クラス転移したし最弱スキルだったけど元が魔王。   作:WillOfTheHeart

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2.ただいま異世界(2)

 クラス「読書家」の恩恵は思っていたよりもあった。

 汚い字が読めるのである。これ筆跡鑑定とかもいけるんじゃないか。事実活版印刷の普及していなかった頃の書物にまで手が出せたのは大きい。あと部族の間でしか使われていない文字などもクラスが成長すれば行ける気がしないでもない。

 

 なんて話も束の間に、戦闘系のクラスと職人系のクラスで班分けが為され、それぞれクラスやスキル、魔法といったものの訓練が始まった。

 

 が。

 

「オウカ殿……その、一般の者が読み得る書物はこれで最後でして」

「少ないな。勇者のその取り巻きだぞ、俺達は。もう少しいいだろう?」

「規則でして……」

「さて、いやに歴史書が少なかったが、なんだ。この国は隠蔽したい事実でもあるのか?」

「そんなことは」

 

 読書家が格闘や剣術を習うわけもなし、魔法の適性は全てに引っかからないと来たものだから、本当に粗い作りの魂にしておいて良かったと思う今日この頃。

 よってとりあえず読書の出来る場所として王立図書館なる場所に赴いたのだが、これが小さい小さい。

 ……まぁ、当然ではある。絶えず戦争をしている人間と魔族において未来へ知識を繋ぐ、みたいな意識はそんなにない。歴史的建造物とか由緒あるうんたらかんたらとか、むしろ敵の象徴なのだから全て壊せ、が基本だ。人間は人間同士でも争うしな。

 だから本がほとんど残らないのは当然ではあるのだが……それでも少ない。歴史に関する書物と、近年の、特に俺討伐後の話が見当たらない。どれだけ高価といえど、魔王討滅の勇者物語くらい誰か書いていると思うんだがな。

 

「さて……まぁ、そろそろ子守りにも人手不足が重なって来たことだろう。持て余しているんじゃないか、俺達を」

「……ええと、それは……私はどうお答えすればよいのでしょうか」

「要らん。独り言だ」

「は、はぁ」

 

 スキルの使い方など一日もあれば十分に教えられるし、クラス特性もそうだ。

 あとは実戦地での訓練だが、そこまで付き合える甲斐性があるなら最初からクラスごと転移などしてはいないだろう。

 

 

 

 ある程度のこの世界での常識が皆に備え付けられたあたりで、城の近辺であれば出回って構わない、という触れが出た。無いとは思うが口減らしに似た王城兵士によるクラスメイトの暗殺も考えて使い魔を何匹か放っておいたが、とりあえず今のところそれらしい件はない。

 

「はぁ、スケイルレッドですか……申し訳ありません、あそこは異人種族にのみ許された区画。我々兵士ですらおいそれとは近づけない場所でして」

「それは知っている。本で読んだ」

「遠くから眺める、というだけでしたら、何か彼女らを苛立たせることをしない限りは可能でしょう。ただし、くれぐれもスケイルレッドのご令嬢達を怒らせることだけは……」

「わかっている」

 

 やはり素直には行かせてくれないか。

 異人種族。

 つまるところまぁ、ヒト、と呼ばれる種族以外を差す。ただこれは人以外を蔑視しているとかそういう話ではなく、ヒトとは異なる機能を持つがゆえの呼称。スケイルレッドであれば吸血、鱗がある、瞳が縦に割れている、などだ。エルフやドワーフもこれらに含まれるな。

 だから人間の国では異人種族をこうして区画わけしているところも多い、というわけだ。無論完全な共存……両隣の家に住む者の種族が違う、という国もあるらしいが、俺は行ったことが無いので確かなことは言わないで置く。

 

 兵士に示された方角へ歩くこと数分。これでもか、というほどに豪華絢爛な構造物群が見えて来た。成程、王城からは死角になっている。

 

 スケイルレッドのご令嬢達は、その名の通り肌のどこかしらに赤い鱗を持つ異人種族である。また血筋もしっかりとした……というと変だが、先祖から絶えず同じ特徴の血を引き継いできた、まぁ純粋種の異人種族と言えるだろう。

 そんな彼女らは吸血鬼……あくまであっちの世界で言う吸血鬼が一番合っているからそう呼称しているだけで、正確には吸血生物と呼ぶべき彼女らは、けれど主食を血液にしていない。血液も飲めるし吸える、が近い。普段はフルーツとか食べてるはずだ。蚊みたいに。

 

