転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
俺こと神谷パワプロは、8歳を迎えた。
小学3年生の夏だ。
この3年間で変わったことはいくつかある。その最たるものが、近所のJリーグクラブの下部組織に入団したことだ。U-12選抜の、さらに下部のU-10だが、ここで結果を出せばステップアップすることができる。
週に3回という少ない練習回数だが、同学年の才気溢れる少年少女たちとの切磋琢磨は、非常にやりごたえがあった。
そしてもう2つ、習い事をすることになった。
ひとつが体操だ。
近所の体操教室に通っているのだが、これは将来に筋肉系の怪我をしないようにという予防である。普段使わない筋肉を使ったり、筋肉を柔軟にするのはスペ体質*1になるのを防ぐ効果があるのだ。
......怪我をして引退することがどれほど辛いことかは、身をもって経験している。週に一度、体の負担にならない程度で続けているが、これが後々に活きると信じている。
そしてもうひとつが学習塾。中学入試に特化した、結構名の知れた塾に入ることになった。
というのも、これは両親からのお願いだからだ。
大人の事情で母も働くことになり、夕方に子供を家にひとりで残すのは不安があるらしい。幸い同じクラスの仲のいいママ友が娘をその塾に通わせているそうで、一緒に塾に通わせようという話になっていた。
俺は「必要ないしひとりで留守番できるよ」とも言ったのだが、母はそれでも心配だと宣うし、父はいい大学に入るためには今から努力しろと言う。折れてくれる気配は全くなかった。
結局、週2回の塾に参加することになり、俺の自由時間は減った。けれど、両親に「いい子」アピールするには必要なことでもあった。下部組織と体操教室に入団することの対価だと思う事にしている。
正直時間の無駄だと思うのだが、勉強する習慣をつけておくのは大事なので仕方ない。
丁度今も、カリカリと鉛筆を動かしている。
講師の説明が終わり、演習問題を解く時間だ。かなり頭を使う問題がそろい踏みなのだが、流石に30ウン歳の脳みそには簡単すぎた。
次回までの宿題も終わってしまって欠伸を噛み殺していると終礼のチャイムがなる。
挨拶をして、ついに帰宅の時間となった。長い戦いだった。
「パワプロ」
「ああ。ちょっと待ってな。すぐ準備する」
後ろから、
彼女は既にリュックを背負っており、帰宅の準備万全といった風情だ。しばらくだらーっと机に突っ伏していた俺を待っていたらしい。
「ううん。そうじゃなくて、サッカーの話」
私、パワプロの言ってた下部組織の入団テスト、受かったみたい。
振り返れば、いつもはあまり変わらない表情が、嬉しそうに緩んでいる。もちろん、それを見て、内容を理解した俺も笑顔を弾けさせた。
「まじか!じゃあ放課後も一緒にサッカーできるな」
「うん。そうだね」
彼女はサッカーを別の地域クラブで習っていて、俺とも学校の中休みに練習したりするのだが、結構上手い。だから俺の通っている下部組織に入らないか、と誘っていたのだ。
案の定入団テストには受かったようで、今週から参加するとの事だ。
俺の参加しているクラブから、U-12に選手が何人か選ばれるのだ。才能がありそうなやつは誘って、仲間にした方が絶対いい。
☆
クラブのグラウンドの場所は、最寄りの駅を一駅下った駅から徒歩五分。芝生のない、土のグラウンドだ。
ツカサと、その母親と俺の母親を含め4人でグラウンドにつき、コーチに挨拶する。ツカサ親子は少しコーチと話をするようで、俺は先にグラウンドに入った。
練習はおよそ30人ほどで行うが、既に10人後半は集まっている。Jリーグの下部組織なだけあって、みんなモチベーションが高いのだ。
その中でもドリブルが得意なやつが、1on1しようぜ、と声をかけてくる。ケイとの特訓で対人守備に一日の長がある俺は、そういうドリブル大好きマンに引っ張りだこなのだ。
準備運動のために少し待たせていると、一人の少年が肩を落として歩いてくる。
「オイラも
「顔を見るなりなんでやんすか!?酷いでやんす!」
分厚い眼鏡の向こうで、
「だってお前、足が早いだけで守備軽いじゃん。それにすぐ足引っ掛けてくるし」
