転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
予選リーグを通過した、翌日。
ゴールデンウィーク最後の日を迎えた俺たちは、優勝をめざして試合を続ける。
今日は決勝トーナメント2回戦目。準決勝だ。
1回戦目は昨日の午後に終わり、シーソーゲームを辛くも制して勝ち上がっている。第1ピリオドでレギュラーメンバーのふたりが打撲を負って第3ピリオドに出られなかったこともあり、思い通りのプレーをさせて貰えなかった。
第1ピリオドは1-1。第2ピリオドも1-1。第3ピリオドを1-0で制して、一点差で何とか勝利した。俺は第3ピリオドだけの出場にとどまった。予選リーグが終わった時点で体力が厳しいと判断されたからだ。
1アシストで貢献したものの、不甲斐ない気持ちが残る。ランニングの時間を増やすべきだろうか。
とはいえ、どれもこれも今日の試合を終えてからのこと。今日の対戦相手はコーべ・シティFCというチーム。ツカサは「中盤の強度が高い」印象で、コーチ曰く「タレントが揃っている」らしい。
ウォームアップ中に相手チームを見てみれば、確かにタレントが揃っていそうな気がする。別に知っている顔がある訳では無いが、漫画に出てきそうな髪色やイケメンが多い。......もしかしたら俺が知らないだけで、本当に漫画の世界に転生しちゃったんだろうか。
ちなみに今日は仲のいいクラスメイト数人と両親、そして祖父母たちまで応援に駆けつけてくれた。俺がかなり勝ち進んでいるためにわざわざ来てくれたらしい。肩をもんだらお小遣いをくれる優しい夫婦だ。別に金づるだなんか思っちゃいない。これはマジだ。
「なあ、あのちっこいのが選手権のMVPだっけ?」
「うん。あの金髪。桜羽って読むみたい」
軽くシュート練習をこなしてからベンチに戻ると、チームメイトが雑誌片手にどこか指していた。ベンチスタートだからってお気楽なもんだ。
遠慮なくずいと雑誌を見させて貰えば、金髪の美少年がドリブルしている写真がでかでかと掲載されている。「神童ファンタジスタ 桜羽竜騎」の特集だとか。逆さまで見てるので読みずらいが、彼ら二人の言う限り半年前の冬の選手権についてだろう。
「パワプロも気になるのか?桜羽」
「まあ、対戦相手だしな」
振り返ればフィールドに金髪の少年を見つけることが出来る。金髪を後ろで束ねてマンバン気味にしている勝ち気な顔の少年だ。俺より一回り小さいが、シュートの威力はかなりのものだ。
「知ってっか?あいつ小三でMVPとったんだぜ、やばくね」
「ほら、ここにも書いてあるよ。左利きのCF。前線を縦横無尽に駆け回り、相手の意表をつくプレーで相手守備陣を破壊するファンタジスタ。僕が思うに、彼を止めるには強めのマンマークが必要だと思うんだけど、君はどう思うかい?」
まるで有名人にあったかのようにウキウキと話す肌の焼けた少年と、雑誌を膝においてゴーグルメガネの位置を修正しながら早口で話す色白の少年。彼らの態度に、少しイラッときた。
「マンマークは賛成だ。けどすごいとは思わない。俺たちが負かすんだ」
それっきり場所を離れた。後ろからは呆れたような声が聞こえるが、どうでもよかった。
......とはいえ、彼のプレーが気にならない訳では無い。俺の同年代のファンタジスタと言えば、ケイとユウだ。前世の選手もいるかもしれないが、調べることをしない俺には分からない。そういえば、久保○英も同じくらいの世代じゃないのかな。
それはさておき、フィールドには桜羽以外にも見るべき選手がいる。
特に、2人の長身茶髪イケメン。所謂韓流系のイケメンと、目がぱっちりとした中性イケメンだ。漫画の世界なら、間違いなくあの二人は上手い。それに、どちらも基礎的な技術レベルが高く、スピードもあるように見える。あの身長ならどちらもDFっぽいが、厄介だ。
それに、それ以外にも見所のある選手は多くいた。ツカサの言う通り、決して侮れない相手だ。
「パワプロ、監督が呼んでる。ミーティングだよ」
後ろから尊史が声をかける。彼は随分リラックスしているように見える。こういうメンタル面でも、プロフェッショナルかそうでないかが別れるもんだな、とつくづく感じる。俺が改善しなきゃいけない部分だ。
