ハリー・ポッター ヴォルデモート部分殺害RTA 二重スパイチャート   作:永熊 詩人奈

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小説パートです。
次回最終話の予定です。


遥か遠き夢幻の果てに

人間は努力する限り過ちを犯す

――ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――昔、一度だけ不思議な夢を見たことがある。

 ホグワーツに入学するよりもずっと前の話だ。

 

 

 

 一日目。

 耳を塞ぐほどの悲鳴。

 目を疑うような光景。

 鼻にこびりつく死臭。

 

 どこか遠い地で起きている非現実的な出来事。

 きっと地獄の方が幾分マシだとさえ思えるその現実離れしたそれは、働いていないはずの五感に直接語りかけてきているようで――――――――俯瞰では本来感じることのないそれらすべてを、まるで本物であるかのように錯覚した。

 

 人が泣いていた。

 人が苦しんでいた。

 人が……死んでいた。

 

 世界がどれほど残酷であるか、それを見せつけるための世界とでもいうのか。ただ自由に生きていくことすらも困難となる、そんな時代。

 

 見るものを竦み上がらせるような蛇の顔をした恐ろしい人間。果たしてそれを人間と呼ぶことができるのかすらも怪しい。そんな人間を頭領とした派閥によってそれらは引き起こされた。

 

 世界はただ混沌の渦に巻き込まれ、たった一人の怪物が定める秩序に全てが従う。

 

 その戦いに大義などない。

 およそ人間に考えつく悪逆の限りが尽くされている。自分が助かるために人を裏切り、そして裏切られる。悲嘆と悲鳴のうちに全てが消える。

 

 その思想に論理はない。

 すべては彼の思う様に。彼の匙加減一つで人の生死は決まる。逆らうものは皆、次から次へと殺された。

 

 その世界に優しさはない。

 人間の醜悪さと悲しみがすべてを覆う。光すらも差さない完全な黒。絶望という名の暗闇が世界を染め上げていた。

 

 人々はその時代を耐えて、耐えて、耐えて………耐えていた。終わるかもわからないその惨劇(悪夢)を。

 

 

 

 二日目。

 あるとき、その時代を作った元凶とも言うべき存在が忽然と姿を消す。

 激動の時代は終わりを告げ、世界は様子を変えた。

 

 人々は泣いて喜び、踊り狂う。

 空には大量の梟と火花とが飛び交う。

 闇は取り払われ、ようやく世界に光が差した。

 

 空は澄み渡り、太陽が人々を優しく包み込む。

 

 誰もが日常を噛み締めていた。

 

 誰かにすれ違えば、互いの生を祝福し合い――――その日に周囲で起きた幸福を自分のことのように喜び――――そして最後には笑って明日(未来)の話をする。

 そんな些細なことを全員が特別なことだと考えた。

 家族や友人、そして恋人。それぞれが大切な人との時間を大切にし、思い出を共有しながら喜びや悲しみを分かち合う。そうすることで失った時間を少しでも取り戻そうとした。

 

 その世界には色が、情が、そして愛があった。

 そんな世界はどんなものよりも美しいのだと。

 そこには何にも代え難い温かさに溢れていた。

 

 しかしその平和は――――――長くは続かなかった。

 

 

 

 三日目。

 最後は一人の少年の物語。運命に選ばれた子供が蘇った悪を打ち倒す御伽噺の一つ。

 

 無論、その過程が全て美しかったわけではない。

 彼は多くの困難に直面する。

 時には泣き、時には挫けそうになる事もあった。

 

 しかしその少年には仲間がいた。

 一緒に困難に立ち向かってくれる仲間が。

 

 多くの人にその人生を祝福された彼に、その時の私はいったい何を思ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の過去を振り返ると、驚くほどに何もない。

 物心がつくころには既に唯一の血縁である祖父は死んでいた。家の中にはたった数歳の子供と屋敷しもべ妖精だけ。屋敷しもべ妖精は一族の血を残すために自分を生かす存在。

 自分と彼にはそれ以外の存在理由はなかった。

 

 誰かにその生を望まれているわけではない。

 自分の人生がこれからどうなるかなんて興味がなかった。自分の価値を正しく理解していたから。

 

