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「……と、言うわけで。今外を出歩くのはオススメしないわ」
―――吸血鬼が幻想郷を襲いに来た。
まあ、ある程度予想はしていたことだ。目の前でその説明をした紫も、もちろん予想はしていたのだろう。幻想である怪異達が、現代において衰弱していることくらい、僕はもちろん、紫も知っていることなのだから。
……だからこそ、こういう愚か者も現れる。
ここ、幻想郷は、忘れ去られた者達の理想郷。現代では力の出せない妖怪達も、ここなら本来の力を出すことができる。
だからこその、侵略。略奪。こちらの事など何も考えない一方的な行い。
「はぁ……まったく、いつの世もこういった愚者は現れるものね。頭が痛くなるわ」
こめかみの部分を右手で抑えながら、やれやれと頭を振る紫。その気持ちもわからないでもない。
まあ、向こうはこっちの事情など知ったことではないし、知ったところでその侵略行為をやめるとは思えない。って言うか個人的に、紫がこうやって頭を悩ませている姿なんて久しぶりに見るので、いいぞもっとやれと言う心境だ。僕って性格悪い。……っていうか、
「とりあえず僕としては、この畑にさえ危害を出さなければどっちでもいいさ」
そう。僕としてはどっちでもいい。僕の宝物であるこの向日葵畑と……まあついでに、幽香ちゃんにさえ手を出さなければ、吸血鬼がここを支配しようがどうしようか、正直どっちでもいいのだ。紫には悪いけどね。
エリーやもっこす、こーりんは気になると言えば気になるが……まあ、大丈夫だろう。なんやかんやで強いし、少なくとも簡単に殺られるようなやつらじゃないさ。
「私としては、夏の状態のあなたが負けるとは思わないけども……念には念を入れて、報告に来ただけよ。それに、『切り札』だってあるし」
「……あいつかぁ」
紫の切り札という言葉に、聞き覚えのある僕。っていうか、この胡散臭いスキマが切り札、と言うまでの存在と言えば、一人しかいない。僕も実際会ったこともあるし。
まあ、民衆の前にはほとんど姿を表さないけどね……『彼女』の性格上、めんどくさいのだろう。
―――『博麗の巫女』。
紫が切り札とする、唯一無二の人間。簡単に説明するとするならば、やばい。あいつはやばい。正直に言ってしまえば、化け物。妖怪達よりも化け物地味ている。なんで人間やってるの?ってレベルだ。
一度その化け物と戦ったことがあるが……あれは勝てない。コテンパンにされた。夏の状態の僕が、である。
―――つまり、純粋に僕より強い。
幽香ちゃんの傘に貼り付けてある博麗の巫女印の御札。あれを数枚貼り付けている傘でさえ、あの威力。僕みたいな大妖怪でなければ、殴られた部分が消滅しているかもしれないくらいだ。
……いや、そんな代物を振り回してる幽香ちゃんも幽香ちゃんだけどね。とにかく、
「ま、こっちはこっちで上手くやるよ。幸い、幽香ちゃんがこっちに泊まりに来てるから、僕の方で彼女は預かっとけるし」
「そうね、それがいいわ。現在人里でも、かなり緊迫した状態に陥ってる。既に何人か襲われたみたいだし……そんな場所に良い噂を聞かない彼女がいれば、目の敵にされるのは一目瞭然だわ」
紫の言っていることは合っている。正直、今の状況で幽香ちゃんを人里にかえすのはかなり危険だ。ただでさえ妖怪の仲間、だなんて不名誉な噂が飛び回っている幽香ちゃんだ。
最悪、吸血鬼の仲間だどうだと言われて襲われる可能性だってある。
「……ちょっと、日向」
「ん?」
「顔、怖くなってるわよ?」
言われて気付く。どうやら、顔が強ばっていたらしい。
多分……いや、確実に、幽香ちゃんの身になにかあった時のことを想像してしまったせいだろう。
僕ってここまで過保護だったっけ?幽香ちゃんはもう、『子供』なんかじゃないのに。
