人に触れる場所は、多い方が色んな反応が見れるかなと思いまして。
小説家になろうに登録するのが面倒な人もいるかと思い、同時掲載いたします。
朝やけが目に入り青年は目を覚ます。
気怠さが身を包み、布団の温かさが眠気を誘う。
そんな6時半の平日。
いつもの起床時間。
仕事であれば誰だって早起きになる。
お金を稼がないと生活できないのなら、気怠さを跳ね除け、起きるしかない。
「はぁ~」
スマートフォンを手に取り、仕事の連絡が来てないかを確認。
そのままジャージにシャツというラフな格好のままで窓を開け、窓際に置いてあるタバコに手を伸ばし、火を点ける。
「フゥー」
紫煙を吐き、気怠げなままで今日のすることを頭の中で整理する。
(新人が来るのが今日だったな……)
重要なことを確認して、すぐに準備をする。
タバコを消して灰皿に。まだ多くない溜まってる吸い殻は捨てない。
顔を洗い、洗面所の鏡で少し癖毛のある青い髪を軽く直すがそれでもはねるので諦め半分で部屋に戻る。
制服とも言える黒のスーツに袖を通し、紺色のネクタイを締める。手帳を胸の内ポケットに仕舞い、頑丈なデジタル式の金庫から暗証番号を入力してホルスターに収まった銃を取る。
薬室を確認して、弾がないことを見る。
それから弾倉を入れてスライドは引かない。
家の鍵であるカードキーを持って、部屋を出る。
古くもなく、新しくもないが小綺麗なアパート。
1階なので階段の登り降りをしなくていいのが楽で、足音がうるさいと言われることもない。
そもそも、彼にとってはそんなことは気にしない。
他の住人の生活音が気になるなら田舎にで行くか一軒家でも借りろという話だ。
駅へと向かい、コンビニに立ち寄り、おにぎりを2つ買う。
改札へとスマートフォンをかざして電子決済で通って、ホームの待ち時間で朝食を取る。
食べ終わってほどなくして来る電車。中に入れば通勤ラッシュで学生や会社員で多くなる車内。
すぐに出れる扉近くの窓際で、ふと彼は外を見る。
広がるのは一面の海。
見慣れた風景ではあるが、少なくともこの光景を見ていると朝の気怠い感情が少し晴れる。
2つほど駅を越え、3つ目で降りる。
すぐには向かわず、駅の喫煙所で一服する。
そこでようやく仕事の気持ちに切り替える。
住宅街の、人が少なく最短距離で職場へと向かえる車2台分の幅の道。
(新人ね〜。後輩出来るのは嬉しいけど、面倒見るのは俺だろうな)
などと思いながら、どうやって教えたもんかと、彼は考える。
やることは決まっている。何を教えるかも分かってはいる。不安もある。
だが、考えても仕方ない。
そう一度、心の中で区切りをつけて彼は一度空を
そのまま交差点に差し掛かり――
「危なあ〜〜〜い!!」
若い少女の叫び声。
ベタな展開であるならパンを加えた少女と始まるギャルゲ的なストーリー。
しかし、そうはならなかった。
なぜなら――
――その子は原チャリに乗っていたから――
「ぐふッ!?」
悶絶の声。急ブレーキの音に続いて鈍い音。
かろうじて反応はしていたが、避ける間もなくそのまま彼は前輪部分に軽く跨がる形になる。
幸いにも吹っ飛ぶことはなかった。
が、軽い衝撃が股間を貫く。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
ヘルメットを被った少女は焦り気味に無事を確かめる。
青年は悶絶し、俯いた顔を上げて微笑む。
「ええ、無事です。続きは別の所で話を聞かせてくれますか?」
ガシャンと、少女の手首に手錠を付ける。
その光景にギョッとする少女は雄叫びを上げる。
「え、ええええええ!?」
「キサラギ
実際問題、アオイの言うとおりで一時停止の標識は近くにある。
しかし、アオイの見せた手帳で少女は別のことに反応する。
「ブリディアン?!」
