ハリー・ポッター ヴォルデモート部分殺害RTA 二重スパイチャート 作:永熊 詩人奈
あっ、そうだ(唐突)
小説内では走者の存在はないものと思ってもらって構いません。
また走者とハワード・ゴーントが別存在であることを考慮した上で、地の文における走者の発言がハワードのものとは必ずしも一致するわけではないことにもご注意ください。
そりゃあ語録を日常で使う奴なんていないからね。
善人はこの世で多くの害をなす
彼らがなす最大の害は、人びとを善人と悪人に分けてしまうことだ
――オスカー・ワイルド「ウィンダミア卿夫人の扇」より一部改変――
「僕は自分が特別だって判っていた」
マグルに紛れて生活する魔法族にはよくある傲慢さだ
「僕を困らせる奴には嫌な事が起こるようにできる。僕が望めば傷つける事だって可能だ。」
自分本位で残酷な性質は生来のものだろうか
「お前が魔法使いであることをこの場で証明しろ」
他者への不信感、更に強い支配欲、自分が犯した罪に対する反省意識はまるでなし
「あなたは必要ない」
ここまで言うか、一瞬で嫌われすぎだろ、わたし
その日ウール孤児院を訪れた彼の心情は察するに余りあるものだった。
孤児院にホグワーツの入学許可証を届け、それに関する案内をした帰り道、ダンブルドアは寂れた村を歩きながら先程の少年のことを思い返していた。
その子供―トム・リドル―には魔法族としての力が十分に発現していた。そのため魔法学校への入学を勧めにトムが暮らしている孤児院を訪ねたわけだが(マグル生まれや孤児には説明のため教師が直接説明をしに足を運ぶのが普通だ)、結果は惨憺たるものだった。
トム・リドルと実際に話す前に孤児院の院長から少しばかり話を聞いていたため、ある程度の予想は出来ていたが、まさかこれほどとは。
ただでさえ昔の友人のことで大変だというのに、少し先の未来を考えるだけで胃が痛い。
こうなった要因は様々だろう。
彼は彼自身が孤児という弱者であるという事実を認めることを嫌がっていた。魔法という力を得た彼が真っ先にしたことは己と他者との区別だったのだろう。凡庸であることを恐れ、他者を信じず自分の力のみを信じ、周りの子供を意識的に虐げることで己が強者であると自分に言い聞かせている。きっと彼だけがすべて悪いわけではない。
だからと言ってそれを野放しにするわけにはいかないのだが。
彼の性格は些か毒が強すぎる。このままホグワーツで好き勝手することを許すのは、ヤギの群れに空腹のマンティコアを放すようなものだろう。周囲の子が傷つくことがないようにしなければ。
最後に渾身の一撃として放たれた言葉は
「――僕は蛇と話せる」
だったか。鼻を明かしてやろうという気持ちが見え透いているのは、まだ可愛げがある行動と言えるのかもしれない。
君は素晴しい才能を持っているね。それで終われたらどれほど気楽なことか。
付け加えて言うならば、パーセルタング自体は警戒すべきものではない。パーセルタングにも偉大な魔法使いや善良な心の持ち主は存在するし、それ自体が悪に直結するわけではないのだから。
ただ彼の生来の性格とも言うべきものがひたすらに問題なのだ。
彼の本性についてもどれか1つであれば、ただの個性として処理をしていた。
しかし、現実は非常である。
彼のこの性格は愛を知らないが故に生じたものなのだろうか。私が言えた義理ではないが、彼はきっと大きな過ちを犯す。他の子のためにも彼には注意すべきだ。
パーセルタングと言えば、今年は入学名簿にゴーント家の子も載っていたか。
きっとトムとも関係があるのだろう。
一度ホグワーツへ帰り、仕事に区切りがつき次第調べてみると、その子供も現在親が不在であると。なるほど純血家系は郵送を用いての報告が通例であるから見逃していたか。
であれば丁度良い。おそらく案内は必要ないとは思うが、こちらの子供にも興味が湧いた。直接会ってみてみるのも悪くはない。
少しばかりのため息とともに彼は次の訪問の支度にとりかかった。
数日後の昼下がり、額にうっすらと汗を滲ませながら彼は小さな田舎町を独り歩いていた。
村の住民に聞き込みをすると、程なくして情報は集まった。
曰く、村の外れに屋敷があり子供の幽霊が住んでいる
曰く、そこは昔狂人の住処であった
曰く、彼らは総じて恐ろしいナニカであった
きっとその場所がゴーント家に違いないだろう。
