水星の魔女と呼ばれた傭兵・最終回 作:ハッピーエンド至上主義の曇らせ人
①ママンにどつかれてギャン泣きしている途中に疲れて寝落ち。ビーコンが宇宙に消える。
②救助に完全スルーされたところで運良く(主人公補正)により地球に向かっていた船に拾われる。
③地球にたどり着き学園に戻る気も起きず、食いつなぐため傭兵業開始
と、ざっくりこんな流れです。
流石にビーコン一個渡して宇宙にポイはだめよママ。
夕焼け空の荒野に、鉄が砕ける音が響く。
それと同時に通信機から聞こえてくる悲鳴。
その声で、通信設定をオープンチャンネルのままだったことを今更ながら思い出し、しかし直しているような暇もなくスレッタは操縦桿を握り直した。
「あはは。今度は何を奪われるんでしょうね。」
最早笑えてくる。怒り?怒って何になる。怒って全部取り戻せるならとうの昔にやっている。
それに、もう怒る気力もない。感情を荒立てるというのは存外体力を使うのだ。
先程から何度目になるか、飛びかかってきたモビルスーツ。それの胸元、コックピットをビームサーベルで貫き撃墜。
次いで背後。こちらに向いていた銃口にシールドを構えて防御する。そのまま内蔵されたビームライフルでコックピットを撃ち抜いた。
「……なにか言ってくださいよ。聞こえてるんでしょう?」
スレッタは誰にとも無く語りかける。きっと聞いているであろう彼女に向かって。
あのときも、今の自分が生まれたときもそうだった。
大切な人のためになると信じて戦い続けて、進み続けて、最後は全部なくなった。
他でもない大切な人に、大切な人たちに全部奪われて、裏切られたから。
『……』
通信機からは何も聞こえない。相変わらず自分が潰したパイロットたちの悲鳴以外、何も聞こえてこない。
「ははっ。声もかけたくないですか。」
嫌われたものだ。いや、そうか。もとより弾除けだったか。
妙な音がしてビームサーベルが壊れた。ビームのかわりに黒い煙が生えている。そういえばガタが来ていたっけな。
飛びかかってくるモビルスーツが一機。換装してる暇はない。仕方ないか。
コックピットにマニピュレータを突き入れ、中身を握りつぶす。
「潰れたトマトみたい。」
引き抜くと、赤い液体がこびりついていた。後で掃除、面倒くさいんだけどな。
もうこれくらいじゃ眉一つ動かなくなった。はじめの頃は、多少なりとも罪悪感やら何やらがあったというのに、人間変わろうと思えば結構簡単に変われるものだ。
『ッッーー!』
あぁ、聞こえた。やっと、やっと声が聞けた。私の愛しかった人の声が。
「ねえ、ミオリネさん。覚えてますか?プラント・クエタでテロにあったときのこと。」
本当はあのとき、テロに巻き込まれたとき、怖くて仕方なかった。人がどんどん死んでいくあの景色が恐ろしくて、悲しかった。誰も見向きもしない隅の隅で小さくなっていたかった。
それでも地球寮の仲間を、ミオリネを助けたくて、母親からも背中を押されて、だから勇気を振り絞って、精一杯頑張ったのに。
「人殺しはないですよ。人殺しは。」
かすれた笑みで、昔を懐かしむようにスレッタは呟いた。
気にしていないといえば嘘になる。でも、もういい。もう数え切れないくらい殺してしまったから。
最初からあっていなかった身の程が、もっと開いただけだ。
「おっ……と。」
メインカメラを掠めるように、見覚えのある緑がかった光刃が飛来する。
「ダリルバルデ……グエルさんですか。」
『……あぁ。俺だ。』
自分からすべてを奪い去った張本人。その一人。
しかしまぁ、自分で思っている以上に感情というのが抜け落ちているらしい。そんな相手を目の前にしても胸にさざなみ一つ立たないとは驚きだ。
「ふふふ。私を殺しに来ました?」
『スレッタ・マーキュリー。もうやめろ。お前に勝ち目はない。』
そんなことわかっている。
後ろに見える大群もさることながら、まだ後続はうじゃうじゃ居るはずだ。ここでどれだけ抗ったところで、どれだけ敵を倒したところで最後に負けるのは自分であることくらい理解している。
でも、だからって抵抗しない理由にはならないだろう。
「じぁあ大人しく死ねって?あのときあなた達にやられたみたいに?」
『……まだ、情状酌量の余地は……』
「ないでしょう。今だけで何人殺したと思ってるんですか。」
惚れた弱みだって?そんなだから横恋慕なんて呼ばれているのだ。
それに今も、ほら。
『ーーッよせ!』
ダリルバルデのブレードを弾き返し、その奥に潜んでいたモビルスーツに突撃。
『うぅわぁあああ!?!?』
「よっと。そーれ!」
ライフルで両のマニピュレータを潰し、換装したビームサーベルを袈裟懸けにーー
