転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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綺麗な悲鳴

「ぼ、僕がレギュラーって話だけど、大丈夫かなあ」

 

「なんだよ、自信ねーな」

 

「だって君と一緒のチームだった時、パスを簡単に奪われちゃったんだもん。不甲斐ないよ、本当に......」

 

「だってもくそもないだろ? 試すつもりで強いパス出したんだ。まだ慣れてないのはわかったけど、お前を下手だと思ったわけじゃねえ。監督もそう思って選んだんだろ? それを信じろよ」

 

「それに毎試合面白いくらい点を決めてくれるでやんす。これ以上心強いこともないでやんすよ」

 

「そ、そうかなあ」

 

土曜日の午前。俺と矢部坂、峰、尊史は例の公園に集まっていた。尊史と俺がいつも練習で使っていた公園だ。峰の家からは少し遠いが、せっかくということで誘っておいた。俺も尊史も一対一以外の練習を増やしてきてるし、それなら人数が多い方がいいのだ。

 

「よし。とりあえずゴール書いたぞ。俺たちがボール出して功誠が落とす。それをシュートする。こんな感じでやってみようか」

 

チョークでブロック塀にゴールマウスを書いた尊史が、練習方法を説明する。峰がポストプレーに自信が無いと言うので、まずはパスを落とす練習から始めようというわけだ。

 

俺や矢部坂はSBやMFが主戦場ということでシュートを打つ機会は少ない。そのせいか峰にシュート能力で大きく劣っている。まあ尊史にさえ「かなわない」と言わしめたシュート能力だ。俺たちにかなう余地は無い。

 

「おし。左右の足どっちに出すかは峰の好きに決めていいぞ。俺達も両足鍛えたいからな。だけどどっちに出すかは事前に決めておけ」

 

「うん。わかった!」

 

「え、オイラは右じゃないと───」

 

「昼飯を考えれば20分はできる、始めようぜ!」

 

「話を聞けでやんすー!」

 

俺の掛け声と共に練習が始まる。バンバン音がなって近所迷惑かもしれないが、兵の向こうの家に人がいないのは確認済みだ。とりあえず、塀を定期的にノックされる直接の被害者がいないだけマシだろう。日本のサッカーの未来のためだ、いたとしても尊い犠牲になってくれ。ナム。

 

「だーーーっ!」

 

「矢部坂ァ! お前他人の家の窓割る気かよ!?」

 

「気をつけてよ、弁償になったら4人で分担だ。俺は新しいスパイクを買って小遣いがないんだ」

 

「やべくん。やっぱり右足に落とした方がいいかな?」

 

「そいつを甘やかすな。おい矢部坂、左で宇宙開発したら右足が爆発すると思え。一生サッカーできねえぞ、させねえぞ」

 

「鬼でやんす! スパルタでやんす! 酷いでやんす!!」

 

一部阿鼻叫喚になりながら練習を続けていく。

 

おそらくキック精度で言えば俺、尊史、矢部坂の順に高いだろう。だが、瞬時に蹴る場所を見定める「決定力」に関して言えば尊史がダントツで、俺と矢部坂はどっこいどっこいだ。なんならがむしゃらに撃ってる矢部坂の方が本能的にいいコースを狙えている。

 

やっぱ本能に任せて蹴った方がいいのかな。

 

「本能!」

 

ドゴン!

 

「パワプロくん? 一人だけシュートの音が違うんだけど!? 僕、後ろ見るのがすごい不安なんだ。塀が崩れたりしないよね?」

 

「ぱ、パワプロくんのシュートで人がグチャッて死んだでやんす......」

 

「キャーーーー!!」

 

峰がひとりで勝手に怖がって勝手に悲鳴をあげた。イケメンなのに悲鳴が女子である。イケメンなのに。思わず3人とも爆笑してしまった。

 

「悲鳴あげんなよ、あははははは!!」

 

「ぶふふっ、綺麗な悲鳴でやんす」

 

「あー、ダメだ。力が入んなくなっちゃったよ、ははっ」

 

時間はまだ残っているが、笑い転げてしまったのでそこで終了にした。あー、腹いてえ。

 

