俺は料理さえできればいい 作:サイリウムぶん回し隊
「あなたには大切な人はいますか?」
そういうTV特集をしていた。6月といえば梅雨とか色々あるが・・・そのうちの一つでジューンブライドというものがある。由来は諸説あるが簡単に言えばその月に結婚すると縁起が良いとされている。
偶然にも俺たちは6月に結婚してるんだよなぁ。本当にたまたま6月だったけど偶然な出会いで切っても切れないくらい深い縁があったらしい。大好きが溢れる彼女と大好きを伝えるのが苦手な俺。
そうだな・・・記念日くらいは正直にならないとな。高校を出て大学に行ったあと、俺は料理人・・・にならず料理を教える先生となった。料理を作るのが好きで料理さえできればよかった俺だけどどうして料理の先生になったのかは・・・
やっぱりきっかけは今の嫁のせいだろう。今でこそだいぶマシになったもののうちの嫁の料理スキルは正直酷かった。あの時の俺は特に良くも悪くも料理にしか興味なかったよな。嫁さんは料理が得意か苦手かはともかくとして料理を作るのが好きだったのが幸いだったが・・・
けど・・・嫁にしても
「はい、てなわけで今日は嫁が帰ってくるまでにおうちで簡単に作れるスイーツ、バウムクーヘンについて紹介する」
俺の名前は片山 夏樹。職業は料理の講師、定期的にいろんな年齢層を対象に料理教室を開いたり、母校の虹ヶ咲学園のライフデザイン学科で非常勤で講師をしたり大きく括れば料理の先生が俺の本業。それとは別に仕事ではないがもう一つ、動画配信もしている。おかげさまで登録者数は最近10万人になった。
虹ヶ咲学園に在学していたときに後輩の情報処理学科に所属していた奴がこういう編集とかが得意でそのノウハウを生かして始めたけど需要がありそこそこ男性のチャンネル登録者もいる。まあそれでもこの動画を見てるのは女性が大半らしいが・・・ネットの世界は怖いので基本は声と手元だけ映してる。まあそれでも一部には身バレしてるけどな。
「バウムクーヘン・・・本場はドイツのスイーツだがバウムクーヘンの断面の模様が木の年輪に見えて繁栄、長寿、幸せを重ねるなど縁起の良い言葉を連想させるから今好きな人とかいるならバウムクーヘンが送るのがおすすめだ、けど問題は一般家庭でもバウムクーヘン作れるの?という話だよね」
一般的にバウムクーヘンは専用の機械で作っておりお店での売り物も基本的にはそういうものがほとんどだ。でもそんなバウムクーヘンもアレンジひとつで家でもお手軽に作れたりする。色々なものを在学中に作ってきたがこういうのも視聴者の中では需要があるらしい。
「けど大丈夫。そんなあなたに朗報です!家で作れるのか分からないそこのあなた、今回は簡単だけど本格的に作れるバウムクーヘンを伝授します。まず用意するのはアルミホイルの芯です」
これがバウムクーヘンを作るための大切なものだったりする。更に今回は簡単にかつシンプルに作れるものとしてフライパンで作っていこうと思う。とりあえず編集でアルミホイルの芯は後で使いますと入れておこう。
「バウムクーヘンの作り方を3段階で紹介します。まずは1段階目、ボウルに砂糖、はちみつ、溶き卵、牛乳を加えてよく混ぜ合わせます。ホットケーキミックスを加えて粉気がなくなるまで混ぜ合わせて溶かしバター、バニラオイルを加えて混ぜます」
とりあえず材料と調理器具はいつも通り概要欄に押さえておこう。あまり長いと視聴者が飽きてしまうから短く簡単にまとめると良いって言ってたしな。
「第二段階、卵焼き器にサラダ油を引き中火で熱しペーパーで油を拭き取ります、そして最後で焼いて完成ですが・・・ここで本日のキーアイテム、アルミホイルの芯の登場です」
普通のフライパンでも良いがより簡単にするために卵焼き専用のやつを使うと良いだろう。ここも編集しておくか。
「弱火にして生地をおたま1杯ほど入れて全体に広げ、アルミホイルの芯を卵焼き器の奥におきます。
生地がふつふつとしてきたら奥から手前に向かって生地を転がしながら巻きます。火加減は様子をみながら調整してくださいね」
あとはこれをだし巻き卵と作る容量で繰り返すだけだ。そしてある程度のサイズになったらアルミホイルの芯を抜き取って等間隔に切ったら・・・・
「子どもから大人まで大好き、絶品バウムクーヘンの完成です、家族や先輩、恋人など、日頃お世話になってる人に感謝を伝えましょう」
