転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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上手になりたい

梅雨が明ける。じっとりとした空気はだんだんカラッとしたものに変わっていく。夏が来るのだ。

 

夏のサッカーはひたすらに暑い。去年も日本の計測史上最高気温を更新していたはずだ。夏の暑さは年々増している。地球温暖化は恐ろしい限りだ。

 

セミの声を聴きながら、近くのスポーツ用品店へ向かう。少し遠くに行けばデパートに大きなチェーン店がある。だが、こういうこじんまりした老舗も好きだ。俺の顔を覚えてくれるし、欲しい商品を寄り添って考えてくれる。

 

いつものように店に入り、店長であるおじいさんに声をかける。膝あてが合わなくなってきたのだ。マグワイ〇*1のようにサイズの合わないものを付け続ける訳にもいかない。自前のサッカーボールにお店の空気入れを勝手に借りて空気を入れながら、精算を待った。

 

「おじさん、こんにちはー」

 

すると、ドアが開いて一人の女の子が入ってきた。小さな店だが、好んで利用する人も少なくない。その女の子もその類の人らしく、おじいさんは笑顔で名前を呼んでいた。

 

その名前で気づく。

 

「飛鳥じゃん。元気?」

 

「ぱ、パワプロ? 偶然ね」

 

私生活ではなかなか会わない、飛鳥が来ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、待ってもらっちゃって」

 

「いーよいーよ。俺が待ちたくて待ったんだから」

 

飛鳥の用事が終わり、一緒に歩いて帰る。ちょうどお昼すぎで、せっかくなんだからということでアイス屋さんに寄った。

 

俺は三段アイス、飛鳥は二段アイスを買っていた。俺が味変三種を選んでいるのに対し、飛鳥は見た目が可愛いふたつだ。これが男女の差というのだろうか。

 

「あんたも、あのお店使ってたのね」

 

「ああ。色々話してくれるし、居心地いいし」

 

「わかる! おじちゃんの話面白いよね」

 

お店の奥の2人席のテーブルに座ってアイスを頬張る。外が暑かった分だけ快適で、アイスも体に染み渡った。この甘さは病みつきになる。2年前にオープンしたが、夏には週一で訪れるほどに好きなのだ。

 

「あんた、随分幸せそうに食べるね」

 

「......ん? そんなふうに見える?」

 

「それはもう。でも、その気持ちは分かるよ。おいしいもん」

 

「そうだな、おいしい」

 

ゆっくりとした時間が進む。俺の方が一段多いので飛鳥が早く食べ終わったが、俺に遠慮してか黙ったままでいる。大きな瞳を細めて外を眺めている様は、実に絵になっていた。

 

「あんた、中学になったら外国に行くんだよね?」

 

「ん? ああ、そのつもり」

 

「そうなんだ」

 

すごいね、と飛鳥が呟いた。確かにすごいだろうな。前世に俺がすごいな、と感じたことをやっているんだ。

 

「パワプロはさ、どうやったらあたしは上手くなれると思う?」

 

「そりゃ、既に上手いじゃんか」

 

「そうじゃなくて、もっと上手になりたいの。どうすればいいと思う?」

 

悩み相談だろうか。とは言っても、飛鳥は至って真剣に練習に取り組んでいる。監督の指示に正しく従い、時にコーチにアドバイスを求める。後片付けをサボるやつには注意して、自分から率先して仕事をこなす。

 

いわゆる、優等生タイプだ。

 

「どうするったって、そうだなあ」

 

このくらいの歳の優等生は、言われたことは素直にこなす。けれど、その分だけ自分で考えないという悪い癖があるように思う。前世で家庭教師をやっていた頃の印象だ。

 

こういうタイプは、サッカーで言うところのDFに向いている。今でこそあまり浸透していないが、10年も経てばディフェンスの決まり事は明確になる。することの優先順位や原則さえ守れていれば、失点することは限りなく少なくなるのだ。

 

その点において、飛鳥はDF向きだろう。

 

だが、彼女はWGだ。いずれSBにコンバートする可能性もあるが、体の小さい彼女では対人面で劣る。正確なクロスは高い位置でこそ活かせるはずだ。

 

だが、アタッカーは杓子定規ではいけない。ディフェンダーよりも工夫が必要な場面が多い。これは攻撃が守備ほど言語化されていないことも大きいだろう。

 

まあ、これは全て俺の持論なのだが、飛鳥にはそういう考えの「自由さ」が足りない気がする。

 

