転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
U-12春の選手権、予選リーグ1試合目。
第1ピリオドは俺たちが2点先取したあと、12分が終了のホイッスルが鳴った。最初の押し込まれた時間が長かったためにあれ以降得点は生まれなかったが、いい流れで第2ピリオドになった。
そのはずだったのだが、第3ピリオドが始まった時点でビハインドを負ってしまっている。4-2。第2ピリオドで4失点だ。
どうやら相手チームはレギュラーレベルのメンバーを第2ピリオドに用意していたらしい。俺たちが何とか2点奪取した相手はベンチメンバーだった。まじかよ。
よって、第3ピリオドも俺たちレギュラーメンバーが出る。俺は体力に課題があるが、第2ピリオドの間にだいぶ回復できた。向こうはほとんど第2ピリオドと同じメンバーなので、体力の差がこちらの有利と言えるだろう。
第3ピリオドが始まる。
レギュラーメンバー相手では、やはり押し込まれる時間が続く。こちらも修正を加えたのだが、中盤での相手同士のサポート距離が近く、パス精度が高く視野も広いため、捕まえる前に散らされてしまう。
俺が中盤の経験が少ないこともあって、簡単にプレスに行きにくくされてしまった。
そしてカウンターになっても、次の瞬間にはボール保持者に蟻のように群がってくる。こうもなってしまえばボールを繋げない。俺も一縷の望みにかけて隙間を通してみているが、ことごとく回収されてしまっている。
これで3点取れるのかよ......。
なんて思っていたら、あっという間にスコアレスで最後のピリオドが終了した。ボールを繋げさせて貰えず、やりたい放題にされての敗戦だ。
「クソッ」
なかなかにフラストレーションが溜まる試合だった。ダイジェストがあったとしても、俺たちのチャンスは1回か2回だ。尊史のドリブル突破は相手DFにファウルで止められ、俺のフリーキックはゴールポストを叩いてクリアされた。
早速、大きな壁にぶつかった。
「パワプロ、今日だけは仕方ない。相手の方が上手かった。だけど、今日───この試合だけだ」
「ああ、その通りだ」
尊史も悔しそうに歯を食いしばっている。だが、1時間後に2試合目が始まるため、冷静に次を見据えていた。やっぱり主人公じゃんこいつ......。
チームメイトとも言葉を交わし、どこが悪かったかどこが良かったか、もっとどうして欲しいのか言葉を交わす。俺や尊史はこのメンバーにおいて新米だ。試合観を統一させて連携のいいサッカーをしたい。
ゼリードリンク片手にぶらついているのだが、ツカサも一緒にぶらぶらしている。大会が終わったら追及されるだろうから気が重いが、筋肉疲労を回復させながら「次はこれ試してみよう」とか「さっきああしたらどうだったかな」とか話しているのも、これはこれで楽しいのだ。
そして、2試合目が始まった。
勝ち点から考えて、この試合は勝つに越したことはない。そして、負けた瞬間に予選リーグ敗退が確定する。
対戦相手は地方のJ下部組織で、相手の1試合目は1-0で敗れている。コーチ陣は、いつも通りやれば勝てる。1点とったらのびのびやってこいと言われた。
こちらも3-3-1の布陣で対面なのだが、向こうのチームは選手がポジションからあまり移動しない、非流動的なサッカーだった。
早速、右サイドの仕掛けからチャンスができる。
圧倒的な推進力でスルーパスやロングパスに抜け出して得点、みたいなシーンが多い尊史だが、一対一の仕掛けでも上手い。マッチアップした相手の重心の逆を着いて一気に加速する。今回は縦だ。
ゴール方向へと近づきながら、ディフェンスラインとGKの間にグラウンダークロスを差し込む。それにCFの大加田が触ってネットを揺らした。
今日初ゴールの強面お兄さんが吠える。耳元で吠えられたDFはビクッと肩を揺らしていた。
いいぞ、もっとやれ。
