「ほーら、幽香ちゃん。こっちですよー?」
「待ちなさいこのクソ妖怪!!今日という今日は許さないわよ!!」
「……なんだこれ」
いつもの僕と幽香ちゃんのやり取りを初めて見て困惑している僕の友人であるもっこすこと、藤原妹紅。会うのは実に数百年ぶりだ。まあ、数百年ぶりの感動の再会が、まさかこんな形になるとは僕も彼女も思っていなかったろうけど。
艶やかな光を放っている、銀色とも白色ともとれる綺麗な髪。体つきは幽香ちゃんやエリーには劣るものの、決して悪いというわけではなく、むしろ美少女と言っても何もおかしくないほどの容姿だ。故におしい。もう少し胸があったならば……おっと、こんなことばかり考えてるから、彼女たちに変態と言われるのかな。
そんなことを考えながら、幽香ちゃんとの追いかけっこを繰り広げる僕。しかし、折角のお客さんがいるのに、このまま幽香ちゃんとキャッキャウフフしてるわけにもいかない。しかも、相手はあの久しぶりに会うもっこすだ。
そういった訳で僕は、ちょっと本気を出すことにした。人間相手に追いかけっこでちょっと本気出す大妖怪って……と思ったが、気にしない。気にしてはいけないのだ。うん。
❁❀✿✾
「……やっと撒いたか。最近幽香ちゃんもしつこくなったなぁ」
「いやいや、まずなんであんなことになったのかの説明をしろよ」
流石もっこす。的確なツッコミだ。久しぶりに会いに来た友人がこんなことやってたら、そりゃ説明してほしいだろう。でも当の本人たる幽香ちゃんは、今頃あの広い向日葵畑の中で既にいない僕をずっと探しているのだろう。まったく、困った子だ。
「私はあんたという友人を持ったことに困ってるよ……あと、もっこす言うな」
「またまた。照れるなってもっこーー「燃やしてあげようか?」ーーすいません」
手のひらにもっこすお得意の炎を使った術を使役した瞬間、からかうのをやめる僕。仕方ないじゃないか。僕は火が弱点なのだ。燃えるから。
……ん。まあ、そろそろおふざけはやめて。
「久しぶりだね、妹紅。元気だった?幻想郷に来てたなら、一言言ってくれれば会いに行ってたのに」
「……私だって色々あったんだから、仕方ないじゃないか。それに私だって、ついこの間久しぶりに人里行って、日向の噂話聞いてここにいること知ったんだから」
なるほど。僕が、妹紅が幻想郷にいることを知らなかったみたいに、妹紅も幻想郷に僕がいることを知らなかったというわけか。数百年会ってないなぁ、って思ってたけど、意外と近くにいたんだね。
ーーー数百年。
そう。僕の目の前にいる彼女こと、藤原妹紅は、人間ではない。……いや、人間『だった』。
色々あって不老不死という種族になったらしいけど、僕はそこら辺を詳しく聞いていない。人には聞かれたくない過去の一つや二つ、あるものだ。……もう人ではないが。
「積もる話もあるだろうけど、立ち話っていうのもなんでしょ?すぐそこに家があるから、上がっていきなよ」
「……さっきの子は?」
……あ。
❁❀✿✾
「というわけで、こちらは僕の友人、藤原妹紅、通称もっこす。もこたんでもいいよ?」
「いらんことを言うな。だからそうやってボコボコにされるんだ。……こほん。紹介に預かった、藤原妹紅だ。気軽に妹紅って呼んでくれ、幽香ちゃん」
「ええ、わかったわ。よろしくね、妹紅」
あれ?今もっこすが幽香ちゃんのことちゃん付けしてたのに、何も咎められてない。エリーといいもっこすといい、何故だ。やはりあれか。性別か。こういうことがあるから、差別はなくならないんだ。
「ねぇ、妹紅。あなたはどうやって日向と知り合ったの?」
「お、日向と会った時か。あはは。聞いてもなんもないぞ?」
「いいのよ。昔のあいつを知りたいだけだから」
しかもあっちはあっちで女性同士の会話に花を咲かせてるし。あれか。これが今巷で有名ながーるずとーく、というやつだろうか。有名かどうかは全く知らないが。
……しかし、もっこすとの出会いかぁ。
懐かしいな。それこそ、今から数百年も前のことだった。あの頃の僕も今とだいぶ違っていたが、それはもっこすも一緒だったなぁ。
「まあ、あれだ。恥ずかしながら、その時の私は、その、この世の全てに絶望しててな」
そうだ。あの時のもっこすは……妹紅は、まるで全てどうでもいいといった風に、濁った目で僕を見つめていたんだ。
「日向が目の前に現れた時も、あぁ、妖怪が現れたな、ってな感覚でな。全然怖くなかったんだ。むしろ、それさえもどうでもよかった」
「……それほどまでに、壮絶な人生だったのね」
「いいや、全く。家は裕福。故に食いぶちに困らず、真っ当な人生だったはずなんだ。……あの薬さえ、飲まなければな」
