転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
決勝トーナメント2回戦目。
第1ピリオドは1-0で勝ち越した。少しの休憩を挟んで第2ピリオドが始まる。控え同士の戦いだ。俺に出来るのは味方の勝利を祈りつつ、自分の体力を最大限回復するだけ。
「守備は今のままでいいだろ、とにかくあの金髪10番に渡らなきゃ怖くない」
「うん。けれど、見返した試合より中盤まで下がる時間が少なかった。下がり始めたら一層注意するべき」
「ウィンガーが裏抜けめっちゃ狙ってくるんだよなー。ボール出させんなよ? 足めちゃ早いから」
「大加田はどうだよ。あのキノコに勝てそうか?」
「勝つに決まってんだろカス」
「......まあ、空中戦では分が悪い。俺がもうちょい距離近くするわ」
「そうしろ、パワプロ。練習でやったワンツーやるぞ」
給水しつつ、先程の試合について話し合う。最初はツカサと俺が個人間でやっていたことだが、ほかのメンバーも積極的に参加してくるようになった。これがあるかないかでプレーのしやすさも変わるのだ。今のようなギリギリの勝負では、そういった小さなことが明暗を分ける。
「うわ、やられた」
「何やってんだよ、おらあ!!」
「集中、集中!前線はもっと走って!......大加田、怒鳴ると萎縮するでしょ?」
「いしゅ......?ああ!? 俺らのリードが消されたんだぞ!? 怒鳴らずにいられるかっての」
「点取ってから言えよ。声だけ大きいんじゃ話にならねえ」
「んだとタカクソ......!!」
「落ち着けよ」
第2ピリオドの一失点目。累計スコアで同点となった。予選リーグ1試合目と似た流れと言うこともあり、大加田を筆頭に怒りを抱く選手も多い。特に1試合目に完封された大加田はイライラが降り募っているようだ。先程から当たりが強く、嫌な雰囲気が漂う。ツカサも諌めるが、珍しく尊史もかっかしていた。
どうにか場を収めようと思ったが、その前に監督から集合がかかる。次のピリオドに向けてのミーティングだ。
監督たちも先程の怒鳴りあいは聞こえていたようで、大加田には冷静になるよう言っていた。ただ、それが効いたようにも見えない。
その上ミーティングのさなかに追加点を決められてしまい、大加田は監督の目の前で舌打ちをした。どうにか堪えているようだが、危うい様子だ。なかなか実力のある選手だが、気性が荒っぽいのが玉に瑕なのだ。
その後は静かに試合を見守ったが、リードを覆すことはなく0-2でバトンを返された。メンバーは不甲斐なく感じてるようで一部が泣いていた。試合途中の大加田の声も聞こえてたらしく、隣を通ったメンバーがあからさまに肩をビクつかせる。
サブメンバーの育成は、このクラブの課題なんだろうな、と思う。レギュラーメンバーに比べて戦術浸透度も高くない。
まあ、それはコーチたちの考えることだし、控えのメンバーまでフルに戦うのは春の選手権くらいだ。この大会だけのハンデとも言える。
今は、第3ピリオドに勝つことだけ考えよう。
相手チームもピッチに出揃う。MFとSH、左SBが代わっていた。桜羽を見ればリードに多少余裕ができたようで、チームメイトに声をかけ回っていた。
大して、俺たちのチームは声が随分少なくなった。大加田がすごい威圧感を出しているし、それに尊史もイラつきが隠せていない。正義感が強いのか、はたまた別の理由か。
