「帽子無くした」
「へ?」
そうざっくばらんに言ったMAGES.の頭のてっぺんには、確かにトレードマークの一つである歯車みたいなのが何個かついた黒いトンガリ帽子が無く、艶のある綺麗な青髪が外気に晒されていた。
「どこで無くしたの?」
「分からん、だから困っている」
5pb.自身もヘッドホンやチョーカーを無くした場合を想像すれば、困っているのは容易に想像がつく。しかしどこで無くしたか本人の口から分からないと言われると、こちらは何もできない。
「うーん……新しく買ったら?」
「あれは一点ものだ」
「オーダーメイド……」
「金がない」
「無しで生活は出来ない?」
「無理に決まっているだろう?この私の国家予算にも匹敵するほどの価値がある頭を、こうしていつどこのスナイパーに狙って下さいと言わんばかりの……」
MAGES.はこうなってしまうと、もう放っておくのが一番というのを5pb.は知っている。彼女は適当に相槌を打って、彼女の話が終わるのを待つ。
「……という事だ、だから帽子はこの私にとって、必要不可欠のものなんだ、分かってもらえたか?」
「ウン、ワカッタワカッタ」
「なら良い。さて帽子のことだが……」
ひとしきり陰謀じみた厨二発言をばら撒き満足したようで、話はふりだしに戻る。
「警察行ってみt」
「この新超次元ガジェットを試すしか、方法はないようだな」
5pb.の提案を遮り、MAGES.はどこからともなく彼女の身長くらいはあろうかという巨大な金属の棒を取り出し、弱々しい三脚がそれを立てる。
「…………それは?」
「超次元ガジェットNo.031、『神の導き』だ。内蔵されているコンピューターが世界各国の監視カメラ映像を収集、分析することにより、人物場所とあらゆるものを探すことが出来る」
「へ、へぇー……」
その監視カメラの映像はどこから手に入れているのか。怖気づいた5pb.は聞くことが出来なかったが、MAGES.の会心のキメ顔が、彼女がこの発明品に寄せる期待と自信を表していた。
「早速私の帽子を設定して……捜索開始だ!」
力強くスイッチを押し、ピポピポとステレオタイプなコンピューターの機械音が鳴り始める。そして、程なくその音は止んだ…………
「ちゃんと物を決まったところに置かないで、部屋の隅に適当にどかしてたんでしょ。整理整頓と掃除しないから、こういう事になるんだよ、分かった?」
「……すまなかった」
MAGES.は頭にいつもの帽子を載せ、散らばったガラクタの上で正座をしている。否、させられている。
帽子は部屋の隅のガラクタ(MAGES.は英知の結晶と言い張る)の中から直ぐに見つかり、今は発掘を手伝わされた5pb.のお説教タイム。
「ボクがたまに来ないと、すぐ足の踏み場もなくなっちゃうし……じゃあこれ、片付けよう?手伝うからさ」
(5pb.のヤツ、叔母さんに怒り方が似て来たな……)
「聞いてるー?」
「へぇっ!?聞い、てるよ……ところで、掃除の前にデュクプェを補給したいのだが」
「……………………」
「そ、そうだな、掃除の後の方が美味いよな、うん!」
彼女の狂気が、コールド負けを喫した瞬間であった。