ONE PIECE 七光り野郎共!   作:TTT

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1 日常

ゼット(15歳)

No.01 日常

ゼットの朝は早い。元々そんな早起きと言う訳ではなかったのだが、ミラが教官になってからは朝六時に叩き起こされるようになった。

「ぐー…!……ぐー…!」

「何時まで寝てるんだ!寝坊助!」

「ぐへっ!」

五年間同じことを繰り返している。そろそろ体が痛みを覚えても良い頃だと思うのだが、恐ろしく寝付きの良いゼットは全く早起き出来る兆しがない。

今日も今日とて、何時もと同じく、無理矢理腹を蹴り飛ばされ、ベッドから転げ落とされたゼットは、腹を押さえながら慌てて立ち上がる。

「お、おはようございます!教官!」

そして、敬礼。蹴り飛ばされた相手に敬礼をするのは変な気分だが、下手に「何すんだよ!」とか口答えすれば追加の蹴りが来るのは既に経験済みだ。黙って挨拶するのが吉である。

ちなみに、今のゼットの服装は星柄の半袖半ズボンの寝巻き姿に、同柄のナイトキャップを着けたもの。一方、ミラは既に着替え終わっており、動きやすさを重視したフィットネスウェアを着ていた。羞恥心を遥か昔に置き忘れてきたミラは下着も何も着けておらず、うっすらと乳首の輪郭と鼠径部が透けて見える。寝起きには刺激の強すぎる格好であり、思わず見惚れてしまいそうになったが、「遅い!惚けっとするな!」と言うツッコミと蹴りを受け、慌てて服を着替える。もっとも、着替えると言っても、夏の季節は基本、冷房の効かない外では半裸なので、黒い半ズボンを履くだけで着替えは即座に終了した。

 

A.M.6:10

ミラに引きずるようにして連れてこられたのは、海軍本部のある島の沿岸部。砂浜地帯である。

南国の木々や巨大な岩が散見するそこは天然の修行場だ。砂の上故に体を痛めずに体力を付けられ、岩は重石代わり、木々は上を走ればフリーランニングや垂直走りの訓練が出来る。

正式な海軍の訓練場はもちろん他にあるが、ミラと体力作りをする時は大抵此処に連れてこられる。

 

「じゃあ、今日もビシバシとしごいていくぞ!」

 

実に良い笑顔で鞭を叩くミラと対照的に、ゼットの顔色は優れない。それもそのはず、ミラの修行は本当に厳しい。死ぬギリギリまでしごかれた挙げ句、良く分からない力で体力回復され、また死ぬギリギリまでしごかれる。これを無限に繰り返される。何度三途の川を渡りかけたか分からない。その度に引き戻され、また送り込まれる。

センゴクをして「これは修行じゃない!拷問だ!」と言わしめる過酷な内容。ゼットにヒーローになると言う確固たる夢が無ければとっくに家出していただろう。

 

「よろしくお願いします!」

 

しかし、ゼットには夢がある。目標がある。だから例えどれだけ過酷だろうと頑張るのだ。

 

A.M.10:15

現在、ゼットは逃げていた。

え?

頑張るんじゃなかったの、って思っただろうが、別にあの言葉に嘘はない。ただ限度ってものがある。いくら夢の為に頑張っても夢を叶える前に死んでしまっては本末転倒だ。教官だって悲しむだろう。だから、これは逃げたのではなく、戦略的休息なのだと自身を正当化しつつ、ゼットはフリーランニングで木々や岩の上を駆ける。

もちろん、無闇に逃げているわけではない。隠れるのに丁度良さげな場所を見つけたので、そこに向かって走っているのだ。

ゼットの目指す先、目の前、100m程先には、金色の髪を腰まで伸ばした女の巨人兵。正義のマントを肩に羽織り、ベージュのシャツに黒いズボンをはき、緩くネクタイを締めている。シャツのボタンは二つほど開け、巨大な胸の谷間が僅かに露出していた。

身長は見上げるほど高く自身の7~8倍ある。

 

「匿ってください!」

 

初めて会った相手だったが、躊躇ってる時間はない。教官がトイレに出たとは言え、そう長くは掛からないだろう。戻ってくる前に隠れなければならない。

 

「あら、もしかして私に言った?」

 

