転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
小五の夏休みがあっという間にすぎた。
本当にあっという間だった。今年はサッカーの試合が多いこともあって例年よりも強くそう感じた。
この半年間で合計30以上の公式戦に出た。MFとして出場して20ゴール60アシスト。まあちゃんと数えている訳では無いが、数字面でもしっかり結果を残せている。
出る試合ごとに課題もでるが、自分がどんどんレベルアップしているのを感じているのでモチベーションは高い。
ちなみに、今年の夏は関西の方で強化合宿に参加してきた。バルセロナではないが、スペイン一部クラブの下部組織が開いたものである。この合宿で優秀選手に選ばれれば、次のステップが見えてくるのだ。
まあ、選ばれなかったのだけど。
ただ、参加している選手の中でも、俺は際立っていたように感じる。自分で言うのもなんだが、それだけ自分の成長を感じているということだ。身長もこの夏だけで5cmも伸び、体つきもしっかりしてきた気がする。筋肉をつけすぎると体が重くなったりタッチが悪くなったりすると噂を聞くので、体幹トレーニングだけこまめに続けている。そのせいもあってか、冬のように当たり負けることは少なくなった。
「おいパワー! 100m始まるぜ、行こう!」
「えっと、どこで始まるのかしら」
「まー、人の流れについて行けばわかるでしょ」
10月の土曜日。今日は小学校の運動会だ。大会があればそっちを優先したりするが、大抵この時期には試合がないように設定されている。俺の健脚を披露する出番だ。
「ああ、ちょっと待って。ハチマキ探してる」
「ほらー。外してるからだろ? だっせー」
「うっせーな」
リュックの底から真っ赤なハチマキを探り出して集合場所に向かう。それにしてもあっちーな。生前は5月くらいに日程が移されたような覚えがあるが、今はまだ10月開催だ。水分補給をしっかりしないとほんとに倒れるぞ?
俺は13レースの3レーン目だったな。合計6レーンあって同じクラスから2人ずつ出るのだが、もうひとりは矢部坂だった。
「いやおめーかよ」
「顔を見るなりなんでやんすか!? ライバルとの勝負の名乗りがそれはあんまりでやんす! 武士も真っ青でやんす!」
「そんな堅苦しいこといらんでしょ」
「いるんでやんす。ほら、『やあやあ我こそは矢部坂なりけりぃ。腕に覚えのものよ。手合わせ願うでやんす』」
「地獄からの使者、カミヤーマッ!」
「ジャンルが違うでやんす!!」
臆しもせずに武士の名乗り口上をあげる矢部坂に体が震える。よくそんなセリフ言えるな。恥ずかしくてたまらねーっつの。
しかし、矢部坂もそうだがこのレースには足の速いやつらが多い。かなりの激戦区になった。いわゆるリレ選組と言うやつである。
すぐに俺たちの番がきた。矢部坂は緊張してきたのか鼻息が荒い。......一応同じクラスだから、足を引っ張んないでくれよ?
パァン!!
ピストルの音と共にかけ出す。スタートダッシュで俺は一歩リードした。コーチからアジリティをあげるトレーニングメニューを組まれたのだ。あれから日は浅いが、日に日に瞬発力は上がっている。
だが、トップスピードはそうでも無い。今でこそリードしているが、このままでは抜かされてしまう。だが、策は無い。全力を出すだけだ。
頑張れ、北京だって頑張ってるんだから!
ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!
ゴー、ル!!
