転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
「最近塾休んでるようだけど、大丈夫?」
夏休み後半。午前中に小学校の教室で開かれている勉強会で夏の宿題をこなし、帰り支度をしているとツカサに声をかけられた。彼女はお盆休みから帰ってきて、昨日も塾の夏期講習に参加していたはずだ。
「あー。俺夏期講習取ってないからさ。塾は9月からまた行くよ」
「そうだったんだ。てっきりやめたかなって」
「やめられるならやめたいさ。もっとサッカーに時間費やしたいし、練習終わったあとのアイシングも充分に時間取れてないし」
ツカサはこのクラスの一番後ろの席でプリントを解いていた。俺とツカサは違うクラスだが、勉強教室では六年生の好きな教室に入ることができる。
ツカサも少し前にタスクを終わらせていたようで、俺と共にランドセルを背負う。背丈は差がなくなってきたが、それでもツカサの方が10cmほど高い。スラッとしていて、腰周りも胸囲も脅威的な前兆を見せている。これは将来が楽しみだ。
「鼻の下、伸びてるよ」
「......鼻水我慢してんだ。夏風邪ひいてさ」
「みたいだね。心做しか顔も赤いようだし」
なんだこいつ。誰の影響なのかめちゃくちゃ言うようになったな。相手の心中を気にせずからかうような友達が近くにいるのかもしれない。誰だろうな。
階段を降りて、昇降口で靴を履き替える。今日で勉強教室に来るのは最後なので、洗うために上履きも巾着に入れてランドセルにしまう。ツカサが既に外で待っていた。彼女は相変わらず銀色の髪をショートにしていて、それが夏風に揺れている。格好はジーパンに真っ白な半袖。腕が少し焼けている。日光に肌着が透けていて目に毒だ。
俺も彼女に追いついて、正門へ向かおうとすると腕が引っ張られる。なんだと振り返れば、ツカサが左手を差し出してきた。手を繋ぎたいんだろうか。
「......ここ最近繋がなくなったじゃん?」
「だから」
「まじぃ? 俺もう恥ずいんだけど」
そう言いつつ、俺はツカサの手を優しく握る。小六に入ったあたりから、下校中やクラブから帰る時も手を繋がなくなった。俺もツカサもそれぞれ別の友達ができていたし、共通の友達の前で公然と手を繋ぐのは気が引けた。何より、他の奴らにヒューヒュー言われるのは割かし恥ずかしいのだ。
まあ、今日はあまり人もいないし良しとするか。
なんて自分を納得させて歩き出す。ツカサもなんだか楽しそうで、気分良さげに鼻歌を歌っていた。
「ね」
「うん?」
「今日は四時からだっけ」
「ああ、いつも通り。今日はツカサの家で試合とか見る?」
この後の練習が始まる時間を確認し、予定を尋ねるとツカサは違う提案をした。
「このまま山の公園に寄っていかない? 最近行ってないし」
「いいね。そうしようか」
ツカサから珍しい提案がなされたが、俺もすぐに承諾する。2人で近くにそびえる山へと進路を変えた。
☆
山の公園というのは、俺たちの学校から南に少しのところにある山の上の公園だ。山の上とは言っても、せいぜいドラえもんで出てくる裏山程度の高さだ。
ちなみに、この山は前世には存在していない。この山はおそろし山と呼ばれている。東京都の南の一部と神奈川県の北の一部を覆う巨大な山地の一角だ。
山の奥は、森が深くなるので入ったことはない。噂では衛星写真を取ろうとしてもぼやけてしまうそうだ。俺はパソコンをあまり触らないので真偽の確認はしていないが、世にも不思議な話というのはどこにでも転がっている。
もしかすると数日前に夢で見た場所というのはこの山に関連しているのかもしれない。不思議な夢で、不思議な山だ。おねしょの一件もあって思い出したくないけどね。
「一段落ついたら、この山登ってみたいな」
登山道の途中、公園への石階段を登り始めたところで呟いた。
「そうだね。いい特訓になるし、私も山の奥に何があるのか興味ある。───高校生になってからかな」
「そんな先になるか?」
「うん。私も受験があるし、パワプロも海外に行くから」
「あー。そうだったな......」
ツカサが塾に通っているのは、ツカサママの母校に通いたいからだ、と以前ツカサは言っていた。近年共学化がなされた、上品な校風をした私立中学だという。当然受験難易度は高く、ツカサは日々勉強も頑張っていた。二足のわらじか、すごいもんだ。
石階段を登り終わる。確か二百段はあったはず、ここに来るだけでもそれなりの鍛錬になるのだ。
公園の中央にあるブランコに座り、ぶらーんぶらーんと漕ぎ始めた。
ちょうど森が禿げていて、ここから俺たちの街が一望できる。南西から北東へと大きな河川が流れ、下流には東京で知名度の高い駅がある。そこから川をのぼれば俺たちの通う小学校があって、さらにのぼれば俺の家も見える。
