クラス転移したし最弱スキルだったけど元が魔王。   作:WillOfTheHeart

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5.久しぶりの再会(2)

 ヴァスタラ山。

 この世界はまだ小さな種火が幾つもあると言えばいいか、山というのは基本魔物の棲み処であり、幾らかの盗賊と逃げ隠れている魔族くらいしかいないものだ。だから、山の所有権とかない。国が保有するものではない。

 ので入るのに許可とか要らないし、仮に巡礼騎士とかに見つかっても起こられたりするものではない。

 

 問題があるとすれば。

 

「結構背の高い木だな」

「別に、掘るなら地面を割ればいい」

「そんなことをすれば土砂滑りが起きる。普通に洞窟を探せ」

「えー」

 

 俺達はあるかもわからない鉱石を探しに来ている。

 周囲への被害を考えないのなら確かにウェルの言う通りで良いのだが、俺は元々無益な殺生を好まない身。それは人間の命だけでなく、魔物や動物にまで及ぶ。ウェルだって麓に人の村とかがあれば「えー」なんて言わなかったはずだ。高潔さが勇者クラスのものであっても、性格はそこまで堕ちていない……と信じたい。

 無辜の民でも死んでも知らない、などと勇者の口から出てきてほしくないというのは……俺の押し付けなのかもしれんが。

 

「こういう時、スカウトクラスがいたら、と思うな」

「ベーチェル連れてくる?」

「全員奪われたと聞いたが」

「クラスはね。でもスキルは残ってるから」

「ふむ。して、あの弓兵はどこにいる?」

「わかんない」

 

 ベーチェル。リウェルタ……前代勇者パーティにおける剣聖枠。剣聖を名乗っておきながら全武器種を扱うことができた上に、その練度も達人級。ただ聖気を扱うスキルには恵まれなかったようで、単独で魔族大陸を歩くことは難しかった、らしい。

 

「魔物の巣を見つけることくらいなら俺にもできるが、そこが洞窟かどうかはわからない。だが、とりあえず行くか」

「うん」

 

 喋っていても埒が明かない。

 とりあえず行って、違ったら別のところ、を繰り返せばいいだけだ。

 

 ──なんて、気楽に考えていたのだが。

 

 

 

「無いね」

「無いな」

 

 魔物の巣は一通り全て回ったが、無い。

 洞窟に辿り着かない。そもそもこの山に洞窟があるかも怪しくなってきた。

 

「何かないの。魔王か読書家のスキルで、鉱石を探せるもの」

「あると思っていないなら聞くな」

「……やっぱり穴を開けるのが手っ取り早い」

「だから、それは」

 

 ピク、と。

 二人して顔を上げる。

 

「悲鳴、か?」

「多分。女の子」

「助けるか?」

「……オーカに任せる。私にはもう、人間を救いたいという気持ちが残っていない」

 

 かすかに聞こえたのは悲鳴。少女が何かに襲われているのだろう悲鳴。

 そしてウェルのこの反応。闇落ち勇者はまぁ属性としてありではあるが、個人的には知り合いがこうもどんよりしているのは面白くない。

 戦うなら夢坂よりウェルの方が楽しそうだしな。

 

「どうせアテもない。現地民だったらこの山にも詳しいやもしれん。行くぞ」

「わかった」

 

 行くと決まれば早い。俺達の速度に敵う者はそうそういまい。

 悲鳴の聞こえた方向どころか場所まで特定して駆けつければ──そこにはなんだかテンプレートな光景が広がっていた。そうだと思うのはおれがあっちの世界でラノベ文化に慣れ過ぎたからなんだろうけど。

 

「や、やめてください!」

「げっへっへ、こんな所に一人で来る方、ガ」

 

 続く言葉もわかっているので蹴り飛ばす。魔族じゃないんだ、特別なスキルも必要ない。

 一瞬で熨された盗賊A。それに動揺する仲間らしき男達……の後ろに降り立つウェル。

 

