えっちがしたいTS欠損強化人間少女はえっちができない   作:大利トーリ

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この国の人々は

 

 

 

 やはりというか、この世界この国における士官学校というものは、私の前世の()()に比べて幾分か良心的であるらしい。

 週に……と言っても良いのかはわからないが、とにかく七日のうち一日は完全な休み、加えてその前日は午前中のみで終業となるため、一日と半日は『休日』と呼べる時間を確保できるらしい。

 

 当然、その『休日』は何をするにも自由であるらしく、殆どの学生らは外出ならびに外泊許可を取得し、首都の街中へと繰り出していくのだとか。

 

 

 そして……ほかでもない今日。いわゆる『休日』。

 学生生活始まってから初となる休日ともなれば、そりゃ期待に胸が膨らむというものだろう。やってみたいことも行ってみたいところもシたいこともサレたいことも、私にはたくさんあるのだ。

 ましてやここは、郊外とはいえ首都であるという。中心街方面への公共交通機関も整備されているとのことで、実際多くの学生が利用しているのだとか。

 ああ、すばらしきかな中心街。きっとこの国の首都ならでは、めくるめく都会の誘惑が、私達を待ち受けていることだろう。

 

 

 

 ……なーんて、楽しいコトして過ごしたいのはヤマヤマだったのだが。

 最初の休日たる今日ばかりは、私が編入する際にお世話になったお方、辺境基地のシレーヤ・エライネン大佐より……なんとなんと、直々の行動指示が下されておりまして。

 

 今の私はカーヘウ・クーコ士官学校の学生だが、それ以前に『ファオ・フィアテーア特課曹長』なのである。

 さすがに上からの命令を反故には出来ぬと、私は『休日』を利用して首都某所の『とある施設』を訪れて……いや、連れて来られているのだ。

 

 

 

 

「……では、次はこちらへ。採血を行いますので、左腕……を……」

 

「…………え、っと……あの?」

 

「……すみません。…………右の、肘を……ここへ」

 

「は、はい」

 

「…………ごめんなさいね、少しチクッとしますよ」

 

「はい。……大丈夫、です。慣れ、てます……から」

 

「「「……………………」」」

 

「あっ、えっ、と……その……」

 

 

 採血用シリンジを握るドクターも、記録役として控える看護師も、保護者役として付いてくれているジーナちゃんも……ほんの僅かな間ではあったが、皆一様に『ビキッ』と動きを止めていた。

 さすがの私もこれはわかる、いわゆる『やっちまった』ってやつだ。この局面で私の発した『慣れている』との発言、それが痛みと注射のどちらに対してなのか判断はつかないだろうが……どちらであっても、彼らに与える心象としては大差ないだろう。

 

 

――――もー、この子はもー。そうやって心配かけるようこと言わないの。

 

(だ、だってぇ! むしろ『心配しないで大丈夫』って伝えたかったんだってぇ!)

 

――――おしゃべりがもっと上手になることが先。いいね。

 

(は、はい)

 

 

 

 今日私が連れてこられているのは、私が編入した士官学校および軍施設に併設されている、大きな病院である。

 なんでも先日、私が初めてジーナちゃんと顔合わせを果たしたまさにその後、隊長さんはその足で段取りをつけてくれていたらしい。

 そのおかげで私はこうして、連邦国が誇る最新鋭設備でのメディカルチェックを受けることができているのだ。

 

 (いわ)く『これから共同生活を送るにあたって、病気を持ち込むことが無いように』とのことらしく……なるほど、それならば大人しくチェックされとかなきゃ迷惑だろう。

 

 

 私はあちこち調べ上げられ、看護師のお姉さんに時折ご褒美の果実水を頂きつつ、たまに行方を(くら)ませ内緒話をしているらしきドクターとジーナちゃんに若干の不安を感じながら、およそ丸一日掛けて全ての診察を終えたのだ。

 

 身長と、体重と、採血がまずは無事に終わり……その後は他にも血圧測定とか、心電図とか、脳波測定(のようなもの)とか、レントゲン(のようなもの)とか、他にも腕の長さとか股下の長さとか視力検査(右目のみ)とか、とにかく色々なところを調べられた。

 大抵の部分は、前世でも度々受けた健康診断のような感じだったが……左腕の断面とかはまだしも、空っぽの左目跡とかを見られるのは、さすがにちょっと恥ずかしかった。ちょっと興奮した。

 

 だって……私もちょっと鏡で見たことあるけど、めっちゃ粘膜の色だもん。

 普段はぴっちりと閉じられてるところの奥の、ふつうは誰にも見せないようなとこ……口の中みたいな肉の色した、(やわ)い粘膜のところなんだもん。

 

 

――――ふーん、えっちじゃん。

 

(でしょでしょ)

 

――――なんでそんなえっちなとこ見られたの?

 

(わかんない。視力検査……じゃないし……目のあったとこ、くぱぁって開いて…………あっ、もしかして義眼とか作ろうとしてくれてる、とか?)

 

――――じゃあ、左手のとこをいろいろと測られたのも?