名物の一km四方の御屋敷も川の反対側に見えるし、尊史や飛鳥の通う学校も遠くながら影が見えた。確か、ゆうるちゃんも通っているんだったな。近所のパワフル高校も見えるし、大きな野球グラウンドも発見した。
「広いなあ」
「広い。......ここに来ると毎回それ言ってるね」
「そうか? そうかもなあ」
俺は、今世でサッカーしかしていない。ほかの趣味も作っていないし、スマホもパソコンも使えない。だからか、こうやってぼーっと景色を眺めるのがなんだか楽しく感じる。それに心が洗われる気がするのだ。
そういえば、昔メンタルを保つためには別の趣味を持った方がいいと聞いたことがある。最近はめっきり暇の時間が無くなったが、スペインに行ったら別の趣味も見つけてみようか。のめり込むのは言語道断だが、こうやって落ち込む回数が減るのならいいかもしれない。ハイキングとかどうだろう。
人どころか車さえ米粒に見える雄大な景色を見ながら、ゆっくりとブランコを漕ぐ。ふと隣のツカサを見れば、バッチリ目が合った。
「......なんだよ、子供ぽかったか?」
「そんなことないけど───。少しは楽になった?」
「何が?」
「だって、随分苦しんでるようだったから」
セレクション、大変だよね? とツカサに言われ、慮られていることに気がついた。隠すつもりもなかったが、ツカサに心配をかけてしまったらしい。心が温かくなった。
「ありがとな。少しは休まった気がする」
「そう?」
そう言って今度はブランコを漕いだ。勢いよく。風が気持ちいい。以前ツカサが言っていたが、ブランコはジェッコの簡易版の体験ができる。風を切るのは心地いいと感じた。
「悩み、聞いてくれるか?」
「うん、聞かせて」
ツカサもブランコを漕ぎ出す。返答を受けて、俺は息を吸った。
「バ〇サのバッキャロー! ビジ〇レアル*1の、バッキャロー!」
「俺を見つけろよなああああああああ!!!」
ブランコが一番高く前に上がったところで、俺は叫んだ。こだまが聞こえるくらいには大きな声で叫んだ。もしかすると不審がって誰か登ってくるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
ただ、叫べたことにスッキリした。
「相談乗ってくれてありがとな。スッキリした」
「......今、相談されたんだ。気づかなかった」
だって、「育成組織が俺のこと選んでくれない。なんでどうして!?」なんて相談するのは俺のプライドが許さない。どんな解決法があるかと言えば、挫けずに頑張る、それだけなんだ。
それに、もうひとつの悩み事であるゆうるちゃんの話もできそうにない。男女の仲の問題だ。ツカサには聞かせたくなかった。
「俺は、諦めない。俺は世界最高の選手になるんだ。プロどころの話じゃない、育成組織云々の話じゃない。たかが通過点で止まってる場合じゃないんだ」
誰よりも自分に言い聞かせた。11月には地区予選があり、12月の頭にはバ〇サの合同練習がある。そして、年の最後には全国大会だ。
これから4ヶ月が、勝負の期間だ。
「あとは、ツカサの試験も手伝うことも忘れないさ」
その言葉に、ツカサは少し心外そうな顔をした。お前が算数の問題でつまりがちなのは見てて知ってる。時間の取れる範囲ではあるが、俺の脳みそが役に立つなら使って欲しい。
「どっちも期限が迫ってる。覚悟を決めるだけだろ?」
「うん、そうだね。私もパワプロも」
ここからの地獄を駆け抜ける力は戻った気はするが、とりあえずブランコは漕ぐことにした。
街の景色を見て、四年後にどう変わっているかを想像してみる。
きっと景色は変わらないだろう。
それを確認する俺は今よりも背丈が高くて、技術も高くて、目に力が宿っているはずだ。
ちなみに、読者の皆様はスマホアプリのパワサカをやってらっしゃいますの?
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ほとんど毎日遊んでいますわ
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コラボとかだけですわ
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昔やってましたの
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パワサカ? それはどんな洋菓子ですの?
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知ってるけどプレイはしませんの
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パワプロに一途ですわ