 次の瞬間、六人の男達は全く同時に倒れていた。

 ウェルの手には木の棒。剣要らずとは恐れ入る。

 

「殺す?」

「この山を根城にしている盗賊なら、むしろそっちにこそ用がある。まだだ」

「わかった」

 

 命を奪うことに頓着が無いな。勇者であった頃に失われたモラルか、初めからか、奪われてからか。

 俺にもないものではあるが……ふむ。

 

「あ、あの、ありがとうございま」

「姫騎士……? なんだその面倒そうなクラスは」

「え、えっ」

 

 初めて見る。

 騎士系クラスは網羅したと思っていたが、なんだこれは。ああ、賢者のパッシブスキルではなく俺の魔王スキルで看破したわけだが、……どういうクラスなのか微妙に分からんな。ラノベ知識で言えば、戦える姫君、ということになるのかもしれんが……ぶっちゃけそんなのたくさんいるし。

 

「ウェル、そっちのは?」

「機織り職人に漁師、錬金術師……なんか、バラバラ」

「まぁ生来の盗賊クラスなんてものはいないだろうしな。にしても、然るべきところにいれば手に職持てそうな奴らばかりじゃないか」

 

 勇者にもクラス看破のスキルがある。パッシブスキルなのが賢者なだけで、アクティブスキルとしてなら魔王、勇者、聖女、魔導士などが使えるスキルになるか。

 

「姫騎士。お前はこの山に詳しいか?」

「あ、え……っと、その、この山には今来たばかりで」

「そうか。ならお前に用はない。逃げるなりなんなりしろ」

「自白の魔法、触媒ないよ」

「俺も無い。だがまぁ多少痛めつけるだけでも洞窟の場所くらい吐くだろう」

 

 アイテムボックスから取り出すのは、茨。

 剃刀茨という魔族大陸に群生する種で、中心に咲く大輪の花を守るために外へ外へと茨の範囲を増やししていく植物。触れただけで激しい裂傷を刻むこの茨は拷問に適している。なお斬撃に弱い。

 

「ま、待ってください!」

「ウェル、拘束系はあるか?」

「あるわけがない。私は基本斬るだけ」

「とりあえず呪縛(カース)でいいか」

 

 そうなんだよな。俺とウェルの弱い所は、持ち得るスキルがピーキーすぎるという所にある。それを補うのが魔法ではある……んだけど、魔法って幾つか種類があって。俺が良く使う霧の魔法や結界はノーコストでいけるのだが、自白の魔法は触媒……香料が必要になるし、何かを縛るとなれば十分な土が必要になる。

 土なら足元にあるじゃないか、という意見はごもっともであるが、そんなことをしたら土砂滑りまっしぐらだ。平地で使うならともかく、無から有を作り出せるわけでもない魔法はこういう山中ではあまり効果的にはならない。

 

呪縛(カース)

「内容は?」

「移動の束縛だ。歩くことは疎か、這うことすらできなくなった。唯一転がる、という手段であれば動けてしまうのが問題ではあるな」

「私が見張っていればいい」

「ああ、そうしてくれ」

 

 では、と。

 心持ちは執刀医で、盗賊に近づいてく。

 

「だから、待ってください!」

「……一度無視した時点で眼中にないとわかってほしかったのだがな」

「洞窟! 洞窟ですよね! 私、わかります! ですからその人たちは見逃してあげてください!」

 

 ──……。

 ふむ。

 

「第一の問いだ。何故庇う。こいつらはお前を襲おうとしていたはずだが」

「でも、生きるために抗っている人です!」

「……どうだウェル。昔の自分を見ているような気持ちじゃないか?」

「私はこんなにひたむきじゃなかった」

 

 姫騎士とは言うが、千年前の聖女寄りだな。高潔というか博愛というか、少し狂ったところまで命を尊ぶ生き方。自身に刃を向けられて尚もそれを許さんとする精神。

 

