恋する風は諦めない   作:とぅりりりり

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すくーるらいふ

 

「うーし、お前ら。転入生だ」

 

 担任の斎藤先生の横に立ちながらこちらに集まる視線に緊張しつつ礼をします。

 1年B組が寧々のクラスのようで、広い教室の教卓の横はなんだか新鮮です。

 

「た、高橋寧々といいますっ! よろしくお願いしますっ」

「最近異能覚醒したばかりらしくてな。わからないことも多いだろうし、ちゃんとサポートしてやれよー」

 

 担任の斎藤先生は若い男の人で、一見するといい加減そうなテンションですがとても親切です。最初の説明のときも寧々のペースに合わせてくれました。

 

「よーし、全員いるな。んじゃ、HR(ホームルーム)終わり」

 

 

 寧々は指定された席に座り、大雑把な出席を確認した先生は足早に去っていきます。

 一時間目にはまだ数分の時間があるのですが、その間にクラスの子に声をかけられます。

 

「高橋さん、一般人出身って本当?」

「何の異能持ってるの~?」

 

 主に女子からの声がかかります。こんな風に注目されることが今までなかったので、どうしたらいいのか戸惑っていると、手を叩く音がして皆さんそちらに意識が向きます。

 

「はいはい、気になるのはわかるけど~、困ってるじゃん」

 

 薄紫色をした線の細い……おん……男の子でしょうか? とてもかわいい顔をしていて、制服の上に上着を着ていて一瞬どちらかわかりませんでした。

 多分、声からして男子だと思うのですが。

 

「プライベートなことは仲良くなってからにしなよ。それより、一時間目とか授業の準備の説明してあげないと」

「あ、ありがとうございます……」

 

 他の子も「そうだねー。高橋さん、後で話そう」と切り上げてくれました。

 間に入ってくれた男子は隣の席のようで、寧々が見ていたことに気づいてニコッと笑ってくれます。

 

「あ、そういえば自己紹介してなかった。ボクは薬袋(みない)千明(ちあき)。薬の袋と書いて『みない』って読むからよろしく」

「は、はい。薬袋くん」

「あ、別に千明でいいよ。うちって兄貴が2人いるし、母さんも防人衆でよく顔出すから苗字呼びだとややこしい事多くて名前呼びのほうが多いんだ」

 

 そういえば防人衆もそうでした。早く慣れないといけませんね。

 みな……千明くんが自分の教科書を見せながら説明してくれます。

 

「基本的に通常科目と異能科目があって、一時間目は通常科目。今日はうちのクラスは数学」

 

 異能科目については誠実さんから事前にある程度は聞いています。

 でも、誠実さんは「実際に受けた方が早いよ」と大雑把な説明だけでした。

 

●霊術学

●異能基礎

●魔物学(実技・座学)

●異能社会・歴史

●選択体術(対人・退魔)

 他……

 

 一年生だと大雑把にはこんな感じでしょうか。

 霊術学なんかは進級すると応用コースなんかに発展したりで適正を見て選択、あるいは指定されるそうです。

 今はまだ、向き不向きを見る段階なので難しい授業はなさそうです。

 あとは通常科目の体育と選択体術は別らしく、前者が体の基礎を作る運動で、後者は実践的な体術を学ぶものらしいです。

 

 とにかく、普通の高校とは違います。専門的なことを学ぶので授業時間も長めみたいですし。

 

 数学の授業は特別なことはなく、寧々にも馴染みのあるものでした。

 しかし、2時間目。

 始まる直前に千明くんが小声で話しかけてきます。

 

「今、一年の霊術学担当、ちょっとアレだから気をつけなよ」

「アレ?」

 

 イマイチわからない言い方に首を傾げていますと、チャイムとほぼ同時に乱暴に扉が開かれる音。

 どうやら足で開けたのか、目の下のクマと、よれよれの白衣の女性が教壇に立ちます。

 前髪を鬱陶しそうによけながら茶髪の髪を雑に後ろでくくってからテンションの低い声で言います。

 

「きりーつ……れーい……」

 