 

(義手とかつくるための採寸、ってコト? わかんないけど……)

 

 

 実際にドクターらの口から、その仮説に対する解が語られたわけじゃない。ジーナちゃんへ視線を向けても、優しげな表情でにっこり微笑み返してくれるだけだ。

 

 単純にドクターの知的好奇心を満たしていただけかもしれないし、もしくは私を見ているうちにえっちな気持ちになってしまって、堂々と視姦していたのかもしれない。

 だが……こと『私の身体を観察しようとする奴らの悪意』を察知することに関しては抜群の感度を誇る私の魔法が、何の反応も示さなかった。

 

 つまり彼らは、私の身体に対して危害を加えようとの意図を、恐らくは微塵も持ち合わせておらず。

 ということはこれらの、普通の人とは異なるだろう診察の部分に関しては……多分だが、私のためにやってくれていることなのだろう。

 

 

 

 

――――でもさ、わたし知らないけど、義眼とか義手とか、そんなかんたんにつくれるものなの?

 

(わ、わかんない。私だって作ったことないもん)

 

――――ふうん。でも、そうだといいね。

 

(それは……まあ、うん)

 

 

 

 無事に全ての診察を終え、ドクターらが結果を纏めている間、私達と保護者ジーナちゃんは院内の喫茶コーナーで一休みしているところだ。

 病院内とはいえ、さすが首都というだけのことはある。このカフェオレのようなドリンクひとつとってみても、高価な砂糖をふんだんに用いているのだろう。心と脳を癒す甘い刺激は、さすがに辺境基地では味わえない。

 

 

 贅沢な味と香りに舌鼓を打ちながら、私はテアとの『内緒話』に興じる。

 こうして私にカフェオレ(のようなドリンク)を奢ってくれたジーナちゃんは、ほころぶような優しい笑みを浮かべて私達を見つめている。

 ドクターとの内緒話は気にならなくもないのだが……彼女が私に危害を加えようとすることは、恐らく『無い』と言い切ってしまえるだろう。

 彼女と彼女のお父上を信じて、私は大人しく待つことにする。

 

 

 そもそも、私達は現在ヨツヤーエ連邦国に対し、悪感情を抱いていない。

 強いて言えば士官学校の編入時、ちょっとだけちょっかいを掛けられたりした程度。剥き出しの悪意をぶつけられたわけでもなし、嫌悪には値しない。

 

 私が今日までに会った人々は、末端の兵士に至るまで良心や道徳を備えている。私達のような()()を生み出すような、人を人とも思わぬ非道に手を染めたりもしていない。

 私というモノを目の当たりにし、しかしそれでも私達をヒトとして扱い、ちゃんと想いを向けてくれている。

 

 

 それに……こんなに大きな、きちんとした病院があるということは、医療福祉にも力を入れているのだろう。

 治療されに訪れる患者にも、治療にあたる医療従事者にも、悲壮感や厭世(えんせい)観は蔓延(はびこ)っていない。

 

 一人ひとりのヒトを大切に、尊重してくれる国なのだろう。まだそんなに詳しくは知れていないが……帝国とは雲泥の差だ。

 

 

 私は周囲の光景を飽くこと無く眺めながら、心地よく甘いカフェオレ(のようなドリンク)の魅力に身を委ねていく。

 

 

 

 ……そんなこんなで()()()()と時間を過ごしていたところ、やがて看護師さんから「お待たせしました」の声が掛けられる。

 検査項目の数々から察するに、纏めるのにもなかなか骨が折れそうではあったのだが……ついに結果が出たということなのだろう。

 

 

 保護者(ジーナちゃん)ともども連れて来られたのは、きょう一日私の健康診断を担当してくれたドクターが待つ診察室。

 朝の問診と違う点はといえば……この場にはもう一人、別のドクターが同席している点だろうか。

 

 

「はい、それでは……長々とお疲れ様でした、ファオさん」

 

「あっ、ありが、とぉ……ござ、ましたっ」

 

「……はい。……では、まず最初にですが……一つ、いや二つですかね? ファオさんに提案があります。こちらは我々からというより、ゼファー大尉と……エライネン大佐からの提案ですが、ね」

 

「…………? えー……っと?」

 

 

 

 診察担当のドクターからアイコンタクトを受け、二人目のドクターが一歩前に出る。

 誠実そうで、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた壮年のドクターは……なんとビックリなことに、医師(ドクター)ではなかったらしい。白衣着てるのに。

 

 じゃあいったい、病院に居て白衣を着てて、しかし医師(ドクター)ではないこの壮年男性は何者だというのか。……言葉に出さないまでも、そんな私の疑問は表情に出ていたらしく。

 

 

 

 彼は、見る者を安心させるような、穏やかな笑みを浮かべると。

 

 

 私達の前で、(みずか)らの職『装具士』を、それはそれは誇らしげに名乗ってみせたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

――――よかったね、ファオ。

 

(…………うん)

 

――――みんな、やさしいね。

 

(…………うん、っ)

 

 

 

 

 

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