「紋様、今日は一風変わった登校をしませんか?」
「ほお、申してみよ」
登校する時間となり、いつもなら紋様は車での登校になるのだがヒュームさんやクラウディオさんに相談して紋様が許されるのなら許可するということになった。
「式神に乗って登校しませんか?」
「お前の式神は大体見たが、見ていない式神か?」
「いいえ、自分の式神は影を媒介にしているものなので大きさを呪力量に応じて変えることができます。なので」
両手で先に鵺の形にしてから玉犬の形にすると、先日紋様にお見せした玉犬よりも何十倍と大きくて翼の生えた玉犬が顕現した。
あれだな、翼がなければ大きさではトリコで言うところのバトルウルフで狼王ギネスみたいな感じだな。まああっちは狼だが。
馬がいればペガサスにしているところだった。
「フハハハ! 我が乗るに相応しい大きさではないか!」
「ありがとうございます。では参りましょう」
「あぁ!」
紋様を抱えて玉犬の上に乗った。
玉犬の上には俺が紋様専用で作っていた豪華な座席があり、そこにお座りいただいた。
「では出発します」
「うむ。川神学園まで頼むぞ。深夜、玉犬」
紋様の言葉に応えるように遠吠えをした玉犬が翼を羽ばたかせながら空を駆ける。
玉犬には揺らさない走りを覚えさせているし、どれだけ玉犬が速く走っても俺が気で紋様を守っているから快適な道中になっているはずだ。
「いかがですか? 紋様」
「フハハ! これは楽しいな! 速く、高く、鋭い走りはどの乗り物でも体験できない素晴らしいものだ。毎日これで登校したいものだ」
「それは何よりです。自分がおそばについている時はこれで参りましょう」
紋様はいい子だからこそ、九鬼でワガママを言わない。
だから俺くらいにはワガママを言ってほしいと思うし、もっと頼ってほしいと思ってこその行動だ。
まあ局様との関係とかは、いつか紋様の器の大きさを分かるはずだ。紋様は間違いなく九鬼帝の子供で、九鬼を背負うに相応しいと理解する。
ふっ、その時その場所に俺がいればどういう顔をするのか見てみたいところだ。
ちょうど変態橋の上に差し掛かると、百代先輩と愉快な仲間たちや義経先輩たちがいた。
「下に義経先輩たちや風間ファミリーがいますね」
「義経たちか。昨日与一を説得したのだったな」
「はい。それで今日どうなるのか弁慶先輩から聞いてみます」
「上手くやっていればいいのだがな」
「与一先輩は紋様と同じでいい子らしいんで大丈夫ですよ」
「ふあぁ……こら、撫でるではない!」
「おっと、これは失礼しました」
ついつい頭を撫でてしまうのは、まだ紋様を主として敬っていない証拠だな。器は認めているけど、やはりどこか子供みたいな外見につられてしまう。紋様は十八歳以上だけど。
「あっ、来た」
俺の言葉に紋様が反応する前に、玉犬の背中に百代先輩が乗ってきた。
「やっぱり深夜だったのか。面白いものに乗っているな」
「おはようございます、百代先輩」
「川神百代か。我の許可なく乗り込んでくるとは無礼だぞ」
「そう言うなよ~。紋々」
昨日の夜に百代先輩についても話したが、まあそう簡単には苦手意識は取れないだろうな。
「いや、百代先輩。普通に無礼ですよ。まずは靴を脱いでください」
「お前らは靴履いてるだろ」
「百代先輩の靴は……いや何でもないです」
「喧嘩を売ってるのか? それならいくらでも買うぞ。特に深夜のならな」
「あぁ、そのことですけど今日の放課後なら時間がとれそうですよ。手合わせ、しますか?」
「ッ! あぁやろう! ずっとうずうずしていたんだ。それでじじいに注意されたが、また戦えるのか!」
「はい。この式神もお見せしましょう」
「あぁ、今からワクワクするなぁ……!」
「それは何よりですけど、授業に集中してくださいね」
こう言っても絶対に集中しないような気がするけど、まあ俺の知ったところではないか。
「下でお仲間さんが待っていますよ。風間ファミリーは一緒に登校しているんですよね?」
「あぁ。私の仲間がお前と話したがっているから、機会があれば紹介するぞ」
「それはありがたいですね」
「それじゃあまたな!」
「はい。放課後で」
百代先輩は風間ファミリーのもとに戻り、玉犬は学園へと進む。
「紋様、やはり百代先輩はまだ苦手ですか?」
「……うむ。分かってはいるが、まだ心の整理はつかん」
「揚羽様と英雄様を敬愛されている紋様にとっては難しいことでしょうね。ゆっくりと成長していきましょう」
「あぁ。また何かあった時は頼むぞ。我の従者よ」
「お任せください、紋様」
これで少しは紋様をサポートできるのならいいがな。
