ハリー・ポッター ヴォルデモート部分殺害RTA 二重スパイチャート   作:永熊 詩人奈

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小説パートです。


果たされぬ誓い

人生で本当に重要な瞬間は、手遅れになるまでわからない

――アガサ・クリスティ――

 

 

 

 

「他のコンパートメントが空いてないんだ、ここ入ってもいい?」

 

 その日少年と出会ったのはきっと運命だった。

 

 そいつの第一印象はあまりにも平凡な雰囲気の少年だった。緊張しているのだろうか、かなり静かなやつだ。まあ僕自身もそんなに騒ぐタイプの人間ではないから有難い話ではあったのだが。

 初めて話す同年代の魔法使いであったからそれなりに話は盛り上がったが、そのときはそいつが自分に相応しい人間だとは思えなかった。

 しかし驚くべきことになんとソイツも蛇と話せるらしい。

 やはりあのいけ好かない教授の言っていた事は正しかったのか。蛇語はあまり特別な能力という訳ではないのだろう、第一村人が特殊だと考えるよりはそちらの方が確率は高い。

 少し残念な気持ちを覚えつつも、これからの生活を考えれば胸は膨らむばかりだった。

 

 

 スリザリンへと組分けされ、学校生活を過ごしていくうちにある事実に気が付いた。

 あの糞爺、嘘をつきやがった。なーにが「稀ではあるがいないことはない」だ。あんなに人数がいるのにハワード以外に蛇語を話せそうな奴なんていないじゃないか!

 ダンブルドアに嘘をつかれた(嘘ではない)のは癪だったが、自分が特別であることの証だと思えばむしろ胸はすっきりした。

 

 ハワードは自分には一歩及ばないがとても優れた生徒だった。家柄に関しても、ゴーント家という生まれで今では廃れてしまいハワードしか生き残りがいないらしいが、血筋は十分に優秀だとか。他の学生を見れば意外にもハワードより優れた人間はいない。ならば彼を友人として認めてやるのもそんなに悪いことじゃないだろう。口ではそう言いながらも、初めて出来た友人というのになんだか気持ちがむず痒くなった。

 

 ホグワーツでの生活は毎年孤児院に帰らなければならないことを除けば概ね満足のいくものだ。自分の才能を発揮できること、自分が他の人間よりも優れていること、それが孤児院にいたころの弱い自分を忘れさせてくれた気がしたから。このホグワーツでなにか偉大なことを成し遂げる、それが今の目標だ。

 

 

 三年生のある日の防衛術の授業では少し変わったものを実習として取り扱った。

 その授業では闇の魔術に対抗する術を学ぶことが目的だが、魔法生物に対する対処法も同時に学ぶことになる。とはいっても所詮授業なのであまり危険なものは扱わない。

 

「今日の授業はボガートを使っていく。ボガートの特性を知っているものは?」

 

 幾人かが挙手をし、答えを述べる。

 

「よろしい、その通りだ。今言ってくれたようにボガートは通常は不定形であるが、人と遭遇するとその個人の最も恐怖するものの形をとる。」

 

 はて、自分は何を恐れているのだろう。今まで何かに恐怖するという体験はしたことがない。また自分が何かに恐怖するような弱い人間だとは思わなかった。もしかしたらボガートが何にも変身しないという事もあるかもしれないな。そんな風にも考えていた。

 

「それらは人の恐怖の感情によって存在していると言っても良いだろう。つまりボガートの撃退方法はその恐怖を払拭すること、そして笑うこと、これに限る。」

 

「リディクラス。どうしたら恐怖が笑いに変わるか、それを思い浮かべながらこの呪文を唱えれば簡単に退散させることが可能だ」

 

「ではやってみよう、一列に並んで!」

 

 演習は順調に進んでいく。あるものは大蜘蛛、あるものは大蛇。それぞれが恐怖するものに対して呪文をかけて対処していく。ある生徒の時にボガートがケトルバーン先生になったときはみんな笑った。確かにあの先生は無茶をするからある意味では怖いと言えるのかもしれない。

 

「では次はトム、いってみよう!」

 

 遂に自分の順番が回ってきた。一気に注目が集まる。優等生の僕が何に恐怖しているか、ボガートにどんな反応をするのか、彼らの気持ちが手に取るようにわかる。

 

 ボガートが変身したのは『自分の死体』だった。

 なるほど、これが僕の恐怖するものか。

 すぐさまその結果に納得することは出来たが、思いのほか腹が立つ。

 

「リディクラス!」

 