峰は恥ずかしそうにして矢部坂を睨んでいる。当の矢部坂は突っ伏して地面をバシバシ叩いていた。俺と尊史も似たような状況だ。

 

「はー。笑った笑った」

 

「シュートで人が死ぬなんて有り得ないでやんす。なんで怖がったのか理解に苦しむでやんす」

 

「やべくんが変な想像させるからだろ!? 背後見えなくて怖いんだからな?」

 

「まあパワプロの音はえぐかったな、確かに」

 

「そんなかあ?」

 

ひとしきり笑ったあと、お互いにアドバイスを出し合う。峰はもう少し背筋を伸ばせだとか、矢部坂は左足で蹴る時に軸足が垂直すぎるとか。

 

お互いに得意なことがバラバラであるため違ったアドバイスが出る。自分一人では気づかない点を指摘されることも多々あった。俺と尊史だけではできないことだ。

 

その後もロンドをしたり、2対2をしてみたり、お昼になるまで続けた。

 

集中しすぎて体力を考えずに続けたのだが、午後には一時間超の練習がある。それに遅れて気づいた頃にはクタクタになっていた。馬鹿である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、チームに落としたいサッカーのかたちです。前年でやったものの精度をさらに上げたつもりですよ」

 

どうでしょう。と3人のコーチに問いかける。

 

練習前の時間を取って新チームに落とし込みたい戦術を説明してみたのだ。簡単に言ってしまえばハイプレスハイポゼッションの超攻撃的スタイル。今欧州で流行り始めている戦術だ。

 

3人は、納得したような顔を見せつつ、どこかしこりがあるようだ。

 

「宮部コーチは?」

 

俺より20歳は上に見える渋面髭コーチに聞いてみる。彼は主に練習を担当するコーチ。どの練習が選手のどの能力を伸ばすのか熟知している人だ。

 

「君が日頃研究している欧州のやり方だろう? 用意されたプレー原則を見ても違和感は無い。確かに、これを意識すれば出来そうではある。───だけど、ジュニアでこれが可能かと言われると、首を傾げざるを得ない」

 

遠慮なく伝えてくれた。年上には俺を侮る人も少なくないが、こうして頭を使ってくれる人もいる。ありがたいばかりだ。

 

「それについては、チームの心臓として神谷が効きます。同年代どころか、今の中学、高校生と比べても彼のパス精度は非常に高い。それに俺が考える『司令塔の役割』も拙いながら着実に身につけています」

 

「神谷の負担が高すぎない? 大丈夫?」

 

大柄で禿頭の先輩が心配そうに尋ねる。彼は児童たちのフィジカルを担当するコーチだ。ムキムキだから児童に筋トレを強要するタイプかと初めは思っていたが、実際は選手の体を壊さないように管理をしっかりしてくれるマメな男だった。

 

「確かに、彼一人にかかるところは大きいでしょう。彼がいなくてこのシステムをやるには、代わりが居ないのが現状です」

 

その言葉にうーん、と3人が唸る。将来有望なMFならいるにはいるのだが、「司令塔」になってくれそうなやつではない。狭いスペースをドリブルでこじ開けるのを強みにする選手だ。

 

「しかし、この原則はほかの戦術にも生きるのでは? たとえ神谷が試合に出れなかったとしても、ウィングやCFが近距離でサポートすれば多少穴は埋まるはずです」

 

そこで、最上アシスタントが意見を述べる。俺の手伝いをよくしてくれる若いアシスタントだ。いわゆるサクラの役割を任せたが、こいつはなかなかのタヌキで先輩方も頷いている。心強いな。

 

「確かに、この原則さえ残っていれば十分にポゼッションサッカーができる可能性が高い。......だがあくまでも可能性だ。ゴールデンウィークに向けて調整を行い、可能かどうか見る必要がある」

 

「もし無理だった場合はどうするの? 失敗してむしろ下手っぴなサッカーになることは無い? 大丈夫?」

 

「心配には及びません。彼らは超小学生レベルです。それに、御三方とは目指す選手像のイメージを共有出来ました。我々はやれます」

 

力強く言い切ってみせる。その言葉にアシスタントが真っ先に反応し、続けて髭コーチが頷き、最後にフィジカルコーチが「わかったわ」と発した。

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