「やあ、ブランちゃんも妄想力鍛えてるかい?え、その話はするなって?」
「あ、ブラン様も一緒にやりませんか?妄想型の魔法訓練。へえっ!?今すぐにやめられるようなものでは……」
バァンと机が大きな音を立て、ルウィーの女神ブランは荒々しく椅子へ腰掛ける。
「シーシャとフィナンシェも侵食された……こんなのもう侵略行為よ……」
彼女を悩ませるのは妄想力を鍛えるという、MAGES.の考案した魔法のトレーニング方法。
元々国民の多くが魔法を使うことから、その能力を大きく引き出せるMAGES.の理論は相性が良く、気がつけば教祖から一般国民に至るまで、今やこの国の常識と言わんばかりに浸透している。
問題はルウィーの伝統とはかけ離れた理論であるという事と、見ている方が恥ずかしくなってくる厨二的言動。前者はともかく、後者は同族嫌悪的にブランを日々苦しめていた。
「MAGES.、覚悟しなさい……」
全ての元凶の名を呟き、打倒に燃えるブラン。その目は赤く輝いていた。
「それで、今日私を呼び出したのは何の用だ白の女神よ。わざわざ入国禁止令を解いてまで……」
ある日、女神直々にルウィーへと呼び出されたMAGES.。ふかふかの椅子に深く腰掛けて、いつものように不遜な態度でブランに問いかける。
「単刀直入に言うわ、もうルウィーで貴女の理論を広めないで頂戴」
「ほう……」
ブランの要求を聞き、MAGES.の口角が少し上がった。
「私の理論に畏れをなしたのか?」
「違うわ」
「違うのか?」
「……違うのよ」
ブランは真っ直ぐに見つめてくるMAGES.に気圧されそうになり、目を逸らす。早急に事を終わらせなくてはと、彼女は焦り始める。
「貴女の理論に、一定の正当性があることは分かっているわ。ロムもラムも、最近魔法力が上がってきているもの。もちろん、ルウィーの伝統的な理論がベースにあってこそだけれども」
MAGES.はいつの間にか、足を組んで肘掛けに肘をついている。ブランは若干の苛立ちを覚えつつも、女神として、せめて最後まで言い切ってからキレようと耐える。
「……でもね、これ以上貴女のそれを拡散させる訳にはいかないの。なぜなら余りにも小っ恥ずかし過ぎるからよ」
「一体どこが小っ恥ずかしいのか、私には分からんな」
「全てよ。嫌な高笑いを始めたり、訳の分からない陰謀論を話し始めたり、ダサいジャージを所構わず着たり、妄想が激しくなったり、ドュクプェとかいうよく分からない飲み物を求めたり……」
「全て必要な事ではないか」
「一言で言えば、厨二病なのよ。見てられないのよ。やめて欲しいのよ」
そう言われたMAGES.は、笑みが隠せない。
「成る程、自己嫌悪という訳か」
「じっ……!?な、何の話よ……!」
「知っているぞ白の女神よ、お前がインターネットや即売会で、自作の小説を公開している事をな」
「な、ななっ、なんでそれを!?」
「私もあの手の作品は、少々嗜むからな。ついでに感想を述べておくと、悪くない出来だったぞ」
「えっ……あ、ありがと、う?」
ブランの頬が、ほんのりと染まる。
「だが、まだ恥じらいを感じる部分もあった。もっと素直に、己の中の†闇†を解き放っても良いと思うぞ」
「そ、そうかしら……?そうなのかも……」
「そうだ、私たちのそれは、決して小っ恥ずかしいものなどではない。世界をより良い方へと導く、選ばれし者の嗜みなのだ!」
「そ、そうよね……うん、きっとそう!」
「さあ、共に一歩踏み出そうではないか」
「ええ!」
ブランの顔には、もう一点の曇りも無かった……
後日、ブランの小説の内容にポロリと苦言を呈したMAGES.はルウィーから追い出され、彼女の広めた魔法理論は、ルウィーで永遠に禁止されることとなったのだった。