転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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夢現

俺は悩み事が多い時は夢をよく見る。風邪をひいた時なんかも、うなされて夢遊病者のようになることが多い。

 

大抵、夢に出てくる景色には見覚えがある。前世で行ったことのある場所だったり、今世で訪れた場所だったり。あるいは、その日テレビで見た景色だったり。

 

懐かしかったのはノートにでもまとめて忘れないでおきたいが、昔ネットで調べた時に「夢の内容を毎日記録していくと精神を崩壊させてしまう」なんて都市伝説を見たため、怖くてやっていない。自分自身転生という都市伝説じみたことを経験しているのだ。それに、あまり昔のことを思い出しても悲しくなるだけだし、たまに思い出すくらいがいいだろう。

 

既に、前世の母親の顔もおぼろげだ。

 

今回の夢はやけに鮮明だった。まるで現実かと思うほどに自由に体が動いて、頭も働く。景色も色がついていた。けれど、現実味を帯びるほどこれが夢だという確信が持てる。

 

なぜなら、俺は森の中にいたからだ。

 

ベッドに潜って眠りに落ちたはずだから、こんな鬱蒼としげる場所に自分がいるはずもない。

 

数メートル間隔で木が生えている。辺り一面の木はそこまで高くない。日本の森林だ。

 

けれど、この景色には見覚えがなかった。今世にこれほど深い森へ遊びに行ったことはない。前世もだ。とりあえず周りを見渡してみるが、目印らしいものも際立ったものもない。

 

とりあえず森を抜けようと歩き出した。人が踏みしめた山道も、よく聞く獣道も見られない。なんの気配もしなかった。

 

歩く。ひたすら歩く。

 

草木をかき分けて15分くらいは歩いた。それでも建造物は見えない。物語なんかじゃ山小屋が出てきてもいい頃合だ。

 

そう思いながらあちこち見回して歩いていると、沢を見つけた。綺麗な水が流れている。水源の下は小さな池のようになっていて、底まで透き通って見えた。

 

かわいた喉を潤す。

 

そうして、立ち上がって再び辺りを見渡す。木々の隙間から照らす太陽はだんだん強くなってきている。夜を迎えるまで時間はあるだろう。まあ、その前に夢から覚めるのが先だろうが───。

 

「ボールまてええええええ!」

 

「うん?」

 

急に子供の声が聞こえたかと思ったら、横っ面から何かが衝突してきた。思いっきり沢の水たまりに突っ込む。

 

「ぶっはっ!! ぺっ、誰だ、なんだいきなり」

 

「ぶぶぶ、ボール! ぶぶ......」

 

小学生の体には思ったより深く、ボビングして浮き上がる。下手人の影を探せば、すぐそばでバシャバシャと暴れる影があった。溺れては寝覚めも悪いので、直ぐに抱えて岸に向かう。

 

何度か咳き込んでいたが、呼吸が落ち着く前に再び水に飛び込もうとした。

 

「ボール! ボールどこだ!」

 

「いや、落ち着いて───」

 

「ボールどこいったああああああああ! きりんをおいていくなあああはあああああああ!!」

 

溺れていた人影───金髪をびっしょりと濡らした幼児を飛び込まないように抑えていると、思いっきり泣き出した。鼓膜を突き破るかのような大声に顔を顰めたが、目の端にサッカーボールが水に浮いているのが見えた。

 

また勝手に飛び込むようなことはなさそうなので、パッと水たまりに入ってボールを取って戻ってくる。未だに顔をキュッとくしゃくしゃにして、涙をボロボロとこぼして泣いていたが、俺が目の前にサッカーボールを出すと、ピタリと泣き止んだ。

 

「ボール......」

 

「ほら、ボールだ。もう飛び込むなよ」

 

「おまえ、ボールをたすけてくれたか......?」

 

「ああ。ついでに言えば君も俺が助けた」

 

「そうか。きりん、たすかったか。......れいをいう」

 

まるで弟でも慰めるかのように、サッカーボールをタンタンと叩く。サッカーは友達! って感じの漫画のキャラクターが前世にいたのを思い出した。その幼少期はこんな子供だったんだろうな。

 

俺も子供もびしょ濡れだったので、大きな岩のてっぺんに登る。日差しが当たって暖かかった。

 

