俺は料理さえできればいい 作:サイリウムぶん回し隊
部室の空気を入れ替えるために窓を少し開けてからため息をつく。
今この男子料理研究会で深刻な問題が起きている。設立して一年、新入部員も入らず同好会としての成果もほとんどない。場合によってはこのままだと廃部まっしぐらである。むしろよく1年持ったなと思ってたけど中川のやつがなんとかしてくれてるのかもな。あいつも廃部にはなってほしくないから出来る限りのことはするとは言っていた。けど中川に頼ってばかりもいられない。まず当面の目標は部の昇格だがそもそも一緒に料理をする人が欲しい。できれば同性で・・・
しかし虹ヶ咲学園の男の数は少ない。確かにあまりすれ違わないもんな。トイレも遠いし数も少ないから不便だし。まあそれはいいのだけど新入部員の獲得は非常に難しいのが現状だ。少しでも料理に興味を持ってくれてるそんな生徒が欲しいのだが・・・・
中川の調べたデータによると男子は軒並み運動部に所属しているらしい。文化系の部活に所属している男子がそもそも1割いるかいないかの話らしい。つまり今年も料研の勧誘は難しいらしい。まああれこれ考えても仕方ない。
というわけで今日も作っていきますか。この前バナナを買ったんだっけ?というわけでバナナを主役にした何かを作ろう。と言っても俺は甘いものはあまり好まない。なのでバターとか使わず糖質を抑えて作っていこうと思う。
とりあえず卵をとく片手間にオーブンに予熱を入れておくか。さてとまずはボウルに剥いたバナナを3本でいいか。こいつを入れてヘラで潰す。そこにレモン汁をくわえて混ぜたら溶き卵とはちみつ、無糖のプレーンヨーグルトを入れてしっかりと混ぜたら・・・
ホットケーキミックスとベーキングパウダーをふるいながら加えてさっくりとまぜる。ある程度生地が固まって一つにまとまってきたらクッキングシートをしいた型にさっきまぜたのを流し込んであらかじめ予熱を入れていたオーブンの温度を180℃にして30分焼いて完成だ。今回は非常にシンプルなので特に説明することはない
〜☆〜
というわけで30分とちょっと経過して非常にシンプルな身体に優しいバナナのパウンドケーキ。食べやすいように少し冷ましたしこんなもんだろ。ホイップクリームやフルーツはお好みでどうぞ。えーっといつもは中川に試食してもらってるんだけど今は確か部活の時間だったよな。スクールアイドルだっけ?
前聞いた中川・・・じゃなくて優木 せつなの曲はすごく良かった。あんな形になってしまったけど今度はしっかりと見てみたい。そう思うくらいには多少ではあるがスクールアイドルには興味が湧いてきていた。にしても俺が料理以外に興味を持つなんてな・・・ずっと料理以外は興味湧かないと思ってたのに意外なものだ。
「とりあえず中川にメールだけ入れておくか。それで反応を・・・」
「にゃー」
「うわっ!なんだこの猫!どっから入ってきた!?」
メール打ち終える前に送信ボタン飛ばしてしまった。何しやがるんだこの猫。というか学校に猫?なんで猫?どういうわけで猫がいるわけ?別に動物は嫌いではない。むしろどっちかといえば好きな方だ。好きな方なんだが問題が一つあって俺は非常に動物に懐かれにくい。子どものころ、猫を触ろうとしたら顔面を爪で引っ掻かれ、犬には腕を噛み付かれるなど・・・・まあロクな思い出がない。
むしろロクでもない目にこれだけあっておいて動物嫌いになって無いのは割と奇跡だと思う。いやっ、流石に警戒はするけどね。今までが今までだったから何というかうんっ・・・
「にゃー」
にしてもやっぱり子猫というのはいいな。触りたいけど触ろうと思っても警戒されるんだろうな。あっ、そもそも文途切れたままだったし送り返すか。既読は・・・ついてない。なら訂正を・・・
「にゃーっ」
「って、まちょっと待った!待つんだねこ!話し合いを求める」
ちょっと目を離した隙に猫は今日作ったパウンドケーキの目の前にいた。ねこはじーっとパウンドケーキを見つめている。ねこに不用意に食べ物を与えてはいけない。それによって身体を壊すからだ。
しかし今回の作ったもの。形状はともかく、バナナも中身に含まれてるヨーグルトもねこに与えて問題のない食べ物ではある。パウンドケーキで与えていいかは別としてだ。
「ねこ、交渉だ。一口はくれてやる。だがしかしそれ以上はお前のことを思ってだ。身体を壊したくないかつそいつを食べたければ大人しく俺の指示に従え」
「・・・・・」
「ごくりっ・・・・」
静寂な時間が流れる。一歩でも動けばゴングが鳴る。交渉が決裂してしまう。ねこさんとわかり合うためお互いの利害の一致のためにもここはなんとかこの条件で・・・
「ガタッ・・・」
「なら二口だ!これ以上は譲歩せんぞ!」
「・・・・にゃー」
