クラス転移したし最弱スキルだったけど元が魔王。 作:WillOfTheHeart
あんな退場の仕方をしておいてなんだが、まだ俺はこの国にいる。
というのも、先述の通り俺はこの大陸に明るくなく、地図を購入する必要があったためだ。ただ地図というのは案外高価なもので、大陸図までとなると王城からの支給金では手が届かない。ので、働く必要があるのだ。
さて、異世界転生や異世界転移にありがちなギルドというもの。あるいはクランというもの。
所謂冒険者総合支援組合みたいなアレソレは、この世界には無い。
冒険者というのはまぁロマンの塊に聞こえなくもないが、その実手に職を持たない、持てなかった者達を指す。鍛冶ができない、服が編めない、魔法が使えない。
生まれた時点でクラスが決まっている以上、普通は誰しもが職にありつける。だから基本的に浮浪者というのは生まれ難い世界だし、根無し草の旅人、というのもほとんどいない。ましてや冒険をメインに飯食ってる奴なんか魔王時代も見たことが無かった。
ただ、向き不向きというか、「生まれ持ったクラスだけどやりたくない」、もしくは「他者に隠さなければならないクラス」である場合はその限りではない。冒険者──というは放浪者となって個人間での雇い雇われの契約を交わし、日銭を稼ぐ者はいるのだろう。
あと副業の場合もあるが。
そして──俺も初めて知ったことではあるが、この「読書家」なるクラス。これのように戦闘でも補助でも職人でもない死にクラス、というのが存在する。これが俺の作りの荒い魂が故でなく、システムとして存在するのならば、現地民としてこういう死にクラスを引いた奴がいるはずだ。
だから冒険者、浮浪者、放浪者はそういう死にクラスである可能性は高いと俺は思う。思うから何? と問われたら、だからそういうクラスは金を稼ぎ難くて声が届かなくて死んでいくから知られていないんだ、という話で、最終的な話のオチは、「読書家」では金は稼ぎ難い、という所に帰結する。
読書家に何ができるか。
──本が読める。汚い字が読める。読む速度が速い。栞要らず。この程度だ。
ならたとえば保存状態の悪い宝の地図とかが手に入れば多少は役に立てるかもしれない。そんなの絶対高価なので無理なんだが。
というのを小一時間、喫茶店で悩んでいる時のことだ。王城からの支給金でそういう飲み食い程度はできる。いざとなれば別に食わなくても生きていけるし。
「ごめんねぇお客さん。相席いいかい?」
「ああ、構わない。人気店に長らく居座っている俺の方が悪いからな」
「いやいや、そのぐらいの年頃ならそんだけ食べたっておかしかないさ。んじゃお客さん、どうぞ」
あちらの世界で十七年を過ごした俺にとって、ファストフード店で小一時間、は大した話じゃない感覚でいたが、こちらの世界ではどうなのかが微妙にわからない。だって俺前は魔王だったからファストフード店なんか行かなかったし。お腹空いたら料理出て来たし……。先述の通り飲食要らずの身体だったから空腹自体転生してから知った概念なのだが。
くだらないことを考えていると、対面にローブを来た少女が座った。目深にフードを被っているせいで顔は見えないが、魔素は漏れていないので魔族ではないのだろう。魔族となっても人間であった頃のことが忘れられず、こういうローブを纏って帰ってくる者も後を絶たなかったからな……。
そして大抵バレて、大抵討滅されるか、逆ギレして問題起こして「これだから魔族ハー」ってなる。……やめよやめよ。
「ユーゲンフェイウルト」
ユ、と聞こえた瞬間に音を漏らさない結界を張って正解だった。
あっぶない。いや俺は別にいいんだけどこの少女が危ない。イミドを始めとして、魔族の名前を出すと突っかかってくる者も少なくはないんだから。況してや先代魔王の名なぞ。
「やっぱり。魔法の展開速度が尋常じゃない。あなた、フェイでしょ」
「……ん? なんだ……勇者、か?」
「そうだよ。あなたを討滅した勇者だよ。元、だけど」
声でわかったが、どうにも……うん?
