転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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夏祭り 後編

ゆうるちゃんと二人で手を繋いで祭りの喧騒を歩く。うるさくてまともに言葉をかわせないが、無理やり喋ろうとして思わず顔が近くなったり、ただ少し目が合うだけでもなんだかおかしくて笑ってしまう。

 

りんご飴、チョコバナナ、瓶ラムネ───。

 

さすがにタピオカはなかったが、ちょっとした軽食を気ままに腹に入れていく。ゆうるちゃんは既にいくつか食べたようなので、俺も本能のままドカ食いする訳にもいかない。瓶ラムネを片手に、少し話せる場所に移動することになった。

 

右手にゆうるちゃんを感じる。夏の夜は暑い。俺の手が少し汗ばみ始めた気がする。これは良くない。だが、どうすることも出来ない。せめて意識しないことだけが対応策だが、意識するのは不可抗力だ。

 

「あ」

 

思わず人の流れの中で立ち止まる。ゆうるちゃんは慣性のまま俺の背中にぶつかった。少しうめくのが聞こえた。

 

人混みの少し先に、瓶底矢部坂がいる。一緒にいるのは尊史、峰のようだ。その三人で集まってることになにか思うところがない訳では無いが、今はそれどころでは無い。

 

常日頃の俺なら自慢して煽りに煽って矢部坂を怒らせるところまでが定石というかルーティンなのだが、今はそうはいかない。

 

「ど、どうしたんですかー!!!」

 

「うおう!? き、聞こえてるよゆうるちゃん。ちょっと前に、友達がいるんだ!」

 

「えっ!? ど、どうしましょう! ユーターンしますか?」

 

「んー。いや、こっそり行こう! 人の影ならバレない!」

 

この道の先に大きな階段があって、上がった先はいくつかのサークルベンチのある広場だ。そこは去年もカップルたちが沢山いて他の人はいづらそうにしていたし、二人で話すには取っておきのはずだ。

 

ユーターンなどしてはいつ頃着くか分からない。

 

俺が片手で顔をかくようにして隠しながら進むと、ゆうるちゃんは俺の袖にしがみついて引っ付いてきた。距離が近くて動悸が伝わってしまいそうだ。

 

「......んで......なかったでやんすかねー」

 

「と、冬河さんが......し、一緒に回ってるんじゃ......いの?」

 

「そうだろうな。二人はあれで付き合っ......」

 

「きーーーーっ!! 悔しいでやんすー!!」

 

三人の会話は喧騒のせいで途切れ途切れで聞き取れない。すれ違った後に矢部坂が発狂したのは聞こえた。が、三人は俺たちに気づいていないようだったし、とりあえず災難は去ったと言える。

 

そのまま目的地までジグザグに歩き、数分かけてたどり着いた。

 

「ゆうるちゃん、あの辺に座ろうぜ。ちょうど空いてるっぽいし」

 

「そうですね......」

 

広場の隅っこのベンチに二人で腰掛ける。ゆうるちゃんも長い行列に疲れたようだった。かくいう俺も昨日の疲れもあって、だいぶ足が重くなっていた。

 

「ふう、一心地つきました」

 

「だな。ここならゆっくり話せる」

 

2人してラムネを開けて、一口飲んだ。冷たくてシュワシュワが最高だった。体に染み渡るような気がする。仕事終わりのビールと似たような爽快感を感じた。

 

「んー! ラムネ美味しいです!」

 

「だよな。めっちゃ染み渡る」

 

「思ったより歩きましたね。その分だけ美味しい気がします」

 

18時を過ぎ、より多くの人でごったがえすようになってきた。ここの広場はまだマシだが、大通りなどろくに屋台を見ることも出来ない。人も河川敷の方に大移動しているため、立ち止まることは難しい。

 

「あ、昨日の大会でアシスト賞とったんですよね? おめでとうございます!」

 

「───ありがとう。ゆうるちゃん知ってたんだ」

 

「はい。......その、あんまり試合見に行けてないですけど、ホームページで見たんです、その......」

 

「ううん。ゆうるちゃんが習い事頑張って、楽しんでるのは知ってるから。調べてくれてるのが嬉しいよ」

 

「そ、そうですか。えへへ......」

 

申し訳ない顔から一転、少し顔を赤らめてゆうるちゃんは照れる。

 

昨日の大会で、俺はアシスト王を取ったのだ。全国区の大会だったが、優勝してのアシスト王だ。タイトルは順調と言っても過言じゃない。あのコーベ・シティと戦うことは無かったが、クラブメンバーの全員が着実に実力をつけているのははっきり感じる。

 

そして、それには俺も含まれているはずだ。

 

思わず顔を顰めそうになって、ハッとした。危ない、いわばこれはデートだ。それなのに沈んだ顔を見せる訳にはいかない。

 

「ねえ、ゆうるちゃんの料理教室はどんな感じ?」

 

「わたしの料理の腕は、日々上達していますよ! この間はハクビシンのトランプさんも大喜びしてました」

 

「新しい友達だ」

 

「はい。トランプさんはですね、真っ白な体に茶色の帯みたいな模様が入った子なんです。さとうさんと似てますよね。けど顔も性格も全然ちがくて、トランプさんは結構おじいちゃんなんです。やたら私のことを叱ったりしてくるんですが、この間お料理を食べてもらった時には珍しく褒めてくれて───」

 

