私が望むとき、仮面ライダーは蘇る   作:妄想作家

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ハビタット計画は失敗した。

サイクロンの爆発による玉座の破壊。その後の第0号との死闘の最中に、誰かが玉座のシステムに火を入れたのだ。

本来ならイチローでなければ動かせないはずのプログラムは、破壊され、エラーを起こしたまま実行に移されたことで、本来意図していない動きを見せた。

崩壊した玉座に刻まれていた完璧なプログラムを前提にしたシステムは、その役目を全うしようと機能を働かせることで、足りない引数に余計なものを入れたのだ。

「全人類」をハビタット世界に旅立たせるものから、「ヒト」をハビタット世界に旅立たせるものになった。

結果的に、最後に地球上に立っていたのは、ヒトという種から逸脱し、己のエゴを追求するSHOCKERのオーグのみだった。

純粋な人間のみが地獄へと旅立ち、自身の幸福のみを追求することで他者を排したオーグが天国に最も近い場所に残った。

遺された男は、世界中に残った人でなしを殺し尽くした。

マスクも気付けばひび割れた。でも気にすることはない。もう隠す相手もいないから。使命に燃えた瞳は、殺意に塗れて何も見えない。

もはや闘争心を刺激しなくてもいい。心を復讐心で満たした彼にとっては、もはや殺戮こそが日常であり、生存本能を優先するために闘争心を上げてしまうマスクの機能の方がストッパーでしかなかった。

生存本能こそが、彼に遺された最後の一線だった。それを取り戻すには、何もかもが遅かった。

最後に残った2体のうちの1体の首を砕いたあと、偶然にもそこがあのダムだとわかった。

そして、最後に残ったオーグである自分を殺すべく足を踏み出そうとしたとき、銃声が響く。

四肢はもちろんのこと、胸や腹に楔が撃ち込まれた。死なないように急所を避けられており、楔の先にはワイヤーが繋がっている。
体が響かせる痛覚信号に耐えながらその先を見れば、黒尽くめの怪人たちが周りを取り囲んでおり、その手に持ったスイッチを押し込んでいた。

奔る電撃に声も出ない。身じろぎも許されず、ただ意図しない体の痙攣と脳をかき回す火花を幻視しながら、辛うじて改造されて鋭敏になっている聴覚が声を捉えた。



「お前が、この世界の―――か」

地獄の底から響くような怖ろしい声。

「その機能、我らの知るモノと全くの同等であるにも関わらず、意志はなく既に人形も同然。洗脳する手間も省ける」

このとき、もはや声の主などどうでも良かった。苦痛の中で、駆け巡る後悔のみが、彼の脳を埋め尽くしている。自分は、ようやくこの力を世のため人のためと、使えると思ったのに。末路は悪の所業そのもの。


「世界をこの手に、いや世界のすべてを手に入れるために、我らショッカーを受け入れるのだ。」

もう何をしていいのかもわからない。

「世界を超える理は、未だ我らの手中にあり」


「歴史を書き換える術も、時を超えることで可能とした」


「悪魔に魂を売らずとも、我ら自身に悪魔を宿すことできる」


正しいことができる。正しいことを、世界の不条理に立ち向かうための道を示してくれたルリ子さんとの約束しか、人の身に余る力を得た僕にはなかった。そう思うことしか、できない。


「本郷猛、あぁ、あの日を想い出す。お前の顔を"初めて"見たあの日を」


もう何も残ってない。懺悔の余地も残されちゃいない。


「お前の身体を我らに捧げろ。頭を垂れろ。お前の望むものを対価に渡してやる。この世界でルリ子と呼ばれたものを呼び戻し、この地獄の世界ではなく人の溢れた世界を渡してやる」

声はなかった。

「契約、成立だ」

一つ確かなことは、地獄の底から響く笑い声が今も耳から離れない。






 

「最悪の、目覚め……」

 

 目を冷ました立香の気分は最悪だった。

 

 一人の男がただ堕ちるだけの光景を見せられたことで身体中がじっとりと嫌な汗に濡れている。

 

 頬に張り付く髪の毛が鬱陶しい。

 

「あれは、一体誰の……ううん違う。私は、ここはどこ?」

 

 周りを見ると、闇に包まれていた。暗闇の中で、まるでスポットライトを浴びているかのように自身の周りだけが照らされており、檻の中の動物みたいだなと彼女は思った。

 

「そうだ。カドック……それに、ライダー……! みんなは!?」

 

 最後に見たのは、黒いライダーの前に倒れる一文字の姿。

 

 闇の中で一人きりという状況も相まって不安は加速する。

 

「仮面ライダー、いいえ、紛らわしいからクラス名で呼びましょう」

 

 

 自分以外の声がようやく聞こえる。いや、自分以外というのは、表現が適切ではない。

 

 

「彼は、アヴェンジャー。かつてSHOCKERより産み出され、剪定されてしまったあの世で全てのオーグを鏖殺し、君臨した最強のオーグ」

 

