転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
小学4年生以下が参加出来る、関東地方のカップ戦が始まった。
参加するチームはおよそ30チームほどで、数日に分けて試合を行う。5回勝てば優勝出来る大会だ。勝った後に全国大会がある訳では無いが、せっかくの大きな試合ということでレギュラーメンバーは燃えていた。
登録選手はベンチも含めれば16人で、ほとんどが4年生だ。3年生では、俺とツカサがスタメン。そして矢部坂という
俺がスリーバック*1の左で、ツカサは真ん中だ。ツカサは入ってまだ1ヶ月と短いが、身長が既に150cmと高く、瞬発力もあり声かけも頻繁に行うため、大抜擢された形だ。一緒にパス練しかしてこなかった俺としては驚きだった。普段あんなに物静かなのに、実践となるとめっちゃ声出すんだもん......。
まあ、同じ最終ラインの俺としてはありがたい限りだが。
俺の方は、キック精度と対人能力を買われたんだろう。生まれたときから左足のパスの精密性とパススピードはチートでも貰ったかのように段違いで、ケイ含め多くの対人経験がある。右足も違和感なく振ることができるため、オーバーラップやインナーラップ*2も期待されているのだ。
9月の下旬。秋と夏の境目に大会が実施された。
1回戦、2回戦の相手は実に楽だった。関東中から集まっているとはいえ、この年代で上手い選手が揃うところなどそうそう無い。
前後半合わせて30分。俺は1回戦で、ツカサは2回戦で途中交代したために60分は戦っていないが、充分に勝利に貢献できたと思う。スコアは9-0と7-0。俺は1ゴール5アシストで、ツカサは1アシストだ。
そして、俺たち2人ともクリーンシート*3に貢献出来た。俺の方は相手右WGがそこまで上手くなかったので完封し、ツカサも背の高いCFに何度も空中戦で打ち勝ち、パスをカットした。フィジカルで負けて抜けられてもクリーン*4なタックルでGKとの一対一を作り出させなかった。
タックルでファウルを取られなかったり、そもそもボールが中々来ないことにCFは何度もキレて悔しがっていたし、2試合とも右WGに何もさせず泣かせてしまった。そんな日もあるさ、ドンマイ!
しかし、3試合目は思わぬ苦戦を強いられた。
相手チームに南米のハーフ選手がいて、そいつが中距離からシュートをバンバン撃ってくるのだ。一度シュートコースを防ぎに行った味方MFの顔面にシュートがあたり、交代を余儀なくされた。
誰かが防ぐに行かなくてはならないが、どうしても顔面にあたる恐怖の方が勝ってしまう。鼻血も出ていたし。それに、あまり枠に飛ばないことが彼をよりフリーにさせてしまう。必死に防ぐ必要がないからだ。
現在のスコアは2-3。豪快なシュートにチーム全体が怖気付いてしまい、後手に回ってしまっている。ただ、相手の最終ラインは整えられていないため簡単なカウンターで2点取れたが、それ以降守備に体力を使わされている。
相手は開幕のミドルシュートで1点、相手の左WGが上手くサイドを突破して2点を決められている。
前半が終わってハーフタイムに入るのだが、初日の1回戦2回戦とは明らかに疲労度が違った。今日は3回戦の後に準決勝、決勝を行うため、歓迎できない展開だ。
コーチは、ミドルシュートは仕方がないから、彼にボールが入らないようにタイトにマークに着くよう指示した。軽い脳震盪を起こして交代した選手の代わりに入ったMFに向けた話だ。その他の選手にも相手に質のいいボールを蹴らせないよう、積極的にプレス*5をかけるように言う。
「いいか。怖いかもしれないが、引いてばっかではミドルシュートも打たれ放題だ。我慢して前に出れば数も減るし、俺たちの攻撃時間も増える」
気張るぞ、とコーチが選手の肩を叩いていく。
かくして試合が再開した。選手たちはよく走った。守備時にボールサイドにスライドし、人数をかけてボールを奪い、カウンターに移る。ボールは右サイドで奪うことが多いので、俺は中央に移ってパスコースを作る。ボールが受け取り、ワンタッチかツータッチで前線にロングボールを送る。
時間が無いと右足のワンタッチで、あまり質のいいボールは送れない。しかし、左足で蹴れた時の精度は自分で言うのもなんだが異常だ。バックスピンのかかったボールが、ちょうどCFの前に落ちる。危なげなく決めて、5-3。
そのスコアのまま、試合が終了した。
前半こそ押し込まれたが、後半はポゼッション*6の時間もかなり作れた。何より、カウンターで一気に3点差に引き離された相手チームの戦意が折れてしまい、プレスがバラバラになったのが大きかった。唯一南米ハーフ選手は奮闘していたが、それも得点には繋がらなかった。
試合が終わり、ベンチに引き上げればコーチが「よく頑張った!」と全員を労う。一人一人に声をかけ、褒めていた。当然俺の方にもやって来て、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
「スーパーなロングパスだった! それに積極的にボール貰いに行ったのは良かったぞ」
次の試合までしっかり休むように言って、コーチは次の選手の元へ行く。
相手チームの方を見れば、ちょうど同じようにこちらを見ていた選手と目が合った。あの南米ハーフの選手だ。無表情で、何かを呟いているようだった。聞こえないが口の動き的におそらく、「次は負けない」とかなんだろう。そんな感じがした。
......母国語だった場合なんて言ってるんだろう。「殴りに行く」とかじゃないよな?