 怒りのままに呪文を唱えればボガートは他人の死体へと変化した。自分としてはそれで十分スッキリしたのだが、周りを見れば少しばかり引いてるようだ。笑いのセンスを求められて他人の死体を出されてもそりゃあ反応に困るわな。

 

「えーと、じゃあ次の人に変わろうか。ハワード、前に出て!」

 

 ちょっと失敗したと思いながら今度は友人の様子を見守れば、すぐさまボガートは他人の死体から姿を変えようとしている。ボガートは少し悩んでいるように変身をためらった後、今度はハワードの死体へと変わった。

 

 彼はその結果に僅かに戸惑っていたが、杖を構えると、すぐにはっきりとした口調で呪文を唱えた。

 

「リディクラス!」

 

 死体はムクリと起き上がりその杖で花火を打ち上げながら楽しそうに踊り始める。

 先程までの暗い雰囲気は消え、ちょうど授業の時間は終わりになり、生徒たちは自分たちのボガートについて級友とともに思い思いに話していた。先生は少し疲れたような顔をしていた気がするがきっと気のせいだろう。

 教室を出ていくハワードを追いかけた。

 

「さっきのボガート、見たよ。君も僕と同じように『死』を恐れているのかい?」

 

「あー、うん。多分僕の恐怖はトムが恐れる『死』とは少し種類が違うと思う。僕が恐怖したのは『死』そのものじゃない。言葉にするのは難しいけど、死ぬこと自体が怖いわけじゃないからね。どう死ぬか、多分それだけだよ」

 

 その答えはあまり要領を得ないものではあったが、『死』を恐怖するという同じ価値観にリドルはハワードを少し理解したような気がした。

 

 

 

 学校生活は楽しいものではあったが、歓迎できないこともある。例えばダンブルドアと一対一で話すこと。

 

「おおトムじゃないか。………最近はどうだ。友人は大事にしているか?」

 

 ついにこの爺、耄碌としたか。いきなり愛やら友情やらの話をされて戸惑わない奴はいないだろ。奴はすれ違えば話しかけようとしてくるものの、奴自身が何を話せばよいかあまりわかっていないようだった。

 

「ああいや、あまり危険なことにハワードを巻き込んでくれるなよ、とね」

 

 おそらく僕自身を監視していたいという気持ちと、ハワードの友人関係にどこまで口を出すべきかで悩んでいるらしい。どちらにせよ僕のことが気に入らないのだろう。

 

「彼のことは僕が一番わかってますよ、ダンブルドア先生。あなたが心配する必要はないと思いますが」

 

「そう、か。ならいいんだ」

 

「ハワードはあなたが気にするほど弱いやつじゃない」

 

 ダンブルドアがハワードを妙に気にかけていることは知っていた。確かに入学当初は静かな奴だった。今思い返してみればあれは人生に熱意が持てていなかったのだろう。そんな生徒をダンブルドアが放っておくとも思えない。今でも熱意があるかと言われればそれは微妙なところだが、目の前にある物事に対しては一生懸命取り組み成果を得ようとするようにもなっている。僕が唯一その力を認めている人間を他の人間が見縊るのは我慢ならなかった。

 

 自分とは違って魔法を使える世界で育った奴らも実力で僕に敵うことはない。それでもそいつだけは必死に僕に追いつこうとしている。他の愚図どもが思考を停止して僕を褒めたたえることだけに夢中になっている中、彼は僕を追い抜くべき好敵手(ライバル)として見ている。間違いなく僕の方が才能も実力もあったが、努力をすることでなんとか一つの教科だけでも僕に勝ってみせた。

 

 この前の決闘だって僕と引き分けにまで持ち込んだんだ。確かに使用魔法を縛ったりしなければ結果は違っていたかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 杖を交わしたあの時は、本気で相手を倒す、ただそれだけしか頭になかった。あの瞬間はお互いの考えていることが手に取るようにわかっていた。カウントが終わる前に魔法を撃ってきたときは少し驚きもしたが、それだけ本気で闘おうとしていることがよくわかったからこちらも本気でやるべきだとそれに応えた。魔法と魔法がぶつかる衝撃は言葉なんかよりも多くのことを僕に伝えた。

 最後に不意打ちを喰らい、吹き飛ばされた時ですら不快感は覚えずむしろ爽快ですらあった。最初で最後の友人である彼が自分に並び立つ人間だと再び理解できた気がしたから。

 

 そんな彼だからこそ、自分がホグワーツで偉大なことを成し遂げたらそれはハワードに最初に言おうと決めていた。

 

「君こそが僕たちの王に相応しい」

 

