私が望むとき、仮面ライダーは蘇る 作:妄想作家
「もう一度、会えたらな」
「またお前と、並べたら」
「みんなと、また会いたい」
『もう一度会いたい』
彼女の奥で、ずっと潜めていた心。
長い旅の中で、多くの別れを繰り返す。
悲しい。寂しい。逝かないで。もっと話がしたい。
彼らの決意や想いを受け取り進むだけしかできない。
彼女は私の代わりにいつも一杯の感情を叫んでくれてたから、私は先輩らしく、前に進んで、進んで、進んで。
…………。
でも、我が儘を言うならば、もう一度みんなに会いたい。
『その我儘が、よりによって聖杯に届いてしまった』
また一つ新しい思い出携えて、願望機である聖杯を回収した。
その時に見た夜空は、とても星が綺麗で、心地よい青い風が通り抜けていった。
その時、ふと思ってしまった。
彼女ともとも、こんな風に綺麗な夜空を一緒に見たかったなって。
『そしてその願いはもう一つの骨組みを獲得して補強された』
対象霊基1検索。エラー。
対象霊基2検索。不十分。
テクスチャ不足。達成困難。
再検索。
再検索。
再検索。
…………。
『もう一度、共に戦いたかった』
体はなくとも、風を感じることはできる。姿は見えなくとも、その魂を感じられる。
いつだって一緒だ。SHOCKERとの戦いがどんなに辛く厳しかったとしても。
俺はお前と共にこの世界を走っていける。
だが、一度でいい。もう一度並んで、走りたいと思ったんだ。
『願いを聞き届けた聖杯は、正しく叶えようと努力した』
異なる世界で、同じ願いを持った二人を、聖杯は引き合わせる。
白紙化した地球の上で、足りないパーツを引き寄せた結果、剪定された世界からテクスチャをペーストするというバグを起こした。
それは、彼女ではなく彼が会いたいと願った男だけが生き残った世界。
一つが崩れれば、どんなパズルも歪な形になる。遠くからは枠にハマっているように見えても、近くで見れば隙間があり、盛り上がり、外れかかっている。
だからこそ、聖杯は枠を作ろうとした。
彼女の願いを叶えるために、彼女の体を枠へ。
もう一人の願いを引き寄せてしまったために、彼以外すべてが亡びた世界を詰め込む。
そして、枠となった彼女は、世界にあるべき場所を埋められ、本来収まるべき心が弾き出せれてしまった。
本来ならそこで死ぬはずだったのに、だけど彼女は生きている。
『どうして?』
魂がむき出しで存在が保てるはずがない。
『なぜ?』
魂に関する魔法を持っているはずがない。
『わからない』
つまり、何かが彼女を包んでいる。
彼女の魂を、守る何かが、いる。
夢を見ているような不思議な浮遊感の中で、その時彼女は確かに手を差し伸べられた。皮手袋に包まれた細く柔らかな手を。
その手を掴み、引かれた先で、彼女は目を覚ましたのだ。この世界の始まりの場所に。
「思い出した?」
緑川ルリ子と名乗るもう一人の自分が語り掛けてくる。
「……私の中の、弱音が、今こんな状況を生んだってこと?」
彼女の話を聞いて、藤丸はどこかで納得をしてしまった。
彼女の背負わされた運命は、過酷なものだった。ほとんど騙されたような形でカルデアに着任。後輩と出会い、所長やロマニ、ダ・ヴィンチとの思い出もその日が始まりだった。
そして後輩を一度目の前で失いかけて、たどり着いた炎の街で所長を目の前で失った。
7つの歴史を走り抜け、たどり着いた先でロマニは自身と引き換えに道を作った。
新たな脅威がカルデアに牙を剥き、ダ・ヴィンチちゃんと引き換えに茨の道を突き進むことになった。
全てを救うために、世界を滅ぼせと突きつけられて走り抜くしかなかった彼女は、様々な友人と出会うことで歩みを進めることができた。
そして、彼女を突き動かすきっかけとなった友人は呪いとなり、彼女の心の中に強い光を与えながら影を宿した。
弱音を見せない。弱音は言わない。前だけを見る。走り続ける。
彼女の心の中に澱のように濁り蓄積した闇は、悪夢として彼女の中に居続けている。そうして、ついに淵から零れた一言が、心からの願いとして聖杯に受諾された。
「あなたには同情する。だけど、赦しは与えない。あなたが許しを得られるのは、この世界を解体して私や仮面ライダーたちをこの夢の牢獄から解放したときだけよ」