「洞窟の場所を知っている、と言ったな。それが嘘でないとわかるまでこいつらの命は俺達が所有する。発見し次第解放しよう。消失(バニス)

 

 ジュッと消える盗賊六人プラス一人。

 消し飛ばしたとかではなく、アイテムボックスと似た位相空間に飛ばしただけだ。その空間は足場も無ければ抵抗も重力も無いので、自由に動き回ることはおろか、直立不動でいることも難しい。長時間いれば気が狂うだろうな。

 

「連れて行け、姫騎士」

「そそ、その前に、お二方のお名前を……」

「ウェル」

「オーカだ」

「あ、ありがとうございます! 私はミリエニ・ドルファニードと言います!」

 

 ピクり。

 まぁ、そりゃ反応する。ドルファニードは先に話したベーチェルの家名だ。だったはずだ。人間の個体名を覚えるのは魔王の頃やってなかったからなぁ、大体がはずだ、になってしまう。

 にしても世界は狭いな。偶然が重なるというか、重なり過ぎというか。

 

 今もどこかで生きて、運命か何かを操っているんじゃないだろうな、ガスフーライル神。

 

「お前の名前も生い立ちもどうでもいい。洞窟へ案内しろ」

「うぅ、は、はい」

 

 が、勇者の仲間が今どこにいるか、とか本気でどうでもいい。

 俺の部下の話なら熱心に聞くし褒美も出すが、勇者の仲間なんて俺にとって他の人間とそう大差ない。俺と戦えたのは勇者だけだったし。

 

「で、ではこっちです、ウェルさん、オーカさん」

 

 迷いのない足取り。

 ……姫騎士のスキルにそういうものがあるのか? 騎士系スキルにスカウトと重なるものがあるとは思えないんだが。

 

 ただ、何故わかる、とか聞くと話が膨らみそうなので俺もウェルも聞かない。

 

 そして──本当に洞窟に辿り着いた。

 

「ここです」

「一応聞いておく。何故知っている」

「私はここを通って来たので」

 

 通って来た。

 ふむ。

 

「転移紋があるのか」

「はい。最奥に」

「どうでもいい。私達の目的は鉱石」

「そうだな。助かった、姫騎士。褒美をやろう。お前、目的は何だ?」

「目的、ですか?」

「そうだ。何か目的があってここに来たのだろう? それの手助けくらいはしてやる」

 

 俯く姫騎士。

 後ろめたいことか。

 

「お前、斥候か」

「……!」

「ドルファニード……ゼインス帝国はあそこの王国に戦争を仕掛けるつもり?」

「あ、そうじゃなくて……ファムニフル王国が、戦争の準備をしていると……そういう情報が入って」

「あそこ、ファムニフル王国というのか。知らなかったな」

「私も知らなかった」

「お前は知っておけ」

 

 しかし、戦争の準備か。

 していないと思うが。勇者召喚がそれと勘違いされたのか?

 

「一日だ。一日だけ保つ霧の魔法をお前にかけてやる。それがあれば王城内を自由に探れるだろう。ああ、だが達人級が幾らかいる。霧の魔法の上から攻撃を仕掛けてくる奴らがな。そういうのはお前で対処しろ、姫騎士」

「あ、ありがとうございます……?」

「よし。それではもう会うこともないだろう。さらばだ姫騎士」

 

 ウェルは会釈すらしない。

 本当に人間嫌いになったな。何があったんだか。

 

 

 

 暗い洞窟の中を歩く。暗闇でも問題なく見えるので、明かりはつけていない。

 

「鉄鉱石は幾らか見つかったが……宝石は流石にこの高さには無いか」

「掘る?」

「洞窟を崩す気か」

「……でも、元から崩れそうな地面だよ、ここ」

 