 そこまで聞こえたところで、部屋に光が満ちる。

 

 一瞬目が眩んだ立香は、手で光を遮りながら声の主を見た。

 青白い目をした、黒いコート。その下に見えるのは、"決戦礼装"。くすんだ橙色のショートヘアーの線の細い女性。

 纏う雰囲気が鋭いが、眼差しから感じられるのは、空っぽで、どことなく邪悪さがある。

 女性の横には、黒く変色したスーツを纏った男が立っている。自身を攫ったときとは異なり、その仮面が外されている。直視し続けるには、勇気がいる。

 

「ようこそ藤丸立香。あなたのことを歓迎する」

 

 ディスプレイに囲まれた女──―もう一人の藤丸立香は、こちらを見下ろしながら、淡々と告げた。

 

「驚いた? 無理もないわね。私が同じ立場なら、きっと今のあなたと同じ顔をすることでしょう」

 

 同じ顔、同じ声、而して異なるその瞳。

 

「あなたは、誰?」

 

「ルリ子。最もその名前にもう意味はないけど。個体としての名称としてはそうなる」

 

「まるで、今話しているあなたはルリ子って人じゃないみたいに言いますね」

 

「本来なら、緑川ルリ子の体は死んでいる。記録上私はもういないの。だからこそ個体としての名称って回答になる。どう? 理解した?」

 

 ルリ子と名乗る女は、まるでそれが正当な理由かのように話すが何かがおかしい。

 

 彼女は理路整然と語るようでいて、質問に答えていない。

 

「理解はするけど納得はしないかな。どうして私を攫ったの」

 

「その答えは、あなた自身がわかってるでしょ? おかしいと思わなかった? 英霊召喚は基本的にあなたとの縁が触媒となるのに、仮面ライダーを召喚できた。まさか、気づかなかったなんて言わせないわ」

 

 まくしたてるように彼女は言葉を続ける。

 

「本来ならばあなたとの間に縁なんてないの。世界のすれ違いすら起きなかったのに、今じゃこうしてあなたという世界と私達がもつれ絡まってしまった。私の目的のためには、この世界同士の絡まりを解かなければいけないの。だからこそ、キーパーソンであるあなたをここへ連れてきた」

 

「ちょ、ちょっと待って! 世界が絡まった? 私の世界ってどういうこと? なんの話をしてるの!」

 

「えぇ、あなたにはわからないはず。だってこれは事故でしかないもの。それでも一つ言えるのは……今のこの状況、すべての中心は……藤丸立香、あなたのせいで起こっている」

 

 ルリ子の話す言葉は一つも理解ができない。

 

 

 

 

『もう一度、会いたい』

 

 

 

 

 聞こえたのは、私の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ! ……っ……!」

 

 沈む意識が浮かんでいく。

 

「……ろ!」

 

 なにか叫んでいる。

 

 若い男の声だ。聞き覚えのあるような気がする。

 

「ライダーしっかりしろ! おい!」

 

 …………。

 

「一文字ッ!」

 

 名前を呼ばれた瞬間に、それが魔法の呪文であるかのように意識が覚醒する。

 最後の記憶から景色は連続性を保てている。誘拐はされていない。あの世でもないだろう。

 体の痛みは、奴と再会した証だ。

 

「あぁ、カドック……? 俺ぁ、どれだけ寝坊した?」

 

「まだ遅刻ほどじゃない。ほんの十分くらいだ」

 

 そう答えるカドックの体はところどころ血飛沫が掛かっている。

 

「僕に怪我はない。これは……ライダーの血だ」

 

 カドックの顔が苦痛を感じるように歪む。

 

『俺を殺してお前が救われるならば、殺れ』

 

『お前を殺して救われる心は、もう無い』

 

 

 

「結論だけ話す。お前たちが本郷猛と呼んだあの男は、藤丸の確保に成功したあとに僕たちを追撃してきた」

 

 

「ライダーは、その襲撃でやられた」

 

 

「あの男はそのまま藤丸を抱えて行方不明。向こうは目的を達成した上に戦力を1人削ぐことに成功。こちらは後手に回り続けて大敗」

 

 紛うことなき大敗。一つも得るものはなく、得た情報ですら相手に本郷猛がいるということだけ。

 マスターとは、サーヴァントを指揮する上での司令塔としての役割が求められる。

 

 カドックにとってのこの敗北は、彼のマスターとしてのプライド、使命への責任感を損なうのに十分過ぎるものであった。

 

「……あぁ、そうだな。負けだ負け。全く、どうしてこんな事になるのやら」

 

 身体を起こした一文字は自身の状態の確認を行う。

 

 

 

 

 ヘルメット、損傷なし。戦闘行動可能。

 

 腕部、若干の損傷あり。戦闘継続には問題なし。

 

 胸部、装甲に若干の損傷はあり。機能に問題なし。戦闘行動可能。

 