「気になる選手がいたのか?」
「あー。まあ、なかなか上手い選手はいる」
「そうか。俺もさっき監督に昨日の試合を見せてもらったんだ。ここが山場だな」
尊史は意思の強い眼差しを俺に向けて、拳をゆっくりあげる。俺も拳をあげて、2人で合わせた。
「勝つ」
「ああ、勝つぞ。パワプロ、勝つのは俺たちだ」
☆
お互いに向かい合って握手をする。俺の対面は奇しくも桜羽という金髪クソガキだった。整列の最中にも同学年くらいの女どもが「さくらばく~ん!」なんて歓声をあげるのだ。鬱陶しいったらありゃしない。
「ヨロシクね、桜羽くん」
「あ、俺の名前知ってんだ。ごめんだけど、俺はあんたの名前知らないんだ。いい試合にしようぜ!」
「......ソウダネ」
礼儀正しいけれど、言い方にこめかみがぴくつきそうになった。一個下のくせに、生意気な───。
いかんいかん。どうにも俺はこいつをライバル視してしょうがない。これでは普段の実力を発揮できない。一旦目を閉じて、深呼吸をする。リラックス、リラックス───。
ペチン。
「あれ、いてて」
誰かに頬を叩かれた。見れば、ツカサが俺の頬に手を添えている。
「ほら、円陣」
見れば、俺以外のメンバーが肩を組み始めている。試合前恒例の円陣だ。
ツカサに追いついて円陣にまざろうとすると、ツカサが再度口を開く。
「昨日注意すべきチームなんて言ったけど、私たちが負ける道理はない、パワプロ」
どうやら、俺の深呼吸が昨日のツカサの言葉で緊張したせいだと勘違いされたらしい。心配ねーよ。と返してやったら不敵な笑みを浮かべてきた。初めて会った頃から比べて、だいぶ頼もしい表情をするようになった。あるいは、俺が勝手にそう感じているだけかもしれない。
「去年は超えた。目指すは優勝!」
「絶対勝つぞー!!」
「「「おう!!!」」」
キャプテンであるGKの掛け声とともに心に火がついた。
第1ピリオドが始まる。
どちらもレギュラーメンバーの対戦となった第1ピリオド。3-3-1の対面布陣で、どちらも似たような戦術を取っている。
選手たちは個人の力量や連携度が勝敗に直結すると無意識に悟ったのか、開幕からガチンコ勝負が多い。
「パワプロ!」
「言われなくとも......!」
大加田の裏抜け。相手のハイプレスをくぐり抜け、俺が顔を上げた瞬間に強面のFWはディフェンスラインの背後にかけ出す。左サイドから針の穴に糸を通すようなグラウンダーパスを送る。CBが足を伸ばすも、嘲笑うようにその数センチ先を通過した。
「っ!?ああ、クソ!」
「カウンター行くよ!」
しかし、ゲートを通した方とは逆サイドの右SBが適切にカバーをする。大加田はボールに触れず悔しがる。
その右SBの中性イケメンからロングパスが通る。こちらもグラウンダーだ。精度はそこまで高くないが、CFの金髪が下がって受けに来る。
「ターン気をつけろ!」
「もらい!」
しかし、金髪───桜羽はプレスに来たツカサを背負って反転する。ボールを足元でトラップせず、あえてスルーしてターンする高等技術。あのやろう、早速魅せてきやがった。
こちらの左SBもすかさずカバーに入る。小刻みな揺さぶりに突破される不安が湧いたのか、距離を空けてディレイをしている。
それが功を奏した。
「グワッ!?ふぁ、ファウル!」
「ねえよ。くれ!」
斜め後ろからツカサがボールをタックルでかっさらう。彼女の長い足だからこそできる、彼女の最終奥義だ。視界外からの華麗な一撃に、桜羽も驚愕して尻もちをついた。ボールだけに触れてクリーンに奪った。レフェリーも続行の合図を示す。
相手MFが移動して空いたスペースに顔を出す。ボールを受け取った。
試合を落ち着かせるつもりは無い。ここまでオープンな展開だ。個人の能力の差が出るというのなら、負ける気はしない。俺がいるし、ツカサも尊史もいる。
「うお!?」
だが、侮れない。先程つま先にパスをかすめさせたCBがプレスに出てくる。スピードもタイミングも、ターンした俺の意表をついてきた。
自分より30センチ以上高い相手なのでどうにもできない。仕方ないので必死にキープする。手足が非常に長いため、完全におおいかぶされた。なんだこいつ! キーパーでもやってろよ!
