本当におめでとうございます
「……む?」
いつものようにドュクプェを補充しに来た店の、たまにしか目をやらないアイスショーケース。MAGES.は珍しく足を止め、その中を覗き込む。
『デュクテュアープエッパーアイスクリーム』そう書かれたタグの下には、何もなかった。
(私の知らぬ間に何という事だ、こんな商品が!?)
自他共に認めるドュクプェ好きのMAGES.にとって、これは屈辱以外の何ものでもなかった。知らぬ間にドュクプェの新商品が発売されており、知らぬ間に売り切れている。
一日一本以上飲み、数多ある別フレーバーも全て飲み、関連グッズもそのほとんどを集めていた。選ばれし者の知的飲料に選ばれし者としての自負があった彼女からすれば、その自負と界隈での地位を失いかねない大事件なのである。
「ちょっといいか」
「はい、何でしょう?」
内心の焦りと自分への怒りを抑えきれていなかったのだろう、すぐさま声をかけた近くの店員は、少し怯んだような表情を見せた。が、そんな些細な事はもう気にかける余裕すらない。
「このデュクテュアープエッパーアイスは、次いつ入荷する?」
「え、ええと……確かこれはテスト販売で……入荷数も少なくてですね……」
「そうか…………次はいつ入荷する?」
「えっと……わ、私にはちょっと……」
「………………わかった」
そのままスタスタと店を後にした彼女の姿は、あまりにも異様だった。
「とにかくあれを手に入れるまではノコノコと家に帰るわけにいかない、この辺りでアイスクリームを売っている店は……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら歩くMAGES.を、すれ違った子犬と子供が珍しそうに一瞥する。
「この身が朽ち果てるのが先か、幻の秘宝を見つけるのが先か……勝負といこうではないか!」
叫んだMAGES.に驚き、子犬と子供が逃げ出す。しかし高らかに宣言されたこの勝負は、長い長い迷宮の入り口であった……
「ない……無い……どこにも無い……」
探し始めて二ヶ月、コンビニやスーパーマーケット、駄菓子屋などあらゆる店舗を巡っても、それは見つからなかった。日に日に彼女はやつれ、目の下にはクマ、プラネテューヌ以外の国でも見つからない。
「この二ヶ月超次元ガジェットの開発も全く進まない……しかし諦めるにはあまりにも……」
インターネットを駆使しても手応えはなく、彼女の言葉通り身が朽ち果てようとしていたその時。
「あ、MAGES.久しぶり……って、大丈夫?」
インターホンも鳴らさずに、5pb.が飛び石を渡るように散らかった部屋に侵入。
「えっと……よかったらアイス食べる?てか冷凍庫入れなきゃ……」
MAGES.の耳がピクリと動いた。
「アイスか……アイス……」
「わわ、何で泣いてるの!?」
アイス、今一番聞きたくない言葉だった。
「ほ、ほら、ドュクプェのアイスだよ!?」
「!……5pb.、今なんて言った?」
「え?ドュクプェのアイスだけど……今度CMに出るからくれたんだけ……ひゃあ!?」
「ありがとう……本当にありがとう……」
「え?え!?ちょ、抱きつかれるとバランスが……」
アイスが溶ける頃、MAGES.が5pb.から剥がれた。