 今にも死にそうな声をしている……と思ったら次の瞬間「天才撲滅ゥーッ!」という絶叫が響きます。

 その様子に、千明くんを含めたクラスの子たちは半ば慣れた様子をしつつ、ちょっと引いています。

 

「転入生がいるんだってねぇ……転入生、挙手」

 

「は、はいっ」

 

 素直に手を挙げると白衣の先生は「けひっ」と奇妙な笑い方をします。

 

「えーと、高橋寧々、と。私は理科物理と霊術学担当の九条鞠(くじょうまり)。早速だが高橋。すでに霊術は使えるかい?」

「あ、えっと、身体強化とか基本的なものでしたら……」

「ド素人に毛が生えたようなもんか! いいね!」

 

 なにがいいんでしょう……。

 

「転入生もいるし、まずおさらいからだ! 薬袋の三男坊! 霊術の階級を言ってみな」

「その呼び方やめてほしい〜。イ、ロ、ハの3段階。イが基礎でロが応用、ハが上級、だっけ」

 

 千明くんが答えると九条先生は「76点!」と吐き捨てます。

 

「イ段は基礎であるがロ段については応用と呼ぶにはふさわしくない。防人をやるならロ段は必要最低限クラスだ。たまに、脳筋バカがロ段も習得せず防人になることはあるが異能と体術がよほど優れていないと閑職に回されるのが関の山だろう」

 

 そう言いながら黒板にカッカッと書きなぐるように先生はある数字を並べます。

 

「イ段約250。ロ段約200。ハ段約50。これが防人衆に登録されている公表済の霊術のおおよその数だ」

 

 ハ段だけ少ないように見えます。イとロはそこまで大差がないのに。

 

「当然、登録されていない霊術も数多く存在する。個人で霊術改良、あるいは開発するようなヤツは霊術をきちんと理解している上澄みだ。そんなやつらが作った霊術なんぞ、学生のオマエたちに教えるようなものじゃないってことで、授業では登録霊術のみを教えることになっている」

 

 本当に基本の内容なんですね。1年生ですし、2年生にもなればもっと幅が広がるのでしょうけど。

 

「それでだ。当然ながら霊術には適正というものがある。例えば薬袋の末っ子は療術や支援系、妨害系などが向いている」

 

 攻撃系、支援系、妨害系、療術系、結界系、その他。

 ズラッと黒板に書き連ねられたものは霊術のタイプでしょうか。

 

「高橋はまずこのタイプを判断していくところからだ。普通は得意不得意があって、どんな霊術でも扱えるようなのは限られている。天才とかそういう類を除いてな」

 

 千明くんは攻撃系が不向きなんでしょうか。さっきの発言の中で挙がらなかったですし。

 寧々はなにが得意なんでしょう。異能が便利なのでそれを補えるようなものだとよいのですが。

 

「霊術は基本的に絞って身につけるのが最適とされている。霊術が得意なヤツでもロ段は50種類くらいが大半だ。防人衆で上を目指すのであれば霊術が得意ではない普通のレベルだと20あれば十分と言えるだろう」

 

 全部覚えて扱うってのは基本的に無理なんですね。

 卒業までに20種類のロ段を習得するのが寧々の目標の一つになりそうです。

 

「まあ私はロ段100種類、ハ段10種類を扱える超超超スゴイ霊術使いだということをしっかり覚えるように」

 

 さっき言ってた大半の数の倍なのはすごいですね。

 ハ段術はそもそも霊術に優れている人じゃないと扱えないような上級者向け。それを10も使えるのは確かに貴重なんでしょう。教科書いわく、ハ段術はものによっては異能一つに匹敵するものもあるのだとか。

 ちょっと変な先生だと思ってましたが優秀みたいです。

 

「でも先生、一番じゃないんだよね」

 

 クラスの子がぽつりと言った発言に、先生がぴたりと硬直します。

 すると、先生はブツブツとよく聞こえませんが怨嗟を漏らしています。

 

「クソが……なんなんだアイツ……バケモノのくせに……榧杜(かやもり)ィ……! 私との決着もつけずどこに行きやがった……!」

 

 急に教卓に頭を打ち付け始めたのですが怖いです。

 困惑していると、千明くんが小声で教えてくれました。

 

「あのとーり、面倒くさくてプライド高い人なんだけど、唯一霊術関連で勝てなかった相手がいるらしくてそれがトラウマなのかたまーにああやって滅入るんだよ。今日はおとなしいほう」

「おとなしくない時は……?」

「急に実技だとか言い出して暴れだす」

 

 それはもう危険人物では……?