☆
結局、俺たちは準決勝で敗れた。3回戦目で体力を削られすぎたのと、中盤の選手が控えの選手になったのが大きかった。それに、俺の攻撃参加は相手の強力な右SBに防がれて意味をなさなかった。3回戦こそ2アシストで数字を残したが、準決勝はノーゴールノーアシスト。チームもわずか1得点と低迷した。
決勝戦も見たが、俺たちはさらに実力差を思い知った。俺たちを1-5で下したチームは、0-3で準優勝し涙を呑んだ。聞けば、優勝チームは神奈川県のJ下部組織らしい。この大会の優勝常連だという。
この試合を通して、俺も改善点が見えた。テンポよくボールを回されたあとのスルーパス*7を見送りがちで、安易な縦パスをつけてしまうところも課題点だ。解散直前にコーチから手渡されたメモにはそう書いてあった。
俺は史上最高のサイドバックになると決めている。こんな悔しさは二度と味わいたくない。
太ももの上で、ツカサが声を漏らす。彼女も同じ気持ちらしい。
......なんのことは無い、ただの膝枕で、ただの寝言だ。
ツカサパパの協力の元、俺たちは会場から車で帰宅している。先程まで泣いていたツカサも、今は疲れから眠ってしまっていた。
0-2で迎えた後半開始直後、俺のサイドから抜けたスルーパスが裏抜けしたCFに入ったのだが、ツカサが思わずPKを献上してしまったのだ。3失点目で、チームは大きく崩れた。
大会終了後、ツカサは自分のせいだと泣いて悔しがった。チームメイトの前では気丈に、ただ謝っていたのだが、解散して2人きりになれば決壊してしまったのだ。
俺は、何も言えない。俺のうっかりからチャンスを与えてしまったのだ。集中が切れていた俺も同じように責任がある。だから、俺が慰めるなんてことは出来ない。
車に乗ってからも泣いていたので、とりあえず手を握っていたのだが、いつの間にか俺によりかかって眠っていた。ツカサパパに新しいタオルを貰って、それを膝の上に敷いて膝枕をした。汗臭いだろうけど、許して欲しいところだ。別に役得なんて思っちゃいないさ、全然全く。
俺もツカサも、この規模の大会は初めてだったし、失敗の経験も初めてのはずだ。
おそらくこの先何度も味わうのだろうけど、これ以上ないくらいに苦いのだと思い知った。
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《KBカップ スカウティング記録 》
年代:U-10
記録者:鳶山 花吉
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中略
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名前: 神谷 パワプロ
年代: 小学3年生
利き足: 両足
ポジション: 左サイドバック
特筆すべき長所は、対人守備、左足のパス精度、危機察知能力。
全ての試合で相手右サイドの突破を許さず、簡単にタックルを成功させた。スピードがある訳では無いが、体の当て方、相手とボールの間に差し込むタイミングが絶妙。
また、左足の精度が抜群。セットプレー*8のキッカーも務めており、見事なパスを何度もトライした。視野もかなり広い。
また被カウンター時にはいち早く危険なスペースを消しに行く嗅覚をもっている。試合中に何度もカウンターの芽を潰していた。
ただ、準決勝でのPK献上時のように、集中が切れてボールウォッチャーになる瞬間が数回あった。ディフェンスリーダーの号令にまかせがちで、それがなかった時の対応の不味さは大きな課題点。
また、難易度の高いパスコースを通そうとしてロストすることが多い。
攻撃参加も回数が少なく、タイミングをはかっているのか、あるいは体力が少ないのかもしれない。
総評: 優先度S。セットプレーキッカーを任せることができ、攻撃でも守備でも大きな効果を期待できる。対人守備が体の大きな相手でも通用するかどうかが、ひとつの注目ポイント。
名前: 冬河ツカサ
年代: 小学三年生
利き足: 左足
ポジション: センターバック
特筆すべき長所は、ビルドアップ*9時のミスの少なさ、ディフェンスリーダーとしての声の大きさ、空中戦の強さ、アジリティの高さ。
ビルドアップ時はフィールドをよく俯瞰しているように見える。パス精度も高く、選択を間違えることがほとんどない。
また、守備の面でも光るものがある。よく声を出し、最終ラインでチームを引っ張っている。
特に空中戦に強く、裏に抜けられても初速が早くタックルもうまいため対応ができる。
改善点はメンタル面か。ビハインドで迎えた後半開始直後の対応にファウルが出てPKを与えた。その後も動きに精彩をかき、簡単なミスで2失点。
ミドルシュートも狙っていったが、枠に飛ばない。
総評: 優先度S。左利きのCBは非常に貴重。ビルドアップもできるDFは欧州でも注目され始めている。優先度は高い。守備の判断もよく、無理がきくのも評価が高い。メンタル面はカウンセリングなどで継続的に対応するべき。懸念点は女子にありがちな、身長が伸び悩んでしまう可能性。
23話で一区切りするので、それまで毎日投稿ですわ。
21時を楽しみにしていてくださいませ。