転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
また新しく1年が始まった。
小学6年生の4月。U-12世代の最高学年になり、学校や塾だけでなくサッカーでも節目の年となる。
何度か上のカテゴリーへのステップアップの打診もあったが、拒否して残った。来年には欧州にいる(予定)ので、一年だけ新しい環境に行くというのも尻切れトンボで心地が悪い。ツカサや尊史にも同じ話があったらしく、3人で話し合って出した結論だ。
そういえばあの時に初めて尊史に「海外の下部組織に行きたい」という話をした。スペイン語も話せることに驚いていた。実は、父親の知り合いにスペイン語の話者がいたのだ。一週間に一度テレビ電話をさせてもらってるおかげで、最近メキメキと上達している。
意外と父はこういう繋がりを持っている。父様様だ。
とはいえ、未だ行ける下部組織の目処がたっていない。まだ日本市場に注目が集まっていないせいか、毎年数人しか海外のセレクションに合格できないのだ。純粋に難しいこともあるし、FIFAが制限をかけるせいで移籍自体厳しくなっている。確かもう数年すれば、バルセ〇ナが罰を受けることになるはずだ。
「よし、じゃあ自己紹介してくれ」
芝生のグラウンドで鶴屋監督が背後に並んだ選手に告げる。若い男の後ろには新しいメンバーが列を成していた。
新たにU-12選抜に加わる選手たちである。チームメイトになる奴らだ。
監督陣は俺にステップアップを薦めつつ、なんだか引き止めたそうにするという矛盾に溢れたことをしてきた。どうやら監督は全国優勝をどうしても取りたくて、俺たち3人を構想に入れた上で足りないポジションを重点的にスカウトしたらしい。
俺たちが抜けると、大誤算で大損失だという。じゃあステップアップすすめんなよ。
「しょ、小学六年の矢部坂秀人でやんす。得意ポジションは右SBで、と、とにかくスピードには自信があるでやんす」
よろしくでやんす、とガッチガチの瓶底メガネが頭を下げた。こいつも今年に入って選抜に選ばれたようだ。良かったな、監督たちのお眼鏡にかなって。
「峰功誠です。ポジションはCFで、シュートが得意です。お願いします......」
「あたしは高見飛鳥です。左SHをやってて、左利きです。よろしくお願いします」
そして、いわゆる登場人物だろうなあというやつが二人いた。イケメンと美少女でいかにもという感じである。峰は真っ赤な短髪に爽やかイケメン。そして長身。のっぽと言った方がいいレベルだ。物静かと言うよりも気弱な感じがした。
そして、紫色のショートヘアーにツカサに似てつり目ガチの美少女。ただツカサがモデル体型でスッとした顔立ちなのに対し、高見は小柄で、カワイイ系と言ったところだ。今まであった中で「ちょっと男子ー」と言いそうランキング堂々の1位でもある。ごつい男子もいる中で、物怖じしていない様子がそれを際立たせていた。
どちらも新中一が引退した中で空いたポジションを得意としている。このメンツで全国制覇をしたいと監督陣は言うのだ。さぞポテンシャルがあるんだろうな。
じーっと観察してやれば峰と目が合う。ぎくり、とでも効果音がつきそうなほどビビっていた。怖くないよーの意味も込めてニコッと笑う。既に目を逸らされていた。
高見とも目を合わせたが、合わせた瞬間に「あっ」と驚いたような顔をした。いきなり漫画の反応をするな。俺は君のこと知らんぞ?
ともあれ、まさに漫画から出てきそうな程にキャラが立っていた。俺なんの漫画に転生したかなー? こんな名前には覚えがない。
ちなみに矢部坂は俺がガン見しても反応しなかった。緊張しすぎだぞ。
「おい、パワプロー。あんまガンつけてやるなよ? 心配しないでも、お前のパスを受けられるほどには上手いんだからさ」
「え、いや睨んでたわけじゃないっすよ。よろしくねの顔です」
「睨んでたと思うやつー」
監督が聞けばほとんど全員が手を挙げた。解せぬ。俺そんなに顔怖かっただろうか......。
☆
「なあ、さっきのだけどさ。最初からオーバーラップしないで、俺が中に切り込んだ時だけ上がってきてくれないか? あれだと俺の縦のコースまで消えちゃうから、やりにくいんだよな」
「了解でやんす!」
試合練習まで終えて、片付けに入る。マーカーと三角コーンを倉庫に持っていく途中に尊史と矢部坂の話が聞こえた。あの二人はちょうど縦関係のポジションだ。右SHと右SB。さっきは同じチームになっていたから、そのことを話してるんだろう。
まあ、馴染めているようで良かった。矢部坂はひねくれてはいるが、陽気で面白いやつなのだ。早速尊史とはやれてそうだ。
「神谷。あたしコーン持つよ」
「ん、ああ。じゃあマーカーお願い。あと呼び方パワプロでいいよ」
「わかった、パワプロ」
「そそ。ありがとうね、飛鳥」
「ううん、どういたしまして」
脇から高見飛鳥が話しかけてきた。俺が鉄骨場の作業員みたいになってるのを見かねたらしい。サボっている奴らを何か言いたげな表情で見ていたのは目に付いたが、真面目に働いてる俺を手伝うことにシフトしたらしい。俺はさっさと塾に行かないとまずいため、ありがたい限りだ。
「飛鳥はクロス上手いのな。ピンポイントで飛んでるじゃん」
「そ、そう? ありがとう。前のチームでも同じことやってたからかな」
「いい武器だと思うよ。スピードもあるし」
「え、えへへ......」
尊史とは違うタイプのウィンガーだ。積極的にクロスを狙う。左右で色の違うサイドになりそうだ。
それにしてもこいつ褒めたらすぐ顔赤くなるな。さては褒められ慣れてない? ヒロイン属性持ちだぞこいつ!
「あ、あのさ。変なこと聞くけど、パワプロって昔空き地で───」
「パワプロ、今日テストだからいそご───あ、ごめん。話途中に」
体育倉庫から出ようとしたところで飛鳥に声をかけられる。が、同時にツカサにも呼ばれた。ツカサはまずいことをしたと思ったのか、しゅんとした顔をする。そっちに気を取られて飛鳥が何を言っていたか聞こえなかったが、暗いのにわかるくらい顔を真っ赤にして押し黙っている。さすがに聞き返すことは出来なかった。
「そうだな、いそごうか。飛鳥も行こう」
「う、うん......」
倉庫を出れば日が沈みかけて空が赤く染まっていた。グラウンドでは片付けに参加していなかった数名がコーチのひとりに怒鳴られてる。十年後じゃすぐにハラスメントだ体罰だと言われて見なくなった光景だ。せいぜい怒られてろよ、ざまあみろ。
手首をつねられた。隣を歩くツカサだ。
そっと顔を伺ってみれば「何してたの?」とでも言いたげな表情だった。否定の意味で首を振れば、一応許してくれたようでそっぽを向かれた。
ちなみに飛鳥はとぼとぼと俺の隣を静かに歩いている。多分まだ顔が赤い。
どうやら俺は、新たな火種を抱え込んでしまったかもしれない。
尊史、矢部坂と峰が楽しそうに会話しているのを見て、なんだか羨ましく感じた。