転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
ゴールデンウィーク中は例によって全国レベルのカップ戦がある。まずはここで優勝を目指すのだ。
3日間かけて試合を続ける。予選リーグは3戦全勝。決勝トーナメントも順当に勝ち上がる。
俺と尊史は去年一年間でその驚異が知れ渡ったのか、マークが強い。中盤はほとんどマンマークだし、尊史はダブルチームを組まれている。
しかし、今年は俺たちだけでは無い。監督陣の補強がピタリとハマり、怒涛のゴールラッシュを迎えていた。
試合開始の笛がなる。
「峰え!」
開始と共にボールが俺の元に来る。ターゲットにする選手の名前を叫びながらフリーでフライパスをあげた。開始すぐだからできること。
ピンポイントで峰の頭に落ちる。彼は身長が高いので、姿勢を崩されながらも胸で足元の飛鳥にボールを落としていた。尊史とのワンツーで飛鳥があっという間に抜け出す。
飛鳥のグラウンダークロスはマイナスに折り返された。ファーには矢部坂がいる。マイナスには尊史が駆け込んでいた。
「おらあ!」
尊史のシュートは相手にあたる。峰が潰されて遅れた分コースがなかったのだ。
「オーライ!」
こぼれ球を俺が回収する。すぐにプレスに来た相手をボディフェイントで交わして左SBの沼野に預けた。こいつは一年前に入ってきた5年生のSBだ。守備力に定評のあるやつだが、その分クロスにはあまり期待ができない。
本人も気づいているため、相手を引き付けてからツカサに戻していた。序盤の攻撃は防がれたが、俺たちのビルドアップが始まった。
俺たちのチームは、監督の意向の下ハイプレスハイポゼッションを軸にサッカーをする。監督は相当これを研究したようで、立ち位置だとかサポートの仕方だとか、指示通りにやっていれば相手のプレスを楽に躱せるのだ。ほかの指導者と違って研究者肌の監督だ。
だが立ち位置だけで、フィニッシュまでのパスワークは割と自由だ。選手任せとも言える。なんなら俺任せと言ってしまってもいい。
準決勝の相手は俺にマンマークをつけて、縦パスも通さないよう中を搾った陣形で構えている。CBにはプレスに行かない。いわゆるミドルプレスと言うやつだ。
当然サイドにボールが流れるが、尊史がボールを持った瞬間に矢部坂がサイドを駆け上がる。尊史にはダブルチームが組まれていたが、矢部坂が気になって片方がふわふわとした動きをした。
「フリー!」
その隙間をぬって尊史からボールをもらう。前を向いて、首を振る。背後からマンマークのプレッシャーを感じた。が、構わずボールを出した。
峰の裏抜け。尊史サイドの最終ラインが崩れたのを見計らっての抜け出し。峰はこれが上手い。
峰はサイドに流れて相手と対峙する。相手もさすが全国準決勝だけあって守備がしっかりしている。すぐに帰陣してきた。
その後は、撤退守備をする相手を嘲笑うように守備の隙間でボールを受ける。峰が裏を狙った時のスペース。相手が守備に出たあとのスペースなど。
そして、峰の落としが俺に入ったところでディフェンスラインの背後にワンタッチスルーパスを出した。尊史が飛び出している。
オフサイドはない。角度のない位置から尊史は右足を振りぬいた。キーパーとゴールポストの隙間にボールが入り込む。ゴールだ。
「しゃああああああ!!」
尊史のゴールセレブレーション、膝スラが敢行された。俺達も近づいて背中を叩き合う。観客席も盛り上がり、相手監督は焦ったように怒鳴っている。ああ、気分がいい。
観客席の中にはゆうるちゃんもいる。楽しそうに拍手を送っていた。
☆
第1ピリオドは3-0、第2ピリオドは1-0、そして第3ピリオドは0-0の結果で終わった。俺は第1ピリオドだけの出場だったが、チームは危なげなく勝っていた。チーム全体の力が強まっている証拠だ。
「や、やったよ。もう決勝じゃん! すごいよ!」
まるで他人事かのように喜ぶ峰。こいつも既に2桁ゴールをあげている。ちゃんと結果を残しているのだ。まあ、だからこそ嬉しいのだろう。
「次も圧勝でやんすね!」
「調子乗んなメガネ」
「パワプロくーん?」
唐突な辛辣な言葉に矢部坂があせあせしている。が、あまりそういう言葉は聞きたくないのだ。なぜならば───。
「ねえねえ、次の相手やっぱコーべだってよ」
「やっぱかあ」
決勝の相手は、去年二度対戦し、一度も勝てなかったコーべ・シティFCだからである。戻ってきたキーパーの川原の言葉を聞いてげんなりする。
春の初戦は喧嘩もあって自滅し、冬の第二戦は桜羽にしてやられた。気分的に苦手な相手なのだ。
「パワプロ。顔が険しいけど大丈夫?」
飛鳥が心配したように顔を覗き込んでくる。どうやら顔に出ていたらしい。
そして、それは尊史も同じだった。おそらく初戦のことを思い出しているのだろう。
「次の相手は因縁の相手と言っても過言じゃない。難敵だよ。コーべに勝ってようやく日本一に手が届く」
「ああ。尊史の言う通り。タレントが揃っていて、中盤の強度に定評があるチームだ」
「正確には、それだけじゃない強みもあるみたい」
チームメイトにコーべについて説明しているとツカサが戻ってきた。自分はまだ疲れてないから相手の試合を見てくる、と出かけていたのだ。おそらくコーチのケータイに動画が送られてきていて、それを見ていたのだろう。ついさっき終わったホクホクの試合動画だ。
「去年からメンバーは入れ替わってるけど、主要メンバーは軒並み残ってる。私たちと同い年だったみたい」
目立ったメンバーと言えば、CBの韓流イケメン、SBの中性イケメン、そしてCFの金髪ファンタジスタだ。金髪は一個下だったはずだから、前者ふたりが残っているのだろうか。
「それに、また上手い選手が補充されているのは私たちと同じ」
注意するべき選手は何人もいるらしい。まあ、それはどのチームも変わらないか。
問題は、向こうのチームも戦術的に整備されていることである。去年のコーべは今の俺たちと同じようにハイプレスハイプゼッションを軸に戦っていた。俺たちが相手の時でも、俺にマンマークをつけながら上手くCBまでプレスをかけていた。
「じゃあ、その強みっていうのは?」
ツカサに尋ねてみると、真剣な眼差しで答える。
「カウンターの驚異が上がってる。去年まではウィングはそこまで上手くなかったけど、スピードのある選手が入ってきてた。そのせいでカウンターの攻撃力が上がってるんだ」
「まじかい」
俺らのチームとコーべが戦うと、どちらが主導権を握るかの戦いになる。ポゼッションがどちらに傾くかも大事な要素だ。しかし去年以上にカウンターの驚異が上がったとすれば、俺たちはその一発に怯えながら組み立てなければいけなくなる。まさに「カウンターが怖くないから今年は行ける」なんて思っていたのに。
そんなに上手くは行かないらしい。
ぐむむ、とうなっている俺に向けて、でも、とツカサは続けた。
「勝つのは私たちだろ?」
「───ああ。当たり前だ」
力強く答えてやれば、仲間たちは大きく頷いた。