 霧の魔法を使っているから見張りの兵士も素通り。こちら側に人間の兵士、あちら側に異人種族の兵士。兵士はこれ、王城所属なのか? エリドがそうだったからそうなのかもしれないが、にしてはやけに敵意があるような。

 

「止まれ」

「断る」

「……魅了が効かない? あなた、何者? 魔族?」

「いいや、違う。が、お前も何者だ。俺の姿は記憶できないはずだが」

 

 止められた。正確には睨まれて「止まれ」と言われた、だが。

 だから止まらずに歩き続ければ、ソイツは普通に俺の横を歩いてくる。

 

「認識できない何かがいる。それ以上の情報は必要ない」

「成程、達人の類か」

「この区画に何用?」

「ヒューリッテ家を探している。場所を知らないか、サッキュバス」

 

 サッキュバス。夢魔……と訳されがちな吸血鬼。彼女らも別に魔素を取り込み過ぎなければ人間側の種族だ。というより基本的に魔族というのは……ああいや、なんでもない。

 

「……何者か、何用か。それを話してからでないと、通せない」

「通す、というのはこの認識錯誤の結界のことか?」

 

 アレだ、富士の樹海みたいな。

 同じような街並みを見せて、進んでいるようで実は同じところをぐるぐる回っている……という幻覚を見せる結界。効かないが、随分と練度が高い。表の兵士はお飾りか、これは。

 

「そう殺気立つな、サッキュバス。城で働いているエリド・ヒューリッテの知り合いでな。家に誘われたから来ただけだ」

「……それは、あり得ない。異人種族(私達)は決して人間や魔族を自らの家に招き入れたりしない」

「魔族ではない。何者か、と問うたなサッキュバス。俺はミスト・ガスフーライル。偽名だ」

「最高神の名を騙る霧の魔法使い。怪しさしかない」

「騙っていないだろう。堂々としている」

「確かに」

 

 納得するのか。

 してくれるならありがたい限りではあるが。

 

「実を言えば、俺はイミドの知り合いだ。重ねて言うが魔族ではない」

「イミド・ヒューリッテ……あのスケイルレッドの面汚しの知り合いなんて、名乗って得は無い」

「魔族は面汚しか」

「当たり前」

 

 そう、なのだろうな。

 魔族とは……魔に呑まれ、堕ちたものである、というのが人間側の共通認識だ。魔素中毒になった者や禁忌とされる魔法を使った者、あるいは呪われた種族……etc.

 本当は違うんだが、それを訂正し始めたら俺が魔族だと言っているようなものだ。

 

「案内ご苦労だった、サッキュバス」

「……? ……! いつの間に」

「ただの反転魔法だ。気にするな」

 

 認識錯誤の結界の効果を反転させた。よって認識はスムーズになり、相手の術者が俺を迷わせたいと思っていればいるほど俺の目的地に案内させる足取りになる。

 シンプルな魔法だが、使い勝手はいい。

 

「ミスト。もう一度だけ聞く。ここに何用?」

「言っただろう、サッキュバス。俺はイミドの知り合いだ。だが奴の行方が全く知れん。ここに手掛かりがあることを願って来ただけだ」

「なら霧の魔法なんて使わずに正式に訪問すればいい」

「スケイルレッドのご令嬢達が見ず知らずの男を家に招き入れると思うのか?」

「……まぁ、それは」

 

 言い淀むサッキュバス。高慢ちきとまでは言わないが、排他的な彼女らを知っているのだろう。

 

「安心しろ。俺の傍から一歩でも離れたら、俺の事は忘れる。思い出せなくなる、が正しいが」

「だからそばにいる」

「ならついてくるか、ヒューリッテ家に」

「……ここで異人種族全員に私が警鐘を鳴らすとは思わない?」

「思わんし、やってくれても構わん」

「外界とは遮断済み?」

「俺の霧はそれさえも包含する」

「……格上」

 

 ではな、と言い残してヒューリッテ家へ侵入する。ドアベルも鳴らさない完全な不法侵入だ。イミドの生死はわからないが、ともすれば未亡人の可能性もあるイミドの番のいるそこ。

 

 入った瞬間、違う、と気付いた。

 

「いるじゃないか、イミド」

「あ? ……誰だ、お前」

 

 すやすやと眠るエリド似の青髪の女がその番とやらだというのはわかる。

 だが、なんだこの怨霊の量は。

 そしてなんだってイミドはこの量の霊と戦っているんだ。霊体で。

 

