偽・伏黒宿儺   作:二十口山椒

11 / 23
09:撫子深夜③

 朝早くに起きて、というか無人島での朝早くに起きるという習慣が根付いているからどれだけ夜遅くまで起きていても朝早くに起きて軽く鍛錬をしてから紋様の従者の仕事をしていたりしていたらヒュームさんに呼ばれてついて来いと言われた。

 

「どこに行くんですか?」

「才能を腐らせた危険人物のところだ」

 

 ヒュームさんと共に多馬川のやや上流に位置する河原に向かうと、鍋を準備している人たちがいた。

 

 どう見てもアウトローな人種たちだ。

 

「嘆かわしいな。なぜ貴様はそんなことをしている」

 

 ヒュームさんはおっさんに話しかけて、俺はヒュームさんの少し後ろで様子を見ていた。

 

 そこそこ強いな。おっさんにしても、後ろの女性たちや男にしても。

 

 ヒュームさんが言う才能を腐らせた危険人物は、まあおっさんだろうな。

 

「お前は才能の塊だったのに、腐ってしまったとは……鉄心は何をしているのだ」

「何の用だ? これから楽しい朝飯なんだけどよ」

 

 川神は元々治安が悪いところがあったようだが、それを武士道プラン導入に際して九鬼が治安が悪いところを潰していったのはステイシーさんや李さんから聞いた。

 

 俺はそれには参加していない。

 

 まあヒュームさんがおっさんに向けての話を聞くと、この川神は大事な場所でアウトローの人たちを野放しにするのは危険だからまともな職業に就けとのことだ。

 

「では川神らしく腕ずくだ。俺が勝ったら就職しろ、と言いたいところだが今回は俺の弟子で勘弁してやろう」

「あ?」

 

 おっ? 俺が呼ばれたのはこのおっさんと勝負するためか。それはいい経験になりそうだ。

 

「このガキか?」

「あぁ、そうだ。俺は手を出さん」

「俺が勝ったら、俺やこいつらには干渉するなよ」

 

 何だかんだ言って後ろの人たちを大切にしているんだな、このおっさん。

 

 俺はヒュームさんの前に出ておっさんの前に立つ。

 

「どうも、ヒュームさんの弟子です」

「怪我してもしらねぇぜ」

「師匠そんな奴やっちまえ!」

 

 川神先輩、いや百代先輩の時もそうだが、俺はあまり強くは見られないらしい。

 

 呪力というものをあまり感知できないようだ。ヒュームさんと出会った時は死が付きまとう力を出して周りを不幸にしていたから嫌でも分かったのだろうが。

 

 まあ体を鍛えているからある程度の強さを持っているのは分かるようだ。

 

「本気でやれ。腐っても才能の塊、それで死ぬような赤子ではない」

「了解です」

 

 ヒュームさんにそう言われて本気の一撃を喰らわせることにした。

 

 何も術式を使わずに殴って終わらせた方が納得もしてくれるだろう。

 

 おっさんから壁超えの力が放たれたが、それ以上の蹴りをぶつけて一撃で沈めた。

 

「……よわ」

「所詮赤子同然だからな。お前が負けるわけがない」

 

 たださすがは壁超えの人間だ。地面に横たわっていても意識はあってうめいている。

 

「ぐぅ……何だよこの力は……」

「人を見かけで判断していけないということが身をもって分かったな。それに、お前がきちんと鍛錬していれば分かったかもしれないが……今のお前なんぞ、赤子のような存在だ」

 

 おぉ、ヒュームさんがしめてくれた。

 

 これじゃあ経験値を得ることができなかったな。本当に強そうではあるが、それでも鍛錬していないからどうしようもないのだろう。

 

 それから女性たちにも就職しろということを伝えて終わった。

 

 

 

 昼休みになり、紋様の連れが二人いた。一人は不純物だが。

 

 一人は昨日掌握した1Sの元リーダーのムサコッスは全然いい。だがもう一人が不純物なのだ。

 

 スキンヘッドの二年生、井上準が不純物だ。

 

 弁慶先輩に井上先輩がロリコンだと教えられた。紋様は十八歳以上だが、井上先輩は紋様が仕えるに相応しいと感じたのだろう。

 

 それにしては現実でいたらやべぇな。与一先輩よりタチが悪い。

 

 井上先輩は単純に紋様に使ってほしいのだろうが、ムサコッスは全然下剋上を狙っているな。こういう人間が諦めるわけがない。

 

