土曜日はお出かけしたので日曜日は久しぶりにゆっくり……と思いましたが寧々は元々勉強が遅れ気味なので誠実さんい勉強を見てもらいました。
誠実さんもちょくちょく仕事絡みかお家のことかはわかりませんが連絡が入ってそれの対応はしていましたが、比較的ゆっくりできた一日でした。
寧々が寝る頃にもなにやらやることがあるようで起きていたようですが。
というわけで、3日ぶりの学園です。
お仕事の手伝いなので別に悪いことはしていませんが、それはそれとしてちょっと気まずいです。
誠実さんの車で送ってもらい、門の前に車を停めたので寧々は降りようと身支度を整えます。
「あ、そうだ寧々」
誠実さんが自分の鞄から包みを渡してくれます。
なんだろう、と思ってよく見るとそれはお弁当入れでした。
しかも、寧々が土曜日のお買い物のときに気になっていたやつです。
「誠実さん、これって……!」
「気になってたんでしょ? さすがにいつもは無理だけど、この前弁当欲しいって言ってたし、金曜は仕事の手伝い頑張ってくれたからお礼にね」
昨日夜に何かしていたのはお弁当の準備だったようです。朝は寧々より早起きはいつものことなので気づきませんでした。
「嬉しいです! 誠実さん大好き~!」
「はいはい、ありがとう。ほら、もう出ていいよ」
あっさり流されてしまいました。手強い。
うきうきでカバンにお弁当箱をしまいながら車のドアに手をかけます。
「それと、僕の仕事が遅くなりそうなときは薬袋……千明に声かけて。向こうには話通してるから」
ドアを開けて振り返ります。誠実さんはやっぱり先日のことが気になっているみたいでした。
「千明くんに迷惑じゃないでしょうか」
「いいんだよ。元々うちと薬袋はそういう関係だから」
誠実さんのこういう雑というか結構ぶっきらぼうなところ、割と気安い証拠なんだと寧々はもうわかっています。それはそれとして千明くんに迷惑じゃないならいいのですが。
「では行ってきます!」
「いってらっしゃい」
誠実さんの見送りを背に、寧々は学園へと足を踏み入れます。
まだここに慣れきっていないのでちょっとだけ緊張しますが、寧々の教室が見えてくるとちょっと安心します。クラスの人たちはいい人ばかりだったので。
と、気になるのが教室の前でクラスの女の子が何かお話をしている様子です。それも扉を塞ぐように。
「おはようございますっ」
「あ、寧々ちゃん!?」
クラスの子たちが寧々を見てびっくりしたような顔をしています。
そういえば金曜日に休んでましたし、特に連絡もしてなかったから心配かけてしまったのかもしれません。
「おはようございます。金曜日は防人衆のお手伝いしてまして――」
「寧々ちゃん、ちょうどよかった! 金曜日のノートのこともあるしちょっとこっちきてきて!」
「まだ時間あるしこっちこっち~」
なぜでしょう。妙に教室から引き離されるような。
悪意は感じませんが、どうも腑に落ちません。それにノートのことならロッカーにもあるのでそれを取らなければ。
「わかりました。ちょっと荷物だけ机とロッカーに……」
するっと皆さんの合間を縫って教室に入り込むと、女の子たちの「待って!」という悲鳴が後ろから聞こえます。
なんだろう、と思って振り返ろうとして、寧々の席のあたりに男子が集まってモップや何かを持っていることに目が行きます。
「ちょっ、まだ片付いてない――」
寧々の席の近くにいた男子の1人に千明くんがいます。
寧々の席の周り、モップや雑巾。濡れていたのを拭いたのだろうというのは察しがつきます。
机は……あまり見えませんけど中はあんまりいい状態ではないのでしょう。
「あのー……」
うーん、寧々が止めるのを聞かずに入ってしまったので寧々が悪いのですがすごく気まずいですね。
どうしましょう。
「寧々が自分でやりますよ?」
慣れていますし、というのはさすがに飲み込みました。気を使わせてしまうようですし。
ですが、男子も女子も寧々を早くで挟んできます。
「寧々ちゃんごめんね! ごめんね!! 私たちもさっき来たばかりでテンパってて! 私たち違うからね!? このクラスでそんなことする子いないはずだから本当だから!!」
「君らなんで止めないのさ! あーもう! 寧々、誤解すんなよ!? 犯人おおよそ予想つくけどこのクラスのやつじゃないから――」
「あ、はい。あの、一旦落ち着きましょう」
寧々より周りの方が焦ってますよね、これ。
というわけで寧々の机に泥水やら机の中にゴミやらが入ってる嫌がらせについて、片付けを終えてクラスの一部のメンバーでプチ会議です。