「......例えば、なんでもいいから新しいことを続けてみる。そして、しばらくしてからやっていることにどんな意味ができて、どんな効果があるのか考えてみる。......みたいなことをやってみるといいんじゃないか? 」

 

「......つまり、とにかく色んなことを試してみろって?」

 

「ああ。ほかのやつがやってる基礎練とか、あるいは違うポジションの練習とかでもいい。無駄かもしれないって思いは置いておいて、まずやってみる、それから考える。───即席だけど、こんな感じでどうかな」

 

飛鳥の自由さをどう育んでいくか、なんて俺に正解は分からない。実際に足りてないかも分からない。だから、彼女の中に「無駄」ができるように、と考えて言ってみた。無駄ができるほど、それが必要だったかあるいはどう生かせるか考えることができる。それにそういった余分もプレーには必要なのだ。

 

まあ、余計なお世話だったかもしれないが。

 

「ありがとう。パワプロの言うことだもん。やってみる」

 

「そっか。俺も手伝うよ。1VS1とかいい相手になると思うぜ」

 

「それは......遠慮しとく」

 

なんでや。

 

 

 

 

 

 

 

 

アイス屋を出て、お互いに家路に着く。とは言っても帰路は結構重なっていた。飛鳥は尊史と同じ学校らしい。

 

俺の家は大きな川の近くに建っている。川が流れ、広い土手があり、道路を挟んで家が一件。そして空き地を挟んで俺の家だ。空き地では小さな子供たちがサッカーをしている。土手は野球で使われているし、この空き地は近所の子供にとってはちょうどいいんだろう。ただ、母は窓ガラスが割れない対策を考えるのに頭を悩ませていた。

 

「そういえば......」

 

「ん? どうしたの」

 

はしゃぐ子供たちを見ながら、飛鳥がふと呟いた。聞き返すと、一瞬迷った後、ふるふると首を振っていた。

 

「ううん。あのさ、パワプロはなんでサッカー始めたの?」

 

「なんで始めたか?」

 

「うん。ほら、テレビを見た、とか。ない?」

 

「うーん」

 

急に質問をかけられた。

 

悩ましい、というか難しい質問だ。今世サッカーを始めたのは、未練があったからだ。高校一年生で左膝を壊し、10年のサッカー人生に終止符を打った後悔が、死んでもなお俺を蝕んだからだ。

 

前世はどうだろうか。もはや覚えていない。

 

親に始めさせられたんだったか。ロ〇カルを見て始めたような気もする。40年前のことだ。もう記憶の引き出しには用意がなかった。

 

「そんなに重く考えなくてもいいんだけど......」

 

飛鳥も困り顔だ。が、モヤモヤしたまま適当な答えを返すのは俺の性じゃない。

 

「俺は、プロ選手になるんだっ」

 

「俺も俺も!」

 

「日本代表のFWになる!」

 

そんなおり、子供たちから叫び声が聞こえた。何人かでパスをしながら、子供にありがちな夢見る掛け声をあげた。

 

俺も、今世は熱く決意していること。そして、前世でずーっと信じて同じように叫んでいた気がする。

 

「もう覚えてないけど、多分こんな感じなんだろうな」

 

俺の根っこは、それしか残っていなかった。けれど、これで充分だろう。

 

「......うん。すごく素敵で、かっこいいよ」

 

「ありがとな。そんな飛鳥はどうなんだ?」

 

彼女も同じだろうか。あるいは、ツカサみたいに別の理由があるかもしれない。

 

興味本意で尋ねてみれば、答えは用意していたようでニッコリとした笑顔で答えてくれた。

 

「それはね、サッカーしていた姿がかっこよかったから」

 

細められた彼女の目は、キラキラと輝いている。彼女が上手になりたいのは、自分もかっこよくなりたいからなんだろうなあ、なんて夕日に映える彼女の笑顔を見つめながら思ったのだった。

*1
イングランドの強豪クラブ『マンチェスター・U』に所属するDF。空中戦の強さはピカイチ

ちなみに、読者の皆様はスマホアプリのパワサカをやってらっしゃいますの?

  • ほとんど毎日遊んでいますわ
  • コラボとかだけですわ
  • 昔やってましたの
  • パワサカ? それはどんな洋菓子ですの?
  • 知ってるけどプレイはしませんの
  • パワプロに一途ですわ
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