交渉は成立したらしい。俺はねこの分を切り分けて皿の上に置く。にしても中の食材は問題ないとはいえパウンドケーキの状態で与えていいのか。少し調べてみるか。
「ほらっ・・・」
「にゃーっ・・・ぺろっ、はむっ、ガツガツ」
とりあえずねこさんは食べてくれた。やはり近くで見るとかわいいものだな。頭を撫でたい・・・じゃなくて身体に害がないかだよな。なるほどね、調べてみるとパン系は健康な猫であれば食べても問題はないと。しかし積極的に与えるものでもないから充分注意してくれか。
少量かつ猫の身体に悪くなければ問題ないらしい。つまり大丈夫ということだな。これ以上与えなければだけど・・・・にしても本当にどこから入ってきたのだろうか。部室のドアは閉めてるし考えられるとしたら・・・
換気するために開けた窓。やはりここからだったか・・・・にしてもこの猫は野良だよな?首輪もないしこの辺に住んでるのだろうか。
「にゃー・・・」
「カス残さず綺麗に食べてくれたな。そんなに美味かったか?」
「にゃー!!」
なるほど。どうやら美味しかったらしいけどよくわからない。こういう時動物と話せたら、もしくは動物の言葉が分かるツールとかあったら便利なんだけどな。
「くか〜っ」
「自由気ままだな」
あくびをしながら猫は身体を丸くする。もしかしたら今がチャンスなのでは?今まで猫を撫でようとしたら逃げられ、引っ掻かれ、突進されるの三拍子。好感度がマイナスに振り切っていたけどもしかしたら人生で初めて猫と分かり合える日が来たのか。餌付けか?やはり餌付けが正義なのか?ちゅーるでも寄られるところが逆に逃げられるこの俺にもついにこの時が来たのか。
やべぇ、興奮してきた。もしお前がいいのであれば少しだけでもいい。お前の頭を・・・
「・・・はんぺん、ここにいた」
「うわァァァァァァァァ!」
頭を撫でようとした瞬間、いきなり現実に戻された。隣にはいつの間にかピンク髪の女の子がいた。背が低いしもしかしたら一年か?それよりもいつから入っていた。全く気が付かなかった。
「ノックしても返事ないし、失礼しますって言って入った。あなたが寝てるはんぺんを見ながらボソボソ呟いてたから・・・」
「つまり、全部見られてたと?」
「うんっ・・・挙動不審で思わず通報するところだった」
無表情で恐ろしい事をさらっと言った。いやこえーよ、そんなにやばかったのか?もしかしたらあれなのか?猫に今まで引っ掻かれたり、タックルされたり逃げられたりしたのは・・・
「その挙動不審な態度だと思う」
「うんっ・・・心読むのやめてもらっていいすか?」
「あなたが分かりやすいだけ・・・」
「そうっ・・・・」
なるほどね、ずっと動物に逃げられてたのはそんな理由があったからなのか。悲しすぎる、どんな挙動してたんだ俺は!そもそもねこに交渉持ちかけること自体がヤバいことだったのでは?
「というよりこのねこは君の?」
「ううん、私の家はマンションだから飼えない。だからはんぺんは『生徒会おさんぽ役員』に就任という形で追い出されるのを免れた。生徒会長様様」
「なるほど・・・中川らしいやり方だな」
普段は堅物生徒会長だけどあれでもかなり寛容な性格だからな。校則の穴をつくのは彼女の考えそうなことである。
「・・・生徒会長と知り合い?」
「まあ色々あってな。というよりねこを探してたんだっけ?」
「名前ははんぺん」
「・・・ずいぶん独特な名前だな」
にしても身体が白いからはんぺんなのだろうか?だとしたら安直にも程があるだろ。
「ところでこの部屋、なんか甘い匂いがする」
「パウンドケーキを作ったんだよ。ここは男子料理研究会だからな」
「料理研究会?」
「料理のテーマを決めてそれを作ってからいろんな感想をもらっていろんなアイディアレシピを作る・・・同好会なんだけどメンバーはまあお察しの通りだ」
「部員1人なのは悲しい・・・」
「まあそのうち入る事を期待しているよ。どうする?はんぺん連れて帰るか?」
「・・・その前にこのパウンドケーキが気になる。璃奈ちゃんボードワクワク」
そう言って彼女はスケッチブックを取り出してワクワクしてる顔のページを開いて顔を当てた。なんというか凄い独特な感情表現だ。さっきから表情全然動いてないけど感情自体はあるのか。
「・・・なら食べるか?はんぺんも食べてしまったし」
「食べさせて大丈夫だったの?」
「調べてみたけど少量だと問題ないらしい。あとは中に含まれてる成分にもよるけどバナナとヨーグルトは猫に与えても問題ない食べ物だよ」
「・・・なるほど。じゃあ私も食べる。はんぺんが問題ないなら私も問題ない」
そりゃ人間ベースに作ってるからそこの心配はいらんだろとは思ったが黙っておくことにした。
「これが・・・いただきます」
「おうっ」
「ぱくり・・・もぐもぐ」