「最初に気づいたのは俺」
手を挙げた男子生徒曰く、教室に一番乗りしたと思ったら寧々の机が変だと気づいてびっくりしたそうです。
最初に教室に来たので一瞬疑われかけたという不憫な方ですがさすがに寧々にこんなことをする理由がなさすぎたので、女子に詰められているところを千明くんが仲裁して一旦寧々が来る前に片付けておこうとしたようです。
「その前に誰か教室に来たか、朝練してた子たちにも聞いてみたんだけど……」
女性陣は寧々足止め&片付けと情報収集組で分かれていたようで、情報収集組は困ったように腕を組んでいました。
「どうもちらほら出入りしていた気配はあるみたいだけど、それが誰かまではわからなかったみたい」
「まあ、木曜の寧々のことを思い出したらある程度想像はつくけどね」
千明くんだけは呆れたように息を吐きながら続けます。
「証拠こそないけど、嵯峨愛華。あいつか、あいつの取り巻きの仕業だろうね」
ええっと……。
あ! そういえばなんだか木曜にちょっとお話しましたね。
なぜか怒らせちゃったようですが夢子ちゃんがたまたま居合わせて有耶無耶になってしまったのを思い出しました。
「はあ……なるほど……」
「なんで当事者なのにそんな落ち着いてるんだよ君……」
千明くんが呆れているような気がしますが、こういうのって反応するほうが向こうはどんどん過激になっていくものですし、相手しないほうがいいんですけどね。
といってもこれはあくまで寧々の経験則ですし、この学園ではその限りではないのでしょう。決闘というものもありますし。
「とにかく、寧々は1人でウロウロしないほうがいい。クラスの誰かと一緒に――」
「おーっす。HRはじめんぞー」
斎藤先生が教室に入ってきたのでプチ会議は終了です。
先生に相談……するのはあまり意味がなさそうですね。
なんとも言えない空気のまま、HR、授業へと流れていき、寧々は一旦朝のことは忘れて授業に向き合います。
正直、誠実さんに教えてもらっているとはいえ、他の子たちより遅れていることには変わりないのでちゃんとついていけるかのほうが寧々にとっては重要です。
――――――――――
お昼休みになりまして、早速誠実さんのお弁当をと思いきや、千明くんと女子たちがやってきます。
「あれ、食堂行かないの?」
「寧々ちゃん今日はお弁当なんだ」
女子たちが物珍しそうにお弁当を見てきます。
そういえば1人にならないようにって言われていましたし、そうなるとみんな食堂に行ってるときに1人になるのはよくないのかもしれません。
「お弁当って食堂で食べても大丈夫なんでしょうか」
「いいんじゃない? 食堂に購買で買ってるの持ち込んでるやつもいるし」
千明くんの言う事を信じるならお弁当というのは珍しくでも問題はなさそうです。
「じゃあ千明くん、寧々ちゃんをよろしく!」
「えっ?」
女子たちがやや食い気味で千明くんに言います。あれ、みんなで一緒に食べるはずじゃ。
「いやぁ、そりゃ千明くんいたら嵯峨さんはいいけど……」
「鈴木先輩がね……」
夢子ちゃん、いったい普段何をしてるんでしょう……。
入学してそう経ってないはずの1年生にまでこう言われるの、さすがにすごいですよ。
「夢ちゃんならみなさんがいても大丈夫だと思いますっ」
「いや、うん……あの人は大丈夫っていうかボクらがね……緊張するっていうか……」
緊張することもないと思うのですが、まあ寧々と皆さんは夢ちゃんとの接点の差がありますしね。皆さんも徐々に夢ちゃんがいい子だとわかってくれると思います。
「大丈夫大丈夫! 私たちも見えるとこにはいるから!」
「千明くんファイト!」
「君たちさぁ……」
結局、千明くんと一緒に食堂に行くことにしました。
「千明くんはクラスのリーダーみたいですね」
「ん? ああ、まあクラス内だとボクの家が一番家格高いからね。珍しいこともあるもんだよ。……ていよく使われてるだけな気はするけど」
ぼやきつつも付き合ってくれる千明くんはいい人だと思います。
ふと、夢ちゃんが食堂と反対の方向に購買で買ったと思わしきパンを持って行くのが見えます。
今日は夢ちゃんとお昼一緒はできないようですね。
せっかくだから誠実さんに作ってもらったお弁当を見せようと思ったのですが。
千明くんが注文を取るのについていってから席につきます。はたから見るとなんでお弁当持ってるのにと思われそうです。
「おっべんとう~」
ワクワクしながらお弁当箱を開けると卵焼きとたこさんウインナーとポテトサラダ!
