ゴブリンスレイヤー×プレデター ~The invisible Hunter~   作:まるっぷ

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第1章『前触れ』

 

暗がりの中を纏わりつくような湿気と悪臭、そして下卑た笑い声が支配していた。

 

「GARUUUURU!」

 

「GARUU、GAROROU!」

 

地面に転がされた視界の下でゴブリンたちが喚いている。どうやら次に使()()順番を巡って、小競り合いをしているようだ。

 

指先すら動かせずにその光景を見せつけられているのは、只人(ヒューム)の女戦士であった。

 

彼女は仲間と共に、ゴブリン共に囚われたという哀れな村娘たちの救出に向かった。場所は拠点としている街からさほど遠くなく、一日もかからずに目的の洞窟へと辿り着いた。

 

簡単な依頼のはずだった。これまでにも何度かゴブリン退治はこなして来たし、実力を認められて白磁から黒曜まで等級を高めた自分たちなら問題なく完遂できるだろうと確信していた。

 

そんな保証など、どこにもありはしないというのに。

 

まず最初に野伏(レンジャー)の男が死んだ。今まで見た事もない悪趣味な骨の飾り(トーテム)に気を取られ、仲間とささやかな談笑を交わした直後、頭に矢を生やして死んだ。

 

次は僧侶の男だ。強襲してきたゴブリンたちに対抗すべく長物を突き出すも、一度に仕留められるのは二匹程度がせいぜい。長物に貫かれた同胞を押しのけ、あるいは踏みつけ、錆びた武器を手に襲い掛かってくる。

 

物量に押され、僧侶はそのまま飲み込まれてしまった。ゴブリンの小山から漏れ出た絶叫が、彼の末路を如実に物語っていた。

 

最後に残ったのが女戦士だった。目の前で一瞬の内に仲間が死んでゆく光景に呆然としてしまい、背後に迫っていたゴブリンには気が付く事が出来なかった。

 

後頭部をガツンと一撃。

 

気が付けば、哀れな村娘たちの仲間入りだ。

 

半死半生のまま、彼女は丸三日間ゴブリンたちに弄ばれ続けた。それでも心を壊されなかったのは村娘たちを助けなければという義侠心故か、自分は冒険者であるというささやかな誇り故か。

 

しかし棍棒で打ち付けられ、折られた両腕では何もできない。足首の健も切られており、応援を呼ぶために脱出する事もできない。振るわれた賽の目は悪く、事態はどうしようもなく詰んでいた。

 

「GARUURU!」

 

「うっ……」

 

手放しかけた意識をゴブリンたちは何度も乱暴に引き上げる。

 

せめて隣に転がる村娘たちのように、何の感情も抱けなくなってしまえたら……女戦士の脳裏には、幾度となくそんな考えが浮かんでいた。

 

「GAGARU、GAURU!」

 

そんな女戦士の反応の悪さが癇に障ったのか、ゴブリンは錆びた短剣に手をかける。殺しはせずとも肩か太股(ふともも)か、どこかに突き立てれば良い声を上げるだろうという算段だ。

 

ゴブリンは後先を考えない。その結果傷口から腐って死のうが、勝手に死んだ孕み袋が悪いのだと喚き散らす。そんな身勝手さの代償は、いつだって捕らえられた者たちが支払わされるのだ。

 

錆びた短剣が振り上げられる。ぼんやりとした視界でその切っ先を見つめていた女戦士は……しかし次の瞬間、その瞳を大きく見開いた。

 

「………え?」

 

バシャッ、と身体に降りかかるどす黒い血。それは錆びた短剣を振り上げたゴブリンの腹部から噴き出たものであった。

 

「GAROA……!?」

 

ごぼりと血の塊を吐き、そのゴブリンは絶命した。未だ血を流す傷口からは、赤く濡れた二つの刃らしきものが見えた。少なくとも、女戦士の目にはそう映った。

 

『らしき』と言うのも、刃の輝きが全く見えなかったからだ。いかに血に塗れているとはいえ、刀身が全く見えないというのは不可解な事だ。

 

透明な刃。それが最も相応しい表現であろう。

 

「GARUU!?」

 

「GAROU、GARURUU!!」

 

同胞が殺された事に周囲のゴブリンたちも騒ぎ始める。

 

そして息絶えたゴブリンの死体が、なんとひとりでに宙へと浮かび上がったではないか。奇襲に次ぐ不可解なこの現象に、ゴブリンたちは更に騒ぐ。

 

「GAARURU!?」

 

さんざ騒いだ後、ようやく戦いの準備を始めるゴブリンたち。しかしその手に武器を握った直後、不可視の斬撃が襲い掛かる。

 

「GARARAI!?」

 

胴体を、首を、頭を。少なくとも身体を二つに両断されていくゴブリンたちは、あっという間にその数を減らしていった。

 

それなりの広さの洞窟は、今や濃厚な血の匂いで充満していた。

 

「ORAAG、GAROORORORUU!?」

 