「ありがとな、おっちゃん」

 

「誰がおっちゃんか。パワプロって呼べ」

 

「パワプロ。きりんはきりんだ」

 

濡れて邪魔そうな長い金髪を一つにまとめて水を切ってあげていると、そんなことを言い出した。感謝の気持ちはあるようだ。緑色の瞳と、外国人のような顔立ち。見た目からヨーロッパの方の女の子かなとも思ったが、ちゃんと日本語を話しているし、名前も日本風だった。

 

今は優しくボールを撫でているが、一体この子はどこから来たんだろう。近所に集落があるのなら、案内して欲しいところだが。

 

服を脱がせるのは抵抗があったが、風邪をひかれる方が困るし、何よりこれは夢だからと言い訳して遂行した。白い絹の長袖に緑色のベスト、短パンをズルズルと脱がせた。人に見られたら少なからず誤解を生む状況だ。

 

この子の集落は人里から離れているという訳では無いだろう。服の下にも綺麗な肌着や靴下を身につけていて、大事にされているのが見て取れた。きりんは岩からピューっとかけ降り、真っ白な靴下を汚しながらボールを蹴って走り回る。親御さんは大変だろうな。

 

とりあえず子供の服を広げて日光に当てる。俺も上下を脱いで日差しに広げた。気温は昼間だが暑さは感じない。ただ、陽炎が浮かんでいるので実際は暑いのだろう。

 

「パワプロ、あそぼ!」

 

だが、子供には暑さなど関係ないようで、ぴょんよん飛び跳ねて俺を呼んでいる。一緒にサッカーボールで遊びたいようだ。それなら断るわけにもいかない。

 

岩をゆっくり降りて、サッカーボールに向かう。裸足のまま蹴ってパスしてあげれば、少し知っているのかトラップして蹴り返してきた。当然とんでもない方向に転がっていくが、足を伸ばしてトラップする。そのまま軽くリフティングをしてから返した。まだネイマールチャレンジは投稿されていないが、俺はよく練習している。その一部を見せてやった。

 

それを披露すると、きりんは目をまん丸にして俺を凝視していた。

 

「すごいすごいすごーーーい!! ボールがおどった! きりんのときはわんぱくなのに、パワプロのときはなぜおどる?」

 

言い方が子供らしくて分かりにくいが、俺の華麗なボールタッチに感銘を受けたようだ。真似しようとして失敗している。

 

「これはボールとめっちゃ仲良くなったらできる技だ。だから、毎日ボールと遊んで、俺の技をコツコツ練習したらできるようになるさ」

 

「ほおおおおお!! わかった、きりんやってみる!」

 

と、何度も俺の見せたものをしてみようとボールをつついていた。俺も近くによって、つま先でボールを上げるコツや、どこに当てればいいかを時折実演して見せた。

 

まあ数分もすれば飽きて、今度は池に飛び込んで水遊びを始めたが、さっきので随分懐いてくれたようだった。汗と土を軽く洗い流して岩の上に再び登る。服はまだ乾いていないようなので、自分もあったまって体を乾かすことにした。

 

きりんもあとを追って登ってきて、岩に腰掛ける。熱かったのか、すぐに俺の太ももの上に場所を変えた。

 

「きりんちゃんは、この近くの村の子?」

 

「きりんのおやはしるふだ! やさしくてごほんをたくさんよんでくれる」

 

「そうなのか。いい親だな」

 

「いいおや! パワプロもあとできりんとこい」

 

「ああ、そうするよ」

 

夢ではあるが、どうにも不思議な感じがしてならない。見たことも聞いたこともないこの子が現れた。もし「しるふ」という大人から未知の情報を得られたなら、それを元に現実で調べてみるのもいいだろう。

 

生活してきて薄々感じてはいたが、ここは前世のパラレルワールドなんかじゃない気がするのだ。似ているようで、全く違う世界かもしれない。実際に前世にはなかった国や地形があるし、機械の発展具合も目を見張るものがある。前世では有り得なかった魔法や、超常現象もあるのかもしれない。下手に首を突っ込んで危ない目には会いたくないが、興味をそそられる。

 

時折服を触ってかわいたか確かめながらじーっと座っていると、俺の太ももをぺちぺち叩いて遊んでいるきりんが俺の上半身をじっと見つめる。特に腹筋が気になるようで、さわさわと触ってきた。