 生きる。

 ただそのために毎日ひたすら無為な時間を過ごした。朝になったら起きて、エネルギーを補給するために食事をとり、表紙が擦り切れるほどに読んでしまった本で暇をつぶして、夜になれば死んだように眠る。

 肉体以外は死んでいるのと大して変わらない。それらの行為に意思はなく、無意味に、そして無感動に毎日を生きていた。

 家の中で全てが完結していたが故に外の世界に何かを求めようと思ったことすらない。

 

 

 そんな生き方が明確に変わったのは11歳の夏のことだった。

 

 魔法学校への入学。

 話には聞いていたが、まさか自分にも来るとは思ってもいなかった。

 

 案内に来た教師に誘われるように村を出た。

 村の外は全くの別世界だった。

 

 今までの無味乾燥が嘘であるかのように世界が色づき始める。

 そこには多くの魔法使いがいた。

 通りの喧騒が耳の奥にまで響く。

 古い本の匂いが積み上げてきた歴史を感じさせる。

 その賑わいは寂れた村とは正反対で何もかもが違っていた。

 

 最後に問われた――――自分のやりたいこと。

 そんなもの、自分にあるはずがない。

 このときまで何も感じずに生きてきた自分が目指すべきものなど何も――――。

 なんとかして自分に答えを求める。

 

 感じたこと――――この世界の素晴らしさを知った。

 そして、いつか夢で見た少年を瞼の裏に幻視する。

 

 そうか、僕は彼に憧れているんだ。

 闇の魔王だか、悪の帝王だったか。そんな悪い人をやっつける英雄譚。

 今となってはそんな一言で表せるくらい薄っぺらいものでしか語ることができない。もはやその夢のほとんどを覚えていないから。そもそも本当にそんな夢を見たのかも疑わしい。昔に読んだ古い童話を変な覚え方をしていたのかもしれない。

 でもそんなことはどうでも良かった。

 

 誰かに必要とされる人生。

 誰かに認められる人生。

 自分がそんな大それた人間になれるとは思っていない。それでもそんな生き方を羨ましいと思った。全てが空白の自分とはまるで違うその在り方が、どうしようもなく輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツに入学した。

 それまでとは全く異なる生活が始まった。

 

 そこにいる人は全て生きていた。

 自分だけが取り残されている。

 ただ目的意識もなく毎日をぼんやりと生きている。これでは家の中で閉じこもっていた頃と何も変わらない。

 

 そんな自分にも友人と呼べる存在ができていた。

 

 そこからの自分は少しは変わったのだろうか。

 何もない自分を隠すようにただ才能だけはあった魔法に全力で取り組んだ。

 親友は自分に期待していた。その期待は自分には重すぎた。自分と言う存在が彼にまるでふさわしくないことを自分が一番わかっていた。だからそんな自分のつまらない本性を隠すための努力を惜しんだことはない。

 

 そうしているうちにそんな時間も悪くないと思えるようになった。

 二人で一緒に勉強したこと。夜中に学校の探索をしたこと。魔法の神秘を語り合ったこと。

 それら全ての記憶は今でもはっきりと思いだせる。

 彼との時間はとてもいいものだった。

 彼は何かを変えてくれる人間だ、こんな僕でも変われそうだと、そう思わせてくれるようなものを彼からは感じたのだ。

 

 だから自分の道が定まるまでは彼についていこうと思えた。その時間は代え難いほどに大切なもので、ずっと続けばいいと。

 

 ただ、違和感(既視感)――――――――何かを忘れているような気がした。

 

 

 

 

 

 気づいたときには既にすべてが手遅れだった。

 私は己を呪うよりほかはなかった。

 自分が、自分だけが知り得たにもかかわらず、愚かにも自分は何を成すこともしなかったのだ。

 

 夢の正体をようやく悟るには少し遅すぎた。

 事が起こってしまってはどうすることもできない。

 出来ることは彼の起こした事実が夢と重なっていく様を見届けるだけ。

 

 ――――――――本当に?本当にそれだけ?

