転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
「コンバート*1だ」
資料を見ながら呟いた俺に、最上アシスタントは打てば響くように返答する。
「タカと飛鳥ちゃんですか?」
「そうだよ......けどなんでわかったんだ?」
「そりゃ、鶴屋監督がずっと2人のページを見返していましたから」
印刷した書類を宮部コーチ、六庵コーチの机に並べていく。その後に彼は自分の机に座って、俺の見ているのと同じ資料をめくった。
「右利きのタカを左WG、左利きの飛鳥ちゃんを右WGに置くんですよね?」
「うん。今まではゴールへのスピードを重視して順足*2WGにしていたけど、もう逆足にしていい頃合だと考えたんだ」
順足だとDFとは離れた方の足でドリブルをすることになる。必然的に、相手陣地深くまで侵入するスピードが逆足の時より早くなるのだ。トランジションの入れ替わりが激しい小学生のサッカーなら、一気にゴールに迫れることは大きなストロングポイントになる。
しかし、最近のFC武蔵はポゼッション*3時間がどんどん長くなっている。ルーズボールを回収する仕組みが洗練されて、カウンターの機会が減っているのだ。
「確かにポゼッション率は試合ごとに高くなっていますね。全体、って文字の隣にある60%の数字は、全ての試合を通した平均ですか?」
「そう。だけど、それより見てほしいのはその裏のページ。公式戦5試合ごとの平均ポゼッション率を4月から並べているグラフだよ」
最上アシスタントは俺の言葉に資料をめくる。ポゼッション率が右肩上がりになっているのがわかるはずだ。4月当初は50を少し超える程度だったのだが、直近の5試合は70を超えている。支配するサッカーができつつあるのだ。
これにはいくつか要因があるが、選手の全員がどこでボールを失いやすいかを理解し始めたことが大きい。
ボールを失った回数は、パワプロが大きな数字を出している。全体のボールロストの二割くらいが彼だ。それは一重にパワプロが何度もチャレンジするパスを出すからだ。俺はそれを奨励しているし、慎重な攻撃は小学生の良さを消しかねない。パワプロが失敗を恐れなくなっているのもルーズの回数の高さに繋がっている。
そして、周りの選手たちはパワプロのチャレンジが出し先と合わなかった時にボールを失うことが多いのを感覚的に理解し始めている。彼のパスが大きなチャンスになりやすいこともあって、パワプロがボールを出したときは選手全員が一層集中するのだ。そのおかげでボールを失っても相手より早く回収できるし、そのおかげで分厚い攻撃も、少ない失点も可能にしている。
「すると、WGの2人を逆足にするのは、ポゼッション時間が長いからですか?」
「ああ、その通り。逆足にしたとき、押し込んだ局面でどんなプレーが起きるかわかるかい?」
その言葉に、最上アシスタントはええとと唸って考え始めた。
「左側はタカです。彼は相手が1人でも2人でも、強引に突破する力を持ってます。利き足の右足でカットインすれば、より多くの得点が生まれるはずです」
「続けて」
「はい。逆に右サイドは、飛鳥ちゃんが利き足の左でカットインをすることになりますが、あまりさせたことがない。右足でのクロスや利き足でのカットインを練習する必要があると思います」
おそらく彼が言った通りだろう。タカが得意の右足でカットインを狙えば、得点はさらに増えることに間違いは無い。だが、飛鳥は逆足を使うことがほとんどなかったため、利き足でのカットインを練習するか、逆足でのクロスを身につける必要があるだろう。飛鳥には悪いが、タカを活かす方が得点が生まれる可能性が上がるのだ。シビアな話だ。当然その分だけ飛鳥の面倒も見るつもりだが。
「だけど、少し足りない」
「足りない、ですか?」
「うん。───押し込んだ時、SBとの連携はどうなる?」
「SB......ああ!」
最上アシスタントは小さく手づつみを打って話す。語ることは、俺が述べたいことと相違なかった。理解の早い青年だ。
左SBの沼野
順足のままでは押し込んだときにWGとSBの連携はちぐはぐになっている。サポートを必要としないタカにサポートの上手なシュートがつき、サポートの欲しい飛鳥にはサポートの苦手な堅固がつく。
これが、WGを逆にすればどうだろう。
「左では突破力のあるタカに任せて、ケンゴくんは守備に集中することができます。右では、以前は得意なオーバーラップを活かしきれてなかったヤベッチと飛鳥ちゃんで連携してサイドを攻略することが出来ます」
「うん。俺はそう考えてる」
