私が望むとき、仮面ライダーは蘇る   作:妄想作家

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「あと一歩、届かなかったのか…ッ!?」

「もはや俺の望んだハビタットは潰えた。本郷猛、死んでくれ。ほかは何も望まない。ただ、ただお前だけは死んでくれ」

「お嬢ちゃんにもらったマフラーは、俺の血で汚れちまったな。すまん、お嬢ちゃん」

「もはや、オーグしか残らない世界にSHOCKERの望む幸福はなさそうです。SHOCKERとして、これからの活動のreformationが必要ですね」


――私は、あなたを恨んでない。だから…――



『全てのオーグを殺す。それが、至らない情けない僕自身への復讐だ』






 

 最初に気付いたのはイチローだった。

 

 一文字と比べてプラーナに関する造詣が深い彼は、対オーグ索敵能力の高さを買われて一行の先頭に立ち斥候紛いのことを兼任していた。

 

 こうしてその性能を発揮して働く彼を見て、一文字が「こいつ、こんなに働くやつだったのか」と呆れたように頭を掻いた。

 

 イチローとて、今やサーヴァントの一人だ。

 元は心優しい少年だった彼も、理不尽に打ちのめされ道を違えただけで、目的を共有できればこれほど頼りになるものもいない。

 そんな彼が最初に気づけたのは、やはりそれがプラーナ由来のものだったからだ。

 

「待て、なにか来る」

 

「またオーグか? 昔使ってたアジトって言うには、流石に情報管理に問題があるようだぞ」

 

 カドックは悪態をつきながら、自身の魔術回路を起動させ、態勢を整える。ライダー二人は彼の両隣に立ち、防御陣形を作った。

 

 立香の奪還に成功して間もないため、まだ彼女は目を覚ましておらず、カドックの背中に担がれている。

 

「現在お荷物状態のマスターじゃ、流石に防戦不可避。ってところか。内緒の手下とかいないのか、今なら第3号が出てきたって受け入れてやるぞイチロー様」

 

「口を閉じろ。そして構えろ。もう近くまで来ている」

 

 一文字の軽口を切り捨てたイチローの様子に、カドックは唾を飲む。

 

 先程の戦闘でも、彼はここまで闘気を露わにはしなかった。

 

 どちらかといえば焦りはしながらも肩の力は抜けている様子だったが今は違う。

 

 自身の力を完全に解放するために集中力を上げている。

 

「一文字」

 

「何だ」

 

「何が来ても、お前はマスターを連れて逃げた方がいい」

 

「あぁ? この期に及んで何言ってる?」

 

「忠告だけはしておく。おそらく、これから来るものはオーグではない」

 

 オーグでなきゃ、一体何が来るっていうのか。それに、お前はなんでそんなに……

 

 頭に浮かんだ疑問を、イチローに言うその時に、影が墜ちた。

 

 

「ライダーッ!」

 

 真っ黒な塊がそこにはいた。カドックはイチローがいたはずの方を向いたが、そこにいたのは地面に頭を叩きつけられたイチローの姿があり、その彼を縫い止めた影は薄桃色の眼を光らせて振り向いてきた。

 

「ライダー!」

 

「逃げろカドック!」

 

 言うや否や、カドックが身を翻したところへ一文字は入れ替わるように体を投げ出し影へと組み付いた。そして、カドックは振り返ることなく逃走を選択した。

 

 イチローは、地面に伏せ動く気配がない。

 影はこちらを振り向き、静かに立香の方へと視線を移した。

 

 こいつはヤバい。と直感で気付いたからだ。

 

 血の匂いが濃すぎる。まともなやつじゃない。それこそ神霊同士のほうがまだ埒外なことがわかりきった上での理不尽だからマシだ。

 

 こいつは、既知の範囲内でおかしくなった狂人だ。自身の体を壊しながら、それでもなお敵を鏖殺し続ける。

 

 普通の人間が殺戮を繰り返したところでこんなに漂う血の匂いが濃くなるはずがない。

 

 それぐらいしないとこれは無理だろう。辛うじて見えたやつの体、マスクには内側から血が滲んだような染みと掠れがあった。

 

「こんな序盤で、ラスボス戦って感じだな……おい藤丸ッ! いい加減起きて自分で走ってくれよ……!」

 

 思わず今も背で眠っている立香への悪態をつき、カドックは自身の魔術を発動し身を隠しながらその場から駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一文字は確かに、イチローを襲撃した影に組み付いたはずだった。

 

 しかし、掴んだはいいが、それをいなされた上に逆に奴に組み付かれ馬乗りになる。

 

「流石のパワーじゃねえかよ……!」

 

「…………」

 

「少しは愛想よくしろ、よっ!」

 

 組み付かれた状態だが、脚は自由だったため、そのままやつの背中へ向けて足を振り上げる。

 