「お前、勇者クラスはどうした。さしもの俺も、勇者クラスでないお前に会うのは初めてだ。偽装している気配もない。……何か、人間側の技術か?」
「誤魔化さないんだ」
「誤魔化して何の意味がある」
「うん。さっぱりしてて、やっぱりいいよねフェイは。……人間と違って」
なんか闇落ちしてないか。
あー、これなんかあったんだろうなぁ。裏切られでもしたか。いやさて、前も述べたように俺は別に勇者を恨んでいない。人間とは、勇者とはそういうものだから。
だから、なんだ。
「俺ももう魔王として振る舞う必要は無くなっている。見ての通り、人間であるしな」
「うん。魂が魔王なのに身体が人間で、しかも魂が二つあって、明らかに浮いてた」
「わかるのはお前くらいだ。それで、勇者クラスはどうした、と聞いている」
「奪われちゃった」
鈴の音のような声で。
少しだけ──悲壮に。
「奪われた。クラスを奪うクラスが発現したのか?」
「わからない。フェイと同じくらいの霧の魔法の使い手だったのは確か。それと交戦して、それを追い払ったら、私は勇者じゃなくなっていた。他のみんなもそう」
「……先日、この国が異世界より勇者、聖女、賢者、剣聖を召喚したことは知っているか?」
「うん。だからこの国に来た。私が勇者でなくなったことは公表していないのに、この国がいち早く召喚を行ったから……何か手掛かりがあるんじゃないか、って。そうしたらフェイがいて、びっくりした」
ふむ。
……何かを隠している国だとは思っていたが、まさか勇者から勇者クラスを奪うほどの……いや、しかしそんな使い手はぱっと見いなかったし、夢坂たちのクラスはあくまであいつら元来のもの。この勇者から奪ったものを押し付けられたわけではない。
「安心して。遠目に新しい勇者を眺めたけれど、あの子じゃないのはわかる。私の勇者クラスからかけ離れて弱かったし」
「だろうな。お前から奪ったらとんでもない化け物になる。力の使い方もわからんままに暴虐の限りを尽くす化け物が」
「酷い。そう見えてたんだ」
「魔族の総意と知れ。瘴気地帯を敷いても関係なしに突き進んでくる人間など恐怖の対象でしかないわ」
「私以外のあらゆる人間を追い返した魔王がそれを言うんだ」
「結局お前に討滅された魔王がこれを言っているんだ」
くすくすと笑う勇者。
……戦いでしか顔を突き合わせん仲ではあったが……なんだ、勇者でなくなれば普通の少女か。
「お前、名は?」
「……酷い。名乗ったのに」
「あの頃は人間の名など覚える気もなかったからな。お前のパーティメンバーも、出身国さえも知らん」
「出身国は……覚えなくていいけど。私はリウェルタ。……家名は棄てたから名乗らない」
「そうか。俺も家名など、とうに忘れてしまったよ。ただ、この肉体にはちゃんと名前がある」
「なに」
「が、教えない」
叩きつけられる聖気。が、ノーダメージ。魔族ではないから。
しかし勇者クラスを失ってもスキルは健在なのか。よくわからんな。
「む……聖気は人間には効果ない……ホントに魔族じゃないんだ」
「ああ、そうだとも。さて、リウェルタ。俺はそろそろ行く。再会できたことは喜ばしいが、俺にはやることがあるのでな」
「名前がある、と教えておいて、その名を明かさずに行くのは、なんで」
「言いふらされたら困るからだ。お前は、そのローブで隠していなければ顔も割れていよう。他国とはいえ発言も通りやすい。その身にこの身体の名と魔王が同一人物であると喧伝されでもみろ。俺もだが、俺の周囲にも迷惑がかかる」
「そんなこと、しない」
「ああ、そうだろうとも。お前は高潔な戦士だったからな。だが可能性がゼロでないだけで俺には理由として十分でな」
「なら」
なら、と。
リウェルタは立ち上がった。認識錯誤も薄く入れておくか。
「私もついていく」
「お前には目的があるのだろう? 勇者クラスを奪った何某かをこの国で見つける──と。生憎だが、俺はもう少しばかりこの国に滞在した後は、魔族大陸を目指すつもりだ。付き合ってやれん」
「さっき、私が勇者クラスを奪われたと聞いた時、あなたはそれらしい術者の名を口にしなかった。いないんでしょ、フェイ。この国にそんな使い手は」
「まぁな。いたら気付く」
「じゃあ、この国に用はない」
「あるだろう。王城の誰が、誰から"勇者が勇者クラスを失った"という情報を仕入れたのか。聞きださねばなるまい」
もっとも、霧の魔法の使い手であるなら誰も覚えていなさそうだが。
「今はあなたの名前を聞きだすことの方に興味が向いている」