ともあれここで勝てば、あとは決勝だけだ。一点取れば、ひとまず延命はできるのだ。
嫌な雰囲気のまま、第3ピリオドが始まった。
試合のペースは当然相手チームが握った。
「こっち!」
「カバー!」
「しまった......」
試合開始直後の失点。陣形がまとまっていないうちにサイドからの高速パスで桜羽にボールが渡る。俺のすぐ背後で受けられたが、俺は体に触れない。アジリティの低さがもろに出た。
ツカサがカバーしてくれる、と振り返ってみれば桜羽はそこからシュートを撃っていた。
ツカサは桜羽に抜かれないように距離を取っていてブロックできない。ほとんどフリーでシュートを放たれた。際どいコース。ややドライブのかかったシュートはキーパーが届かないコースを貫きゴールネットを揺らす。
あっという間の出来事だった。
「くっ」
「ツカサ、取り返す。いつも通りのビルドアップだ」
「わかってる───」
ダメだ。顔が険しい。こういう場面ではツカサは崩れがちだ。
「が、クソ......!! てめえ、ら......!」
前線を見れば大加田も尊史もすごい顔をしている。味方に文句は言えず、とにかくボールを蹴りたい顔だ。尊史はともかく、大加田は視線だけで人を殺しそうだ。
試合が再開する。
どうやら、相手は俺の徹底マークを指示されているようだ。守備時の3-3-1の布陣は変わらないが、尊史とは反対サイドのSHとMF、更には桜羽で俺を囲うようにマークしている。
当然、俺にボールが入らなくなり、そうなれば試合のリズムが悪くなる。第1ピリオドの意趣返しをされていた。
サイドを回してSHにボールを預ける場面が多くなるが、尊史に対しては相手SHも強めにプレスバックしている。強引に突破しようとすればファウルでとめる徹底ぶりだ。次第に尊史もフラストレーションが溜まっていく。
一度ツカサから大加田に向けたスルーパスが出たが、大加田は上手くトラップできずに回収される。ツカサのパスもそうだが、かなり精細をかいていた。
俺も最終ラインまで降りたり、裏抜けを狙ったりする。ウィンガーのサポートに行ったり、大加田をワンツーで抜けださせようとしたり。
けれども、交代した相手MFの徹底マンマークでボールを触ることが出来ない。大柄でスピードのある刈り取り屋だ。中盤にスペースができようとも、知ったことかと永遠に追っかけてくる。
空いたスペースを使おうとしても、CBの広い範囲のカバーがあってボールを前に進められない。
ボールポゼッションがこっちにあっても、試合の流れは相手の手中にあった。
開始から5分が経つ。
チームは試行錯誤していた。相手はプレスが弱くリトリート気味に守っている。大加田や尊史にもボールが通るようになったが、相手の質で上手く対応されてしまっていた。尊史もダブルマークに苦しんでいる。
一度左SHにワンツーで抜け出させてみる。折り返して大加田へのボールだったが、相手CBに完全に潰されていた。運良くフリーキックを獲得するが、大加田は発狂する。
ゴールから見て、やや右側。距離もよく、俺の左足なら十分に狙える距離だ。
「......おい」
「パワプロ、俺に蹴らせてくれ」
しかし、尊史がボールを話さない。フリーキックを自分が蹴るという。こいつこんなに頑固だったけか?
