きかん
誠実さんの見習い!
「寧々、めっちゃ嬉しそう」
「誠実さんはだいぶ疲れた顔してるけどね」
市蔵さんと正義さんがこちらを見て微笑ましい顔をしています。
だって嬉しいから当然です。
誠実さんの見習い~!
正式に受理されるまで2日ほどかかりましたが無事承認されたので寧々は無事見習いとなったのです。
その間に、誠実さんはお仕事しながら色々な手続きをして疲れた様子だったのでご飯くらいはやろうと思ったのですが「ごめん……無理しないで……」と結局レンジで温めるご飯を食べたりと慌ただしい数日でした。
正式に誠実さんの見習いとなったことが嬉しくて鼻歌交じりでステップを踏んでいると誠実さんと離れすぎてしまうと心配になって慌てて戻ります。
呪いはまだ完全には解けていないですが、前よりはよくなったので、近衛さんもお帰りになって、今は誠実さんのマンション生活に戻りました。
さすがにそろそろ解けてもおかしくはないはずなのですが、たびたび誠実さんが引っかかってしまうので生傷が絶えないようです。
「にしても見習いとはいえ人が増えるのはありがたいね。ここホント人少ない部署だし」
市蔵さんがカップコーヒーを飲みながら言うと、眠そうな卯月さんが奥から出てきました。
「まあこんなとこ、配属でもされない限りやりたがるようなヤツそういないし」
そういえば、まだまだ寧々も知らないことが多くて誠実さんたちの所属する部署についてあまり知らないのでした。
一応、色んな部署と連携するなんでもやるような部署らしい、とは聞きましたが。
"特殊総務課・
"特殊総務課・雲雀班所属"
"特殊総務課・雲雀班所属"
"特殊総務課・雲雀班所属"
"特殊総務課・雲雀班所属"
特殊総務課、雲雀班。これが皆さんの所属する部署。総務課があり、少し独立した新しめの部署だとか。
でもなんでひばり、なんでしょう?
「そういえば、雲雀班ってなんですか?」
「ああ、僕らのボスが雲雀って名前でね、そこから取ってるんだよ」
カップのコーヒーを誠実さんにも渡しながら、正義さんが言います。まだお会いしたことはないですが、寧々の見習いの申請にも許可をくれた方なので早くお会いしたいです。
忙しいのか、出張でまだ戻ってきていないとか。
「ほら、元々防人衆とか異能者関係の職場って血縁やら傍流とか分家とかで苗字が被ったりするじゃん? 苗字呼びだと判別つけづらいってことで名前呼びの方が多かったんだよ。今でも名前呼びする習慣が残ってるって感じ」
「で、ボスもそれに倣って名前で呼ばれることが多いから雲雀班。家名がつくと色々と本庁じゃ面倒なことも多いしね」
正義さんと市蔵さんの説明にふむふむ、と納得していると、卯月さんがぐったりした様子でコーヒーを求めますが、誰もコーヒーをくれないのでため息を付きます。
「まだ設立が浅くて様子見なところがあるからって人数がすくねーくせにしょっちゅう色んな部署に使いっぱしりにされるからよー……もう様子見いらねーって絶対」
自分でコーヒーを用意しながら、卯月さんがぼやくと、誠実さんは寧々にコーヒーと一緒にクッキーをくれました。
「しょうがないさ。元々保守派が多くて新設するのすらかなり反発があったんだ。今だって不要だって思ってるのもたくさんいるし」
「だったら面倒な仕事ばっか回してくんなよボケどもが……」
なんともいえない空気に、寧々はいただいたクッキーをぽそぽそ食べながら考えます。
どうしても異能家系とそうじゃない人たちの軋轢がまだ深く、ここ20年で多くのことが変わった影響で防人衆はどうもギスギスしているようです。
寧々もそのあたりのことを学ばないといけませんね。そう思っていると、全体に向けての放送のアラーム。次いで人の声がします。
『情報課です。魔物災害レベル4の魔物出現を予知しました。討伐課、支援課、修繕課、特殊総務課、現在待機中の上位防人の方はすぐさま準備をお願いします』
その放送に皆さん一斉に立ち上がってすぐにでも外に出られるようにします。
「武装全員大丈夫?」
「もちろん! 4は久しぶりっすね。まず支援課との連携取ります?」
「予知できてよかったね。今大半の上位防人は出張で不在だろうし」
「うっへぇ、冗談だろ。何時間後のどこだよ」
誠実さんが全員を確認しつつ、正義さんと市蔵さんは戦闘の予感に気を引き締めています。唯一、卯月さんはこの後に続く現場や時刻が発表されるのを待っています。
寧々も誠実さんとまだ長距離離れられないため、一緒に行くのですが、魔物災害レベル4だとかなり高い危険度や被害予想だったはずです。
『現場候補は本庁前。魔物発生まで恐らく残り2分です』
その放送に、全員硬直したのを肌で感じます。
2分。本庁内部から外に出るだけでももう2分経過間違いなしです。
心の準備以外、まともにできるはずもなく、気合いを入れていた皆さんは無言で部屋から駆け出しました。
「予知しても大差ねぇだろこの無能!!」
「さすがにさぁ! 10分くらい前に予知してほしかったなぁ!」
「情報課の予知なんてアテにしちゃ駄目だって学びなよ」
卯月さんが届かないであろう放送に向かって怒りながら、市蔵さんも笑顔のまま半分怒った声で叫びます。唯一、誠実さんはいつものことのように淡々とし、正義さんは瞬間移動で先に移動して誠実さんと通話をつなぎます。