とまあこんな感じであとはカットと編集して3〜5分くらいの動画にすれば完成したけど・・・・そろそろ仕事から戻ってくるはずなんだけどなと思ったら扉の音が鳴った。
「ただいま帰りました」
「おかえり、仕事お疲れ様」
「ありがとうございます、今日は動画編集をしてたのですか?」
「最近講師の仕事とか本業が色々あったから久しぶりにな」
「やっぱりそうだったんですね、それで今日は何を作ったんですか?」
とワクワクしていたがまずはお風呂にでも入ってこいと言って一度追い出した。実は動画編集とは別にもう一品作る予定でいた。いやっ、一品とも言わないか。作るのは紅茶だしな。これに関してはあまり得意ではなくパイセン・・・・彼方に何度も教えてもらってようやくものにしたというところだけど。虹ヶ咲学園を卒業して今もなおなんだかんだで例の同好会のメンバーとは何かと交流がある。今でもわからない、全く縁のなかったあいつらとどうしてここまで切っても切れない関係になったのかが。
そんなわけでバウムクーヘンと紅茶が完成した。インスタ映えしそうだけど俺はインスタやってないしな。後で嫁さんのアカウントで投稿してもらうとするか。
「上がりました。ぽかぽかで気持ちよかったです」
「そりゃよかった」
「今日はバウムクーヘンなんですね。そういえば夏樹くんの作ったバウムクーヘンは初めてですよね」
「動画用に作ったやつだからすごく簡素なやつだけどな」
「けど夏樹くんの作る料理は大好きですよ。出会った時からずっと・・・」
そう言って彼女はドストレートに気持ちをぶつけてくる。スクールアイドル時代だった時もそうだったがリアルにアイドル・・・自分の好きな道を進んでからウチの嫁さんはあの頃よりも更に輝いてる。アニメもライトノベルも好きな彼女はアイドルと兼任にして声優活動もしている。声優界の方ではキャラクター愛が強すぎて視聴者からはこちら側の人間と言われてるがこの業界のことは詳しくないから何のことか分からないが・・・
「ところでお前はバウムクーヘンの意味を知ってるか?」
「バウムクーヘンの意味ですか?いえっ・・・そういえばバレンタインの時にも渡す時も渡すものによって意味がありましたよね」
「そうだな・・・少なくともその時はそこまで考えてもなかったが・・・」
母の日にカーネーションを送るように花には花言葉やその意味が込められてるように料理にも一つ一つ意味がある。俺は正直おせち料理くらいしか知らなかったからな。普通のお菓子とかプレゼントするのにも意味なんて拘ってこなかったわけで・・・
「バウムクーヘンというのは断面の模様が木の年輪に似てるってことから繁栄、長寿、幸せという意味があるんだよ。まあつまりあれだ結婚記念日に作ったデザートとしては良い意味だと思うけどな」
「・・・夏樹くん、ちゃんと覚えてたんですね、結婚記念日のこと」
「・・・忘れるわけないだろ」
料理さえできればいいと思ってた俺がそれと同じくらい大切なものに出会えたんだからな。お前がマンガやライトノベル、スクールアイドルが大好きだったように俺も伝えよう。俺なりのやり方でな。
「まあそのアレだ。大好きな気持ちは多分お前と同じくらいあるってことだよ。てなわけでこれからもよろしくな、菜々」
「はいっ、これからもずっと、ずーっとよろしくお願いします夏樹くん」
「・・・紅茶が冷める。早く食べようぜ」
「じゃあ夏樹くん、私にあーんしてください」
「なんでだよ・・・」
「むーっ、夏樹くんはもっと料理以外でも愛情表現を表に出すべきです。私の夫ならもっと素直になってください」
もっと素直にねぇ・・・俺はお前と違って大好きを直球で伝えるのが苦手なんだよ。いやっ、正確には苦手なんじゃなくてしたら止まれなくなる。それくらい今の菜々は・・・せつ菜はどうしようにもなく可愛くて仕方なかった。
「じゃあせつ菜、食べさせてやるからじっとしてろよ、ほらっ行くぞ」
「え、えっといきなりはちょっと。まずは心の準備というものが・・・」
ああダメだ、可愛すぎてもう無理。
「待てないっ」
そう言って俺はフォークに刺したバウムクーヘンをせつ菜に食べさせる。顔を真っ赤にする彼女がどうしようにもないくらい可愛くて自分を抑えられなくなってくる。
「どうだせつ菜?」
「・・・恥ずかしすぎてよく分かんないです。夏樹くん、不意打ちは良くないですよ!ま、まあラブコメの定番のシチュエーションではありますが」