 

「......きりんちゃん。くすぐったいんだけど」

 

「かたい。きめらのはボヨボヨしてるししるふはぷにぷにしてるのに、パワプロのはかたい! なんでだ!」

 

「キメラ......?」

 

きりんはベチベチと腹筋を叩く。だんだん痛くなってきた。力強いなあこの子。それよりもキメラってなんだ、名前か? あだ名だよな。酷いあだ名だ。非日常に興味はあるけど怪獣はごめんだぞ。俺は食われて死にたくは無い。

 

その後もきりんは俺の太ももの上で腹筋を触って遊んでいたが、しばらくして飽きて服を着始めた。俺のも乾いてきてたので、2人とも服を着る。きりんの服が前後ろ反対だったので直してやった。

 

俺が服を着ている間に、きりんは岩から一気に飛び降りる。危ない。慌てて下を見るが、怪我なく着地できたようだ。血など流したらしるふさんとやらに怒られてしまう。愛されているだろうし、知らない誰かを悲しませたくは無い。

 

俺も服を着て靴を履いて恐る恐る岩を降りると、きりんが少し離れたところで大きな岩を押している。先程まで見つけられなかった山道のど真ん中に陣取っている、きりんの2倍ほどの大きさの岩だ。何をやっているんだろう。

 

「きりんちゃーん。何してるの?」

 

「ふぐぬううううううう、パワプロいわ、したひと!」

 

彼女の声に岩の下を見てみれば、確かに人が埋まっている。どうやら通り道に崖から岩が落ちたようだ。土と岩の間に腕が見える。指がピクピク動いているから、まだ生きているのだろう。

 

「ふっぐおおおおおおほおおおおおお!!」

 

「ふん、ぐうううううう!」

 

俺もきりんに加勢する。俺の身長と同じくらいの大きさの岩だ。重いが、動かせないことは無い。何よりきりんちゃんが頑張っているのだ。俺が頑張らないわけがなかった。

 

重い岩が、ゆっくりとズレていく。せーのという掛け声で、一気にどかした。

 

岩の下には、白衣を着たおじいさんが横たわっていた。サイズは小さく、ダリみたいなちょび髭と、矢部坂みたいな瓶底メガネが特徴だ。胸元には彼のものらしきカバンがある。見た目からもしやと思って中身を確認すれば、おあつらえ向きに簡易的な医療品が入っていた。

 

きりんちゃんには村の人を呼んできて貰うように伝え、俺は応急処置を始める。カバンの中の消毒液で腕の傷を洗い流して、包帯で巻いた。骨も折れているようだったが、さすがにやり方はわからない。添え木で固定するのは聞いたことがあるが、自信は無かった。これ以上悪化させるのもまずい、村の人に任せよう。

 

とりあえず呼びかけて意識を確認する。小さくうなずいたので、そこまで酷くは無いはずだ。岩はおじいさんの脇のあたりに落ちていた。目立った出血はもうないようだが、肋骨は間違いなく折れている。内蔵も酷いことになっているだろう。

 

できる手立てがなくなって、きりんが呼んでくることを待つばかり。あの子はここにたどり着けるだろうか。迷ってくれるなよ、と祈る。

 

しかし、どうにもタイミングが悪い。少しづつ意識が遠のいていく。おそらく夢から覚める時なんだろう。

 

けが人を残して置いていくことに申し訳なさを感じるが、分厚いメガネの下で、博士が俺を見つめていることがわかった。

 

「......か、んしゃいたしマース」

 

そのつぶやきを最後に、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

驚いたことに、俺はその夢を鮮明に覚えている。そして、起きた瞬間のことも。

 

あんなに現実味を帯びた夢もないし、あの「きりん」という子も、ただの夢の産物という気がしなかった。

 

ただ、俺の家のベランダに干される布団を見て、今度は夢の中では二度と水に落ちないようにしようと心に決めた。

ちなみに、読者の皆様はスマホアプリのパワサカをやってらっしゃいますの?

  • ほとんど毎日遊んでいますわ
  • コラボとかだけですわ
  • 昔やってましたの
  • パワサカ? それはどんな洋菓子ですの?
  • 知ってるけどプレイはしませんの
  • パワプロに一途ですわ
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