「仕方ないじゃないでやんすか!みんな急に止まったりするから滑るんでやんすよ!!」
目の前でギャーギャー喚く、もっさり髪の眼鏡少年は矢部坂秀人という。このクラブに通う小学3年生だ。話す限り面白いのだが、その語尾も相まってどうにも空回り気味のやつでやんす。
さっきも話した通り守備が軽くすぐにファウルするのだが、このクラブ随一のスピードと人並み以上の基礎能力を認められて入団している。全くいらない情報だが、学校では俺と3年間同じクラスだ。
「ああ、それと今日は組むやつ別にいるから、他の人探しとけよ?」
「じょ、冗談でやんすよね? 冗談でやんすよね!?」
そして、足癖が悪いせいでサッカー仲間には敬遠されがちだ。仕方が無いので、いつもは俺と組んでいる。
その後も矢部坂が食い下がってくるが、準備運動を終えたので1on1の相手をしに行く。俺もまだ体が小さいため、随分と小回りが効く。体勢を崩すことはそうないし、相手とボールの間に体を挟むスキルは日に日に上達していた。逆に、俺が攻めるときは相手を見てかわしに行く。
今日の勝率は、攻めのとき50%、守り90%といったところか。上出来だ。
ファウルだろ今のー、という負け犬の遠吠えから目を離し、ちらとツカサの方を見る。ちょうどコーチと話し終わったようで、コーチと共にこちらに向かってきていた。
どうやら、そろそろ練習が始まるらしい。
☆
ランニングから基礎練、いくつかのセット練習を終えて試合練習の時間になった。
小学生のうちに参加出来る大きな大会はほとんどがU-12だが、時折カップ戦でちょうどいいのもある。
一ヶ月後にはU-10のカップ戦があるため、それに向けて直前はスタメン対スタベンで調整している。が、今日はまだ期間に余裕があることと新入生もいることでメンバーをシャッフルして行うことになった。
ツカサは俺のチームで矢部坂は相手チームだ。俺は8人制サッカーの3-3-1*2の左SH*3。ツカサは左SBで、俺が元々のポジションから1列上がった感じになる。ついでに矢部坂は右SBだ。つまり、俺とマッチアップすることになる。
よろしくなとニッコリ微笑んでやったら、オイラのスピードに目を剥くでやんすと返された。多分オーバーラップしたまま戻らず、右SHに俺の相手をさせ続ける気がする。そういう意味だ。
試合が始まれば、テンポの速いサッカーが始まる。ディフェンダーはボールを持てば即座に縦パス*4をつけ、中盤もサイドもワンツーやドリブルで果敢にしかけていく。序盤から何本かシュートが飛んだ。トランジション*5の入れ替わりが激しいのが、小学生8人制サッカーの特徴だ。
味方チームには、レギュラーメンバーで4年生の
もちろん俺も1列上がったため、周りに合わせてプレスに行くし、ボールを貰えばカットインシュート*6も狙っていく。相手の守備のスライドがしっかりしていればカットインも難しいが、この年代なら楽にシュートを撃てる。
ただ、せっかくツカサもいるのだ。彼女を活かした攻め方もしたい。
カットインするぞ~と見せかけておけば、対面の矢部坂はすぐに食いついて縦のスペースを開けてくれる。そのスペースにツカサがオーバーラップ*7してきたので、彼女にボールを預けた。
フリーでクロスが上がる。
ボックス内をしっかり見えているようで、ふわりと浮くボールを正確にCFに届けた。ヘディングでボールが押し込まれ、ツカサにアシストがつく。
「ナイスボール」
と、ゴールを決めた少年がツカサとタッチする。その後何人かが自陣に戻る前にツカサを労っていった。ツカサも嬉しそうで、幾分か恥ずかしそうな顔で戻ってきた。
当然、俺もタッチをする。
「いいタイミング」と労えば、「そっちこそ」と返してきた。初日ということで緊張していたようだが、今のでだいぶ楽になったようだった。
「オイラの目の前でするなでやんす~!」
その言葉にツカサが申し訳なさそうな顔をする。
......ちょっとイラッときたから、その後何回か矢部坂をぶち抜いてやった。ざまあ。
このタグつけるべきですわ、というのがあれば感想欄にお願いしますわ。
もちろん、淑女たるあなたがたには最低限の言葉遣いがありましてよ?