村の外れへと向かっていくと、森が見えてきた。近づいてよく見ると、絡み合った木々の中に半分隠れた建物があるのがわかる。家を建てるには不思議な場所だ。それは思っていたよりもずっと寂れた屋敷だった。いやこの場合むしろ小屋と言った方が適切かもしれない。
昔は栄えていた純血一族が今ではこれか。盛者必衰を感じずにはいられなかった。
小屋の玄関は悪趣味にも死んだヘビが釘付けされている。
ドアベルを鳴らすと、どうやら玄関を歩いている音がしてきた。少し待てば中から小さな子供が出てくる。
「君がハワード・ゴーント君かい?」
「はい、そうです。あなたはどちら様ですか?」
少年は訝しげにダンブルドアに尋ねた
「私はアルバス・ダンブルドア。ホグワーツで教鞭をとっている。つまり君の先生ってことになるね。今日は君に入学の案内をするために来たんだ」
少年は得心したようで家の中へと入れてくれた。
家の中は外観に比べるとキレイに片付いているように思われた。決して豪華ではなくむしろ質素で家具も少ないのだが、誰かが管理しているのだろうか。
「君は一人で暮らしているのかい?」
「いえ、屋敷しもべ妖精と二人です。ここでお待ちください、今お茶を淹れて来ます」
案内された部屋は客間と言うよりはリビングなのだろう。
古びたテーブルが置かれている。椅子に座り少し待っていると、少年は冷えた茶を出してきた。
「大したおもてなしは出来ませんが、外はまだ暑いでしょう。どうぞお飲み下さい」
そんな感じで入学に関する説明を始めることになったわけだが、話を進めていくと気付くことがあった。この少年は根本的にリドルとは違う。
リドルは面会直後において、その悪辣な性格を隠そうともしなかった。少し懲らしめるつもりで魔法を使い、彼の犯した窃盗について咎め、魔法界のルールを説いたときですら反省する気さえなかったようだった。しかしダンブルドアが魔法界の権力者であることを知れば、わずかに逡巡したものの彼は見事に優等生の仮面をかぶってみせた。
一方この少年はどうだろうか。不思議なことに感情というものがあまり見られなかった。その少年に子供に特有の活発さはなく、そのみすぼらしさも相まって弱々しく感じられる。
ゴーント家としての血が原因か、それとも成長する過程で周囲に人がいなかったためか。実情を知ることは叶わないが、ダンブルドアはそれをひどく寂しいものだと思った。
二人の少年は愛を知らずに育ち、常に孤独であったという共通点を持っていた。おそらくその体に流れる血も近いのだろう。
しかしその本質とも言うべき内面には大きな違いが生じている。
一人は魔法の使い道を自分で生み出した。魔法を用いて弱者を虐めることで相対的に強者へとなった。自分は特別だ、自分こそが特別なのだと増長していき現在の性格へと変わっていく。誰も彼を止められない。だからこそ彼はそのまま成長していった。もちろん元々そのようになる素質があったのだとも考えられるが。
対してもう一人は本当に孤独だった。誰と関わる事もなく、それ故あまりにも純粋で、どんな些細な影響も受ける透明な真水のようでもある。まだ一度も手をつけられていない、何色にも染まる真白なキャンバスとも言えるかもしれない。そのキャンバスに何を描くか、それを決めるのは彼自身でなければならない。しかしその人生が毒に染まらず、キレイなものを描いてほしいと思うのは間違いなのだろうか。
彼らはきっとスリザリンに入る。血筋、才能、性質、様々な要因からそうなることが予想される。私が何もしなければ、ハワードは間違いなくトムの影響を受ける。
成長して自分だけの芯を持ち、簡単に他人の考えに染まらない程の歳になり、その結果彼が自分の意志で暗い道を歩むとするならば、私がそれに口を出す権利はない。彼の敵として立ちはだかるのみである。
しかし彼の心はまだ生まれたばかりの赤子にも等しい。それが健やかに成長できるように、そう願うのであれば、少しばかりのお節介は構わないだろう。
入学に関する説明が終わると、彼は少し言いづらそうに申し出てきた。
「すいません、学用品を揃えられるほどのお金を僕は持っていません」
なるほど、そんなことか
「心配いらない。ホグワーツには教科書や制服を買うのに援助の必要な者のための資金がある。ただし君は呪文の本など幾つかを古本で買わなければならないかもしれないよ。」