まあ、右足でも入らなく無いし、いつも蹴りたいやつが蹴るというルールだった。俺も蹴りたいが、フラストレーションの溜まっている尊史がキレるよりはマシだった。
だが、果たして今の尊史に決められるかどうか───。
尊史がボールを置いて助走に下がる。
それを見て、相手は壁の右側に高いふたりを置いた。尊史のキックを警戒してのことだろう。一歩前に出ていた壁をレフェリーが注意する。尊史が深呼吸して、ボールを見据える。
笛がなった。
尊史が一呼吸おいて、助走をつける。威力よりも回転を意識したボールが蹴られる。
そのはずだったが、力みすぎたのか相手の壁に直撃した。顔面に当たったようで、すぐにレフェリーが試合を止めて様子を見に行った。
「チッ」
「おい尊史コノヤロウ」
「落ち着け大加田。今のうちに給水するぞ」
大加田は肩をいからせながら尊史に近づいてくる。ここで衝突されるとまずいので、給水へと急がせた。それでもお互いに睨み合っていて、今にも噛みつきそうな雰囲気だった。
彼らに気を使ってか、ほかのメンバーも声を出しにくい。俺もツカサとは意見を交換できたが、彼女もキツそうな顔をしていた。
嫌な流れだ。
この時間に監督が指示を下す。
大加田を1列下げ、SHがツートップの役割を担うそうだ。SBは高めの位置を取り、俺はツカサとツーバックをする仕組みだ。
俺が中盤でボールを持てそうにないからの判断だろうか。まあ、CBなら多少余裕はできる。俺もツカサもパスの正確性は高いため、ロングボールを狙うかたちなのか。
「一列、下がれ......?」
みんなも、およそ納得していた。このままでは埒が明かないことを悟っていたからだ。
だが、大加田はキレた。
「監督よお、俺があのキノコに負けてるから一列下げようってんじゃないよなあ!? 俺はまだ負けてねえ! 決めつけんじゃねえよ!!」
「大加田、監督には......」
「だいたいお前らもいいパスよこせよ! もっといいパスよこせ! それがお前らの仕事だろうが、俺が前線で踏ん張ってんのにちょこちょこ遠くでパス回してんじゃねえよ!!」
大加田は子供らしく吠えた。強面を一層ゆがませて喚き散らす。監督が困ったような顔をし、残りのコーチのひとりが顔をムッとしかめる。チームメイトも大加田の勢いに体を強ばらせた。
尊史を除いて。
「いいパス寄越しても点決めねえじゃねえか。さっきも言ったろ、点決めてから言え」
「あ!? いついいパス出した、何試合目の開始何分何秒地球が何回まわった時だよ! 言ってみろよ、いついいパスなんか出した!」
「聞こえねえのか? 点決めてから言えよヘボフォワード。さっきだってクロス出したじゃねえか。そんだけ怒鳴るなら決めろよ」
「あれのどこがいいパスだよ! サイドバックに負けてしょぼいボールしか出せてねえじゃんかよ、あれをパスなんか言わねえだろ雑魚が。それに点取ってねえのはおまえもじゃねえか。そんなに言うんならフリーキックの一つ二つ決めて見せろよ!」
そして、喧嘩になってしまう。お互いに胸ぐらを掴み合い、顔を付き合わせて罵り会う。いつだって熱いプレーを見せていたふたりが、いらぬ所でその熱を出していた。常に余裕のあった尊史までもがだ。
俺は一瞬監督の顔を伺う。どうやら止めるつもりがないようだ。殴り合いになったら割って入るのだろうか。それでは遅い。
ほかのチームメイトは我関せずを装う。どうやら俺が割って入るしか無さそうだ。
こういう痴話喧嘩に入るのは、恐ろしく面倒くさい。
「あんくらいのパスでも決めて見せろよ! フォワードだろうが、あんなひょろひょろセンバに負けてんじゃ───」
「おい───」
だが、機先を制された。
ブパッ、という音と共に2人に頭から水がかけられる。殴り合い寸前までいっていた2人は、思わぬ冷たさにハッとした様な表情をした。
ペットボトルを持っていたのはツカサだ。そのうち1本をもう一度2人にぶちまけ、片方を自分でも被った。脇にいた俺も被害を被った。
「2人は何しに来たの? 勝ちに来たんでしょ?」
「......あたりめえだろうが」
大加田が尊史を押してツカサに向き直る。じっと彼女を睨むが、ツカサは冷たい目で睨み返す。
「じゃあ頭を冷やして。あと一点をどうやって返すか、それに頭を使って」
「ぐぬ......」
大加田は何も言い返せない。尊史も頭が冷えたようで、きまりが悪いような顔をしていた。ツカサは、それ以上声をかけない。
レフェリーが試合開始を急かしてくる。キャプテンが声をかけてチームメイトがピッチに出る。
───結局、俺は何も言えなかった。
それからは、あっという間だった。
物語のようにここから逆転できるはずもなく、得点した流れに乗れないまま試合は終了した。
俺たちは準決勝で敗退した。