 

 いつかは失踪することを知っている。

 それによって一時の平和が訪れることも。

 最後は英雄によって倒されることも。

 自分がわざわざやる必要はないのかもしれない。

 

 ――――――――多くの人が苦しんでいた。

 

 だが黙って受け入れるという選択をするわけにはいかなかった。

 救われた世界があるのと同時に救われなかった人が大勢いることもまた知っていたから。

 

 度し難い。一体なんのためか、理解に苦しむ。

 もし夢を見せたのが神だとすれば生涯をかけて恨んでやろう。

 まあでも、運命を嘆いたところでなにも変わらない。

 

 それに――――道を示されたのだ。

 自分だけが歩める自分のための道を。

 

 

 

 

 自分が何のために生きるのか。

 魂の色は既に定まった。

 だからこそ、この結末は必然だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜もかなり更けたどこかの郊外の小道。

 静寂の世界に突然破裂するような音が小さく響き、誰もいなかった空間に男が一人現れる。

 男はあたりを見回した後、きっちりと刈り揃えられている高い生垣に沿って足早に歩き始めた。

 

 歩いていた小道はいつの間にか広い馬車道に変わっていた。

 行く手には重厚な黒い錬鉄の門が見え、生垣とともにその先を阻んでいる。

 男は特に気にした様子もなく、門にぶつかるように歩くと、門はまるで煙のように男の邪魔をすることなくその先へと男を通した。

 

 門の先には洋館が一つ不気味に佇んでいる。かなり古く朽ち果てた感じがありながら、荘厳さも同時に備えたそれからは年月と歴史を深く感じ取れる。

 庭のどこかで噴水の音が聞こえるが、暗さで何も見えない。昼であれば美しい庭が見えるのだろうか。洋館の一階からわずかに漏れ出る明かりの方へと足を早めた。

 

 扉を開けると、肖像画が並ぶ玄関ホールがある。床は豪華なカーペットで覆われていた。

 肖像画からの不躾な目線をものともせず、大股にそこを通り過ぎていく。

 男は躊躇うことなくホールに続く部屋の扉を開け、奥の広間へと入っていった。

 

 広間は明かりが絞られ、装飾の凝らした長いテーブルが無造作に一つ置かれている。

 そこに座るものは異様なほどに静けさを保っていた。どうやら彼らは男を待っていたらしい。

 

「遅れてしまったね、急いではいたんだけど」

「なに、構わぬよハワード。その程度のことを俺様が気にするはずもない」

「ハハハ、期待に添えるように頑張りますって言えばいいかな?」

 

 軽口を叩きつつ席へと座れば、会議はつつがなく始まった。

 

「次のマグルの襲撃は――――」

「しかし最近は消耗も少なくはない――――」

「やはり抵抗勢力である不死鳥の騎士団を――――」

「そちらよりも魔法省を掌握した方が――――」

「どの程度の時間がかかると――――」

 

 多くのことが議題に上がる。

 戦争が始まってからおよそ7年。多くの血が流れた。既に魔法界は混乱の真っ只中にある。

 にもかかわらず闇の勢力による支配は当初予想していたものよりはるかに難航している。

 ほとんどの人間は逆らうことを辞めているが、少数の精鋭が反抗を諦めず、更に抗争が激しくなっているのだ。

 この組織は幹部を除けば寄せ集めが大部分を占める。数による利も少しずつ人数を減らされることで薄れていく。替えが効くとは言え時間は更に必要だ。

 確かに帝王本人が出張ればうまくいくのだが、全てをやるには彼一人では身体が足りない。力あるものであれば十分に相手に痛手を負わすこともできるが、そうでない者は捕らえられてアズカバンへと入る始末。

 いずれにしても喜ばしい状況とは言い難く、他に代案があるわけでもない。結果として人数的有利を活かした物量によるゴリ押し、それが現時点での最善の策と言うほかなかった。

 

 

「最後になったけど私の方からひとつ、いいかな?そろそろかと思ってね」

 

 特に目新しいことが話されるわけでもなく会議が終わろうとしているとき、ほとんど口を開くことのなかった男が動いた。

 

「お前からとは珍しいこともあるのだな」

「まあそうだね。こちら側にも転機が訪れそうだって話だ」

 

 男はそこで区切りを入れ、部屋の人間を一通り見遣る。

 最後に部屋の主人をその目で捉え、言葉を告げた。

 

「ダンブルドアが一人になる機会が巡ってきた。これを逃せば次はいつになるかはわからない」

 

 突然のことに周囲はざわついた。

 あるものは己の主人に期待の眼差しを向ける。

 あるものは発言者から事の真意を読み取ろうとする。

 隣の者と二言三言話す様子も見受けられる。

 