 

 結局その後、とてもげんなりした九条先生が渋々授業を再開しまして、ついていくのに精一杯でした。

 確かにこれを20以上身につけるのは大変かもしれません。

 術式と霊力の扱い方、それに加えて集中して霊術を発動させるための慣れが必要なので、イ段でこれならロ段はもっと時間がかかるでしょう。

 

「霊術は一定以上習得すると、肉体の方が負荷を感じてしまうという一説があってなー……」

 

 テンションの低い九条先生が言いかけたところでチャイムが鳴り、いつの間にか授業の終わる時間です。

 

「おっと、もうそんな時間か。それじゃ今日はこのへんでしまいだ。次回続きだ」

 

 

 

――――――――――

 

 

 ひとまずは授業をこなし、クラスの人たちにも親切にされたので困ることはありませんでした。

 4時間目が終わってお昼の時間だとなった頃、千明くんをはじめとしたクラスの人たちが声をかけてきます。

 

「食堂の場所わかる? それとも購買派?」

「購買があるんですか?」

「食堂とは別で購買で雑に買うやつもいるよー。まあ食堂の方が人気かな。基本的に金かからないし。購買は金払ってでも買いたいものがあるやつとか、惣菜パン目当てとかそういうの向け」

 

 食堂は1食でしたら無料で、追加注文やデザートを頼むとなるとお金がかかるようです。ご飯おかわりと大盛りは無料のようですが。

 なんでも学生証にチップが埋め込まれているので、それで今日はなにか注文したかとかわかるようです。便利ー。ズルはできませんね。

 

 すると、女子の皆さんは部活の先輩に呼び出されたとかでまたねーと手を振ってくれますが、千明くんだけが残ったので二人で食堂に向かいます。

 

「そういや、阿賀内家が後援なんだって?」

「えっ……?」

 

 阿賀内っていうと誠実さんのお家でしたよね。

 そういえば誠実さんは佐藤姓を名乗っていますが、厳密には阿賀内さんちの人でした。

 

「えっと……誠実さんという方なのですが……知ってますか?」

「ああ、誠実サンね。知ってるっていうかまあ……」

 

 妙に気まずそうな反応をしたかと思うと、頭をガシガシ掻きながら言います。

 

「薬袋家が阿賀内家と昔から関わりが深くてね。一応、あんなのでも阿賀内一族だからちょくちょく顔を合わせる機会があるんだよ。さすがに、寧々のことは初耳だったけど」

 

 今あんなのとか言いました?

 ……聞き間違いか言い間違いでしょう。

 

「そうだったんですね! み……千明くんも将来は防人衆に入るんですか?」

「いやぁ、まあ、入るっていうかもう既定路線」

 

 おや?

 

「ボクの父親、本庁の支援課の代表してた人でさ。ボクが物心つく前に災害で行方不明者になっちゃったんだよね」

 

 災害での行方不明者。つまり、異界に落ちて戻ってこれない人。事実上の死亡扱いです。

 

「兄貴たちは家を継ぐつもりもないし、多分ボクがその後釜にって思われてるっぽいから」

「そう、なんですね……」

 

 あの災害の影響は大きい。改めてその事実を実感します。

 

「自分の将来が決まっているというのは、大変ですね……」

「え? まあ将来的には仕事が面倒だろうけど就活の不安とかなくてラクじゃん」

 

 千明くんは気にした様子もなくカラッと笑って「まあ、兄貴どもはさすがに自重するべきだと思うけど……」とぼやきつつ、話をそらすように「そうだ」と切り替えます。

 

「校則とかはチェックした? 普通の学校にはないような校則とか色々あるから、ちゃんと確認しておきな」

「はぇー」

「例えばそう、そんなことは基本的にないだろうけど、食堂での戦闘行為は御法度、校則違反だから気をつけてね」

 