「……どうすれば、解放できるの?」
「話が早くて助かる」
自覚していなかった心の弱い部分を、こうして自分の顔をした誰かに突きつけられたことで、藤丸の心は簡単に疲弊してしまっていた。
そんな状態の藤丸を見ても、ルリ子は表情の一つも変えない。ただ、その右手を挙げて合図を出すだけだった。
風切り音。
とっさにその場から飛びのくことで藤丸は致命傷を避けることができた。
「何をするの!?」
ルリ子の表情は変わらない。ただ彼女は見ているだけだ。
藤丸も、ルリ子から目を離さない。その視線を断ち切ったのは、たった今藤丸に向けて殺意を込めた一撃を振るったアベンジャーだ。ゆらりと態勢を戻し、もう一度拳を握りなおすアベンジャーの後ろからルリ子は最後通告を言い渡す。
「あなたが死ねば、解決よ。簡単ね」
「ふざけっ、ッ!」
「動くな」
もう一度顔を狙った拳を身をよじり避けて、藤丸を逃走を選択する。
壁際まで来たところで彼女は出口を求め走る。しかし、アベンジャーの走力には勝てない。
バッタの力によりその足はオーグの中でもカタログスペックは非常に高い数値を誇る。
逃げ回る中で、礼装の緊急回避を自身にかける。
本来はサーヴァントを対象としたものだが、少しは足しになるだろう。
「出口を正直に残すと思う? ここで殺そうとしてるのに逃げ道を作ってあげるなんて馬鹿のすることよ」
ルリ子の冷たい声が響き、後ろからは赤い眼が無感情に追ってくる。
命がかかった追いかけっこ。長く続くはずもなく、数分も経たないうちに彼女はまた襟首をつかまれて、また部屋の中心に投げ出された。
「時間の無駄だから、あまり逃げないでほしい。アヴェンジャー」
「……」
赤い眼がこちらを見下ろす。放り投げられたときに受け身が取れずに体中が痛む。ここにきてアドレナリンが効いてきたのか心臓が激しく脈動する。鼓膜に拍動の音がどっどっと聞こえてくる中で、藤丸は同時に2つのことを思っていた。
この状況では、流石にもうだめか。
一つは諦め。先ほどの話によって疲弊した心がもう楽になりたいと願ったことで生まれた思考。
もう一つは、諦めとは正反対の感情。
藤丸立香が、彼女が彼女であり続けることができた覚悟の顕れ。
『生きたことに意味を見出すために生きてるんだ』
『この先の未来には、新しいカルデアがあるはずだ』
道を作った先人の祈りと言葉が胸に宿り。
『強いだけの世界に負けるな』
友人の激励が背中を押す。
「私は……ここでまだ、死にたくない……!」
『それなら、名前を』
その時、彼女の耳に声が届いた。
『名前を呼びなさい』
「あなたは……」
ライダーを召喚したときに聞こえた声とは違う、女性の声が聞こえた。
「あなたの名前は……」
『私の名前は』
令呪が強く光り、魔力が吹き荒れ藤丸を中心に風を巻き起こす。
気づけば体の痛みは引いている。
ルリ子は、目の前の光景を見て信じられないといった表情だ。
「『やっと、鉄面皮が崩れてくれた』」
藤丸の口から二つの声がした。吹き荒れる風にたたらを踏んだアベンジャーが藤丸の方へ向き直ると、そこには青い瞳を開き、先ほどまではなかったレザーコートを羽織る藤丸立香が立っていた。
「『改めて自己紹介ね、緑川ルリ子さん?』」
「っ! アベンジャー! やって!」
ルリ子の指示で駆け出すアベンジャーに、先ほどの逃げっぷりがウソのようにレザーコートを翻して視界を遮る。
と思えば、レザーコートで遮られた先の空間に彼女はいない。
「『
ルリ子の後ろから声がする。
藤丸の前に姿を現した時のように、ディスプレイに囲まれた中に立つ藤丸は青い瞳を光らせて、右手に銃を出現させた。
「『キャスター、緑川ルリ子』」
ディスプレイに映っていた表示が一斉に青くエラーを映し出す。
「『よろしく、元凶さん』」
もう一人のルリ子は、銃口を敵に向けてその引き金を引いた。
お久しぶりです。また拙作を呼んでいただきありがとうございます。
感想でもご指摘ありましたが、漫画版を反映しようとすると際限なく設定変更が起こって話が作れなくなる気がするので、かなりオリジナル解釈が強くなります。
またお付き合いください。