 言葉を掛けられた本人は一瞬言葉を失う。

 しかしほとんどの者がそのことに気付かぬうちにその動揺を隠しきり、口を開いた。

 

「ふっ、ようやくか」

「怖いのかい?」

「まさかな。そんなことがあるはずもない。俺様とお前の二人ならばできないことなど何もないのだ」

 

 焚きつけるような発言、場合によっては無礼であるとして命すら取られかねないその言動にはたしかに友情を感じさせるものがあった。

 

「それで、詳しく話してくれるな?」

 

 部屋の主が続きを促せば、男は淀みなく簡潔に答える。

 

「やつがゴドリックの谷に行く。それに僕も同行することになった。」

「そこを俺様が襲撃し二人で殺る、そう言いたいわけだな?」

「話が早くて助かる、あとは君次第だ」

 

 今度は男が相手を試すように言葉を投げる。

 

「答えなどわかりきっているだろうに――――結果などとうに見えている」

 

 蛇の様に顔を引き攣らせるようにして嗤う彼の言葉は、自信と傲慢に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――数か月後。

 

 

「こんなところで何をしている、ダンブルドア?」

「それはこちらの言葉じゃよ、一体わしに何の用じゃ?」

 

 突然の襲撃に際してもダンブルドアは落ち着いていた。

 ヴォルデモートは嘲るような口調であったのに対してダンブルドアは諭すように語りかける。

 

「むろん貴様を殺すためだ。貴様の死をもって己の力の完成とする」

「ほう、おぬしが?今までわしから隠れていたおぬしに果たしてそれができるかのう?」

「その間俺様が何もしていなかったとでも思うか?」

 

「たとえ時間をかけて学んだとしても愚かなのは変わらんようじゃの、トム」

「危機感が足りていないぞ、ダンブルドア。既にボケはじめているようだな」

 

「それはどうかの。既に手はうった、じき闇祓いが来るじゃろう」

「その時にはお前は既に死んでおるわ、俺様の手によってな!」

 

 闘う前から既にヴォルデモートは自分が勝者である事を疑っていなかった。

 嗤う彼にダンブルドアが水をさすように鋭くそして彼にとっては致命的な言葉を投げかける。

 

「……おぬしの最も信用する部下の心が既にそちにないとしても、かの?」

「――――――――――――」

 

 沈黙。

 彼はそれが意味するところを理解できなかった。

 最も信を置いているはずの男に目を向けると彼は頭を抱えていた。

 

「やれやれ、うまくいかないものだね。段取りの重要さを痛いほどに知ったよ」

「おいハワード。何の話をしている」

「まだ分からないかい?それとも分かりたくないのか」

「………なるほどな。貴様裏切ったのか」

「裏切る?」

 

 ただの復唱。言っている意味が分からないとでもいうようにただその言葉を繰り返す。

 暫く考えたのち彼は乾いた笑いをあげた。

 

「何がおかしい」

「その言い方は語弊がある、と言いたいところだが……もうなんでも構わないさ」

 

 ハワードが杖を取り出し構える。

 

「君は僕がここで倒す」

「……本気で言っているのだとしたらなかなかに滑稽だぞ?」

 

「もちろん本気だとも。君の歩む世界に希望はない、未来も」

「くだらんな、そこの老いぼれ爺に愛とやらの説法でもされたか」

「……やっぱり君は変わっていないね」

「愚かなことだ。ダンブルドアならいざ知らず、お前が俺様に勝てると思うか」

「やってみるかい?」

 

 その言葉を皮切りに二人は杖を素早く動かす。

 双方の杖から閃光が噴き出ては互いの呪文を打ち消しあう。

 空を切り裂き弧を描く杖が止まることはない。

 

「君とこうするのも久しぶりだ、30年ぶりかな」

「口を動かす暇はあるようだが、どこまでその余裕がもつか見物だな」

「今回は勝敗がつくまでやろう」

「昔とは何もかもが違うというのに」

 

 本気の者同士の決闘ではごく短時間の交錯で勝敗が決まる。

 それらは基本的に当事者の技量に左右される。

 例えば強い者と弱い者が戦えば前者が勝つ。

 単純な話だ。

 