「よくご存知ですね。まあ、詳しくは別の場所で聞かせて貰いますが」
丁寧ながらもアオイの言葉は威圧を含んでいる。
ビクビクしながらも、少女は言葉を出す。
「すす、すみません少し話を……いいですか?」
「事情とかはすみませんが、あとでお願いしてもいいですか?」
朝から最悪だと、アオイは内心でため息。
日常が始まるかと思えば、朝から非日常なハプニングである。
「分かりました……あとでにします」
と、少女は諦めて原チャリもとい原付きバイクから降りる。
聞き分けの良さにアオイは少し安堵する。
そのまま逃走される可能性もあったからだ。
「とりあえず、このまま一緒に来てもらいます。急いでたみたいだから、予定が遅れるとかの連絡はしてもいいですよ」
急いでた様子から、一応の配慮を少女にする。
「そうですね……初日から遅刻ですものね……」
「急いでたんでしょうが、社会人なら余裕をもっての行動ですよ」
どうやら初めての出勤らしい彼女。
実際に彼女が身にまとってる新品の黒いスーツは
ヘルメットを取れば、サラサラとした黒髪。
(幼さは残るけど、美人さんだな。どこかの令嬢みたいだ)
と、童顔ながらも育ちが良さそうな少女を観察してそう印象をもった。
それから少女は、スマートフォンでどこかに連絡を取る。
「すみません……
高天ヶ原と名乗る少女。
彼女は事情を説明してる様子で、みるみる顔色が悪くなる。
アオイが聞いている限り、嘘は言っていないようで、ある意味では誠実だなと思った。
情状酌量を出来る権限はアオイにはないが、
(初めての社会人で、さすがに不憫だな……)
そう思い、少女が事故を起こしたと報告する前にスマートフォンを取る。
「失礼……ブリディアンに電話を代わると、言ってくれます?」
「え? ……はい。すみません、ブリディアンの方に代わります」
高天ヶ原にスマートフォンを返したところで、一言告げて再びスマートフォンをまたもらう。
「どうもすみません。キサラギ橋上警備隊の橋上アオイです。高天ヶ原さんの上司の方ですか?」
『あー? 橋上? なんで?』
その気怠そうな女性の口調にアオイは覚えがあった。
「所長……? いや、上司って所長ですか?」
『らしいね。アタシ知らないけど』
「知らないって……」
『まあいいや。その子、連れてきてちょうだい』
「……分かりました」
上司の女性と知り合いであるらしい高天ヶ原にアオイは疲れた息を吐く。
事情聴取をしてました程度で済まそうと思ったが、アテが外れた訳である。
それから電話を切って高天ヶ原に返す。
「高天ヶ原さんでしたか? どうやら私の上司と知り合いらしいですね」
「え? 橋上さんの上司でしたの?」
「上司ですよ。……ともかく、行きますよ」
何となく考えられることが頭をよぎるが、アオイは手錠を外して少女についてくるように促す。
(いやー、まさかな〜……)
そう道中思いながらこれからのことに不安を募らせる。
ほどなくして着いたのは、2階建てのオフィスビル。
近くには黒塗りに車が1台。そして、空いてる駐車スペースが3台分。
アオイが入口を手帳でかざすと自動ドアが開く。
高天ヶ原は原付バイクを置いて、ほえ~とした何とも言えない間の抜けた表情をしてアオイと共に入る。
初めて訪れたテーマパークのような感じだ。
入ってすぐの白を基調としたオフィス。
中は綺麗とは言えないが汚くもない。書類が乱雑に置かれたデスクもあれば、綺麗に整えられたデスクもありと、机上だけでも性格が何となく分かりそうだ。
奥のデスクにいる人物がアオイ達に気付き、イタズラっぽい顔で、
「お〜……おはよう。朝から女遊びか?」
何とも失礼なことをいきなりのたまう。
奥のデスクにいたのは金髪のボサ髪にやさぐれた感じのツリ目の女性。