遂に最後の一匹となったそのゴブリンは、苦し紛れに女戦士の髪を引っ掴んだ。ぶちぶちと毛髪が千切れる感覚に、女戦士の顔に苦悶の表情が浮かぶ。

 

「GRAARA!!」

 

「ぐっ……!?」

 

相手が何者かも分からないと言うのに、どうやら人質を取ったつもりらしい。その証拠にゴブリンは勝ったとばかりに口元を歪め、何やら喚いている。

 

こうして襲ってくる―――助けにやって来るのは、決まって冒険者だからだ。そして冒険者は、肉の盾を持ち出せば途端に何も出来なくなる。そのゴブリンはそう確信していた。

 

「GARU、GAAGRU―――!」

 

そして、そのままの表情で死んだ。

 

ぐじゃっ、という湿った音を響かせつつ、ゴブリンの頭部は地面の染みとなったのだ。女戦士は顔のすぐ横を何かが通過したような気がしたが、目の前には何も見えない。

 

「………誰か、いるのか?」

 

しかし、気配だけは感じる。

 

こちらを無遠慮に観察するような感覚に晒されながらも、女戦士は武器になるものがないか探そうとした。しかし折られた両腕では武器を持つ事も出来ないし、構えるなど論外だ。

 

「………何者だ?」

 

見えない襲撃者は答えない。

 

やがて、不意にその視線が外された……気がした。同時に気配も消え、この場に残っているのは村娘たちと女戦士、そして惨殺されたゴブリンたちの死体だけとなった。

 

緊張の糸が切れ、意識を手放す女戦士。

 

それから程なくして、洞窟を訪れる者たちがいた。

 

 

 

§

 

 

 

「ゴブリンスレイヤーさん、これは……!?」

 

「……ふむ」

 

一人は純白の神官装束に身を包み、錫杖を携えた年若い女神官だ。それなりに経験を積んでいるのだろう、この惨状を前に顔を強張らせこそすれ、臆した様子はない。

 

そしてもう一人。

 

薄汚れた革鎧に、安っぽい鉄兜。腕には小振りな円盾を括り付け、手には中途半端な長剣。もう一つの手に松明を掲げた男。

 

小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)と呼ばれる冒険者である。

 

「ゴブリン共は、すでに全滅しているようだな」

 

「はい。依頼にあった娘さんたちは無事ですが、先に向かったという冒険者の方たちは……」

 

「三人組の一党(パーティー)……確か、野伏と僧侶は男だったか。ならばそいつらはすでに殺され、戦士の女だけが生き残ったという事か」

 

ゴブリン退治に向かった一党が二日経っても帰ってこない。故に動いたゴブリンスレイヤーと女神官であったが、内心では虜囚も彼らも生きてはいないだろうと感じていた。

 

しかし実際には彼女たちは生きており、しかもゴブリンたちは死んでいたのだ。虜囚たちが死力を尽くして戦い、ゴブリンたちを全滅させた……という考えは、彼女たちの状態を見るに考えにくい。

 

ゴブリンたちの死体は凄惨を極めている。小柄な体躯はどれもバラバラにされ、閉鎖的な洞窟内を濃厚な血の匂いで満たしていた。

 

一体ここで何が起こったのか。考えれば考えるほどに不可解な点が多すぎるが……、

 

「……一先ず、後回しだ」

 

ゴブリンスレイヤーは思考を保留し、虜囚たちの保護を優先させた。

 

持参した清潔な布で彼女たちの身体をくるみ、洞窟の外へと連れ出す。怪我の手当てなどは女神官に任せ、彼は再びゴブリンたちが何と遭遇したのかを考え始めた。

 

その時であった。

 

「………っ!」

 

不意に、鉄兜に覆われた頭を上げるゴブリンスレイヤー。彼は近くの森の一角を見つめ、彫像のように動かない。

 

どれほどそうしていたか。やがて女神官から手当てが終わったとの報告を受けるまで、彼が動く事はなかった。

 

「終わりました……あの、ゴブリンスレイヤーさん?」

 

「……ああ」

 

そうして踵を返し、帰路につく二人。

 

去り際、ゴブリンスレイヤーは自身に言い聞かせるような声で一人ごちた。

 

「………気のせいか」

 

 

 

§

 

 

 

すでに小さくなった小鬼殺しの背を眺める者がいた。

 

それは生い茂る木々の内のひとつ、その中ほどにある太い枝の上に立ち、そこから視線を送っている。

 

『何者だ……気のせいか……何者だ……気のせいか……』

 

シューシューという独特の呼吸音に織り交ぜ、それは反芻するかのように、奇妙に歪められた男女の声を木々の間に響かせ続けた。

 

 




ゴブリンスレイヤーとプレデターのクロスです。

どっちも大好きな作品なので、お互いの世界観を壊さないよう頑張りたいと思います……え、四方世界な時点で世界観壊れてるって?クロスオーバーってそういうものでしょ?
ところでゴブスレ世界の作風ってすごく難しいですよね。





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