女海兵は足を止めて足元を見る。そこにはまだ少年と呼んで差し支えない程の幼さの子供がいた。随分焦っているようで、全身から汗をかいている。良く良く見ると、(体が小さいので良く良く見ないと分からない)、顔色もかなり悪い。まるで一週間デスマーチをした後のようだ。

 

「匿うのは構わないけど、誰に追われてるの?海賊船は見当たらないけど」

「いえ、追ってくるのは海賊じゃなくて、教官です」

「教官?」

 

こて、と首を傾げる海兵だが、すぐにポンっと手を叩く。

 

「もしかして貴方、噂のゼット君?ゼファー元大将の息子さんの」

「噂と言うのが何か分かりませんが、確かに僕はゼットです」

「やっぱり!今巨人兵の中で珍しく私達を怖がらないで話し掛けてくる子供がいるって専らの噂なのよ!」

「そうなんてすか。怖がる理由が分かりませんが」

 

少なくともゼットにとって教官のしごきよりも恐ろしい巨人兵はいない。てか、巨人兵は意外と優しい。それは子供に怖がられることが多いので相対的にゼットの好感度が上がっているだけなのだが、まあ、知る必要はないことだ。

 

「それより、匿って」

「──いいよ!」

 

女海兵はしゃがむと、優しくゼットを掴み、自分の胸の谷間に押し入れた。

 

「ふえっ!」

 

てっきりポケットの中とかに入れられると思っていたので、これは完全なる不意討ち。思わず思考の全てが停止し、体が硬直し、そのまま胸から落ちそうになり、慌てて胸に捕まった。

 

「あ、あぶなかった」

「大丈夫?怪我してない?」

「怪我はないです」

 

怪我はないが、心の平静も全く無かった。

全身を包み込む柔らかい感触、ほんのりと香る香水の匂い、目の前全てに広がる肌色の世界。どうしても自分がおっぱいの中にいると意識してしまう。

 

(無…無…無…無だ!無心になるんだ!これは只の肌色の壁!これは只の肌色の壁!)

 

ゼットは全力で精神の統一を行う。

もちろん精神の統一を計りながらも、落ちないようにしっかり胸に捕まり続ける。

 

(精神統一…精神統一…ってできるか!胸だぞ!胸!今胸の中にいるんだぞ!こんな状況で意識しないわけないだろ!)

 

もっともな叫びである。

しかし、ヒーローを志す者として善意で助けてくれたものに邪な考えを持つことなど許されない。必死で素数を数える。素数を数えると落ち着くと聞いたことがある。全然効果はないがやらないよりは多分ましだ。

 

もっとも先の事など気にする必要は無かった。なにせ、教官と言う名の恐怖の大魔王が恐るべき勢いでやって来たからである。

 

「そこの海兵!匿ってるバカ弟子を出しな!」

「ミラ・キュラソー元大将!」

 

ミラ・キュラソーは今の全ての海兵にとって大先輩であり、今尚強い影響力を持つ。しかし、彼女(女巨人兵)は優しかった。

 

「えーと、誰も匿ってないですよー」

「仲間を庇おうとする心意気は買うが、下らん嘘を言う必要はない。たとえ見聞色を使わずとも弟子の場所くらい匂いで分かる。そこにいるのは分かっているぞ、出てこい馬鹿者!三秒以内に出てこないなら午後の修行は三倍にする。三、二、一」

「うえ!ちょ、待ってください!出ます!出ますから!だから、三倍にするは勘弁してください!」

 

ゼットは慌てて胸の谷間から這い出てきた。

 

「何処から出てきてるんだお前は!」

 

流石に、そんな場所から出てくるとは思わなかったのか、ミラは珍しく驚きの表情を見せる。

ミラも裸を見られること事態には何も感じないし、弟子に背中を洗わせたりもしているが、しかし、これは違う!修行を無断で抜けだした挙げ句、女海兵の谷間の中で休んでいるとは、随分となめくさっている。全くもって誤解であるが状況から見れば否定はできなかった。

結局、その日の午後の修行は何時にも増して厳しいものになり、終わる頃にはボロ雑巾になったゼットがいた。

 

「うう、三途の川が一本、二本…」

「寝るなら汗流してからにしな!ほら、風呂に行くよ!」

 

ゼットは引きずられながら銭湯へと入っていった。

 

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