『ぐっ……下がれっ!』
「わあ、かっこいい。」
振るおうとしたところで、ダリルバルデの腕から先だけが割り込んでくる。
そういえばあったなそんな機能。如何せん最後に戦ったのが年単位で前なものだから完全に失念していた。
確か、前のときはコントロールを奪取して……なんだっけか。あぁそうそう。オーバーライド。
その後ビームライフルで撃ち抜こうとして、その瞬間にエアリアルの電源を落とされて負けたんだった。
「私も守ってほしかったなぁ。」
『あれ、は』
「なんでこう……みんな何も言ってくれないんでしょうね。」
確かに昔の自分なら、あのときのキラキラしていた自分なら、うっとおしいくらいに前進していた自分なら、事情を説明されたところで「大切な人がピンチだ!」と引き返すことなんてしなかったとは思う。
というか、そんな事を考え付きもしなかったやもしれない。ありもしない覚悟を決めた気になって、今度は何をやらかしただろうか。
きっとあのとき、自分をドロドロとした世界から切り離すにはあぁするしかなかったのだ。何も言わず、ただ一方的に突き放す。これが最善策だったのだろう。
実際、そのお陰で身内の復讐劇に一切関わるとはなかった。
気がついたら全部終わっていて、結局最後まで蚊帳の外にいた。
確かに自分は守られていた。自分を大切に思っている人たちから沢山の愛を受けていた。
「でもね」
私は、幸せじゃなかったよ。
「どれだけ罵倒されたってよかった。どれだけひどい仕打ちを受けたってよかった。なんなら地獄に落ちたってよかった。」
ただ、ただ、
「大切な人たちの隣に居られれば、それで良かったのに。」
それだけで幸せだったのに。
「自由?幸せ?……勝手に決めないでよ。」
「ミオリネさんもお母さんもエアリアルもグエルさんもみんな、突き放すだけ突き放して満足しないでよ。」
「キラキラした未来を見せつけるだけ見せつけて、全部取って行かないでよ。」
ずっと、ずっと抱えていた本音。どうせだからもうぶちまけてしまおうか。
これが、私が欲しかったモノ。
そして、もう手に入らないモノ。
「皆、傍にいてよ。」
『スレッタ……。』
また、ミオリネの声がする。
泣いているのだろうか?声が震えているような気がした。
もしも、もしも自分のために涙を流してくれているのなら、それはそれで悪くない。
そう思うのは傲慢だろうか?
そんなことを考えながら、振り下ろされたビームパルチザンをサーベルで受け止める。
全く油断も隙もない。
「相変わらず強いですね〜グエルさんは。」
『この……ッ!?』
鍔迫り合いになっていたダリルバルデをいなし、そこに生まれた一瞬のスキにドローンを一つライフルで撃ち抜く。
そしたら追撃に備えて機体の姿勢を立て直してーー
「……来ない?」
追撃が、ない。ビームもミサイルもサーベルも、何も来ない。今までひっきりなしに飛んできていたというのに、何故。
殺す気が失せた?そんなまさか。
「あれ。」
はっとする。
みまわしてみれば、あれだけいたモビールの大群が見当たらない。今の今まで対峙していたダリルバルデも、何故か全速力で自分から背を向けて遠ざかっていくのが見える。
「なにを……」
『済まない。』
被せるように聞こえてきたのはグエルからの謝罪の声。
次いで聞こえる何かの駆動音。
不味い。
そう思ったときには遅かった。
突然目の前に立ちそびえる光の壁。
「ビームシールド?」
横、後ろ、上、下、どこにも出口はない。
そこで気がつく。これはシールドではなく、檻だと。自分を閉じ込めるための、檻。
それを作り出しているのはーー
「ガンビット……エアリアル、なの?」
見慣れたそれは、紛れもなく昔の相棒、エアリアルのもの。
空を見上げれば、そこに浮かぶトリコロールカラーの機体がこちらにライフルを構えているのが見えた。
『ごめん、なさい。』
「ミオリネ、さん。」
パイロットはまさかのミオリネ。
驚愕に固まるスレッタをよそに、エアリアルは変化を始める。
手始めに、光の粒子を放ちながら全身の装甲がパージ。
それはマニピュレータに構えられたライフルへと纏わりつき、その姿をより巨大に、より凶悪なフォルムに変えてゆく。
「わぁ、すごい。」
よくもあんなものを人に向けたられたものだと昔の自分に感心する。少なくとも人の乗っているものに向けていい代物ではないだろう。アレは。
アレに当たったらどうなるのだろうか。多分、チリも残らないだろう。
死ぬのは、怖い。だってその先がどうなっているのかだれも知らないから。
だから今までも死ねなかった。楽になりたいと思ってもそのための一歩が踏み出せず、結局今の今まで惨めに命に縋りついてきた。