「桐生!」
「パワプロ!」
そこに、相手味方同時にサポートが来る。尊史と、もうひとりは大加田を止めた右SB。マッチアップ中の2人だ。
ちらと目をやれば、尊史は足元で受けようとしてくる。中性イケメンはその斜め後ろにいた。大加田へのパスコースもそれとなく塞がれている。
「フリー!」と叫んだ味方左SHにボールを逃がす。すぐさまCBが引いていき、左SHには相手右SBが対応し、相手右SHまでプレスバックしてきた。徹底している。
そこで、再び俺がもらう。桜羽がカットを狙っていたためかなり近づいて受け取った。
ボールが足元に来る前にもう一度首を振った。視界を広げる。
「決めろよ!」
ワンタッチで一気にディフェンスラインを超え、尊史の前に落ちるフライボールを送った。
中盤から前線に戻る途中で加速を始めているため、尊史はほとんど最高速度だ。が、それは相手右SBも同じ。結局尊史は追いつかれて、一対一に持ち込まれた。
味方の選手が一気に相手陣地に押し寄せる。最終ラインも大きく上げた。俺もマイナスの位置に駆け込む。と、ここでゴール前でCBと競っていた大加田が、尊史のカットインを見て斜めに走る。
CBもややそれにつられて、ゴール前にシュートコースができた。
「おらあ!」
「ぐっ!」
尊史の強烈なシュートに中性イケメンが体を投げ出してブロックする。痛そうだ。こぼれ球は大きく弾かれ、ツカサが収める。彼女は桜羽のプレスを見て、落ち着いてキーパーに戻す判断をした。
開始7分たって、ようやく試合が落ち着くか。しかしそうはならない。
どちらもプレスをはめに行き、ロングボールを蹴らせることになっている。大加田と韓流イケメン、ツカサと桜羽の対人戦がもっぱらの注目デュエルになった。ポストプレーと空中戦が強みの大加田は相手に負け気味で、ツカサも桜羽のプレーに翻弄されている。
ボール保持も相手の方が長くなってきたので、ショートカウンターを狙っていくことになった。
俺たちのチームは初戦こそ相手に中盤を蹂躙されていたが、新戦力の俺がだんだん中盤に慣れてきた。プレスの連携やパス回しにリズムが生まれてきたのだ。
桜羽を警戒して中にボールが入らないように守備を絞っているため、ボールはなぞるように外側しか回っていない。SBの功労もあってサイドを攻略されているわけでもない。
ここで、あえて桜羽へのコースを開ける。しばらく中央にパスを差し込めなかった後だ。それに残り時間もおそらく1分に満ちていない。得点が欲しい頃だろう。
それに、こういうときはエースに送りたくなるもんだ。「あいつなら、何とかしてくれるだろう」と無意識でも考えてしまう。ほら、引っかかった。
桜羽がそれに気づいて慌てて声をかけるが、───もう遅い。
最終ラインに下がっていた相手MFの縦パスを途中でカットする。下手に技術があるから狙いたくもなる。さぞチャンスに見えたはずだ。悔しかろう。
俺のシュートレンジだ。迷わずシュートモーションに入る。
「ブロック!」
当然MFが駆け込んでくる。自分のミスを取り戻したいらしく焦っている。
しかし、当然人が出てきた場所にはスペースができる。MFが降りていた分、左SBが高めのポジションを取っていたのだ。今の最終ラインは、たった2人。
「尊史!」
相手の脇の下をくぐり抜ける、巻いたフライパス。スタートしていた尊史の少し先に落ちる。何とかついてきた中性右SBとの一対一。
尊史が中へ進路をとる。先程のシュートを警戒してか、右SBは中を強めに抑えた。
その瞬間尊史は縦を突破する。急激な速度の変化に中性イケメンは一歩おくれ、角度のない位置でのキーパーとの一対一になった。
尊史の、得意なゾーン。
キーパーの股の下を通るシュートが放たれた。ネットが鳴る。
「しゃあああああああ!!」
「タカああああああ!!」
即座に尊史の咆哮が上がる。大加田も吠えていた。スタンドの前で尊史が膝スラする。懲りてないようだった。スタンドは大盛り上がりだ。
「クソッ、くそおっ!!」
俺の背後では相手MFが座り込んで悪態をつく。そうだ。お前のミスから始まったんだ。よーく見とけよ。
「やられたよ」
流石に体力がキツいのでゴールセレブレーションには合流せずその場に立ち尽くしていると、背後から声がかかる。
桜羽だ。
先程までの自信満々の涼しげな顔はどこへやら、悔しそうに歯を食いしばっていた。
「名前は?」
桜羽が聞いてきた。彼の目に火がついたように見える。
「神谷パワプロ」
とだけ返しておいた。盛大に勝ち誇るのは、試合に勝ってからだ。