 ゆえに条件が学生時代となんら変わらないのであれば結果は見るまでもないだろう。

 

 しかしこれはあくまで基本的な一般論でしかなく、それ以外の前提条件がない場合に限られる。この場では瞬きの回数、呼吸の頻度すら勝敗を分ける要因に成り得るほどに、多くの事象が絡み合っていた。

 

 第1の要因 成長率

 

 ヴォルデモートが戦争が始まるまでのこの30年をどう過ごしていたか。ヴォルデモートは表舞台から姿を消している間、常に闇の魔術に関する知見を深めていった。その時間に見合うだけの成長を彼は遂げている。

 しかし成長しているのはハワードも同じ。戦場の最前線ではないとはいえ、闇の魔法使いに対する魔術の研究は誰よりも進んでいる。

 

 ここで要因2 使用魔法の違い

 

 決闘時とは異なり、ヴォルデモートが使用する魔法を制限していない。積極的に用いられる強力な呪文を全て捌き切るにはハワードには少し荷が重すぎた。

 

「貴様の罪を教えてやろう。俺様の前で欺瞞を働いたこと…俺様に逆らったこと…そして俺様の過去を穢したことだ!!」

 

 幾度か呪文が交差するときには既に地力の差が見えてくる。

 あきらかにハワードが追い付いていない。

 対してヴォルデモートは己の怒りをぶつけるように、甚振るように魔法を使う。

 あと数瞬で決着はつくかと思われた。

 

 しかし――――

 

「トムよ、わしがおる事も忘れてはいまいな?」

 

 要因3 第三者による援護

 

 ヴォルデモートからハワードに向かって放たれた致命的な呪いは決闘に乱入したダンブルドアによって防がれる。

 

「貴様はすっこんでろ!後で相手をしてやる」

「先生は援護を、まずは逃げ道を塞いで!ここで逃げられるわけにはいかない!」

「これでもまだ勝つ気でいるとはな………いっそ憐れですらあるぞ」

 

 ダンブルドアが作った隙を狙って呪いを放つもすべて防がれる。

 危機は脱したとはいえ差は未だ歴然としていた。

 ダンブルドアは補助に意識を割く必要があり、思うように攻勢へと移ることができていない。

 不意に呪文が途切れ、支えを失いバランスを崩しかけたそのとき―――――

 

 

――――アバダケダブラ

 

 

 呪文は――――――――当たらない。

 

 要因その4 魔法薬の服用

 

 事前に幸運の液体を飲んでいたこと。

 たとえ奇跡の様な確率であってもそれを引き起こせるだけの幸運を既に彼は持っている。

 

「………貴様、なにをした」

「さあね、自分で考えるといい。次回までの課題だ」

 

「ふざけるなよ………そもそもなぜ今更動き始めた」

「君の未来(過去)が僕の過去(未来)を作り上げたのさ……逆に君の現在、その責任が僕にないわけでもない。―――――だから私がここで君を殺す」

「矛盾しているな」

 

 彼の宣言にヴォルデモートは嘲笑で返し、杖を振るう。

 再び呪いの応酬へと戻った。

 ダンブルドアが守りに徹することで一方的な展開には持ち込まれていない。

 

「そうであるとすればなぜ貴様は今まで俺様を止めることをしなかったのだ?」

「それを君が言うのか」

「そもそも貴様は俺様が王になる事を認めていたではないか!」

「ああ認めていたとも!僕は君こそが魔法界の王にふさわしいと本気で思ってたんだぞ!」

「ならばなぜ――――」

「もっと!もっと…別の方法はなかったのか」

 

 ハワードの悲痛な声を最後に、呪文の嵐は突如として消え去った。

 先程までの激しさは鳴りを潜め、今では風のざわめきだけがその場を彩っている。

 その場から動く者はいない。

 

「君だって魔法界を、ホグワーツを愛してたはずだろう!?君はッ――――」

 

 ヴォルデモートは自分の杖を撫でながらため息を吐き、続く言葉を遮った。

 

「言いたいことはそれで最後か?」

 

「………先生、少しでいいから時間を稼いでくれ」

「何をする気じゃ?」

「潮時だよ。やることはいつだって変わらない」

 

