「あー…………、スランプだ……」
「……急にどうしたの?」
いつものようにMAGES.のラボでくつろいでいた5pb.は、久方ぶりに口を開いた親友に怪訝な顔を見せた。
「いやな、超次元ガジェットの新作が全く思い浮かばないんだ。この私が全世界に狙われし灰色の頭脳をかれこれ3時間もフル回転させているというのに、一つもだ」
「そっか……大変だね」
「それだけじゃ無い。もうかれこれ一週間も新作を作れていないんだ。この……私が!」
「そっか……」
「流石にここまで何も浮かばないのはおかしい。さっきはスランプと言ったが、これはひょっとすると機関の陰謀なのではないか?特殊な電磁波で私の思考を妨害し、新世界秩序実現への障壁となる私を……」
「……」
初めのうちは確かに持っていた同情心が、灰になって消えてゆく音が聞こえた。
こうなると暫く自分の世界から出てこないのがMAGES.だが、ほったらかしにしてさっきまで読んでいた漫画に戻るには、少々声がうるさ過ぎた。
「ねえ、MAGES.」
「なんだ?」
「ボクも手伝うよ、スランプ脱出」
純粋な善意からの協力でないことを心の中で詫びつつ、5pb.はMAGES.の肩に手を置き、そっと寄り添うように言った。
「いや、まだスランプと決まった訳じゃない。機関の陰謀という線も……」
「スランプだよ」
「……そうか……そうだな」
それを聞いて、パァっと笑顔になったのは5pb.。
「じゃあ、どうやったらスランプ脱出できるか考えよ?」
「そ、そうだな。と言っても……私はスランプなんて初めてだから、何をすればいいのか……」
「うーん、確かに……」
5pb.自身も、スランプに陥った事がない訳ではない。しかし歌やパフォーマンスのスランプと、現在MAGES.が陥っている(と本人が言っている)それとは、全くの別物であるように思えてならなかった。
「とりあえず、気晴らしに体を動かしてみ……」
「そうだ5pb.、これで私の頭を引っぱたいてくれ」
5pb.の助言を遮るようにMAGES.が取り出したのは、5歳児の身長くらいはあろうかという大きさのハリセンであった。
「……これは?」
「超次元ガジェットNo.024、『天使の片羽』だ。本当は防犯グッズとして開発したのだが……少々大きく、取り回しが悪くてな」
「へ、へぇ……」
そのくらいの発明でいいなら今すぐ思いつくのではないかという言葉をぐっと堪え、渡されたハリセンを両手で持つ。やはりというかそれなりの重量があり、おっとという声と共に先端を床とくっつけてしまう。
「さあ、やってくれ」
「で、でも、痛くないの?」
「心配ない、少し痛いくらいの方が良いさ。私の脳細胞はきっと少し多過ぎて、渋滞を起こしているんだ。ちょっと減らすくらいの方がかえって……」
「えいっ!」
「ぶっ!?」
MAGES.の後頭部から、パァンという乾いた音が部屋に響き渡る。彼女は座っていた椅子から転がり落ち、うつ伏せのままピクリとも動かない。
「や、やり過ぎちゃったかな……?」
5pb.がMAGES.の頭をちょんちょんと突くと、彼女はムクリと体躯を上げ、無言のまま椅子に座り直す。
「め、MAGES.?」
「…………」
「怒って……る?」
口をへの字に曲げ、表情を一切変えず机に向かい、何かを書いている。どこか鬼気迫るものを感じるその様子に、スランプなどという言葉は似合わなかった。
「……これ、効果あるのかな?」
後日
「出来たぞ!超次元ガジェットNo.064、『アンブレラ・シェルター(仮)』だ!」
「おー、それはどんな発明なの?傘?」
「ただの傘ではない。普段は傘として持ち歩き、ここをこうして……テントとして使う事が出来るのだ!」
「おお……って、傘として使うにはちょっと大きすぎない?」
「また素晴らしい発明を産んでしまった。自分の才能が恐ろしいよ……」
MAGES.が満足そうなので、これ以上は突っ込まないことにした。
「ところでMAGES.、もうスランプは大丈夫?」
「スランプ?」
一番気になっていた質問をぶつけると、MAGES.はキョトンとした。
「この全宇宙から狙われし灰色の頭脳を持つ私にスランプなど、ある筈がないだろう?」
「え?でもこの前……」
「この前?ああ、5pb.が来た日か。あの日は5pb.と朝から晩まで遊園地で遊んだな、それでも超次元ガジェットのアイデアをまとめたメモを知らないうちに書いているのだから、自分で自分が恐ろしいよ……」
MAGES.はフゥーハハハといつものように笑い、ドュクプェを飲み始める。5pb.は部屋の片隅に置かれた『天使の片羽』をじっと見つめ、引き攣った笑顔を浮かべるしかなかった。