「……俺が祓ってやろうか?」

「いきなり入ってきてなんだテメー。兵士は何してんだ! エマがあぶねえぞ! ……クソ、生身の身体がありゃぁなぁ!」

「この怨霊は……女か。なんだ、今まで捨てて来た女か、イミド」

「ちっげーよ! つかなんだ、誰だてめぇ、魔法解けや!」

「解いたらこのお嬢さんが起きてしまうだろう。それで、お前が構わないのならこの怨霊、俺が祓うが」

「あーあーやってくれやってくれできるもんならな!」

 

 言われたのでやる。

 魔王だからって聖なるうんたらとか浄化のナントカに弱いと思わないでほしい。魔族だった時はピリピリ来る程度はあったけど、それも習得している。その上で今は人間なので簡単に扱える。

 クラス:聖女が覚える聖域(サンクチュアリ)には流石に及ばないまでも、広域浄化の魔法くらいは一瞬だ。

 

 そしてまぁ、ちゃんとイミドを除外して祓えば、よし、これで静かになった。

 

「お……おぅ。なんだ、やるじゃねえか侵入者。あんがとよ」

「愛した女のそばに面も知れぬ男がいるというのに礼か? 素直なところは変わらないな、イミド」

「だーから、誰なんだよお前!」

「俺が誰かは最後に晒す。それよりお前、何があった。お前ほどの男がそう簡単に死ぬとは思えないが、勇者に吶喊でもしたか?」

「するかよ! ……あーイライラする。霧の魔法使いってのはどうしてどいつもこいつも神経を逆なでする奴ばっかなんだ」

「聞くが、どいつもこいつも、とは誰の事だ」

「魔王とかだよ。前魔王。あの人には感謝もしてるが、だりー口調だとは思ってたんだ……で、なんだって? 俺が死んだ理由? 死んでねぇっつーの」

 

 ……ちょっぴり傷ついたりしてはいない。

 だりー口調だと思われていたのか。改善はしないが、記憶にはとどめておこう。

 

「死んでいないとは言うが、今お前霊体じゃないか」

「仕方ねえだろ。生身があるとエマが魔素に影響受けちまう。エマと一緒にいるにはこうしているしか方法がねえんだよ」

「……イミド、その手法、誰から聞いた?」

「ジジイだよ。バスのジジイ」

 

 ふむ。

 魔素は魂から滲むもの。だから霊体になったからといって魔素から脱せるわけじゃない。だが現にイミドの身体から魔素は感じない。

 バスのジジイというのは元俺の部下だ。魔法に詳しいドライアドの御仁。

 

「さっきの怨霊は?」

「知らねえ。俺がここに居ついてから湧くようになった。エマを狙ってきやがるから、毎日毎日撃退してんだよ」

「そうか。では最後の質問だ、イミド。人間に戻りたいか」

「はぁ? そんなん戻りたいに決まってんだろ。……魔王様、ああ前魔王様への忠義はあったが、今の魔王に何を思う所もねえんだ。エマとエリドと一緒にいてぇって思うのは当然だろ」

「十分だ。お前は十分に働いてくれたからな。その褒美を取らせる必要がある。待っていろ、お前の肉体を見つけ次第人間に戻してやる」

「戻してやるって……簡単に言うけどな。そんな高等スキル使えんのは勇者か魔王様、か……」

 

 怨霊避けのタリスマンを棚に置き、一瞬だけ霧の魔法を解く。

 

「──いや誰だよお前。人間?」

「良い、気にするな。死んでいたのなら、殺した者への報復も考えたが、生きているのならば褒美を取らせるまでだ。それまで安穏に暮らしていろ。このタリスマンが家の中に在れば、怨霊も寄っては来ない」

 

 また霧を纏う。

 一瞬漏れた人間としての気配でエマ嬢が起きてしまったからな。それ以外にもスケイルレッドのご令嬢達は俺の存在を察知した事だろう。さっきのサッキュバスも。ま、もうここへは立ち寄らないから勘弁してほしい。

 

「久方ぶりに話せて良かったよ、イミド」

「待て……今の魔力、覚えが……クソ、記憶を隠すんじゃねえよ!」

 

 起きたエマ嬢と話したわけではないからアレだが……あっちの世界風に言うなら、ヤンキーと深窓の令嬢、という感じだった。良い娘を見つけたものだ。馴れ初めを聞いてみたいものだが、それは追々か。

 

 今はそれよりも片付けなければならない事柄がある。

 

 

 ヒューリッテ家を出て、豪華絢爛な街並みの方へ歩を進める。

 

 そうして辿り着いたのは、特に他と変わらない建造物。するりと入って行けば、兵士と使用人が数名。

 上か。霧の身のまま上へあがる。

 

「君か、ヒューリッテを呪っているのは」

「──誰ッ!?」

 