あぁ、でも、よかった。
「あなたに殺されるなら、いっか。」
『ーースレッタァッッ!!』
高まりに高まった極光が、ミオリネの咆哮と共に放たれる。
檻を作り出していたビットは即座に離脱し、スレッタがひとり取り残される。
「蝋燭みたい。」
不意に口をついた言葉を最後に、スレッタの意識は搔き消えた。
◇◇◇
「敵機の沈黙を確認。『赤毛の魔女』撃墜作戦、完了。」
『『『うおおおおおお!!!!!』』』
歓声が響く。つに魔女をうち倒した、と。
「スレッタ……。」
そんな中グエルは放心気味に、今までスレッタが立っていた、今は巨大なクレーターとなった場所を見つめていた。
「守って、やりたかったよ。」
先の言葉が胸を刺す。
自由なんてものがどれだけ残酷なのか、それは自分自身がよく知っていた。何にも縛られないことがどれだけ恐ろしいことか。誰よりも理解していた。
だから全てに片が付いたら迎えに行こうと、そう思っていた。
一人にしてすまない、突き放してすまない。いくらでも頭を下げるつもりだったし、気が済むまで殴られるつもりでもいた。
『幸せじゃなかったよ。』
「あぁ、クソッ。」
結局、自分は何も理解していなかった。何も守れやしなかった。
自身が惚れた女は、スレッタ・マーキュリーはとても弱かった。
大切な人に、家族に突き放されれば心が壊れてしまうような普通の少女だった。
彼女の幸せも、気持ちも、何もかもわかっていなかった。
「どこで間違えたんだろうなぁ……。」
ヘルメット越しに自分の額に拳を当てて、大きなため息をつく。すべてが遅すぎたのだ。彼女が歪んだまま前に進んでしまうことを止められなかったのだから。
こうしていつまででも干渉に浸っていたい気分ではあるが、立場上それは許されない。
彼女への手向けはその後だ。
グエルは通信機をいじり、チャンネルを切り替える。
「おいミオリネ。」
『なに。』
「いつまでも浮かんでないで降りてこい。」
『……わかった。』
フラフラと覚束ない起動を描きながらダリルバルデのすぐ横に降り立つエアリアル。
数年前に突然パイロットの資格を取り始めたのには驚いたが、なまじ頭のいいミオリネのことだ。こうなることを予期していたのだろう。
自分がとどめを刺す今回の作戦も、ミオリネ自身が立案したものだ。流石にエアリアルまで持ち出してくるのは予想外であったが。
「ほれ。泣くのはあとだ。」
『……泣いてない。』
ずっと鼻をすすっているやつが何をいうか。思わず苦笑いが顔に浮かぶ。
「後処理なりなんなり、やることはいくらでもあるぞ。胸くらい貸してやるから今は我慢しておけ。」
『だから、ないてないし、胸なんか、借りなく、ても………っやっぱり借りてもいい?』
「……あぁ。」
その言葉に、グエルは静かに頷いた。
少しずつ、鼻をすする音が小さくなっていく。
今彼女は「ミオリネ・レンブラン」を奥に押しやり、「総裁」としての自分を表に出しているのだろう。こうでもしないと嘘をつくことさえロクにできないのだから、不器用もいいところである。
とにかく、今はまだ感情を吐露するような時ではない。
まだ仕事はいくらでも残っているのだから。
グエルは周辺の残場を眺め、数えきれない量のモビルスーツの残骸に大きなため息をついた。
「大した女だよ。お前。」
やると決めたからにはしっかり最後までやりきろう。
それが自分なりのけじめなのだから。
大きく息を吐き、グエルもまた自分の中でスイッチを切り替える。
ここからは新総裁の夫。ジェターク社のCEOだ。
「偵察班。どうだ?」
『はい。敵機の反応は完全に消えているようです。』
それはそうだろう。あんな馬鹿げた出力のビームの直撃食らったのだ。反応がある方がおかしい。
あんなものを耐えられるとすれば、それこそエアリアルのようなーー
『ーーなんの音だ?』
勝利により浮かれていた空気が、そのたったの一言で、一瞬にして凍りついた。
『い、いや、そんなことあるわけ無いだろ。』
『で、でも今確かに……』
『ははは。冗談は、よしてくれない、か?』
いや、まさか。そんなことがあっていいはずがない。
あんなものを食らって、まだ生きているなんて、そんなことありえていいはずが……
『……あ゛ぁ゛』
『魔女』の産声が聞こえた。
擦レッタさんがベネリットグループから命を狙われているのは、紛争地帯に出没してはどこぞの牛さん見たく手当り次第モビルスーツをぶっ潰して回っていたからです。
被害総量が災害レベルになっちゃったんですね。
とまぁこんなこと書いてますけど、本編はハッピーエンドで終わるといいなぁ。
誰かが死んではい丸く収まりました、は止めてね。