「はあ、はあ、はあ」
「神谷16秒5、3位」
ゴールライン横で測っていた体育教師に知らされる。まじか、16秒前半行かなかったか。それに3位かよ。自慢できねーじゃねーか。
「はっ、はっ、パワプロくん、オイラ1位でやんす。はあ、オイラの勝ちでやんす!!」
「死にたい......」
「想像の数百倍落ち込んでるでやんす!?」
15秒5。それが矢部坂の記録だ。くそ、こいつ足だけは早いんだよな。屈辱だ。
☆
「なあ、冬にも全国大会あるんだったよな」
「あー。これから予選に勝てばな」
へー、すごーい、なんて声が上がる。運動会が終わり、校庭から椅子を持って帰ってきたところだ。俺のサッカーの話に興味があるのか、聞き耳を立てる女子もいる。ふへっ。
「夏は、なんか賞も貰ったんだろ? 」
「すげーな。同級生から日本代表出るじゃん」
「へえ~」
「はは、よせやい」
去年まではそこまで褒められることは無かった。ここまで言われるとむしろ恥ずかしい。最近は大きな大会で活躍していることもあり、よく話題にされる。ちなみに夏にとったのはアシスト賞だ。二つの大会のアシスト王になったのだ。
......まあ、実際のところ夏のワールドカップでサッカー熱が続いてるだけだ。前世と同じくベスト16で敗北した日本代表は、それでも並み居る強豪相手に善戦したため賞賛の声が大きい。
もちろんそれは子供たちにも影響し、サッカーに興味を持ってくれる子が沢山増えた。コーチも選手たちに「セレクションを希望する子が多すぎて絞れない」と愚痴を吐くほどには人気が加速していた。
どうせ数ヶ月もすれば収まるだろうが、憧れの視線を向けられるのは嬉しいものだ。
「パワプロくんって、みどふぃるたーをやってるんでしょ?こないだパパが言ってたの」
「その通り、ミッドフィールダーだよ。攻めも守りもする大事な役目なんだ」
「すごい!」
「かっこいいね、みっどふぃるたー」
ははは、褒めたまえ......永遠に褒めたまえ......。
「あ、そうだ。東京予選の2回戦目がすぐ近くの道山グラウンドでやるんだよ。まだ先のことだけど、日曜日の昼だから良かったら来てくれない?」
「うん、いくいくー!」
「おっしゃ、またパワー応援団結成するぜ!」
「何月くらい?」
「11月の初めくらいだよ。1ヶ月先かな」
こうして、時折観戦に誘う。応援が嬉しいという気持ちが強いが、スタンドの流れを自チームに傾けられる効果もある。失点時にはあからさまに残念そうな声が出るため気が削がれるが、一点でも取りさえすれば一気にアゲアゲモードだ。戦いやすい。
決して、ゆうるちゃんを誘っているカモフラージュにしている訳では無い。最近は会える頻度は下がっているが、熱心に試合観戦に来てくれているのだ。小学生がたった一人だけと言うより、大勢周りにいた方が気が楽だろう。多分。
それにクラスの何人かがゆうるちゃんと友達だったようで、スタンドでひとりぼっちということにもならない。結論、誘う以外ない。
その後は他の話題に移ったり、またサッカーの話題に戻ったりして帰路に着く。大勢で正門を潜り、次第に別れていく。やがてお供は少なくなって、俺が抜ける時がきた。
そういえば、今日は矢部坂が静かだった。
お調子者の彼ならいつものように騒ぎそうだが、俺の合いの手が今日は不発だった。顔を伺ってみれば、どことなく気落ちしているように見える。
......ははーん。
「矢部坂」
「な、なんでやんすか、モテモテでサッカーが上手くてイケメンで女たらしで頭が良くて嫌味っぽいパワプロくん」
「よせやい、照れるじゃねーか」
「皮肉のつもりでやんす!」
こういうひねくれたところは、俺と一緒にサッカーをしていた頃はそこまでなかった。いつの間にか醸成されたものである。
まあ、責任を感じない訳でもないし、気持ちがわからない訳でもない。
「お前、来年は一緒に出るからな。さっさとうちに来い。俺が初めての日本一を味わう前にな」
偽らざる本心だ。俺は、一緒にプレーしたこいつを、少なくとも認めているんだ。
矢部坂はそれを感じ取ったようで、いくらか嬉しそうに笑った。
「待ってるでやんすよ!左の神谷に右の矢部坂。日本にとどろかせるでやんす!!」
こいつ俺がMFやってる事聞いてなかったのかな?