 ――――一度熱した頭が急激に冷やされていくのがわかる。代わりに心に漏れ出てくるのは、笑い(嘲笑)。いやほんとうに馬鹿馬鹿しい。

 この期に及んで自分はいったい何をしようとしていた。己の愚かさに呆れ自嘲する。

 

 救う術を持たず、救おうと考えたことすらなかった自分が何かを言う立場か。

 ははは………確かに彼をここで殺せば多くの人が救われるだろうよ。それで“僕”は道を踏み外した親友を苦難と苦悩の中でその手で殺した悲劇の英雄ってところか。あとはめでたしめでたし、ハッピーエンド。観客もさぞかし沸いてくれるだろう。

 ……くだらない。まるでマッチポンプ、ひどい三文芝居だ。

 

 誰かに必要とされる人生、か。それを得るための手段としてあの英雄に憧れた。誰かのため、それだけを目指して生きてきた。だが所詮は偽物。手段と目的を取り違えていることにも気づかず無様に走り続け、その結果がこれだ。偽善にすらなっていない。むしろ悪以外の何であると言えようか。誰かのためと言いながら、その誰かを見ることなくただ己のために利用した。

 

『――――稀代の悪人となるかそれとも英雄となるか。それを決めるのはあなた自身です』

 

 ああ、私はいつも気づくのが遅い………。

 己の醜さをこんなところで見せつけられることになるとは思いも寄らなかった。

 どちらにせよ今更気づいたところで何かが変わるわけでもない。今となっては己の罪深きエゴに従うほうが全てに対して良い結末になる。私が善であるか悪であるか、正義であるか外道であるか。そんなことはどうでもいい。それを論じることにもはや意味などないのだから。私は私でしかなく、彼を倒す、そのために私はここにいる。戦う理由は――――必要ない。

 

 だから自分がすることを間違えるな。

 お前がするべきは――――

 

 5つ目の要因 事前の準備

 

 彼が先生との決闘を想定していたのに対して、私は長年の間トムと戦うことを想定していた。

 既に相手を倒すヴィジョンを持っていたこと、それはこの戦いが始まったときから変わる事のないアドバンテージだ。

 ふと己の杖に目を落としてみれば、それはいつもと同じようにそこにあるにもかかわらず、なぜか今までよりもよく馴染んでいるようにすら思える。

 先生が稼いでくれている数秒のうちに息を整え、改めて杖を構える。

 

 杖に想いを乗せれば、杖からは禍々しい炎が噴き出し、周囲を一瞬で囲い尽くした。

 

「大口を叩いて放つ魔法がその程度とはな………。わざわざ避けるまでもない。簡単に打ち消してくれるわ!――――ッ!?」

 

 炎を彼に向けてみれば思った通りに彼は受け止めてくれる。

 彼がこの程度の魔法にどう対処するかなど手に取るようにわかる。幾度となく考えてきたことだ。彼のことが分からないはずがない。

 きっとここまで彼の行動を予測できるのは自分だけだろうし、それがこの戦いの勝利にどれだけ関わっているかも分かっている。

 ただ今は、自分の思い通りに進んでいることがあまりにも腹立たしく感じられた。

 

 そして要因6 魔力容量

 賢者の石を所有していること。

 今までの戦闘はすべて彼に実力を誤認させるための布石でしかない。

 この魔法に全身全霊の魔力を込める。

 

「なぜだッ!なぜ俺様が押されている!?」

「まだ分からないのかい?」

「いかんハワード!それ以上は殺してしまう!」

 

 最後の要因 覚悟の有無

 相手を殺す覚悟を己はとうに持っていたこと。

 己だけが初めから相手を殺す覚悟でこの場にいたこと。

 

 無言を以て返された答えに彼らはようやく、ようやくその心を視た。

 

「まさか貴様はじめからッ――」

 

 口元がつり上がり顔が笑みを湛えるのがわかる。

 視界が霞み、不思議な未来(過去)をどこかで視た。

 ――――――その世界に英雄はいなかった。英雄が必要となるような事が起きていないのだから。三人の男で机を囲んでいる。二人の少年が楽しそうに話しながらお菓子をつまんでいるのを、一人の男性が柔らかい笑顔で見つめてお茶を飲んでいた。ただそれだけの優しい世界――――――

 頬を伝う雫が空に溶けていく。

 

 

 炎がすべてを包み込んだ。

 

 

 

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