 僕の挙げた成果に対して彼がこういってくれたときは、なんか嬉しかった。初めて出来た魔法界の友達、最初汽車で出会ったときはなんかパッとしない奴だったけれど、他のやつよりもずっと僕のことをわかってくれていたから。

 

 だからこそ自身がそのとき感じたのは「喜び」だけではなかった。

 なぜお前がそっち側にいる、そうじゃないだろ、お前がいるべきはこっち側だ、と。

 

 唯一と言ってもよい親友にも認められたのは確かに嬉しかった。それでもそのことに満足することはなかった。数だけはいる有象無象の能無しに讃えられることよりも、たった一人の友人と一緒に上を目指すことの方が何倍も価値のある事だったから。

 

 今のままではきっと彼はきっと凡人に埋もれてしまう。普段自身が友人と呼んでいる取り巻きのように彼がなってしまう事だけは絶対にあってはならない。

 ならば僕がお前をこっちまで引っ張り上げてやる。お前がこっち側に来れるようにしてやる。

 僕ができることは何だ、彼に何を見せれば隣に立ってくれる、僕が偉大なことをすれば彼は興味を持ってくれるのか?考えろ、考えろ。考えればきっといい答えが見つかるはずだ。

 

 ああ、秘密の部屋を開ければいいじゃないか。その偉業を達すればきっと彼もすごいものを見せてくれる。だって彼はもう一人のスリザリンの後継者なのだから。

 

「ならばその時は君が隣に立ってくれ」

 

 唯一親友以外に信じることのできるもの――イチイの杖――に誓いを立て、そう言った。

 

 

 

 遂に秘密の部屋の扉を開けたものの、できたことと言えばマグル生まれをたったの一人殺すことだけだった。まさかホグワーツが閉鎖になるとは。いや深く考えずとも人が死ねば学校が閉鎖になるのは当たり前か。何をしてるんだ僕は。

 閉鎖を防ぐため早急に事件を解決する必要があり、ハグリッドに全ての罪を擦り付けることでなんとか事なきを得たわけだが…

 なんでアクロマンチュラなんか飼ってるんだ、なんで教師陣も簡単に信じるんだ。

 

 一人はトム・リドルという、貧しいが優秀な生徒。孤児だが勇敢そのものの監督生で模範生。片やもう一人は、図体ばかりでかくて、問題行動の多いハグリッド。狼人間の子をベッドの下で育てようとしたり、こっそり抜け出して禁じられた森に行ってトロールとレスリングをしたりして、一週間おきに問題を起こす生徒。

 どちらを信じるかは目に見えていた。だが誰か一人ぐらい、ハグリッドが『スリザリンの継承者』では有り得ない、と気づくに違いないと思っていた。この僕でさえ、『秘密の部屋』についてできるかぎりのことを探り出し、秘密の入口を発見するまでに五年もかかったんだぞ。ハグリッドにそんな脳みそがあるか!そんな力があるか!

 

 いや違う、落ち着け。怒るところはそこじゃない。

 おそらく僕が犯人だと気づいているのはダンブルドアとハワードだけだ。

 ハワードに関しては既に秘密の部屋のことを既に打ち明けていた。その時は部屋をどう使うかを彼には教えていなかったが、事件の概要を聞いていれば僕が犯人だと推測するぐらいわけはないだろう。だがこちらは特に気にする必要もない。彼は僕が王に相応しいと言ってくれていた。作戦が雑過ぎたことを多少言われるかもしれないが、彼にとってはマグル生まれ一人のことなんてどうでもいいだろう。

 だが問題はダンブルドアの方だ。

 ダンブルドアは最初から僕をかなり警戒していた。やはり入学案内時の対応が悔やまれる。今からでも過去に戻ってあの時をやり直したいが、後悔先に立たずとはこのことか。

 なんとか白を切って誤魔化したが、これからどうするか、それについて決めていかなければ。

 

 

 帰りの汽車内でハワードと二人となったときに、やはり秘密の部屋について聞かれた。

 

「今年の事件、君だろう?」

 

 僕が答える間もなく彼は続けた。

 

「別に答えを聞きたいわけじゃない……ただ少し…言いたいことがあって…ね」

 

 その先を促すようにそちらに顔を向ければ、彼は遠慮がちに続けた。

 

「その……もっと…別のやり方は…なかったのかい?」

 

「ホグワーツで死者が出ればこうなることは予想できたはずだ」

 