 爪と尾。おお、スケイルレッドの中でもかなり高位の……竜人か。

 赤き髪に赤い鱗。紛う方なきスケイルレッド。

 

「衛兵……は、来ないぞ。認識錯誤の結界を敷いてある」

「姿を見せなさい、不埒者!」

「無論だとも」

 

 霧魔法を解いて、日本人としての平々凡々な顔を見せる。黒髪黒目も差して珍しい色合いではないから、服装くらいか、こっちとあっちの違いは。

 

「……人、間?」

「見ての通り、人間だ。さて、スケイルレッドのご令嬢。名も素性も興味もないが、何故ヒューリッテを呪っているのかだけ教えて欲しい」

「人間が……何を、偉そうに」

「君も人間だろう。それともなんだ、魔族か?」

「誰がッ!」

 

 かっぴらいた目は竜のソレだ。噴火寸前、スケイルレッドの矜持が人の姿保っているだけ、かな。

 

「さて、あまり長居はしたくない。理由を吐けぬというのなら、呪いの一つも吐けないほどにまで封印するしかなくなるのだが」

「……名を名乗れ、不埒者」

「ミスト。どの道記憶には残らない名だ。ああ、名前を聞きだしたことによる魅了は効かないぞ」

「そう……ならば、ミスト。今すぐに我が眼前から消えろ。ヒューリッテ。その名を聞くだけで虫唾が走るというのに、我が領域に土足で踏み入ったお前を殺したくて仕方がない。だが人間を殺すと外聞が悪い。だから消えろ。見逃してやる」

呪縛(カース)

 

 その肢体を、豊満とされるのだろう身体を鈍色の鎖が縛る。突然のことに暴れる彼女だが、それはその程度で取れたりはしない。

 

「これは……人間、ごときの……使えて良いスキルではないぞ!」

「そうだな。加えて言うと俺は読書家のクラスだ。こんなスキルは保有していない。君のような高位存在をたったの一度で封じ込め、身動きも取れない状態にさせる呪いなど、習得できるクラスも限られよう」

「……まさか、お前」

「時間切れだご令嬢。ヒューリッテに何を思い、何を恨んでいたのかは知らないが、イミドは俺の大切な部下でな。その番をも狙うというのなら容赦はしないさ。記憶の根底、魔法の根拠。君の持つ全ては今これより忘却の彼方に置き去られる」

「待」

「たない。さようならだ、スケイルレッドのご令嬢。忘逸(フーゴ)

 

 鎖がご令嬢の身に沈んでいく。アレは体を縛るためのものではなく、魂を縛る鎖だ。解けるのは勇者くらいのものだろう。

 

 詳しい話を聞けなかったのは残念だが、とりあえずの禍根は断った。あとはクラスの皆との冒険の最中にでもイミドの肉体を見つければいい。

 

 霧の魔法を纏う。

 

「ライザ様!」

「ご無事ですか!?」

 

 屋敷内だというのにどうやっても家主の元へ辿り着けなかったんだ。反応は当然。

 それではさようなら。俺は霧となって屋外へ抜けていく。

 

 

 

 ライザ嬢の家から数冊パクってきた歴史書を読んでいた時の事だ。

 

「いた! 町原、アンタ今までどこにいたのよ!」

「城下町の書店巡りだが」

「なーに異世界満喫してんのよ。こっちはこれから魔王討伐の旅に出るって騒ぎなのに……」

「そうか、頑張れ。非戦闘員にはあまり手を出すなよ。魔族というだけで殺す対象にするのはよくないぞ」

「頑張れ、じゃなくてアンタも行くの!」

「異なことを言う。読書家に何ができる」

 

 夢坂は……成程、この数日で見違えるほどに成長したらしい。魂から溢れ出る聖気が止まらん止まらん。これで聖女も行くのだから恐ろしい話だ。聖女が誰になったのか知らないが。

 

「そりゃ……旅先で見つけた本とか読むのに必要でしょ!」

「賢者がいれば十分だろう」

「どうせ後続にクラスのみんなも来る手筈になってるんだから、遅いか早いかの違いでしょ!」

「ならば遅い方がいい。まだ読んでいない本がある」

 

 剣を抜く音と顔に近づく風圧がほぼ同時だった。

 だから、大げさに首を傾けて剣の腹を手で押す。押しのける。

 

「!」

「何事も暴力をチラつかせれば思い通りになると思うのはよくないぞ、夢坂。まるで昔の君に戻ったかのようだ」

「……アンタ、読書家でしょ。なんで今の反応できるのよ」

「読書家だから目が良いんだ。当然だろう」

 