ゆうるちゃんが動物トリップに入ってしまった。時たまあるが、こうなると止められない。ラジオを聞いている感覚になる。

 

にしてもさとうさん、トランプさんとゆうるちゃんは人間らしい名前をつけるのが好きなようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、話しすぎちゃいましたね」

 

「そんなことないよ。面白かったし、楽しかった。ほら」

 

動物のトリップは直ぐに終わったが、ゆうるちゃんの話は終わらなかった。どうも祭りの熱に浮かされたのか、今日のゆうるちゃんは饒舌だ。トランプさんのこと、学校の飼育係のこと、料理教室のこと、家族のこと。色々聞けたし、俺も途中で自分のことを話したりもした。

 

結果としてゆうるちゃんの瓶ラムネがあっという間に空っぽになってしまったので、自分のを差し出す。

 

「俺の口つけになっちゃうけど、良かったら飲んで」

 

「え、え、あう......。あ、ありがとうございます」

 

何度か硬直したが、ややあって恐る恐る口を付けた。一口だけ飲んで、直ぐに俺に返した。

 

「美味しいです......」

 

「そっか、良かった」

 

既に19時前だ。ここからでも見えなく無いが、せっかくだから河川敷で花火をみたい。今から移動すれば間に合うだろうか。

 

それをゆうるちゃんに伝えて立ち上がると、ゆうるちゃんはまだ立ち上がろうとはしなかった。なにか言いたげに、口をもごもごさせている。なんだろう、疲れたかな?

 

「ゆうるちゃん、おんぶ───」

 

「パワプロくん」

 

ゆうるちゃんが俺に向けたのは、真剣な眼差しだった。

 

「パワプロくん。パワプロくんって、ツカサちゃんを、どう、どう思っているんですか?」

 

「ゆうるちゃん?」

 

「そ、その、大事な話です! パワプロくんはツカサちゃんと仲がいいですけど、その、つ、つ、つ......」

 

真剣な眼差しは、直ぐに熱い眼差しに取って変わった。顔を真っ赤にして、熱い視線を俺に向ける。これは、予感がする。経験したことは無いが、察することは出来た。

 

「ゆうるちゃん、あのさ───」

 

「付き合って、いるんですか?」

 

十中八九、告白だ。確かに仲良くしてきたが、ここでツカサとの関係を疑う理由が分からない。あるんだとしたら、ゆうるちゃんが告白する場合くらい───。頭の中では冷静に状況を判断しているが、唐突な質問に動揺を隠せない。

 

ゆうるちゃんは胸元でぎゅっと手を握っている。俺の手はTシャツの裾を握って、じっとりとしていた。

 

俺には、答える用意なんてない。確かに仲良くした。前世ではやらなかったいわゆる「モテ男」ムーブもちゃっかり試したし、ゆうるちゃんの好感度が上がっていくのも肌身で感じられるようになった。

 

だが、告白されるのは、付き合うのは別だ。

 

最低な男だ。匂わせておいて、それっぽいことをさせておいてひどい仕打ちだ。だが、俺はその告白を承諾したあと、どんな顔でツカサに会えばいいか分からない。それ以上に、サッカーにかまけてゆうるちゃんをおざなりにして、今の関係が悪化してしまうことも恐ろしい。

 

それに、告白を断るなんてもってのほかだ。

 

どうにか、話題をそらさないと。

 

「ゆうるちゃん」

 

「パワプロくん、わたし───」

 

「ゆうるちゃん、花火見に行こう。河川敷の方が見やすいでしょ?」

 

「───」

 

「......行こう?」

 

無理やり話を切った。ゆうるちゃんの手を握る。振り払われることはなかった。ゆうるちゃんは黙って立ち上がる。

 

楽しげに会話しているカップルの中を突っ切り、階段を降りて流れる雑踏に合流した。首裏がじっとりと汗で湿る。

 

黙々と歩く。けど、はぐれないように、彼女が怪我をしないようにスピードと距離感には気をつけた。

 

けれど、もう何を話せばいいか分からない。

 

ふと、背中から言葉が聞こえた。聞こえてしまった。

 

「好きです、わたしは、パワプロくんが大好きです」

 

思わず歯を食いしばる。小さくて、俺にすら聞こえないかもしれない声量の言葉だ。さっき口に出来なかったものが、ついこぼれてしまったかのごとく。

 

「俺は、俺は───。俺もゆうるちゃんが好きだ。けど、それ以上にサッカーが大好きなんだ───」

 

およそ告白の断り方としては、最低な部類に入るだろう。断れてすらいないセリフだ。そして俺も、聞こえてるか分からないくらいの声量で発した。

 

聞こえなかった振りをして、何も言わなかった振りをしたかった。けれど、良心が許さない。

 

俺が呟いたあと、心做しかゆうるちゃんの俺の手を握る力が弱まった気がする。

 

その後は、ゆうるちゃんの家の近所まで行って、手を話した。それからの記憶はない。いつの間にか俺は家に帰っていた。おそらく挨拶は交わしたんじゃなかろうか。お互いに、何も無かったような振りをして。

 

自分の勇気のなさを呪った。間の悪さを憎んだ。

 

これから彼女と会う時は、この苦い記憶が蘇るのだろう。

 

最近は、後悔してばっかだ。

ちなみに、読者の皆様はスマホアプリのパワサカをやってらっしゃいますの?

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