 人体の構造上、腹に人が馬乗りになったままでは、膝より先がその背中に当たることは極めて難しい。

 

 しかし、足を振り上げることで、腿が上がり、それによりバランスが崩れたところを不意打ちすることはできる。一文字の狙い通り、バランスの崩れ前のめりになった影は、そのまま一文字に投げられる。

 

 倒れた状態から起き上がり呼吸を整える。

 

 辛うじて気道は守り抜いたが、マスクの下の顔は真っ赤になっていることだろう。

 

 対して影の方は、既に直立しており、こちらを見ていた。

 

 全身黒なせいで影がそのまま存在するかのように見えたのかと思いきや、輪郭がところどころ靄のように覆われており、本当の意味で影のような立ち姿をしていることがわかる。

 

 こいつは何者か。

 

 その答えは簡単だった。

 

「会いたかった。一文字」

 

 イチローの先程の忠告はそういうことが。と、一文字は酷く納得した。

 

 こいつは確かに、逃げたほうが良かったかもしれない。

 

 こちらに言葉をかけた瞬間に靄が晴れて、その姿がはっきりと映る。

 

 黒緑の仮面に、薄桃色の複眼。スーツは引っ掻き傷を始め様々な傷が線を引いている。

 グローブは乾いた血でドス黒く染まっており、右足のブーツに至っては、左足との色の差違がはっきりわかるほどだ。

 

「俺も会いたかったぜ、本郷」

 

 その影、本郷猛はクラッシャーを収納しその仮面を外した。

 

「……はは、冗談きついぜ、お前」

 

「君は、多分僕の知る一文字じゃないな」

 

「それを言うなら、お前も俺の知る本郷とは、ちょびーっと違うな。なんだよそのイメチェン、激しく似合わねぇ」

 

 一文字に素顔を晒した本郷の顔には赤い第三の目が展開されており、目の下には隈取のように一本の赤い傷がついている。

 

 それは、本郷と一文字、そしてイチローたちが仮面に隠すオーグとしての顔であり、それがマスクを外した状態で維持されているということは、一文字の中にあった当たってほしくなかった予測が当たっていたという嫌な確信を持たせるには十分すぎるものだった。

 

「幽霊のほうがマシなカッコウしてそうだな」

 

「オーグに魂があるなら、現世に迷う前に地獄に行くだろう」

 

「相変わらずのネガティブ思考だな。そんなんじゃちっとも楽しくないだろう。どうせ地獄に行くと思って戦うよりも、天国ってもんがあるって思いながら生きてくほうが楽しくないか? 俺はそっちのほうが心すっきり生きていけると思うがね」

 

「君は生きることを選び、僕は戦うことを選んだ。悪いが、これ以上軽口に付き合う暇はないんだ」

 

 そう言って、本郷はまた仮面を被る。

 

「一文字、マスターが、君のマスターである藤丸立香の身柄を預かりたいと。僕はそのためにここへ来た。お互いのことを考えれば、最善の手は統一しかない」

 

「少しは雑談に付き合えよ。一度だけだが、一緒に死地へ赴いた仲だ。こういうときは昔話に花を咲かせるんだ」

 

「そうだな、一文字、もう一度言う。マスターを渡してくれ。そうしなければ、君のマスターは存在証明が保てず、全てが水の泡になる」

 

「存在証明……? もう少しちゃんと話せよ。相変わらずのその口下手直したほうがいい。あのときだって言っただろう? "打つ手があるなら先に言え"ってな」

 

 その言葉を聞いた途端に、彼の眼は鈍く輝き、その四肢に影を纏い始めた。

 

「まるで初戦の俺たちみたいだな。あのときと違うのは、俺が守る側で、お前が襲う側ってことだが」

 

 返事を返さずに本郷は拳を引き絞り一文字へ飛びかかった。

 

 仮面ライダー第2号に変身した一文字の肉体は、その拳で簡単に鉄板を凹ませ、その蹴撃で鉄板を破壊することができる。

 

 バッタ男としての力は、やはりその生物的特徴である脚に集中している。

 しかし、だからといって拳での破壊力が低いかと言われればそんなことはない。彼の体は腰のベルトにより呼吸で取り込んだ微小な風をもエネルギー源として攻撃力へと転換している。

 

 本来ならば、その力は本郷のカタログスペックよりも上のはずだが、今回ばかりはそうもいかなかった。

 

 本郷の拳は、風切り音を響かせて一文字の心臓部を貫こうとする。それを避ける一文字は、空振った本郷の攻撃で発した風圧を感じ驚愕していた。

 

「何をどうしたらそこまでに、そうなっちまうんだ、なぁ本郷!」

 

 カウンターとして放ったボディブローを避けもせず、その体で受け止めて逆にカウンターでパンチを叩き込まれる。

 