その後は勢いづいた味方のゴールが連続した。ツカサの縦パスを受けた大加田がDFを背負って反転。シュートはキーパーに弾かれたがもう一度押し込んで大加田の追加点。また吠えてDFが耳を塞いだ。
次は俺のボディフェイクを交えたスルーパスを左WGが受け取り、折り返してファーに駆け込んだ尊史のゴール。さっきの試合で膝を火傷しそうになったそうで、今度は走り込んでジャンプし、ガッツポーズをしていた。尊史は頻繁にゴールセレブレーションをするが、それがスタンドの空気を盛り上げる。俺たちを押す空気が一段と強くなった。
その後も何度も得点チャンスを作り出す。
俺のコーナーキックからツカサのヘディングで4点目、最後は中盤でスペースができたので左足を振り向いてミドルシュート。ゴールの隅に突き刺さり5点目。
5-0で第1ピリオドが終了した。
選手の顔は明るい。まだ気を抜けないが、先程の押し込まれたときの鬱屈したイメージは多少払拭されたはずだ。俺も1試合目は中々パスを出せなかったが、今の試合では頻繁にいいボールを出すことが出来た。カウンターも何度か未然に防いだ。
第2ピリオドも、いけいけ押せ押せで進む。こちらは両方ともベンチメンバー中心だが、向こうは明らかに憔悴していた。スタンドは相手応援のムードだし、その中で5点ビハインドを負うのはクるものがあるだろう。
結局第2ピリオドも1-0で味方が勝利した。
ふたつのピリオドで合計6-0。コーチは逆転の目はないと判断して体力に余裕のある選手を中心に出す。今日はこの後に試合は無いが、明日も明後日も試合があるのだ。試合の終わった選手にアイシングの指示を下していた。
俺、進藤、ツカサは第3ピリオドに出ない。俺は体力がないし、尊史は出た試合でロングカウンターを何度も繰り返していた。ツカサも明日のコンディションを崩さないための処置だ。
第3ピリオドも2-1で相手レギュラーメンバーに打ち勝つ。合計8-1で勝利した。あまりの大勝に選手もスタンドも大きな歓声と拍手をあげる。俺も2試合目の出来には結構納得していた。
俺自身の結果は1試合目に1ゴール1アシスト、2試合目も1ゴール1アシスト。2戦合計2ゴール2アシストだ。中盤の選手として攻撃にも参加出来た。チャンスメイクもいろいろなかたちで作り出せたと思う。ちなみに尊史は2ゴール1アシスト。ツカサは1ゴールだ。
コーチも今日はとにかく体を休ませるように言って、すぐに解散した。
今日はせっかくということでツカサ両親と俺の両親の6人で帰った。母親同士の会話がこっぱずかしかった。だが、4人とも誇らしそうに試合のことを語るのを見て、頑張ってよかったと感じた。
本音を言えばゆうるちゃんに声をかけておきたかったが、ツカサの目が俺を常に追いかけているような気がして気が引けた。もしかしたら俺の自信過剰の可能性もあるが、ゆうるちゃんには今度お礼を言うことにする。
そして、翌日を迎えた。
アイシングとマッサージを適切な間隔と強度でやったため、そこまで足は痛くない。が、重い。
勝ち上がっていけば今日の2戦と明日の3戦で大会が終了するが、正直そこまで持つ気がしなかった。コーチもそれに気づいたようで、出番のタイミングは考えると話してきた。
体力トレーニングは続けないといけない。コーチに出番の調整を考えさせている時点でアウトだ。俺のポジションは体力の減りが他より早いが、SBでのチョイスが低いのならMFで適応しなければならない。幸い適性はあったようなので、身内の不幸で休んでる元レギュラーには悪いが、ここを奪うつもりだ。
今日は観客席にゆうるちゃんはいない。「お土産に期待しててくださいね?」と言っていたのでそれを楽しみにしておこう。俺からは、全国優勝という報告のプレゼントだ。何がなんでも取りに行く。
ちなみに今日も数人のクラスメイトがいたので手を振り返しておいた。普段よく話すグループの友達である。女子軍団はもう来ていなかった。......べ、別に悲しくなんかないもんね(涙)!