体を起こすことなく、ぐてーっと机に上半身を預けて言ってるのだから第一印象はだらしないとしか言いようがない。
「ふ、不埒な方ですか?」
「なんでですか……。いきなり本題入る前に出鼻くじかないで下さいよ、所長」
高天ヶ原の呟きに軽くツッコみつつもアオイは、所長という肩書きの金髪の女性にそう言う。
「ごめんごめん。で、高天ヶ原だっけ? アタシはここで所長やってる、
「そんな可愛らしい呼び方される年齢でもないでしょうに」
「いいじゃん。アタシを甘やかせ〜」
「で、知り合いですか?」
ココノの言葉を無視して、アオイは本題に入る。
ココノの扱いに手慣れた雰囲気である。
アオイの言葉にココノは机から体を起こして高天ヶ原をじっと見る。
真剣な視線に、高天ヶ原が少し背筋が伸びている様子だった。
しかし――
「ん〜? 高天ヶ原ね~……スリーサイズは?」
「え? スリーサイズですか?」
「そう、スリーサイズで思い出せるかも」
「えっと……あんまり覚えてないのですけど、一応は――」
「はい、ちょっと待ってねー。いきなり朝から頭痛い会話しないでくださいねー」
アオイもツッコみせざるを得ない会話に、すぐさままくし立てる。
男のいる場所でやる話ではない。おまけに高天ヶ原は恥じらいもなく答えそうであったことにも呆れる。
天然というやつか、と短い出会いでそんな印象をアオイは抱く。
それからココノは何かを思い出した表情をした。
「あ……もしかして新人ちゃん?」
「は、はい。ここに配属になりました。マルクブリディアンの高天ヶ原 ミズホです」
直立して階級を言う高天ヶ原ことミズホにアオイはやっぱりか、と頭を抱える。
ココノが上司で、しかも初出勤という条件の時点でアオイは半ば予想はしていた。
(よりによって、轢かれ掛けた相手が新人かよ……)
そう思うとこの新人大丈夫かともなる。
ブリディアン……これは彼らの役職――ブリッジガーディアン――それを略してブリディアンと呼び、橋の上の治安維持に貢献する組織の一員であることの証明だ。
橋の上の治安維持と聞くと、よく分からない話だが……アオイ達がいる場所は橋の上。
全長は100キロを超え、高さは約250メートル、幅は約5キロ。
巨大な橋の上に居住区があり、彼らはそこに住んでいるのだ。
別段、橋の上で人が暮らすことが特別なことではない。
ここは"そういう世界"なのだ。
「新人ブリディアンが初日で先輩のブリディアンを轢きかける。ハハ……笑えないんですが」
「笑ってるじゃん」
「乾いた笑いしてましたよね?」
ココノの言葉にアオイはツッコむ。
そのやりとりに高天ヶ原が少しばかり肩を落として身をすくませるのを見て「冗談ですよ」と短くアオイは言葉を掛ける。
ともあれ、新人である。
新しい子で女の子の後輩。しかも、割りと美少女。
テンションが上がる響きではあるが、今朝の出来事を考えると仕事上に不安が出る。
「何はともあれ、新人ちゃんだよ。しばらくはアオイとパートナーね。他に任せられる人もいないし」
「そうなりますよね~」
ココノの言葉に諦めに近い呆れと共に承諾するしかないアオイ。
新人の面倒を見るのは最初から分かってはいたので、特に驚きはない。
いない面子を含めてもアオイが一番下なのだ。
教えることも勉強だと先輩方に言われているので、そうなるだろうとは思っていた。
それからココノは思い出したように口を開く。
「ああ、そうだ。改めてようこそミズホちゃん。キサラギ橋上警備隊、第二十二警備所へ」
そうココノは歓迎の言葉を告げた。
それから続けて彼女は告げる。
「アオイの部屋で居住よろしくね」
「ん?」「え?」
それからミズホとアオイが顔を見合わせ――
「「えええええええっ!?」」
お決まりのように叫んだのだった。
緑より青が多い世界。
その青の上で暮らす人々。
それは、夢の浮橋のような物語。