「けどずっと時を遡ったら先にやってきたのはお前だけどな」
部室で弁当を食べた時・・・確かあの時は璃奈もいたよな。高校2年くらいだったけど覚えてるものだな。
「じゃあ今度は私が夏樹くんにあーんしてあげます。お返しに夏樹くんも恥ずかしがってください」
「やなこった」
そう言ってフォークを差し出す彼女を軽くあしらう。悪いなせつ菜、俺にもプライドがあるんだ。
「もーっ、もーーーっ!」
そう言ってぽこぽこと彼女は両手で殴ってくる。こういう生活が悪くないと思ってる辺り俺もずいぶんバカになったな・・・なんて思ったり。
「何というかこういうコロコロ変わると表情のせつ菜は他の人に見せたくないな」
「私も・・・カッコいい夏樹くんを見ると他の人に見られたくないなって思います。普段バラバラでそれが私たちらしさだったスクールアイドル同好会。なのにやりたいことがバラバラだったのにどうして好きになった人はみんな同じだったんですかね」
「・・・自覚なくて本当に悪かったと思ってるよ」
「本当に夏樹くんは今もたまに良くも悪くも料理にしか興味ないところあるので気をつけてください」
「失礼な、今は料理だけじゃなくてせつ菜のこともちゃんと好きだぞ」
「・・・っっ!!そういうところですよ夏樹くんっ!」
俺はちゃんとせつ菜のことも好きなのにそれを伝えたら怒られてしまった。なぜだ・・・
「それでせつ菜は次いつ休みなんだ?」
「今は忙しくてもう少し先になりそうですね。けど夏になったら少し長い休みが取れそうです」
「そうか・・・じゃあ夏は旅行に行くのもいいかもな。何気に新婚旅行行ってなかったし」
「それはいいですね、せっかくですし海外とかいいかもしれないですね。海外ならどこに行きますか?」
「どうせ行くなら料理の美味しいところがいいよな」
「・・・・」
「せつ菜の言いたいことは大体わかるが結構重要なことだぞ」
そもそも日本の料理って衛生面や味含めても世界トップクラスだし、水道水だって飲めるのも世界だと日本くらいだ。海外の食べ物は日本人には合わないものが多い。
「スイスとかはどうかな?あそこはエマの故郷だし」
「昔、写真見ましたけど景色とかいいんでアリかもしれないですね」
エマが紹介してくれる料理店ならまずハズレはないだろう。そういう意味では同好会のメンバーの中でエマほど信頼できる人物はいない。けどエマの場合はチェーン店勧めてくることもある。日本のチェーン店も大概レベル高いからまあ気持ちは分かるが・・・
「8月に行ければいいな、俺たちの誕生日近いし」
実は俺たち誕生日が近かったりする。そもそも片山家は生まれた季節で名前をつけてるらしい。妹の美秋は10月生まれで姉は4月生まれだ。俺は8月の夏生まれだから夏樹って名前にしたらしい。
「じゃあその辺にするか。楽しみだな」
「そうですねっ。旅行もいいですけど今こうやってあなたと過ごせることが1番の幸せです。大好きですよ夏樹くん、誰よりも」
そう言って彼女は大好きな気持ちを伝えてくれる。そうやってお前が想いをぶつけるから恥ずかしくても男としてはきっちりとその想いを言葉にして伝えないといけない。
「俺も真・・・面目でストイックなときの
そこまで真面目に伝えたあとに身体中の熱が上がっていく。やっぱり直接気持ちを伝えるのが不得手でその後に食べたバウムクーヘンはいつも以上に甘いものだった。
片山 夏樹
大学卒業後に菜々(せつ菜)と結婚した。料理の講師兼動画投稿者として活動している。チャンネル登録者および母校の後輩に料理目的でライフデザイン学科に男子がいたりするので数年越しにようやく追いついてきた。
片山 菜々(優木 せつ菜)
卒業後はアイドルとして活動することになり、優木 せつ菜をそのまま芸名として使い続けている。ライトノベルやマンガが大好きだったこともありアイドルと声優を兼任している。夏樹との結婚に関しては表舞台では知られてない。
というわけでジューンブライドをテーマにしたお話でした。まあこれがこの先可能性の一つでどうなるかは分からないのでIFとなっています。それと果林さん誕生日おめでとうございます。主人公と絡んでないせいで素通りしました。という理由で誕生日回何かと言い訳つけて全て素通りしようとしたら次避けたら殺されそうなのでここのIFで繋ぎを書きました。
この話が続くとするなら次回の投稿は8/8になります。
本編は7月になったら更新します。今月もありがとうございました。