父は仕事があるようで、母だけが来ている。ひとりが寂しいとかでツカサママと一緒に座っていた。どんな話をしているのか、昨日の帰り道で恥ずかしい思いをした俺は心配だよう。
その後は、時間になり次第すぐに試合が始まる。
今日は予選リーグ3戦目。1試合目を1-0で勝ち、2試合目で0-1と敗退した相手だ。俺たちの1試合目の相手に負け、2試合目の相手に勝ったチームだ。実力は拮抗しているとみていいだろう。
今日も俺は第1ピリオドから出る。相手もレギュラーメンバーだそうだ。ガチンコ対決と行こうじゃないか。
3-2-2を採用しているチームで、守備が上手く攻撃時は中盤前線が動き回るチームだという。
スリーバックの真ん中。170cmもある大柄なCBがことごとく相手CFを押さえ込んでいるらしい。ここまで失点数は1点で、その理由は彼がいることも大きい。
コーチには俺にミドルシュートを積極的に狙っていくように言われた。相手DFの意識を少しでもこちらに割かせるためだ。
かくして試合は始まる。
初めから俺たちが押し込む時間になったが、なかなか点が決められない。サイドで質的有利を作り出しているが、大加田を相手CB一人で押さえ込んでいるので他の場所に人数をかけることが出来る。それもあってサイドで数的有利を作りきれていなかった。
なのでミドルシュートを狙っていく。当然MFがコースを塞ぎにくるので、強引に撃ったり、簡単に散らしたりして揺さぶる。危うく強引に打ったボールが相手の伸ばした足にぶつかってカウンターを喰らいそうになったが、俺が率先して未然に防いだ。セーフセーフ。
そのまま12分が経過し、スコアレスで第2ピリオドに入る。
すると、強引にペナ内にドリブルで入り込んだ味方が相手に倒されPKを獲得する。それを倒されたMF自身が決めて1-0と勝ち越して戻ってきた。
新しく入ってきた4年生のMFだが、なかなか侮れない。ドリブルが上手く、狭い場所でも無理やり打開できるのだ。
そして、第3ピリオド。俺と尊史は休み、ツカサは出ることになった。MFには先程一点決めてノリノリの4年生が入り、右SHには守備意識の高い選手が代わりに入る。
部分ターンオーバーだ。
結果としてツカサの磐石な守備と4年生MFの強引な突破が光り、第3ピリオドも1-0で終了する。3戦合計2-0。予選リーグ3戦を勝ち抜いて勝ち点6をゲットし、見事決勝トーナメントに進むことができた。
全員で称え合う。特に活躍した4年生はもみくちゃにされていた。なかなか手強いライバルが現れたものである。
決勝トーナメントはしばらく時間が空くので、選手たちは少食を腹に入れる。からだを休ませ、次の試合に備える。
去年大会に出場した選手はこの後の試合こそ本番だと気合を入れていて、それはツカサも同じだった。確か次の試合で負けたんだったっけ。
「私たちはB組2位通過だから、シャンテFCとは決勝まで戦わない。けど、もちろん他にも強いチームがある」
シャンテFCとは、俺たちが1試合目で負けた相手だ。ツカサが指さすのは、決勝トーナメント表の、俺たちのクラブ名が書かれた近く。
「コーべ・シティFC」
「そう」
D組1位通過のチームだ。順当に勝ち上がれば準決勝で相見える。
ツカサは特にこのチームを気にしているようだが、片手にはほかの予選リーググループの結果があった。
C組を開いてもらえば、彼らが圧倒的な成績で勝ち上がっているのがわかる。
3戦全勝、得点15、失点3。ちなみに俺たちは3戦中2戦1敗、得点12、失点5だ。だが、俺にはそこまで特筆した何かが見えない。確かに得点力は怖いが、それに怯えているわけでもなかろう。
「ほら、2位のチーム。関東1位のチームだよ」
「あ、なるほど」
ツカサが指をさしてくれた事で言いたいことがわかった。
2ヶ月前に関東予選の決勝で俺たちを破った相手チームが、コーべ・シティに6-1で敗れているのだ。それを警戒しているのだろう。
「それと、コーべはトランジション時の中盤での強度が高いって聞いてる」
ツカサは静かな目で俺を見ている。言いたいことは言わずともわかる。
「ああ。だんだんこのポジションにも慣れてきた。相手の強度がどうだろうと、俺が試合を支配する」
聞きたい言葉が聞けたのか、ツカサはあまり変えない表情をにこりと微笑ませていた。