『付近の人たちを臨時避難所に移動させておきます!』
「了解。あと何分――」
同じように討伐課らしき人らや重そうなものを抱えて慌てて外に向かう支援課らしき人たちがちらほら見え始めた頃、外からとんでもない轟音がして、思わず窓から外を見ます。
4階建ての建物をやすやす超えそうな大きさの二足歩行の魔物。それが
そしてそれは一部にすぎず、怪鳥のような魔物が何羽も本庁前に出現し、空を舞ったり、地上の人を掴んでいきます。
「やっば」
市蔵さんはそれを見るなり窓から飛び降りて怪鳥に捕まった人たちを浮遊で浮かせて、最悪の事態は防ぎますが数が多すぎて、対処が間に合いません。
それだけで終わらないのが災害レベル4とでもいうように、いまだ増え続ける魔物に先行した正義さんと市蔵さんもあっという間に囲まれてしまいます。
「誠実さん! 寧々たちもここから――」
寧々の風なら窓から飛び降りても受け身が取れます。1人だと誠実さんが呪いの影響を受けるかもしれないので確認するために振り返ると、卯月さんが「あ」と気の抜けたような声を出します。
次の瞬間、巨大な魔物が1体、バラバラに刻まれました。
突然のことで呆気に取られていると、空中を舞う怪鳥も、なにかに撃ち抜かれ次々と墜落していきます。
「おーおー、おかえりなすって」
卯月さんがもういいだろ、とでも言うようにタバコを取り出し始め、寧々が困惑していると誠実さんが寧々にある方向を示してくれます。
「帰ってきたんだよ。本庁、そして防人衆屈指の実力者たちがね」
そこにいた人たちは堂々と、一切の隙もなく魔物たちの数を確認しながら武器を構えたり、術の用意をしていました。
「
『了解!』
茶髪の女性が指示した直後、全員が動き出し、弓を持った小柄な女性は次々と霊力で作った矢を一度に何本も撃ち出して怪鳥を射抜いていきます。
緑髪の男の人は斧を豪快に振り回しながら次々と湧いてくる魔物を切り捨てては潰していき、あっという間に殲滅していきます。
そして、黒髪に長身の男性が刀を抜いて、大型一体と対峙しながら呑気な声で誰かに声をかけます。
「先程僕が1体斬ったので、半分ずつにします?」
さきほど切り刻んだのはこの人だったらしく、切迫した状況で倒す数についての相談をしている。
が、姿がよく見えない人物がよく通る声で言った。
「いや――俺がもう倒す」
大型の一体が大きく腕を振りかぶった直後、その腕がぴたりと止まって、まるで腕でもひねられたようにひっくり返った。近くにいた一体も巻き込んで倒れた2体をそのまま別の2体ともぶつけあってこれで4体。その4体に何をしたのか、まったくわからないまま倒してしまいました。
残りの1体を刀を持った男性が斬ると、少し不満そうに言います。
「さすがですね。でも、僕の獲物まで取らなくてもいいのでは?」
言われたのは――小さい女の子。寧々よりも小さくて、小学生くらいでしょうか?
「人もいるんだから遊ぶな雷鳥。まったく。戻ってきたと思えばこれか」
見た目とはかけ離れた、はっきりとした口調に、わずかに少年っぽさもある声。
乾鮭色の髪をお団子二つでまとめていて、その背はまっすぐ伸びています。
あっという間に魔物を殲滅したその上位防人たちの姿に呆気にとられていると、誠実さんが横で教えてくれます。
「上澄み中の上澄みだよ。あそこにいるのがほら、僕らのボス」
"上位防人・特殊総務課代表"
指示を出していた女性が寧々と誠実さんの視線に気づいたように顔をあげ、寧々に手を振ってきます。
そのまま、誠実さんが他の方を教えてくれますが、正直すぐ覚えられる自信がないです。
"上位防人・卜部家次期当主"
"上位防人・坂田家次期当主"
"上位防人・討伐課代表・源家次期当主"
"上位防人・鷹司家当主代理"
皆さんどれもすごい家の出身であることはわかりましたが、最後、鷹司さんの名前が出たとき、卯月さんが少し嫌そうな顔をしていたような気がします。
「それで……まあ、彼女は印象に残るよね」
一際印象の残る、とても小さなその人。
"上位防人・渡辺家次期当主・祝鳴学園教師"
「彼女は寧々がこの先世話になることもあると思うよ。これから通う予定の祝鳴の先生だからね」
「……寧々より年上なんですね!?」
「ああ、うん……僕よりも年上だよ、織鶴さん。本庁所属の上位防人でも相当優秀な人だから。……歳とか見た目のことは本人に言っちゃ駄目だよ」
上位防人と呼ばれる国の守り人たち。
その圧倒的な実力は、一瞬で片付いた結果からも感じ取れる。
被害を抑え、迅速に解決する。
華々しい上位防人の戦い方はあまりにも速かった。
寧々も、いつかあんな風になれるのでしょうか?
寧々は上位防人の人たちを見るのに集中していて、横の卯月がすごい顔で彼らを見ていることに気づかない。
忌々しげに、ある男を睨んでいると、その男と目が合った卯月は舌打ちをして視線をそらす。
「帰ってきてんじゃねぇよ……」
その呟きは、たまたま寧々の耳に入らなかったが誠実には聞こえたのか、一瞬だけ視線を向けられて、部署に戻ってなよと無言で促される。
寧々に一言だけ「俺先に戻ってるわ」とだけ伝え、卯月は逃げるようにその場から離れた。