薬?と幽香ちゃんは聞いたが、妹紅は軽く濁した。触れられたくないのだろう。僕だって、ちょっと知っているくらいだ。……不老不死の、薬。それを妹紅が飲んだことくらいしか、僕は知らない。
「話を戻すけど、まあ、その薬を飲んだせいで、私の人生は普通と程遠いものになっていったよ。髪は白くなり、体は成長しなくなり……そして、何をしても死ななくなった」
「……」
幽香ちゃんは、何も言わない。やはり賢明な子だ。触れてはいけないと、ちゃんとわかっている。
「そうして家を追い出され、妖怪に襲われながらも、私は生きた。ーーーいや、生きて『しまった』。こんな生活嫌で、何回でも死にたいと思った。でも死ねなかった。そういうことさ」
語る妹紅の口調は、どこか自嘲気味だ。自分の行動が、薬を飲んでしまった自分の行動が、どれだけ馬鹿げていたかを理解しているからだろう。
「そんで最初に戻るけど、そんな生活続けてこの世の全てに絶望していた時、日向に出会った。不思議なやつだったよ。今でも覚えてる、あの時最初に言った言葉」
む。なんて言ったんだっけ、その時の僕は。確か、あの時はなんか、妹紅の目にイラッときて……あ、思い出した。
「ーーー『なんでそんなに胸が小さいの?』だぞ?流石に私も面食らったよ」
「日向……」
なんか、すごい憐れな顔で幽香ちゃんに見られるんだけど。やめてほしい。いたたまれないから。違うんだ。その時の僕は、荒れてたんだ。だから、この世の全てを知ってそうな顔で絶望してた妹紅に、イラッときただけなんだ。
「でも私は感謝してるよ。久しぶりに怒ったおかげで、生きる気力、湧いたしな。だから私は今ここにいる。結果はどうであれ、私を変えてくれたのは、間違いなくお前だよ、日向」
なんか、ムズ痒くなるな。こうやって改めて感謝されると。そのあと、しばらく妹紅と、一人で生きていけるようになるまで一緒に行動したんだよなぁ。いや、懐かしい。
「ま、こんな何ともない話しさ。満足したかい?」
「ええ、まあね。……あ、でも、一つ気になることが」
気になること?なんだろうか。さっきの話で、何も気にすることなどないだろう。
「昔の日向も、今みたいに抑揚がなかったの?」
❁❀✿✾
『じゃあな、日向!幽香ちゃんは私が責任もって人里に連れてくよ!また今度遊ぼうな!』
「……」
そう言い残してあの二人が帰って行ってから時は流れ、今現在の時刻は、夜。星空が綺麗だ、なんて、ロマンチックなこと思ってみたかったけど残念、今日の夜空はあまりよろしくない。
『昔の日向も、今みたいに抑揚がなかったの?』
妹紅は、あの質問に、答えなかった。上手く流したからだ。とどのつまり、妹紅はあの質問に答えたくなかった、というわけだ。だから妹紅が言いたくないのならば、僕も言わないことにする。幽香ちゃんに聞かれても。
……わかっている。話したくない、話したいわけないだろう。僕は気にするなと言ってはいたが、妹紅はそれでも気にしてしまっている。罪悪感が残っている。それも、仕方ないのかもしれない。
あの時ああ言って、妹紅を怒らせた。だから、気力が湧いた。……でも、完全に生きる気力を取り戻すことは、できなかった。いくら彼女が、生きたいと、僕に願ったとしても。本来なら涙を流して、声を荒らげて言っているはずでも。一度感情を手放してしまった妹紅が感情を取り戻すことなんて、できなかったんだ。
でも彼女は、涙を流したくても流せなくて、辛いと思いたくても思えなくて、それでも僕に願った。『生きたい』、と。
だから、僕は。自分の能力を使った。
ーーー幾らかの感情を、妹紅に譲り渡した。
だから、僕に抑揚はない。本当に驚くこともなければ、怒ることも、喜ぶことも、悲しむことも。だから妹紅は気にしてる。自分のせいで空っぽになってしまった僕に対して、罪悪感を抱いている。
「……まだまだ子供だなぁ」
僕なら大丈夫なのに。こうやって、昔よりかは幾分感情も戻ってきているのに。大妖怪だからね。人間だった妹紅とは違うから、僕は大丈夫。……多分、ね。
それでも気にしてくれる、妹紅。持つべきものは友、か。本当に僕は、良い友達を持ったものだ。失ったものは大きいが、得たものも大きかったのだ。なら、後悔なんてないよ。僕は満足さ。
そんな幸せを噛み締めながら、僕は寝ることにした。
……幸せと感じている自分の感情が、本当かどうかもわからないまま。
会話中心の話になって、面白みに欠けたかもしれません。すいません。そして友人の1人、もっこすこと妹紅さんが登場!
はい。というわけで、日向さんに抑揚がない理由がわかりましたね!お気づきの方もいるかもしれませんが、日向さんは今まで一度も!や!?などの抑揚をつけてないのです!ででん!
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