
「そしたら、今の僕の幸福は既にゼロ振り切ってマイナスだろうさ」
改めて、カドックとは結構距離が近くなれたなと思う。本人にとっては、今戦っているのは贖罪でもあり約束でもあるので、本当に大事な一線を守り続けてるからマシュみたいな心理的距離には遠いけど……それでも彼とはいい戦友であり、私のセンパイみたいですごく頼もしい。
「なんか急に変な街に来ちゃってカドックも疲れてるんだよ。悪いこと考えちゃうときは食べて寝るのが一番だよ」
「……まぁ、それに関しては否定はしないし、僕も同意する」
ほら、面倒くさそうな返事して人を避けるようなイメージがあるけど、根本的に善人だから周りを突き放したりしない。
なんだか、お兄さんがいたらこんな感じなのかなぁって偶に考えてしまう。
「マスター、周囲の確認が済んだぞ。オーグが近くにいる様子もないし、今日はひとまず休もう。食事が必要なら、隣の部屋に蝶野郎が街で調達してきたものを置いてある。好きに食べてくれ」
扉を開けて入ってきたのは、偵察から戻ってきた一文字さんだった。
カドックと私は、現在セーフハウスの中でも最も広い空間で体を休めていた。コンクリート打ちっぱなしの床に、断熱材が丸見えの木造骨組み。まさに、秘密基地だ。
カドックも少し目を輝かせてたのは内緒にしておく。
「うん、ありがとう、一文字さん」
「少し礼装の点検をしておく。藤丸、先に休んでいてくれ」
「そう? そしたら、ご飯よりも先に、少し寝させてもらおうかな……」
カドックに礼装の上着を預けてから、私は表向きは民家を装うために作られているリビングの方へ向かった。
イチローさんがフローリングで瞑想しているのだけが、少し怖かったけど、私は気にしないことにしてそのままソファーに倒れ込み目を閉じた。
「なんだか、あっという間に過ぎたようで、長い一日、だったなぁ……」
最後に見たのは、いつの間に持っていたのか白いコートをかけてくる青い人影だった。
「なぁ、あんた名前はなんていうんだ?」
「藤丸が喋ってるの聞いてたろ」
今は礼装の点検中だ。と付け加えるも、一文字はカドックに話しかけるのを止めなかった。
「俺は、俺の心がすっきりできるようにしていたいんだ。他己紹介で相手を知ったつもりになるのは、俺はすっきりしないし、後々あんたの方だってもやもやすることになる。俺は相手のことはその本人から聞きたい。自分の名前を自分で言えないやつほど信用はできない」
「それはあんたの理屈だ。他人に自己のルールを押し付けて正当化しようとするのは傲慢じゃないのか」
「はぁ? それなら、完全に拒絶するというのも傲慢じゃないか? 周りよりも一歩引いたところで理解した気になっているだけだろ」
「……カドック・ゼムルプス、これでいいだろ」
「まぁ及第点だな。ライダー、一文字隼人だ」
「済まないが、今は礼装のメンテ中だ。現状僕らにはバックアップがない。この作業一つで彼女の生き死にへ影響するんだ。集中させてくれ」
「悪かったな。喧嘩するつもりはなかったが、多分今このタイミングじゃないと名前を聞き出す時間は取れないんじゃないかと思ってね。頼むぜ、そして頑張れよカドック」
そう言って、彼はコートから棒状のスナック菓子を取り出して近くのテーブルに置いて部屋から出ていった。
「あの押しの強さ、確かに藤丸のサーヴァントだよ、全く」
そう鬱陶しそうに言いつつも、カドックの表情は少し和らいでいた。
その時にカドックは気づいた。
礼装に施された魔術の異常を。
「これは……負荷がかかっていたのか? 今になってどうして? これはカルデアでの標準礼装だ。藤丸の旅の中で幾度となく調整されたはずたから今更負荷でこんなことには……」
カドックが見つけたのは、礼装に組み込まれた魔術を励起させるための機構だ。藤丸は、魔術に関しては明るくない。そのため自身の魔力を礼装の機構に流し込むことで様々な効果を扱うことができるように旅路の中でカルデアから様々な礼装を支給されてきた。