押し込んだ局面ではスペースが無くなる。今は質のいい高見のクロスを峰が押し込んだり、タカが無理やりこじ開けてシュートをうったりしているが、あまりにも得点パターンが少ない。今までの得点を集計したところ、押し込んだところから得点が入ったのは、カウンターの2分の1の数字になっていた。これでは容易に対策されてしまう。
ポゼッション時間が長くなっているのに、最近は得点が少なくなっているのはそのせいだ。だから、押し込んだときの得点パターンを増やすためにひと工夫ふた工夫をしなければならない。
「それにコーベも俺たちに対抗して保持時間を伸ばすより、守備やカウンターの強度を鍛えているように感じるんだ。押し込んだ時に質のいい攻撃ができなければ、何度もカウンターのチャンスを献上してしまう」
「そうですね。コーベの他にも、私たちが相手の時は深く守ってカウンターを狙うチームも増えてきました。神奈川のFCレグルスなんかもほかのチーム相手ではポゼッションサッカーをしていますが、武蔵相手だとまるっきり戦術を変えてくる可能性があります。強いチームがカウンターに徹するのは怖いですね」
FCレグルスというのは、近年育成に力を注ぎ始めたチームだ。最近はその成果がではじめたようで、関東圏の大会では必ず前に立ち塞がってくる。今年度はまだ戦っていないが、春の全国では3位にまで上り詰めている。全く侮れないチームだ。
冬の大会で優勝すれば、夏冬のダブル達成ということになる。FC武蔵のU-12チーム史上初の快挙を成し遂げることになるのだ。バル〇ロナのように下部組織のメンバーを中心にトップチームに哲学を浸透させたい我々としても、何がなんでも成し遂げたい目標だ。
「ただ、5ページ目にまとめてある通り、懸念事項もいくつかありますね」
「ああ......子供の成長というのは千差万別で、難しいわけだな」
この資料というのは、今日のコーチ陣会議に使うものだ。そこで選手たちの異変やその兆候を共有し合うことになっているのだが、少しばかり急を要することも起きている。
「ああ見えてパワプロくんも繊細ですからね。飛鳥ちゃんもよく質問に来てくれますけど、あまり彼女の精神的な助けになってるようには見えないですし。コーセイくんもこのところ無理をしすぎているように見えるのは、僕も同じです」
それぞれの選手についてまとめてあるのだが、一番の懸念はパワプロのスランプだ。夏の初め頃から徐々に調子を落としている。好不調の波が激しい選手では無いが、精神面がプレーに直結するタイプなのはこの三年間で理解している。彼の中でどんな悩み事があるかは想像がつく。この辺は、彼の親とも相談するべきだ。
それに、うちのチームには真面目な児童が多い。特に飛鳥や功誠だ。彼らはタカやツカサなんかに比べると、選手としての格が一段劣る。それを本人たちも勘づいているようで、少し無理して練習している場面も目に付いた。
この時期の選手たちの体は特に大切にしなければならない。後の選手生命に響くのだ。この辺はフィジカルコーチである六庵に要相談するべき事案だろう。
「こんにちは。おお、ふたりとも早いな」
「お疲れ様です、宮部コーチ」
「お疲れ様です」
引き戸が空いて、白髪の増えてきた宮部コーチが入ってくる。俺の理想的な戦術を浸透させるために、もうすぐ70を迎えるこの人に無理を言って練習を考えてもらっている。それにむくいるためにも俺が一層考えなければならないし、真摯に選手たちに向き合う必要がある。
育成は楽しいが、同時に悩ましいものでもあった。
ちなみに、読者の皆様はスマホアプリのパワサカをやってらっしゃいますの?
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ほとんど毎日遊んでいますわ
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コラボとかだけですわ
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昔やってましたの
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パワサカ? それはどんな洋菓子ですの?
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知ってるけどプレイはしませんの
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パワプロに一途ですわ