「自らのクラスが悪用されている可能性があるのに、か?」
「困るのはどうせ、人間だし」
「……何があったかは聞かん。それこそ興味がない。そしてついてくるとしても名は教えん」
「なんで」
「お前がさっき言った"なら"は、俺が常に隣にいればお前が俺の名をバラす危険性を封じられる、とかそういう類の話だろう。だがな、勇者。俺とお前は家族でも友人でも仲間でもない。むしろ会う奴会う奴にお前が俺の正体をバラさんか気が気でなくなってしまうのだから、ぶっちゃけ連れ歩くこと自体が嫌だ」
「
それは、まぁそうだが。
……自分から不利になる理由がわからん。人間に愛想をつかしたのなら魔族になればいいものを、そちらは選択しない。その上で魔族大陸に向かうという俺についていきたい理由。
「
「っ……」
「避けもしないか。なんだ、そこまで従順な理由がわからん」
「……正直な話をすれば、勇者クラスとかどうでもいい。私があなたのいうような"高潔"であったのは、勇者クラスに引きずられていた部分が大きい。悪事をしようとか、誰かを騙そうとか、売り渡そうとか、そういう考えが湧いてこなかった。まっすぐ正道を突き進む以外の選択肢が取れなかったから」
「ほう。まぁ、クラスに引きずられるのは、良くある話だが」
「なら、勇者じゃなくなった今、魔王についていくのも一興」
「……何かを隠しているのはわかる。だがまぁ俺も暇ではない。自白の魔法など七面倒な魔法は使いたくないし、触媒もない。ゆえにどうでもいいものとする。今お前に刻んだ呪縛と封印は、ユーゲンフェイウルトの名を口にできなくするものと、聖気の封印だ。魔族、魔物と戦う時は人間らしく剣技で戦うんだな」
「じゃあ」
「ああ、ついてくるのは構わない。だが働かざる者食うべからずという諺があちらにはあってな。俺の旅に同行するというのなら、俺を手伝ってもらうし、日銭稼ぎも手伝ってもらうぞ」
「わかった」
調子が狂うな。
相対した時の勇者はもう少し勇ましかった記憶があるのだが、これでは本当にただの少女だ。
……勇者クラスがなかろうと、最強レベルの剣技を持ち、聖気関連以外のスキルが使えることには変わりないのだろうが。
「そうだ、リウェルタ。お前、今クラスが無い状態だな?」
「うん。あとウェルでいい。本名で呼ばれると、私が勇者だとわかっちゃうかもだし」
「わかった。さて、ウェル。俺は霊魂も多少弄ることができてな。お前に偽の霊魂を与え、偽りのクラスをあてがうこともできる。どうする?」
「ほしい。ちょうだい」
「良いだろう」
俺よりはちゃんとした、けれど即席の魂を作り、ウェルに埋め込む。
違和感はあったのだろう。一瞬目を見開いた彼女は、けれど即座に嬉しそうな顔をした。
何のクラスになるかは俺にもわからん。ガスフーライル神のみぞ知る。死んでるが。
「"批評家"だって」
「……それはまた」
「ちなみに今の……は? あ、名前が」
「俺は読書家だ。ふむ、やはり自然発生でない偽りの魂だとそういう死にクラスになりやすいのかもしれんな。それで、名か。まぁここまで縛れば問題ないか。町原だ」
「マチハラ……変な名前」
「こっちの世界では使わない発音がいくつかあるからなぁ」
「で、家名は?」
「今のが家名だ」
「じゃあ名前は?」
「……桜花。こっちの方が呼びやすいか?」
「オーカ。うん。オーカって呼ぶ」
オーガやオークと混同しそうだが。
桜花呼びの奴は……友人にはいないな。家族くらいだ。
「ところでウェル。今お前が大陸図を購入できる程度の金を持っていれば話は早いんだが」
「持っていない。勇者クラスは失ったけど、飲食や睡眠を不要とするスキルは所有しているから必要なかった」
「一文無しか。……いや、そもそもお前は人間だろう。魔族大陸への道くらい案内できないのか?」
「方角調べて飛んで行けばいい」
「案内しろ。別にお前の国に連れて行けと言っているわけではない。人間の大陸も見てみたいから徒歩で行くと言っている」
「……人間なんか見たって、面白いこと何もないよ」
闇落ちしてるなぁ。
「お前は慣れているからそうかもしれないが、俺はそうではない。良いから働け地図」
「……迷っても文句言わないでね」
「言わん。捨てていくだけだ」
「じゃあ地図買った方がいい」
「わかった。捨てないからお前が地図になれ。正直大陸図を買うとなると気が遠くなるからどうするかな、と迷っていたところだ」
どれくらいの値段かというと、……円換算八十万くらいか?