 平行線、というか話し合いにすらなっていない。

 夢坂は俺を連れて行きたい。俺は行きたくない。両者の話の収めどころは。

 

「有紗さん、そろそろ……ああ、彼氏さんと一緒でしたか。これは失礼しました」

「だーれがっ! こんな奴の!」

「その装い。西川が聖女だったのか」

「ええ、まぁ。似合わないとは自分でも思っていますよ」

「いや、特に感想は無い。時に西川。夢坂が魔王討伐の旅に俺を連れて行きたいと言っているのは周知の事実か?」

「え? いえ、今聞きました。……ええと、町原さん、クラスは」

「読書家だ。お荷物だろう」

「そう、ですねぇ。……有紗さん、彼氏さんと一緒にいたいというお気持ちはわかりますが、読書家な町原さんをともに連れて行っては、無駄に怪我をさせてしまうだけかと。一度冷静になってみてください」

「だから! 誰がこんな奴の彼女よ!!」

 

 憤慨する夢坂。

 ……場が混乱しただけだな。誰か話を終わらせられる奴はいないのか。

 

「おーい夢坂ー、西川ー……っと。ああ」

「何が、"ああ"よ!」

「金田、お前が賢者か? それとも剣聖か?」

「賢者様だよ。お前のクラスは……へー、読書家。ぴったりだな」

 

 クラス看破か。賢者のパッシブスキルだが、それ初対面の相手にやるとかなり失礼だぞ、とかは言わないでおこう。俺が言ったところで何で知っているんだという話になるし。

 

「ああもう、これ以上野次馬が増える前に、早くこっち来なさい町原!」

「断る。勇者、聖女、賢者、剣聖。十分だろう、戦力は」

「え、なに夢坂。町原連れて行こうとしてんの? 流石に無理だろ。読書家はどう聞いても戦闘職じゃねーし。大丈夫だって、愛しの彼ぴっぴに会えなくなるのが寂しいんなら、パッと魔王討伐して帰ってくりゃいい話だろ?」

「次私と町原の間柄のこと弄ったら男女関係なくぶん殴るから」

「おー怖。でもさ、やっぱり無理だろ。俺達が守ればいいとかいう話じゃなくて、そもそもの行軍スピードにもついていけないんじゃないか?」

「当然だが読書家に走行系、疲労軽減系のスキルは無いな」

「ほら。だから夢坂、最後に町原にハグなりしてブヘッ」

「弄ったら殴るっつったでしょ」

 

 身体強化を使わずに随分な膂力だ。流石勇者クラス。

 

 と、夢坂が何か意を決した表情でこちらへと向き直る。

 

「……金田の言う通り、一瞬で帰ってくるから。それまでに死んだりしてたら、殺すから!」

「それは恐ろしいな。アンデッドになってまで殺されるとは。勇者の聖気があれば可能だろうが」

「町原お前も悪ィ奴だよなぁ。今のは完全に告はゴフッ」

 

 アンデッドよろしく這い上がって来た金田が何かを言いかけたが、まぁろくでもないことだろう。

 好意には気付いているが、それが彼女本来のものかは判別し難い、というのが現状だ。先述の通り魔王の魂と勇者の魂の関係性で、「何か気になる」が恋心に昇華しただけやもしれん。

 高校生男女の恋愛大いに結構。だがまぁ、こういう事態に巻き込まれた以上は、勇者パーティでボーイミーツガールしてくる方がいいんじゃないか? 死地と苦楽を共にして高まる縁、という奴だ。

 

「約束して。私達が帰って来た時、ちゃんとここにいることを」

「確約はしない」

「なんでよ」

「行きたい場所がいくつかできたからな。お前たちが帰ってくる時に丁度、というのは難しいだろう」

「そういう具体的な話じゃなくて……はぁ、もういいや。とにかく死なないこと。それじゃ、もう行くから」

「ああ、行け。再三いうが、非戦闘員には手を出すなよ。余計な恨みを買いたくなければな」

「はいはい」

 

 西川はこちらに会釈を、金田は大きく手を振って。

 夢坂は……ズンズンドシドシと歩き去っていく。

 

 どれ。

 まぁ、大丈夫だとは思うが、少しくらいの加護でもかけてやるか。ほんの些細なものだが──アレ、死ぬレベルの一撃を受けたらHP1で残る的な。そんな状況に陥らない方がいいことは勿論だし、勇者がそうそう死にかけるとは思えないが、まぁ万一をな。

 

祝守(ギフト)

 

 それでは──達者で。

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