転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
八月のある夕暮れ。お盆に入る直前の日のことだ。
前日に夏の主要な大会が終わり、今日から暫くは練習もない。ちょっとした休養期間になっている。明後日の明朝には家を出て、久しぶりに帰ってきた父を含めた三人で祖父母の家に帰省する予定だ。
ちなみにツカサなんかは既に帰っている。家のしきたりで色々あるのだとか。大変だなあ。
今日は午前中に少し調べ物をして、ゆったりとした一日を過ごした。調べものの内容は海外下部組織についてだ。近頃は小四の頃みたいにメンタルが崩れかけることが増えてきた。良くないな、とは思うが、思うようにいかない現実から目を背けられない。
吉野や渡会と言ったメンツと徒党を組んだ例のトレーニングでは、俺は何の賞も得られなかった。アシスト賞も、優秀選手賞もだ。ちなみに優秀選手賞は吉野がかっさらっていった。うちのチームが最も勝ち点が多かったのだが、その中で際立ったのがWGの得点に絡むシーンだという。渡会か吉野かで、吉野が選ばれていた。詳しくは書かないが、渡会が花を持たせるシーンも多かった。利己主義に振舞っておいて素直じゃないやつだ。
中盤でプレーした俺の評価は、まとめるとトライはいいけどロストが多すぎる、だった。後日届いた評価シートに記載されていた。
俺の一番の強みは左足のパスだ。しかし、パスは受け手がいてこそ成り立つ。味方の得意なパターンを知らないでパスを送っても呼吸は合わない。それがロストの多さに繋がってしまったのだ。
これでは優秀選手にも選ばれない。吉野や渡会がやっていたように、もっと個人の力で打開する選手になったり、得点に貪欲に絡んでいくべきなんだろうか。実際に少年サッカーの間は上手いやつほど前のポジションに行く。高い位置で突破して得点に影響するのは、とてもわかりやすい実績だ。
だが、俺にとっての花形はSBだ。笑われようが呆れられようがこれだけは変わらない。今でこそ余り物にされているポジションだが、いずれ戦術面で重要な役割をもつ大事なポジションになる。それに、俺はパサーSBを目指している。自力で打開するよりも、味方を生かすパスを通す方が好きなのだ。それがかっこいいのだ。
それだけ、俺のSBに対する考えにはこだわりがある。
今日調べたのは、Twitterだったり、ブログだったりだ。つまり、ちょっとしたメンタルヘルスのつもりだった。俺と同じ境遇の選手や、そうでなくても行き詰まっている選手だったり。そういう人たちがどう壁を乗り越えたのか、どう解決したのか知りたかった。
まあ、あまりいいのは見つからなかったんだけど。
それで午前中を過ごして、午後はリラックスも兼ねて水泳に行っていた。近くの体育館だが、思ったよりも人は多かった。思いっきり泳ぐでもなく、風呂に入るような感じでずーっと浮いていた。ふやけたが、体の緊張は取れた気がする。
それから夕方になって、手持ち無沙汰になった俺は財布を持って出かけている。←今ココ
人でごった返している車道をブラブラうろつく。今日は近くの駅周辺で夏祭りが開催されているのだ。コロナ禍もあって前世では祭りの多くが縮小されてしまったが、今俺が参加しているこのお祭りは相当の規模だ。
19時からは河川敷で花火も打ち上げられるため、家のそばの通りからここまで人のいない道はなかったほど。
とりあえず、と焼きそばを買う。100円硬貨を四枚支払った。
俺は携帯の類を持たされていない。だから、気軽に友達を誘うことも出来ない。クラス連絡網で矢部坂を呼んでもいいが、あいつは「か、カノジョと回るでやんす。ほんとでやんすー!」なんて言っていたので、わざわざ呼ばなくてもいいだろう。億が一にもありえないが、もし本当だったら俺は嫉妬で死んでしまう。
尊史や峰にも声はかけられない。あいつらの家の番号なんて聞いたこともない。ゆうるちゃんの家まで押しかけるのも失礼だろう。クラスのヤツらを誘ってもいいが、それには時間が遅すぎた。急に連絡しても困るだろうな。
「なーお」
「......あ、さとう」
「あおん」
駅前のベンチに腰掛けて焼きそばを食っていると、道路を駆けて真っ白な猫が現れた。よくゆうるちゃんと一緒にいるさとうさんだ。