日本の物価は変なところが高くて変なところが安いから換算し辛い。農作物が高すぎるくせに書籍があの価格なのはどうかしている。
世界地図や地球儀がお手頃価で子供でも変えるとか、何を考えているんだと。ぶっちゃけネットで無料で見れるとか。詳細な航空写真があるとか。
「俺もお前も飲食に金をかける必要がない。が、読書家と批評家の二人旅だ、偽装用の衣服や装備類も集めたい。その辺の盗賊から奪うのもアリではあるがな」
「聖剣は奪われてないけど」
「振れるのか?」
「うん。勇者クラス関係ないから」
「そうなのか。で、ダメだ。なんで批評家が聖剣持ってる」
「……ちぇ」
俺も魔王専用の剣があるにはあるが、異空間……あー、つまりアイテムボックスに入れっぱなしだ。読書家が持っていていい剣ではないから。
「粗い剣を使えば俺もお前も良い感じになるとは思わんか?」
「剣、必要? 殴ればいい」
「忘れたかお前。今お前の聖気は封じてある。その状態で魔物を殴らば魔素中毒になるぞ」
「……解放して」
「解放するならお前を連れて行かん」
「……剣買う」
魔素中毒は人間にとって最も気を付けなければならないこと。
故に聖気の込められた籠手やらグローブを付けていない限り、格闘家や拳闘士だって無事では済まない。なんで剣での戦いが基本だ。魔素から離れて攻撃を加えられるから。
魔法使いならそういう心配も少ないが、それに特化してしまえばいざという時に困る。身を守れなくてそのままズバっと。
「やはり多少は稼ぎが必要だな。割の良い仕事が見つかればいいのだが」
認識錯誤や音の遮断結界を解く。
会計で支給金の内の半分以上を落とし、そのまま店外へ。
結局何も頼んでいないウェルはそのままトテトテとついてくる。
「ウェル。人間は何をして金を稼ぐ」
「……まぁ、高価なものを売る、とか」
「俺とお前の異空間に、旅人が持っていて良さそうで、売っても怪しまれないものが存在するか?」
「ない。戦闘系しか入ってない」
「俺も曰く付きの品ばかりだ」
あと、俺のは全部十七年前の品になってしまうのでそこから怪しむ者もいそう。
別にその場をやり過ごすことくらいならワケないが、町原桜花の姿でやるのがマズい。かといって幻影を常に纏い続けているのもダルい。霧の魔法はもってのほか。悪印象しか与えん。
クソ、ギルドとかいう都合の良い組合がこっちの世界にもあればなぁ。
「宝石とか鉱石類を鍛冶屋に売る、とかは?」
「良い案だ。持っているのか?」
「ううん」
「……だが、それなら掘りに行く、という手があるな」
「この辺り、一番近い山はヴァスタラ山。あっちの方向にうっすら見えるトコ」
「ほう。良い働きをするじゃないか地図。鉱山かどうかはわかっているのか?」
「知らないけど、山ならあるんじゃない?」
「……行き当たりばったりだが、まぁ何かを失うわけじゃない。行ってみるか」
「うん」
俺達の良い所は、浪費するのが時間だけである、ということだろう。
イミドの肉体を見つける、ウェルの勇者クラスのことなど抱える問題はあるが、基本的に衣食住のどれもが不要であるというのは気が楽でいい。
「剣を買うまでの戦闘は任せろ。それ以降は戦え。いいな?」
「わかった。けど、私、弓とか投石もできる。……仲間に習った程度、だけど。」
「邪魔だ。俺に合わせられるならやれ。俺に当たったら容赦なくはじき返す」
「狭量」
「なんとでも言え。剣技しか高めてこなかった自身を恨むんだな。──行くぞ、ウェル」
「うん」
さて。
夢坂たち、江藤たちは今頃どのあたりか。
読書家の俺はまだファーム中、なんてな。