放課後になって、紋様がヒュームさんと葛餅パフェを食べに行っている頃、学園で百代先輩とグラウンドにいた。
「始めましょうか」
「あぁ、早くやるぞ。可愛いねーちゃんとの約束を断ってきたんだからその分は満足させてくれよ」
すごくやる気に満ち溢れている百代先輩が正面にいた。
俺と百代先輩が再び手合わせすることは学園中でかなり広まっており、それを見ようと結構の生徒たちが放課後なのに残っていた。
義経先輩が決闘している時もそうだったか。武士の血を引く人たちは全員こうなのか? 武士の血なんて前世でも引いていなかったから分からん。前世も今世もせいぜいが農民だろうからな俺の血筋は。
「今回は式神も使うんだよな」
「はい。前回は様子見の手合わせ。今回からは技と技の応酬ですね」
「言っておくが、行き過ぎるようなら止めるからの」
俺と百代先輩の手合わせというだけあって、学長が立会人をしていた。
「百代先輩。うっかりをしてしまった日には、もう俺と手合わせはできませんよたぶん」
「それは困る! だからそうならないようにしてくれ!」
「やるとすれば百代先輩ですよ。俺はそんなへまをしませんから」
「生意気な後輩だなァ……こらしめてやらないと!」
音符マークが出ていそうな弾んだ声を出している百代先輩だが、これだけで男性諸君にとっては恐怖の対象だろうな。
俺にとって百代先輩は強くて張り合える女の子みたいな感じだが、他の男性諸君からすれば美しくて強くて堂々としている崇拝対象みたいな話は聞いた。
「いつでも始めていいぞ」
百代先輩が俺に先手を譲ってきたので、説明がてら玉犬を出す。
「俺の術式の名前は十種影法術。十種類の式神を使役することができる能力です。これがその一つの玉犬」
「何だか朝見たのとは違うな」
「大きさは込める力によって変えることができますし、あれは二種類の式神を組み合わせて顕現させた式神です」
「へぇ、できる幅が広いんだな」
「そういうことです。ま、やりましょうか」
玉犬を一旦戻して、不完全な状態で顕現させて百代先輩に向かわせた。
「影みたいだな。川神流無双正拳突き!」
不完全な状態での顕現では、やはり壁超えには通用しない。
だけど通じる必要はなく、多対一の構図を作り上げることが目的だ。
次々と生み出される玉犬を相手にしている百代先輩の背後に回り込んで超電撃を帯びての蹴りを放つ。
これは最初にヒュームさんに教えてもらった技で、電気というものはどういう生き物でも弱点になりうる。何せ体の自由が効かなくなるし、人間の体は電気信号で動いているのだから当然と言えば当然か。
「くぅっ!」
俺の蹴りを受けた百代先輩は受けながらも攻撃に転じてきたから、百代先輩の影に入った。
「いない!?」
影に入る速度はかなり上げたし視線誘導も追加しているから初見だと分からないようになっている。
ちなみに特訓に付き合ってくれたのは義経先輩で、これをしている時に義経先輩のおパンツを何度も拝見したが言わないでいる。
百代先輩の影に入っているということは、百代先輩のおパンツも拝見している。影に入るって便利だよなぁ。
まあそんなことを言ったらむっつりの称号を付けられてしまう。
気を取り直して、呪力出力を上げた完全に顕現させた玉犬と百代先輩の背後に出ながら玉犬の爪と俺の呪力を纏った拳で攻撃した。
「影か……!」
「そういうことです」
不意の出現だがどうやら気は張っていたらしい。
「いいぞ面白いな深夜! 瞬間回復!」
川神流瞬間回復で回復させた百代先輩。
だが……前に見た時よりも効きが悪い気がするな。もしかして電撃が弱点なのか?
まあそんな弱点を突くことなんて俺はしない。というかそれを百代先輩も分かっているようだ。
「それ、雷撃が弱点みたいですね」
「あぁ。初めて知った。ヒュームさんが言っていたことはこれだったのか」
ヒュームさんに言われていたのか。それでもなお使い続けるとは、筋金入りの瞬間回復信者なのかな。
「電撃攻撃はもうしないので瞬間回復をしてもいいですよ? 使わないと俺に負けますもんね」
「は?」
「だって瞬間回復を使った回数だけ、俺に負けている回数ってことなんですから。もう二回目ですか」
おぉ、百代先輩が切れているのが気で伝わってくる。
「本当に生意気な後輩だなァ。しつけたくなった」
「それは無理な相談ですね。俺はしつけられるよりも、しつけたい派ですから!」
「負けたら私のパシリな」
「ハハッ、百代先輩って自分が負けることを考えない人ですか? 勘違いしてるみたいだから言っとくけど、そっちが挑戦者だから」
「ホントに生意気だな……!」
おぉ、言いたいことを言えた! 五条先生が宿儺に言った言葉を言えてよかったぁ!