 確かにもっとスマートな方法があったはずだ。スリザリンの後継者として名を残すことばかりに意識を割きすぎたか。せっかく魔法界を支配すると話をしたばかりなのにダンブルドアが見張っているうちは学校では動けない、今は諦めるしかない。

 

「そうだな、ハワード。君の言う通り僕は少し焦りすぎていたようだ。卒業してからもまだ時間はある、大事なのはこれから何をするかだ」

 

「いやそういう話では……」

 

 友人は他にも何か言いたそうであったが、この話を続けることにはあまり意味がない。

 そうだ、やるべきことは他にもある。死の克服についてももう少しで掴めるところにいる気がする。今はそちらを優先するべきだな。

 

「気にしても仕方ないさ。時期が来ればもっとすごいことをやってやる!ちゃんと見といてくれよ、親友!」

 

「ああ…そうだな……」

 

 

 

 

 図書室の禁書棚に入り浸っていると、ようやくそれらしき記述を見つけた。

『深い闇の秘術』その本には様々な闇の魔術の深淵とも言うべきものが多く書かれていた。その記述のうちの一つ、分霊箱。これこそが自身の求める死の克服方法ではないか。

 ただここに書いてあるだけでは足りない、もっと具体的な知識が必要だ。今まで何のために優等生を演じてきた。今がそのときだろう。

 

「――――先生、お伺いしたいことがあるんです」

 

 

 その後は語るまでもない。スラグホーンは結局最後まで話してくれた。こちらも欲しい情報は手に入れた。彼は途中から話したことを後悔していたようだったが、ああいう人間は本当に御しやすくていい。きっと心労がひどいだろうから砂糖漬けパイナップルでも送ってやろう。到底釣り合うとは思わないが、僕の役に立ってくれたことに対するせめてもの感謝だ。

 

 

 

 7年生にもなると、ほとんどの生徒は就職場所の目星をほとんどつけているのが普通だ。僕自身も多くの先生から魔法省への推薦を受けているが、魔法省に行くつもりはない。これからの目的のための下準備と言ったところか。まずはアルバニアに行った後、闇の魔術に関する見識を深める必要がある。

 

「ハワード、君はこれからどうするんだい?」

 

「僕かい?僕はそうだね、まずは魔法省で経験を積もうと思っている。やりたいこともあるしね」

 

「やりたいこと?」

 

「ああ、何て言うのかな。正しきことと容易きことの選択、つまりそういう事だよ。僕だけが出来ること、僕にしか出来ないこと、それをようやく見つけたんだ」

 

「何を言ってるのかよくわからないんだが」

 

「有り体に言えば僕が生きる意味さ――――なるほど組分け帽子が言っていたのはこれか」

 

「えらく遠回しに言うじゃないか、君はいつから詩人になったんだい」

 

 僕の返答にハワードは少し笑っていた。

 

「トムにとって分かりやすく言うならば、あー、君はマグル生まれに対して否定的だろ?それらから発展する思想を達成するためにどれだけの努力をするか。正しき道っていうのはきっと困難だけど、それを自分が正しいと思えるなら努力する価値があると僕は思うんだ。だからこそ僕がその選択を誤ることはない。君の隣に立つ準備は出来ているよ」

 

 ―――ようやくだ。これから僕と親友との新しい未来が始まる。彼が自分からこちら側に立つと言ってくれた。ならばあとは僕が応えるだけだ。

 

「こちらも準備ができ次第、声をかけるよ」

 

「「―――また数年後に!」」

 

 

 僕は一度ハワードに嘘を吐いている。

 自分の生まれについて本当のことを言うのが少し怖かった。きっとハワードはそんなことは気にしない。しかし一度芽生えた不安とは容易く摘み取ることは想像以上に難しく、結果として僕は自身の出生について一部嘘を含んだことを彼に教えた。僕のマグルの血筋は彼に見つからないように痕跡を消す必要がある。

 彼に対する嘘はそれが最初で最後だ。

 自分が吐いた嘘に対する負い目から彼とは深く話すことができなかった。

 その決着がついたら彼にしっかりと向き合おう。正直に生きてみよう。

 

 ここに戻ってくる予定は今のところない。

 7年間の思い出を振り返ると本当にいろいろなことがあった。このぬるま湯も良かったが、二人で歩む未来、その誓いのためにも今は進まなければ。

 少し寂しさや名残惜しさを覚えつつもホグワーツを後にした。

 

 そう言えば彼はいつだかの汽車の中で何を言おうとしていたのだろう。そのときの友人はどんな表情をしていたのだろう。もはや思い出すことは出来ない。

 まあきっと大した事じゃない、気にする必要もないか。

 

 

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