昨日のご飯になかったものは冷凍食品でしょうか? さすがに朝からこんなに凝ったものを作る時間はないでしょうし。
誠実さんはこの前のお出かけからお弁当のことを考えてくれていたんだと思うと胸がいっぱいになります。
「浮かれてるね」
「はいっ。誠実さんに作ってもらったお弁当、本当に楽しみだったんです」
「……あの坊っちゃんがねぇ……」
なんだか思うところがあるみたいな千明くんは頬杖をついて寧々とお弁当を交互に見ています。
「まあ、いいや。さっさと食べちゃおう」
千明くんが自分のとんかつ定食を食べる前に手を合わせるので寧々もそれに倣います。
「いただきます」
「いただきま――」
寧々が言い終える前に、眼の前のお弁当箱が勢いよく机を滑る。
カンッというお弁当箱が床に落ちる音。
思考が止まる。
何が起こったのか、理解ができなくてただ呆然と床でぐちゃぐちゃになったお弁当を見下ろすしかできず、近くの声が妙に遠く聞こえます。
「ちょ……嵯峨お前!」
「あら、突然なんですか?」
「しらばっくれるなよ。誰か先生呼んで来い! 今のは目撃者もいただろ!」
「やだぁ。急に言いがかりつけないでくださる?」
誠実さんに作ってもらったお弁当が――。
ご飯はお弁当箱から飛び出して床にお弁当箱の形からぐちゃりと歪んで、おかずはウインナーが転がって机の足にぶつかっているのが見える。
「そこの”ゴミ”、ちゃんと片付けておくんですよ?」
「よくも……」
よくも――
「えっ……?」
千明くんの驚いたような声は聞こえはしますが寧々は嵯峨さんにしか今意識は向いていませんでした。
引き止めるように千明くんが「待った!」と寧々の肩を掴んできますが、嵯峨さんへの怒りは収まることはなく、もう寧々には一つのことしか頭にありません。
「…………しょう」
「あら? 何か言いました?」
「決闘しましょう」
嵯峨さんも、嵯峨さんの後ろにいる取り巻きの子たちも、寧々の言葉に驚いたように目を丸くします。
「よくも寧々の楽しみを台無しにしましたね! あなたに求めることなんて何一つありませんが決闘! 決闘です! 寧々の気が晴れません!」
後ろで千明くんが声にならない悲鳴をあげていたような気がしますがきっと気のせいです。
――――――――――
食堂での騒ぎに居合わせた生徒たちの中には、関わるべきか迷っている生徒もいれば、自分は関係ないという態度でいる生徒、当事者のすぐ近くにいる者と様々だった。
その全員が、一瞬の異変に気がつく。
「よくも……」
寧々が思わず漏らした一言。その瞬間すぐ近くにいた千明は明確な違和感に予想外の声を漏らす。
「えっ……?」
千明は戦闘向きの異能者ではない。が、その血が、その才があることを強く訴える。
――危ない。
その直感に従うのであれば本来は関わるべきではないというのがわかっていた。
「待った!」
しかし、千明がとっさに取った行動は寧々の肩を掴んで引き止めることだった。
止めなければ何かとんでもないことになっていたような気がしたのだ。
(き、気のせいか……?)
一方で、その様子を少し離れたところで見ていたある女生徒は、寧々へと注目を向ける。
(今、すごい霊力の増幅だったな)
感情の乱れは霊力のコントロールを乱しやすい。が、一方で異能者の感情の起伏は激しくなりやすく、本来の力よりも強い出力を発揮できるということもある。
まさに、先程の寧々は一瞬とはいえ凄まじい霊力だった。とはいえ、あまりに一瞬すぎて気づけたのは一部の生徒くらいだろう。
(あれは……B組の転入生、だったかな。覚えておこうかな)
食堂の入口からそそくさとこの場を離れようとする生徒もいた。
(やっばぁ……絶対ヤバいよあいつ……)
嵯峨愛華よりも寧々への危機感を持ったその生徒は購買へと逃げるように向かう。
(関わらんとこ……)
その直後、寧々が決闘の宣言をし、千明が声にならない悲鳴をあげたのだが、食堂から逃げた生徒にはそれは聞こえなかった。