「いえ、親切にありがとうございます」
「ダイアゴン横丁という場所で揃えられるのだが...どこに何があるか探すのも私が手伝おう」
そんな話をしてその日はお開きになった。
買物へ行く日になり再びリトル・ハングルトンを訪れれば、既にハワードは出かける準備が出来ていた。
前回会ったときは感情のない人形のようだったが、今日はどうやら少し緊張しているらしい、顔に少し表れている。
「楽しみにしていたかい?」
「はい先生。この村を出るのは初めてなもので」
村を出る機会もなく、彼の世界は家の中がすべてだったのだろうか
「ならば君はその目で多くのものを見なさい、きっと君の心を育ててくれる」
付き添い姿現しを用いてロンドンの漏れ鍋の前まで移動する。
はじめて魔法界を訪れるならここからの入場は外せない。きっと彼も喜んでくれるに違いない。
こちらの期待通りの反応をしてくれるハワードに自分の顔が自然と綻ぶのを感じながら、魔法使いでにぎわう町へと足を進めた。
きっと初めて見るこの光景はずっと忘れることのない思い出になるだろう。
「さあハワード、ここが魔法使いの町 ダイアゴン横丁だ。学校で必要なものはここで全て買える。案内しよう」
他愛もない話をしながら買い物を始める。途中で休憩としてティータイムをはさみ、二人で鍋、教科書、その他必要な小物、そしてローブを買い進め、最後に向かうのはオリバンダーの店。
「いらっしゃいませ」
「久しいね、ギャリック。新入生に杖を見繕ってほしい」
つい10数年ほど前にホグワーツを卒業した店主に声をかける。
杖選びは順調にはいかなかったが、暴発したときの彼の焦りようは実に面白いものだった。無であった少年が新たな経験に戸惑いつつも、それを表に出せているのがわかると、少し安心した。
最終的に店主が取り出したのは、店の奥深くでほこりを被っていた箱だった。
「これは私が作ったものではないのですが、誰の手にも渡らず眠っていたのです」
どこか蠱惑的で死の物悲しさを感じさせるような不思議な杖だ。少年が杖を振れば、なるほど、杖の主人が少年以外にあり得ないことがよくわかる。それはおそらく必然とも言うべき運命だったのだろう。
「この杖で間違いないでしょう」
店主は続ける。
「イチイの木でできた杖にはいくつかの言い伝えがあります」
「昏い噂では、闇の魔法使いに多いというものがありますが、それは必ずしも正しくありません。その持ち主に偉大な人物がいたこともまた真実です」
「一つ言うことがあるとすれば、あなたが何を成し遂げるのか、稀代の悪人となるかそれとも英雄となるか。それを決めるのはあなた自身です。幸運を祈ります」
家まで少年を送り、さあ解散だ、となるときダンブルドアはふと少年に尋ねた。
「君に夢はあるかい?将来やりたいことだ」
「夢、ですか」
少年は少し考えているようだった。
「夢とよべるものは今は特にありません」
彼の心の中にいまだ他者が存在しないのならば、彼を善悪という価値基準に当てはめるのはあまりにも難しい。彼がどんな道を歩むかはこの時点では全く定まっていない。
だからこそ、今それをどうしても聞かなければならない気がした。
「なんでも構わないさ、友達を作りたい、楽しく生きたい、そんなことでいい。君が思うことを言ってみなさい」
数分の沈黙の後、彼はようやく口を開いた。
「すいません僕には少し難しいです、将来を想像するというのは。」
「でもこの人生が何か意味のあるものになれば、誰かの役に立つことが出来るならば、きっとそれは...とても幸せなことだと思います。」
答えた少年の頬には赤味がさしていた。
彼を再び見たのは組分けの儀式のときであった。
彼の組分けは予想していたものよりもずっと長かった。
帽子の声が大きかったのか、それとも無意識に帽子の心を覗いてしまったのか
声が聞こえてくる
――――その身に流れる血は間違いなくスリザリンを示しているが…君は持つべき資質を備えていない、いわば中身の入っていないグラスだ。しかし裏を返せばそれはどんな者にもなれるという事でもある。
――――グリフィンドールでは人を助ける勇気を
――――ハッフルパフでは弱者に寄り添える優しさを
――――レイブンクローでは皆が尊敬する叡智を
――――スリザリンでは目的を達するための狡猾さを
――――さて君は何を求める?