……そう、幽香ちゃんは、もう『大人』と言っても差し控えないくらいになっている。体つきにしてもそうだが、歳にしたってそうだ。
なんやかんやで、僕と出会ってからはや十年。そりゃ変わるよね。
そんな幽香ちゃんが、変な気を起こすはずがない。昔と違って、周りのことをもっと考えてあげられる子になったんだから。それは幽香ちゃんと長い時間を共にした、僕だからこそ言えること。
「まあ、それでも僕にとってはまだまだ子供かーー「聞こえてるわよ、バカ日向」ーー……おやおや」
お寝坊お姫様の、少し遅れてのご登場だ。
「ほんっと、あなたって妖怪は人がその場にいないことをいいことに……私も立派なレディーだと、何回言えばわかるの?」
「あはは。これはこれは失敬しました。涎を垂らしながら寝ている顔がなんともまぁあれだったものでして……」
「ーーーなっ!?忘れなさい!!!!」
顔を真っ赤にしてうがー!としている幽香ちゃん。ほんっと、そういうところがまだまだ子供なんだよなぁ。本人には自覚がないみたいだけどね。
「あなたたちはねぇ……今、結構緊迫としている状況なの、理解できてるのかしら?なのにまぁのほほんとイチャコラしおってからに」
「紫、口調おかしくなってるよ?」
なんだろうか、最近の紫は色々とおかしい気がする。イライラかな?だとしたら、そんな時にこの吸血鬼の問題……ストレスはマッハだろうね。
「い、イチャコラだなんて、そんな……」
それで、今にもぶっ倒れそうなくらい顔を真っ赤にしてるこの子は一体どうしたんだい。君のことだよ、幽香ちゃん。
「こっち見るなばかぁ!!」
「ぐほっ」
頭を傘で殴られた。理不尽である。
ふーっ!!と、猫の威嚇みたいに、傘を構えながらこちらを睨んでくる幽香ちゃんを宥める。これ以上殴られたくないしね。
「まあ、とにかくだよ幽香ちゃん。吸血鬼が攻めてきたらしいんだ。博麗の巫女が動けばすぐに終わるんだろうけど……いかんせん、彼女はめんどくさがりでね」
僕の言葉に、紫も頭を抱えてそうなのよ、と力なくつぶやく。博麗の巫女がわからない幽香ちゃんといえば、きょとんとしている。君のその傘の御札だって彼女のなのに……。
「め、めんどくさがり?人里のみんなだって困るはずでしょ?」
「ええ、現に何人か襲われてるわ。幸い、死んではいないみたいだけど……」
そう、それでも動かない。なぜなら彼女はめんどくさがりだからだ。ほんと、何が相手でもあのマイペースを崩すことがない……それが、博麗クオリティ。
「誰か一人でも死ねばさすがの彼女も動くんでしょうけど……流石に、そうなる前になんとかしたいし」
「いっそのこと、紫だけでなんとかすれば?」
「それができれば苦労はしないわよ……彼女のためにならないの。自分からやらせないと、彼女はいつまでたっても変わらないから……はぁ」
もしや彼女のストレスの原因は、博麗の巫女にあるのではないだろうか……そう思ってしまうほど、今の紫は遠い顔をしている。なんだろう、心ここにあらずって感じかな。
「まあ、忠告はしたわ。あとをどうするかはあなた次第ね。くれぐれもあの子に気をつけること、いいわね?」
「はーい。紫も……いや、君なら万が一ってこともないと思うけど、社交辞令ってことで。気をつけて」
紫はその言葉を聞いて満足したのか、何も言わずに隙間の向こうへと姿を消した。
取り残された僕と幽香ちゃん。今日はエリーも用事があるみたいだし……さて、どうしたものか。
「……まあ、あれよね」
「ん?」
「とりあえず……お茶でも飲みましょうか」
「あー……だね」
吸血鬼が幻想郷を襲ってこようが何しようが……僕達は、いつも通り、向日葵達を見ながらのんびりしてればいっか。
はい、ええーと、とにかくすいません!書くの久しぶりだったので!!許してください何でもしますから←
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