 それは確かにそうだった。

 転移紋なんて重要なものを設置する洞窟にしては、かなり耐久性能の低そうな場所。

 

「オーカ、分かれ道」

「足跡は右に繋がっている。つまり最奥の転移紋とやらはそっちにあるのだろう。だから逆を行くべきだ」

「転移紋に興味はない?」

「地図が無い状態でどこぞかへと飛ばされろと? 余計に魔族大陸が遠くなるだろう」

「ゼインス帝国はこの国より魔族大陸に近い。それに、あそこ周辺なら案内ももう少しはできる」

「……だとしてもやめておくべきだな。あの姫騎士の縁者なり帝国兵なりが張っている可能性を否定できない。今のお前のその顔は"そんなの蹴散らせばいいのに"だろうが、あくまで俺の目的は魔族大陸へ行くこと。こっちで騒ぎを起こして、そのまま魔族大陸に向かってみろ。また魔族が謂れの無い罪を着せられる」

 

 やっぱりあいつらは魔族だったんだ、とか。

 魔族は人間に化けている、とか。

 大体の奴らが故国を追われて逃げ込んできているだけなのに、何かと悪者扱いされるのはいただけない。

 

「わかった。じゃあ左に行く」

 

 行く。

 転移紋のあるだろう道は上へ上へと続いていたようだったが、こっちは下へ下へだ。

 となれば鉱石の種類も変わってくるし、時折水晶などが析出している箇所があった。ラッキーだ。残さず回収していく。

 これで魔石もあれば言うこと無しなんだが、魔素の少ない人間の大陸で、そこまで異常な環境になっていない山では魔石は見つけられないだろう。アレがあるだけで通常では考えられない風景になるはずだからな。

 

「オーカ、アレ見て」

「ん?」

「……なんだ? 黄金……じゃ、ないな。黄金色の壁?」

「多分だけど、ダンジョンの外壁」

 

 一瞬黄金が出土しているのかと喜びかけたが、どうやら違うらしい。

 ダンジョン。ダンジョンか。

 

 ガスフーライル神とは別の神が作り上げたこの世界のシステムの一つだが……好都合ではある、か?

 

「ダンジョンなら、適当な宝物が手に入るか」

「うん。大体のダンジョンは国が所有しているはずだけど、ここはそうじゃないみたいだし」

 

 ダンジョンから持ち出される報酬はそれ一つで国をひっくり返せる物があったりする。だからダンジョンはそのほとんどが各国で管理されている。それは人間の大陸でも魔族大陸でも同じだ。

 しかして、このダンジョンは地中深くに生成されたものらしい。入り口も地中にあるのかね、これは。

 

 俺とウェルに霧の魔法をかけ、壁の隙間から中に入れば──おお。

 魔王だったころはダンジョンなんか入らなかったから、なんか新鮮だ。ゲームとかであるダンジョンまんま。なんか不思議な感覚だな。

 

「ウェル、ダンジョンの踏破経験は?」

「結構ある。でも今剣がない」

「その棒で十分だろう。ダンジョン内の魔物に命はないからな、俺も遠慮なく行かせてもらう」

 

 ダンジョンの中で生成されるものに命はない。

 全部が再現映像のようなものだ。報酬の宝箱以外。ゆえに出てくる魔物も魔族も意思のない紛い物。というかダンジョンにそういうのを出すせいで魔族が嫌われている感もある。神はとことん魔族が嫌いらしい。

 

「おっと、奴さん……スケルトンのお越しだ」

「結構魔素が強い。この棒だと短すぎかも」

「まず俺があの集団を壊す。そして魔素を抜く。その中から一番長い骨を持ち出せ。それで戦えるだろう」

「骨で戦うの、蛮族って感じがして、いいね」

「いいのか」

 

 コイツのセンスはよくわからんな。

 

 だが──まぁ。

 紛い物なれど、久方ぶりの再会だ、魔族よ。

 

 存分に戯れようではないか。

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