「僕が選ぶのか」
――――私が選んでも良いがね。きっと君はどの寮でもうまくやれる、君がその人生を幸せだと思うかは別の話だが
「手段を。何かを成し遂げられるだけの力を。」
「僕にはまだ目的と思えるものを持っていない。でもそれを成し遂げるための手段はあっても困らないはずだ」
――――ほうなるほど、人生に意味を求めると。そのための手段を欲するか。それを野心と呼ばずになんという!ならば君が入るべき寮はこれしかあるまい。
――――君はこの世界の行く末すらも選ぶことのできる人間になる、その世界は君の人生の意義そのものだ、だがその道は困難で恐らく君は苦しむだろう。君が何を目的とするか、きっとそこに君の生き方は隠されている。健闘を祈るよ
長い時間だった、もしかすると自分だけがそう感じていたのかもしれない。組分けは次々に進んでいく。スリザリンのテーブルへと目を向ければ、いつの間にか彼は組分けを終えたもう一人の少年と仲良く話している。
スリザリンの組分けにはこんな言葉がある
「スリザリンに入れば君は真の友を得る」
他人の人生を無理やり捻じ曲げるような大それたことは私にはできない。であるならば私が願うべきは、彼らが心からの友人となり共に歩んでいくことだ。
一人が立ち止まれば一人が肩を貸し、一人が道を違えれば一人が正しい道を示す、そんな関係に。一滴の毒がすべてを汚染することもあれば、一滴の毒から薬ができることもまた事実。
願わくは彼が苦しむことなく健やかに成長できることを。
いつか夢見た決して訪れることのない親友との未来を思い、少し感傷に浸りながらダンブルドアは心に少しばかりの疲れを感じ、目を閉じた。
新学期が始まれば一年生の生徒だけに目を向けるわけにもいかない。
二人の少年とは変身術の授業を通してしか関わる事はなく(彼らは優秀な生徒だった)、あっという間に時は過ぎていく。
ようやく落ち着き、少年らのことを深く考える頃には、すでに夏季休暇であった。
彼らはまだ手のかかる子供だ、教師として彼らの歩む道を見届ける必要がある。
そう考えるも、既に一人に関しては彼が持ちうる手段ではどうにもならないことに気づいた。リドルにはかなり嫌われてしまっている、一人で会っても心を開いてはくれないだろう。
ならばまず優先すべきはもう片方か。
思い立ったが吉日、ハワードの家に行こう。
彼が人と触れ合い何を思ったのか、どのように成長しているか、年甲斐もなく気持ちが高揚している自分に驚く。
最近ひそかにマイブームのマグルのお菓子を持っていけば喜んでくれるだろうか。まるで久しぶりに孫に会いに行くおじいさんのようだ、まさかこれが父性か。
教師としては一人の生徒に対して少々入れ込みすぎているのを自覚しながら心の中で自分を笑い、家を出た。
ダンブルドアは悪人を更生させるよりも、悪人から人を守ることに力を使う。
それはその時点においては最も確実に周囲を守れる選択だったが、最も正しい選択であったかはわからない。
少年に寄り添い、道を踏み外すのを防ぐことができればそれ以上のことはない。だが、もし踏み込んでも失敗したらどうなる。彼への対策の薄さが裏目に出れば、結果として更に被害が大きくなるだろう。
既に彼は古い親友の説得に失敗している。最終的には杖をとり完全に立場を別にすることになった。自分は最も深い仲にあった人でさえ止めることができない。ならばどうして全くの赤の他人を更生するなどと考えられようか。
彼は他人に踏み込むことを恐れる。自分が最も信用ならない人間である、と自分自身が一番よくわかっているから。それでも動かなければならない。その気持ちの表れが一見中途半端にすら見える彼の行動を起こしているのだろう。
ダンブルドアはきっと誰よりも臆病だったが、誰よりも正義に責任を持った人間だった。