彼女は一口食べてからスケッチブックを取り出した。ページをめくって「!」の顔を出す。そして次のページをめくると満面の笑みを浮かべたページだった。
「・・・これは美味。美味しすぎてぽっぺが落ちちゃいそう。お店で売ってるケーキみたい」
「・・・それはちょっと大袈裟なんじゃ」
まあ褒めてくれるのは嬉しいねぇ。素の表情の方が全く出てないから逆に怖いけど
「そんなことない、こんなに美味しいケーキは初めて食べた。甘すぎないからきっと紅茶にも合う」
「紅茶か・・・その発想はなかったな」
女子ならではというか確かにこういうのには紅茶って決まってるよな。ただ残念なことに俺に紅茶の知識は皆無だ。良い機会だし紅茶の本でも買ってみようかな。練習すればできるようになるだろう。多分・・・
「参考になったよ、ありがとうすごくいい感想聞けたよ」
「お礼を言うのはこっち。美味しいお菓子をありがとう。えーっと・・・」
「そういえば自己紹介がまだだったな、俺は片山 夏樹。ライフデザイン学科の2年生だ」
「私、天王寺 璃奈。情報処理学科の一年。片山さん、よろしく」
「おうっ・・・それで一つ聞きたいことがあるけどいいか?」
「・・・うんっ。どうかしたの?」
「いやっ・・・はんぺんって撫でても大丈夫かなって・・・」
「はんぺんは基本的に人懐っこいから問題ない。けどさっきの挙動を見たら多分はんぺんは逃げる」
「・・・そんなに酷かったのね」
「そんなに身構えないでいつも通りに接すれば問題ない。変に緊張する必要ないから」
「なるほど・・・」
とりあえず撫でてみますか。というよりはんぺんは寝たままだし大丈夫だ。息を吸って吐いて・・・深呼吸してリズムを調える。寝てるはんぺんに近づいてゆっくりと手の伸ばす。平常心、平常心と心の中で繰り返して数センチ数ミリまで近づいて・・・
ガタンッと大きな扉が開く音がした。
「夏樹くんっ!途中でメールが途切れてましたが何かあり・・・」
その大きな扉の音にびっくりしたはんぺんは飛び起きてから走って窓の外へ出て行った。good-by hanpen・・・・
あともう少しだったのに・・・・くそっ、くそっ、
「あれっ・・・・どうしたんですか!夏樹くんっ、この世の終わりのような顔してますよ!しっかりしてください夏樹くん!」
ブンブンと身体を揺さぶられるがそんなことすら頭に入ってこない。この世に生を受けて17年。今日も結局猫を撫でるという夢は・・・中川、じゃなくて優木 せつなの乱入により叶わないものとなった。
「せつ菜さんだ。どうしてここへ・・・」
「私は夏樹くんからメールがあったのですが璃奈さんはどうしてここへ?」
「はんぺんを探していたらここにたどり着いた。ついでに凄い料理の上手な先輩と知り合いになった。これは非常に美味、是非愛さんにも食べさせてあげたい」
「そうですね・・・ところで夏樹くんは大丈夫なのでしょうか?」
「分からない・・・はんぺんを撫でられなかったからしばらく立ち直れないかもしれない」
どうせ俺なんか俺なんか俺なんか俺なんか・・・・
「片山さん、今度はんぺんを触らせてあげる・・・だからこのパウンドケーキ、愛さんにもあげていい?」
絶望していた俺に一筋の光が。もしかしたら彼女は女神なのかもしれない。
「・・・本当?」
「璃奈ちゃん、嘘つかない『璃奈ちゃんボード、任せとけ!」
そう言ってドヤ顔したボードを顔に当てる。愛さんがどなたか知らないけどはんぺんを触れるなら安いものだ。俺は立ち上がって無言で握手を求める。
「交渉成立。『璃奈ちゃんボード、計画通りだ』」
「デス○ートの夜○月さんのセリフですね。それにしても璃奈さんのボードの表情もすごい種類ですね」
がっちりと握手したのは良いけどなんだろう。もっと別の所にツッコミを入れないといけない気がしたけどアニメ?なのだろうか。知らないネタなのでどうしようにも出来なかった。
片山 夏樹
動物好きだけど生まれてこの方動物に好かれたことがない。完全無欠のハイスペックに思われがちだが人間付き合いだけはあまり得意ではないためそれが動物相手にも反映されている。つまり不器用である。
天王寺 璃奈
策士である。はんぺん交渉材料にしたらなんでもやってくれそうな人として主人公のことを認識している。
はんぺん
本作の真のヒロイン。主人公が最も仲良くなりたい生き物である。
作者からの謝罪
始めたタイミングもあれですが3話投稿してこのスピードで初期9人のアイドルのうち8人のスクールアイドルとエンカウントしたのに唯一出てない残り1人がよりによって今日誕生日なの本当に申し訳ない。
本当は誕生日会とか書いたりするんでしょうけどまだエンカすらしてないのでどうしようにもできません。とりあえず愛ちゃんお誕生日おめでとう。次回出すから許してください。