長い旅の中で、彼女の魔力行使の練度は着実に上がっていったこと。少ない魔力で大きな効力が出せるように機構の最適化を常に重ねていたこと。初期礼装で今日の襲撃を一時的に逃げおおせることができたのは、彼女の経験だけではなく、身にまとった礼装が人理修復中の頃と比べれば月とスッポンと呼べるほどの一級品の魔術礼装になっていたからだ。
初期から使用しているカルデア礼装に関しては、もはやダ・ヴィンチが2代に渡って調整を繰り返した。もはや初期装備などと言うには恐れ多いほどの一品物なのだ。
そんな一級品の礼装に、過負荷の形跡がある。
「なぜ、こんなときに機構に過負荷が……? 敵の攻撃か? いや、奴らは魔術に関わっているようには思えない。科学的アプローチによる超人の作成をしているなら魔術的な妨害などしなくてもいいだろう」
そして、一つ可能性が思い浮かんだ。
しかし、思い浮かんだ瞬間にカドックはそんなことはありえないとその可能性を棄却した。
だが、思い浮かんでしまったことで思考はそちらに引っ張られてしまう。なぜそうなったかは不明だが、何が起これば礼装の異常が引き起こされたかは辻褄が合うからだ。
「まさか、ここに来て藤丸の魔力量が上がった……?」
藤丸に体に先程調達してきたコートを毛布代わりにかけたところで、イチローの元へ一文字が近寄ってきた。
神妙な顔つきでイチローは話し始めた。
「やはり、プラーナを感じる」
その言葉に、一文字は顔をしかめた。
「本当に微かだが、間違いない」
続くイチローの言葉に、一文字のグローブに包まれた拳がぎちぎちと音を立てるほど握りしめられた。
「それじゃあ、やっぱり……」
「あぁ、彼女だ。導かれたんだ、彼女のもとに」
それは一文字に告げられたような声音ではなく、まるで言い聞かせるようにか細い声だった。
「それは、なぜだ?」
「こちらに聞けば何でもわかると思うな。わかることしか話せない」
一文字の頭の中には何も答えが出てこない。彼は、心がすっきりとしていることを第一にするのが信条の男だ。今の状態は、かつての記憶と今の記憶の関連性に答えが出ず、思考の迷宮に迷い込まされた一番嫌な状態だった。
「ったく、役に立ってんのか立たねえのか、はっきりしてほしいんだが」
「今の発言は聞かなかったことにしてやる一文字」
イチローもまた、苛立ちはあった。
あのとき、確かに彼は見送った。彼女の悲しみを耳にし、涙を目にして、それでもなお見送って消えたのだ。
彼女に、自身が最も憎んだ絶望を背負わせてもなお消えることを選んだ。
男二人、改造人間として超常の力を持ちながら、力で推し量れないことに対して無力である。
「一文字、この件はマスターに、カドックには言うのか」
「機会を見て言うしかない。今は休ませる一択だ」
「この娘にはどうする?」
「……さぁな。どうするのが正解なんだか」
力なく笑う一文字に、らしくないとは思う自分に、イチローは自身の変化を感じ取っていた。
「時に一文字、一つ聞いていいか」
「あ? 急になんだってんだ」
「お前は、俺が憎くないか」
一文字は、そのときに初めてイチローの方へ顔を向けた。
イチローの眼差しは真剣なものだった。彼の生前の頃の目つきは、冷たく、どこか浮世めいている生きている気配のない寂しい目だったが、今ここにいるイチローは、静かに燃える炎を宿す生きている眼であった。
一文字は、ここに来て初めて彼の顔を真っ直ぐ見て言った。
どうでもいい。
と、ただ一言。
イチローはその言葉に、単純に驚いてしまった。
「それが、お前の答えか」
「もしこれで俺がお前を憎んでるって答えたらどうするつもりだった? 短い時間だが、血反吐はいて腕をへし折られるまで戦ったんだ。最後の会話だって少しは耳に入ってる」
「……そうか」
イチローのことを無視して、話は続く。