さとうさんは人懐っこく俺の脇にくるまる。膝の上に乗せたいが、あいにく焼きそばが陣取っていた。
「なーおん」
「にゃおー」
なにか語るような感じで鳴いたさとうさんに、俺も猫語で返す。ゆうるちゃんはまるで何を言いたいかわかるように言葉を交わしていたが、俺にはさっぱりわからん。専門の訓練はウケてないし、長年一緒にすごした訳でもない。
「なーお(ひとりぼっちは、猫吸いで癒しな、旦那)」
「にゃーお(いいのか? いいんだな? 俺はやるぞ!)」
こんな感じだろうか。さとうさんは「好きにして」とでも言うようにゴロンと横になる。図らずして猫吸いのチャンスが来たようだ。ノミが着いている可能性とか、焼きそばが汚いとかどうでもいい。俺は、今、ブツを吸うのだ───。
「さとうさーん! ───あ、いた! ってパワプロくん!?」
ひとつの境地に達しようとした時、現世から銀色の声で蘇らされた。ゆうるちゃんである。おお、なんと浴衣姿のゆうるちゃんである。
「おう......久しぶり」
「ひ、久しぶりですね、パワプロくん。今日は一人なんですか?」
「そうだよ。元々友達と約束してなくってさ」
「そうなんですか」
ゆうるちゃんがさとうさんを抱える。彼女のオレンジ色の浴衣に真っ白の毛がいくつもついた。罪深い......。
ゆうるちゃんはいいことを思いついた、とでも言うように「じゃあ」とにっこり微笑んだ。
「じゃあ、わたしと一緒に回りませんか? 両親と回っていたんですけど、なんだかラブラブ過ぎて申し訳ない気がして───」
「まじ? 行こう、一緒に!」
ゆうるちゃんの言葉にこれ幸いと賛同した。彼女とは六月に散歩で会って以来だ。彼女も習い事を始めて試合の応援に来づらくなっている。せっかくだし、沢山話したい。
「あ、ちょっと待ってください」
というと、ゆうるちゃんは肩にかけた大きながま口を開いてチラシを手のひらサイズにちぎる。入っていたボールペンを使って裏に何かを書いていた。覗き込んでみると、「パパ、ママへ パワプロくんと会いました。8時には帰るので、心配しないでください」と書かれている。ついでに猫のイラストもついていた。
「さとうさん、お願いです。この切れ端を両親に届けてください。明日のおやつを増やしますから」
そう言って、大きなハンカチに切れ端を包んでさとうさんの首に巻いた。伝書猫の完成だ。さとうさんも「おやつ」を聞いた瞬間にクルクルまわりだし、なんだか楽しそうに鳴いた。
「いいですよ、三倍です。じゃあ、お願いします」
「なおーん!」
ピューっと白い猫が飛び出して言った。なんだか訓練された犬と主人みたいだ。あれは猫じゃない。
ゆうるちゃんは「じゃあ......」と少し頬を赤らめながらそっと手を差し出してくる。視線は斜め下に下がっていて、俺のことは見れないようだ。いじらしいじゃんかよ......!
「うん。行こう」
そう言って俺も手を繋ぎ返す。なに、これだけの群衆だ。はぐれないためにも手を繋ぐ必要がある。まだ18時にもなっていないから、花火の鳴り始める19時に向けて人はどんどん増えていくだろう。
ひとまず屋台を見て回ろうかと考えて、大事なことを忘れていたことに気づく。
「ゆうるちゃん」
「は、はひっ! な、なんでしょうか......」
「浴衣姿、似合ってる。綺麗だよ」
白地に橙色とピンク色の花が広がっている。帯はやわらかそうな素材の真っ赤なものが巻かれていて、可愛らしかった少女を一層華やかにさせている。トレンドマークは大きながま口と、彼女のオレンジ色の花の髪飾りだ。
いつもの彼女のほんわかした感じとは違う、溌剌とした可愛さをまとっていた。綺麗だった。
「あうあ、ありがとうございましゅ」
かたや俺はバルセロナの十番のユニフォームと半ズボンだ。気後れするような服では無いつもりだが、もう少し雰囲気に見合ったものを来てくればよかったと思う。
けど、これから始まる夏祭りを思えば、そんな些細なことはすっぽり頭から抜けた。
ちなみに、読者の皆様はスマホアプリのパワサカをやってらっしゃいますの?
-
ほとんど毎日遊んでいますわ
-
コラボとかだけですわ
-
昔やってましたの
-
パワサカ? それはどんな洋菓子ですの?
-
知ってるけどプレイはしませんの
-
パワプロに一途ですわ