「ただ戦っただけだ」

 

 そのまま怯んだところへ本郷の膝が鳩尾へと突き刺さる。

 

「くぅあッ……!」

 

 肺の空気が抜け、呼吸が一瞬とまった隙にアッパーカット。

 

 完全に本郷の手のひらの上だ。

 

「あぁ……ぁあああ……きっくなぁぁ! クソっ」

 

 頭を振り、脳を揺さぶられかけたダメージを無理矢理に飛ばす。

 

「一文字、今の性能じゃ勝負は見えてる」

 

「んなこたなぁ、見なくてもわかるだろ。ちくしょう、何がどうなって、お前はそうなっちまうんだよ」

 

「色々あったんだ、一文字」

 

「お嬢ちゃんや、あのいけ好かない兄貴のためならと命を捧げたお前はもういないのかよ」

 

「ルリ子さんの願いを果たせず、イチローさんを失意の中で殺した僕は死んだ」

 

「お前の魂に触れた俺は、仮面ライダーとして生きていくことを好きになるって決めたよ」

 

「君をこの腕の中で失って、できたことは全て殺すことだけだった」

 

「赤いマフラーはヒーローの証だって覚えてるか?」

 

「塗りつぶされた朱は殺戮者の証だ」

 

「お前は俺に仮面ライダーの名と魂を残した。俺はお前に何も残せなかったのか」

 

「僕に残ったのは復讐心だけだと思う」

 

「そこは言い切るとこだろう。本郷」

 

「お喋りは終わりだ。仮面ライダー第2号」

 

「……あぁ、あぁそうかい。そうなっちまうんだな、今のお前は」

 

「一文字」

 

「あぁ、本郷、油断大敵だ」

 

 その瞬間、本郷の身体が波動に包まれて吹き飛んだ。

 

「すまない、油断した」

 

 本郷を吹き飛ばしたその波動は、イチローの掌底と同時に放たれたプラーナを用いた衝撃波だ。

 

「だから言ったんだよ、油断大敵って」

 

「あれは俺に言っていたのか?」

 

「……冗談もわかんねえやつは黙ってろ」

 

 二人は並びたち、本郷に向かって構える。

 

 対する本郷も木に体を預けながら立ち上がり、よろめきながらも構えた。

 

「僕も、まだ情が残っているな。確実に仕留めるべきだった」

 

「妹の信じた男がこのザマになるとは、よほど大きな呪いを残したらしい」

 

「イチローやる気なのはいいが、カドックの方に行け。俺は本郷を止める」

 

「……正気か? 今さっき性能差を見せつけられただろう。ここは二人で」

 

「悪いが譲れない。いいから行け。あいつは俺が止める」

 

 一文字の赤い目がイチローを睨む。

 

「……わかった。任せる。ここで戦力を失うことは痛手になる。何が何でも退去という事態だけは避けろ」

 

「あぁ、男と男の約束だ。なにがなんでも、な」

 

 イチローはそのまま跳躍し、カドックの方へと向かった。

 

「あいつ追わなくていいのかよ」

 

 ただそれを見るだけの本郷に一文字は問いかけるが、それが時間稼ぎであることは、もちろん見破られている。

 

 もはや語る言葉も持たないと、本郷は駆け出した。一文字もそれに合わせる。

 

 二人はお互いの持てる力を脚部に集め、跳躍する。

 

 林の木々を抜け、空高く舞い上がる二人の仮面ライダーは、それぞれ蹴りの構えを取った。

 

 二人の姿がぶつかりあった瞬間、轟音が響き、その衝撃で木々が葉を揺らす。

 

 

 2つの影が木々の天井を貫き落ちて行き、立っていたのは一人だけだった。

 

 

「あのとき、君は僕の足を折る以上のことをできたのに、それをしなかった。洗脳されている中でも君はSHOCKERに抗って僕と拳を交えていた。その精神に敬意を、そしてその借りを返すために殺しはしない。だから、そのまま僕の邪魔をしないで、そこにいてくれ」

 

 技のぶつかり合いによる衝撃と、落下によるダメージにより今度こそ倒れ伏し動けない一文字へと、本郷は語る。

 

 復讐心に燃えた彼は、今や一人のアヴェンジャーとしてここに立っている。

 彼にとっては、復讐心を満たすための最短ルートにつながるマスターからの命令「藤丸立香を連れてくる」ことしか眼中にない。

 

「ち……ックショウ……」

 

 意識を辛うじて保った一文字の視界に彼はもはやいなかった。

 

 

「名前呼べって、2度も言わせんな……っ」

 

 

 そこで、彼の意識は闇に墜ちた。

 

 

 

 

 

 




難産で時間かかりました。

前回で特に読者が増えてくれたようで、嬉しく思っています。
感想も全て見させてもらっています。

読んでくれてありがとう。
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