 たとえ痛い目を見ても、失敗しても、その日の調子が悪かったのだと理由をつけて今度は行けると思うはずだ。

 

 それはともかく、クラウディオさんがいてなおかつ今から向かう二年生のところには同じ二年生である井上先輩がいるから俺は用済みとなった。

 

 まあ何かあったとしても一瞬で移動できる距離だから問題なかった。

 

 俺はと言えば、2Sの教室に来ていた。

 

「失礼します」

「こっちこっち」

 

 弁慶先輩に呼ばれてこの教室に来たのだ。

 

「深夜か! 紋はどうした?」

 

 当然この教室に来れば、英雄様と会うことになる。

 

「今はクラウディオさんが付いて、井上先輩が案内しているので自分は外されました。何かあれば学校の範囲内であれば、すぐに駆け付けることができます」

「あれだけの力を持つお前なら信用できる。紋は任せたぞ!」

「はい、お任せください。英雄様」

 

 英雄様から離れて、俺を呼んだ弁慶先輩のもとに向かう。弁慶先輩の横には義経先輩がいて与一先輩はいなかった。

 

「あまり期待せずに呼んだけど、よく来た」

「井上先輩が学園を案内しているそうなので、手が空いて来れました」

「あぁ、あのとんでもないロリコンか」

「紋様に危害は加えないとは思いますけど、警戒はしておきます」

「あれに心を許しておくのはヤバいから正解だね」

「ロリコン。昨日弁慶から不治の病だと聞いて覚えたぞ」

「あぁ、それは間違いないですね。現実世界であそこまでネジが外れているのは初めて見ました」

 

 こんな世間話をするために呼ばれたのだろうか。

 

「俺に何か用事ですか?」

「うん? あぁ、深夜に酌をしてもらおうと思って呼んだだけ」

「それだけですか?」

「ダメだった?」

「まあ、特に用事がないのでいいですよ」

 

 弁慶先輩から瓢箪を受け取って弁慶先輩のおちょこに川神水を注ぐ。

 

 ……おいこれは、川神水を目の前で飲まれたら飲みたくなるだろうが……!

 

「飲みたい?」

「……それが目的ですか」

「ごくごく、ぷはぁっ! 川神水が美味しいなぁ」

「クソッ……!」

 

 美味しそうに川神水をのむ弁慶先輩に血涙を流しそうだ。こんなことのために呼んだとか、もう絶対に夜食とか作ってやんねぇ……!

 

「べ、弁慶! 撫子くんをイジメてはダメだぞ!」

「イジメているんじゃないよ、からかってる」

「義経は同じだと思う!」

 

 義経先輩が弁慶先輩を諫めてくれる。それがきくかどうかは別だけど。

 

「いいですよ義経先輩。俺は気にしていませんから」

「だが義経は家臣を叱らねばならない」

「これから弁慶先輩が部屋に来ても招かずに部屋の中で料理を一人で食べることをするくらいしか気にしていませんから」

「それはかなり怒っているのではないか?」

「そ、そんな非道なことを……本当にやるつもりか!?」

「まあ? 弁慶先輩の行動次第ですね」

「くっ、何を要求するつもりだ……!」

「今日俺の部屋に来るまで川神水禁止ということで。それが嫌ならもう部屋に来ないでくださいね」

「……わ、分かった……あぁ、もう震えてきた」

 

 えー、別に弁慶先輩が来ないという選択肢をしても良かったのに。

 

「す、すごいぞ! 弁慶に言うことを聞かせている! 義経は尊敬する!」

 

 すごいキラキラとした目で俺のことを見てくる義経先輩。

 

「義経先輩、アメとムチはこうやってするんですよ。今度やってみたらどうですか?」

「よし、頑張る……!」

 

 まあ義経先輩が弁慶先輩相手にどうこうできるとは思っていないし何なら反撃を喰らうと思うがそれは黙っておく。

 

 弁慶先輩と義経先輩の二人と喋っていると、紋様が英雄様に学校で会いに来るために2Sの教室に来られた。

 

「深夜。二人と一緒だったのか」

「はい」

「それにしても、与一はいないようだな」

「そのようですね。そこら辺は自分が周りの人と上手くやるように説得しておきます。仲良くするわけではないので、大丈夫でしょう」

「うむ、頼りにしているぞ!」

「はい」

 

 これから弁慶先輩を抑えておくとか言いながら中二病を織り交ぜれば、まあ上手くいくだろう。

 

 それに帳をおろして秘密の会話、みたいな感じなのも与一先輩は喜びそうだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。