「俺がお前を憎むことはありえない。心に憎しみがあるままじゃ、一生すっきりしない。俺の選択肢に常に誰かを憎しみ続けるなんてものがある限り、俺はきっと、仮面ライダーではいられなくなる」
一文字は、赤いマフラーを撫でながら藤丸に目を向ける。
「俺は仮面ライダー第2号と名乗った以上、お嬢さんとの約束のためにもお前を憎むことはない」
「また、妹との約束か」
イチローの脳裏に浮かぶのは、もう一人の仮面ライダーの姿と、彼を信じ託した妹の姿だった。
「お前もまた、妹の信じた仮面ライダーなんだな」
「あんた、何言ってんだ」
イチローは、急に胸ぐらをつかまれた。一文字の顔には、少し苛立ちのような感情が感じられる。
「あんただって、仮面ライダーなんだろ。名乗った以上は……自分の信念から逃げるなァ! あいつが、本郷から継いだこの名を貶めないためにも、俺もお前も逃げるなんて選択肢はないッ!」
射殺さんばかりのその目に初めて心の中に逃げがあったことを、イチロー自身気づいた。
そうだ、俺は、逃げたかったのか。
家族を喪う事に絶望した。その後ショッカーに入って、知らぬ間に超人にされて、戦いを経験した。
そんな中得た新たな家族である妹。
彼はそんな妹に自身の絶望を味合せた。
そうして、プラーナを感じ取ってしまったせいで彼の心の傷は開かれた。
プラーナは人の魂そのものと言える。
彼女にまた会えるかもしれないと言う希望を前に彼は、生前の別れを理由に、また辛さを感じ絶望を味わいたくないと、逃げたくなったのだ。
一文字はイチローの体を離し、大きく息を吸った。
「仮面ライダーを、なんで名乗ったんだ。チョウオーグではなく、仮面ライダー第0号を」
「羨望、かもしれないな」
藤丸を見て、イチローは答える。何か答えを探すが、彼の中では影はあっても形が見えない。
「俺は絶望からチョウオーグへと至った。そして、ハビタット計画のために心血を注いだ。すべては、絶望があってこそのものだ」
手探りのまま言葉を紡ぐため、イチローも何を言っているかもはやよくわからなくなっている。
「計画の最後になって、ルリ子が俺を裏切った。緑川もだ。そして現れたのが仮面ライダーだ。あいつは、ルリ子からの信頼を勝ち取り、ルリ子に希望を見せた。絶望から生まれたのはあいつも同じだが、ルリ子に地獄を生み出すと俺は糾弾された」
「お前を差し向けたが、結果的に敵が増えただけだった。ルリ子はもういないのに、あいつは必死に俺へルリ子の希望を託そうと玉座にたどり着いた。そんな姿が」
「俺は、そんな姿が羨ましかったのかもしれない。絶望から生まれて、希望を託そうとしたその姿が」
イチローが目を向ければ、藤丸は未だ目を閉じている。
余程疲れていたのか、男たちの言い争いも聞こえていないくらいに深い眠りについている。
「ルリ子が信じた人間に、俺も向き合うとしよう」
二人の仮面ライダーの疑念は消えず、彼らの中での蟠りもまた完全に消えない。
しかし、言葉をかわすことでその蟠りも少しずつ呑み込めるようになるかもしれない。
す、すごい…シン・仮面ライダー配信されてからたくさん見てもらえてる…。
仮面ライダーが好きな人に読んでもらえてるかもと思うと、執筆してみてよかったなと思います。
今回最後のところなどは顕著に出ていますが、シン・仮面ライダーを見て自分が解釈したものを落とし込んで、いまこの二次創作を練っています。
万人が同じ解釈をするわけではありませんが、これもまた、どこかの誰かの考えた一つの仮面ライダー像と思って見ていただけたら幸いです。
読んでくれてありがとう。
2023/08/31追記
なんか日間ランキングに載っていたようですね…驚きです。
感想、返信とかできてないですけど全部見てます。ありがとう。
細々と隅で書ければいいなって思いつつチラシの裏にしないあたり欲望が出てたんですけど、こうしてみんなに読まれていると言うのが可視化されるととても嬉しいです。