 祝鳴学園は東京と京都に存在する国立学園。

 ここは東京校なのですが、どうやら校則には共通のものだけでなく、東京校限定のものもあるようです。

 

 

 ――東京校限定校則――

 

・学園敷地内で野生動物を飼育しない。

・空き教室で許可なく実験をしない。

・決闘を申し込むのは一週間に3回までとする。相手から申し込まれた場合はその限りではない。

・非常時、あるいは戦闘によって故意ではない場合を除いて校舎を吹き飛ばしてはならない。

・更衣室や寮の私室、またはやむを得ない場合を除いて学園敷地内で全裸にならない。

・外部から魔物の死体を敷地内に無許可で持ち込まない。

 等……

 

「東京校だけ変な校則多いですね……」

「昔色々あったんだってー」

 

 なんでしょう。空き教室で許可なく実験をしない、って。

 そして気になるのが決闘の文言。

 共通校則の部分を確認しようとしていると、千明くんが先んじて説明してくれます。

 

「ああ、決闘が気になる? ほら、異能者って血の気が多いっていうか、言い方悪いと直情的だったり過激だったりする確率が高いっていうじゃん」

「そうなんだ……」

 

 そういえばですが寧々も覚醒してから気持ちを抑えるのが前より下手になったような気がします。関係あるんでしょうか。

 

「で、話し合いで解決しないことを決闘で決着つけようってやつ。基本的に、異能者には決闘罪が適用されないってのもあるんだけど、学園では決闘で白黒つけるのが一般的でね……」

 

 そんな話をしていると、食堂につきました。

 大半の生徒さんが集まっているからかかなり賑やかです。

 

 早速、ハンバーグ定食を注文しましょう。

 千明くんも注文を済ませ、席を確保していると、賑やかとは違う、騒がしい音が聞こえてきました。

 

 ある女子生徒が率いる集団が顔色の悪い生徒さんたちから学生証を集めています。

 

 そして、それを使って仲間の人たちが一人で複数のメニューを注文しています。

 

「……あれって、いいんですか?」

 

 なんとなく、よくない気がして声を潜めて千明くんに尋ねると「ああ……」と渋い顔をして小声で答えます。

 

「よくはないけど、さっきも話した通り決闘で決めたことだからね……寧々はあれに関わらないほうがいいよ」

 

 1年A組の嵯峨愛華さん。

 名家、嵯峨家の生まれで、取り巻きさんたちと一緒になって他の生徒さんから学生証を巻き上げたり、横暴な態度で1年生の一部を支配しているのだとか。

 朝の様子は友達の学生証を取り返そうとして返り討ちにあってしまったということなのでしょう。

 

「みみっちいよねぇ……まあ、関わらないのが一番――え?」

 

「あのー」

 

 嵯峨さんたちに近づいてみると、怪訝そうな顔をされました。見た感じ、悪いことをしているとは思ってなさそうです。

 

「学食は一人一食なんですし、やめたほうがいいのでは?」

 

「ばっ――」

 

 千明くんが何か言いかけているような気がしますが、その前に嵯峨さんが立ち上がって寧々をまっすぐ睨んできます。

 

「あなた誰? これのオトモダチ?」

 

 これ、と床に座らされている子を示して嵯峨さんはまるで嘲笑うように言います。

 

「決闘での結界にケチつけるつもり?」

「ええと、そういうわけではないのですが……」

 

 怒られている?

 どう見ても嵯峨さんのほうが問題だと思うのですが……。

 それに、学食のことを抜きにしても、場所を占領しているみたいで周りも避けています。迷惑ではないでしょうか?

 こういうとき、どういうことを言うのがいいんでしょう。

 

 ふと、卯月さんと誠実さんがお仕事中にやり取りしていたことを思い出します。

 卯月さんが足をデスクに乗せて邪魔になっていたときのこと。

 

『おい、邪魔』

『っせーな、向こう通れよ』

『あと見苦しい。品性に欠けてる姿はやめたら?』

『小姑かっての』

 

「その……品性に欠けているかと」

 

 その瞬間、嵯峨さんがポストよりも真っ赤になったような気がしました。

 

 

 

 

 

 

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