 タイフーン、損傷なし。開閉式安全装置に問題なし。

 

 脚部。右脚部、大腿骨に亀裂あり。修復完了まで戦闘は極力回避することを推奨。

 

 

 

 

「……まっ、こんなもんか」

 

 一文字は簡単な自己診断のあとに立ち上がり、軽くその場で跳ねながら調子を確かめる。

 

「一文字、脚の調子が悪いのか?」

 

「まぁ、奴との闘いでちょっとな。昔にちょっと足をへし折ってやった時の意趣返しってやつだ」

 

 全く、変なとこで律儀だぜ。

 

 一文字の呟きを辛うじて聞き取れたカドックは、一文字とあの男との関係性について深く追求する気にはなれなかった。

 

「さて、カドック。作戦会議だ。これからどうやってお嬢ちゃんを奪還するか」

 

「あぁ……そうだな、まずは情報がほしい。それに、ここにいたままじゃさらなる追撃も考えられる、移動しながら話そう」

 

 カドックの提案を聞いた一文字は自己診断の間に序でに呼び寄せておいたサイクロン号に跨る。

 

「了解した。とりあえずは走りながらだ。後ろに乗れ、カドック」

 

「あぁ、頼むぞライダー」

 

 投げ渡されるヘルメットを受け取り、一文字の後ろに乗る。

 

 サイクロン号のアクセルを吹かし、二人は風のように森を抜け、

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁやぁ、お兄さんたち。もしかしてだけど、秘密基地にお困りのようだね?」

 

 

 耳元で気さくな男の声が囁いた。

 

 

 急ブレーキを掛けて臨戦態勢を取る一文字たちの前に、彼は現れる。

 

 

「なんだか表の世界でマスターが眠りこけてると思えば、まさかこんなことになってるなんて。噂に聞くゴミ箱よりも酷くない? ここ」

 

 鮮やかな羽をはためかせ現れた男に、一文字は警戒し、カドックは────ため息をついた。

 

「まさかとは思うが、いつからいたんだ?」

 

「それはもう初めからだね」

 

「だったらなんで助けに来ない?」

 

「まぁ、一つは僕が彼に勝てないから。負け戦は嫌いなんだよね、僕。君もそうでしょ?」

 

 カドックはこいつのことが苦手だ。飄々としながらこっちの心を抉る一言を言ってくる。

 

「おい、とりあえず教えてくれ、こいつは敵か? 味方か?」

 

 一文字のイライラした問いかけにまるで玩具を見つけたかのように男は目を細める。

 

「あぁ、本当のところを言うと……」

 

 彼が言い切る前に、杖が彼の顔に飛んでくる。

 

 ちょうど一文字達の背後から飛んできたものだ。

 

 思わずそちらへ顔を向けると、青い外套を羽織った女性が息を切らしながらその豪快なフルスイングの残心を取っていた。

 

「オーべーローンー! もうその口開くな! こんな時に余計にややこしいことにしないで!」

 

「こ、この……何も杖を投げることはないだろ!? だから君は……!」

 

 自分たちを放っておいて急に喧嘩を始めた二人に、一文字とカドックは先程までの真面目な空気を保てない。

 

 

「俺たち行くから、お二人はごゆっくり……」

 

 

「あ、ちょっと! 待って! ごめんなさい! うちのオベロンが変なこと言ってしまって……大丈夫ですよ! 私達味方ですから! 藤丸のことを助けに行くんですよね? 彼女のサーヴァントとして、私も協力します」

 

「あーあー、もうわかったよ、からかいすぎたよ……。少し雰囲気を和ませようと思っただけさ。それなのに杖を投げてくるなんて、野蛮すぎるよ。まぁそんなわけで、僕らも手伝うよ。ちょっと表の方でも騒がしくなってるし、そろそろ本腰入れないと本当にまずいことになるからね」

 

 仲がいいのか悪いのか、二人はそう言って一文字の方へ向き直り、笑顔を向けてくる。

 

 

 

「カドック、知り合い?」

 

「一人に関しては残念ながら。もう一人に関してはかなり心強い」

 

「それじゃ自己紹介! 私は、アルトリア。アルトリア・キャスター。なんとなくの状況は向こう側からなんとなく把握してたよ、頑張ってたね、カドック」

 

「いや、僕はできることをするしかなかっただけだ」

 

「やぁやぁ、秋の森の妖精王、花と森の童話の伝道師、騒がしきオベロン。よろしく、飛蝗くん? 僕は直に見させてもらったりしたけどさ、できることしてても結局藤丸が攫われちゃネ」

 

 無言で杖を振りかぶる女に許しを請い始める光景を見ながら、カドックは頭を抱え始める。

 

 コイツラの手綱、僕には無理だ。

 

 




お久しぶりです。

久しぶりに筆を取りました。ゆる~くやってるので、よろしければまたお付き合いください。
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