転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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学芸会

「覚悟しろ、フック船長! 決着をつける時だ!」

 

「ガハハハハ。ピーターパン、『決着をつける』のではない。『お前が死ぬ』ときが来たのだ」

 

悪辣の限りを尽くした顔をする。そして、下卑た声で、大袈裟に抑揚をつけてセリフを発した。目の前の美少年は俺の言葉を聞いて、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「へへっ、僕たち子供の力を侮るな。夢みる力は、無限大なんだ!」

 

その言葉を皮切りに、ピーターパンの背後から子供たちが飛びかかる。かっこいい音楽も流れ始めた。同様に、俺の背後からも海賊の格好をした子供たちが飛びかかる。俺もピーターパンに切りかかる。開戦の法螺貝がなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジでなんで俺がフック船長やるんだよ。時間ないって言ったじゃんか......」

 

十月のとある日の放課後。学芸会の練習を終えた俺は、そそくさと帰宅の準備をする。すぐにでも出ないと練習に遅れてしまう。最近は場面局面によってパスの質を変える練習をしているのだが、これが難しい。一刻も早く練習に向かいたかった。

 

「仕方ないでやんす。オイラには歯に衣着せぬ物言いをするくせに、クラスメイトの前では優等生ぶっているバツでやんす」

 

「うるせえよ......。そうだ、矢部坂変わってくんね? お前悪役にピッタリな性格と顔してる」

 

「オイラ的には、パワプロくんほど似合う人もいないでやんすね。理不尽な物言いとかまさに悪者のそれでやんす。それに、オイラは優秀な名助手役という適任ポジションが既にあるでやんす。悪役なんて柄でもなんでやんすよ」

 

ガツガツと言いたいことを言う矢部坂だが、俺は言い返そうとした口を閉じる。廊下からクラスメイトが戻ってきたし、何しろ時間が無い。矢部坂の話に付き合うだけ時間の無駄なのだ。

 

「オイラは、素のパワプロくんを学校でも見せていいと思うでやんすけどねえ」

 

「学校じゃあ口が悪いだけで先生に告げ口されることもあるんだ。余計な仕事は増やしたくない───。時間ないんだ、お前も急げよ」

 

「わかってるでやんす。最後に舞台衣装だけ見てから帰るでやんす」

 

そういうと矢部坂は回れ右して女子集団に合流した。あれでいて目端がよく利くし、手先も器用だ。キモがられがちだが、今回ばかりは頼りにされていた。それに、やけにゲームも上手いためクラスの男子からも人気がある。フック船長の助手船員の役もちゃっかり取っていた。

 

「『人質がいる? それは一体どこにいるんだい? ほらよーく探してご覧よ。ひとじっ、ひとずちの姫は、ほら!』」

 

「ストップ。鎌野くん、人質、よ。ひ・と・じ・ち。......言いにくいのはわかるけど、これで三回目」

 

「ご、ごめん、もう一度やっていい?」

 

教室を出ると、廊下でピーターパン役が練習していた。鎌野という少年はダブルキャストの後半を務めている。俺も後半のフック船長を任されているので、劇の最後に斬り会う間柄だ。成績優秀容姿端麗運動抜群の三拍子揃った美少年。お前、転生してないか?

 

そんな彼が、セリフの練習で何度かつまづいていた。何度か噛んでしまうようで、やり直しをさせられている。コイツも女子たちの希望で主役に立候補させられたクチだ。お互い苦労するなあ。

 

「───そら、これで心置き無く戦える。覚悟しろ、フック船長!決着をつける時だ!」

 

「あー、ちょっと待って」

 

彼の演劇指導をしている少女がすぐに指導に入る。確か彼女は台本を作ってくれた子のひとりだ。塚田と言ったか。彼女はこのシーンに思い入れがあるのか、随分熱心に指導を行っていた。あるいは鎌野くんを構いたいだけなのか───。

 

「なあ、あんまり動きが多すぎると難しいぞ。もう少しシンプルでいいんじゃないか?」

 

「あ、パワプロくん」

 

「神谷くん......」

 

「熱心にやってるのに横から言われて気分が良くないのはわかるさ。でも、例えば今のシーン」

 

人質に取られた先住民族の姫をピーターパンの仲間が救い出し、心置き無くフック船長と戦える、というさっきのシーン。セリフの最初に武器である短刀を抜き、自分の胸を叩き、フック船長を指さす。ここが「そら、これで心置き無く戦える」のセリフだ。実際にセリフを言いながら真似をしてみせ

 

「こことか、ほら、こう。このポーズのままでもいいんじゃないか?」

 

仲間を庇うように右手を引き、左手を胸の前で握る。ついでにそのあとのシーンも実演して見せた。「覚悟しろ、フック船長」の直前に短刀を抜いて構え、「決着をつける時だ」では相手に短刀を突きつけるのみ。至ってシンプルな振り付けだ。

 

しかし、やはり少女は納得がいかないようだった。

 

「でも、それだと動きが無さすぎるんじゃない? 小さくまとまっちゃうし───」

 

「そうでも無いさ。あまり振り付けをつけすぎても、見る人はセリフに集中しにくくなる。それに、俺的には振り付けが多いと覚えるの難しいんだ」

 

「うん。俺もそう思うよ。覚えにくいとは、ちょっとだけ」

 

鎌野に目配せすると、彼も賛同してくれた。よっぽど劇に慣れていないと、言葉と振り付けを一緒に覚えるのは難しいのだ。複雑すぎず、少し余裕があった方がいいパフォーマンスができる。俺はそう考えている。

 

少女は少し怒ったようだが、これ以上のことは知らない。俺は自分で振り付けも考えると伝えてあるし、鎌野くん自身が彼女にお願いした可能性もある。あとは2人で決めることだ。

 

それに、もう練習に行きたい。彼女の怒りも買いたくない。「じゃあね」と伝えてその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、二人は俺の提案を飲んだようだ。振り付けは簡素だし、彼女の言うように迫力や動きは無いかもしれない。けれど、練習の時よりも声に心が宿っていたし、表情にも程よい緊張が見れた。

 

部下役がピーターパンたちに次々と倒され、ついにフック船長が戦う時が来た。俺の背後には副船長の矢部坂が残っている。バンダナを巻いて船乗りの服を着た彼は、俺が剣を抜いた後にピーターパンにかかってあっさりやられることになっている。そして俺と鎌野くんの一騎打ちだ。

 

ぼとり、と腰に刺さった剣を抜いた。

 

「へへ、へへ。舐めるな、俺とコイツで全員殺せるんだ。さあ、この剣の錆と───」

 

俺の抜いた剣は柄の部分だけになっていた。刃の部分は、床に落ちている。

 

───こんなこと練習じゃなかったじゃん!!

 

恐る恐る背後を見る。こういう時こそ落ち着くんだ。さて、どうする。矢部坂から剣を貰うか、舞台裏から予備を貰うか───。

 

すると矢部坂が口を開いた。

 

「お頭、どの剣の錆にするでやんすか?」

 

「やかましい!!」

 

呑気にそんなことをのたまった。観客は笑いに包まれる。なんだか知らんが、上手くいってるらしい。

 

「ええい、どいつもこいつも役に立たん。剣をよこせ!」

 

「あうっ」

 

矢部坂を軽く押して腰の剣を奪う。副船長はヤムチャのように倒れた。

 

振り返って、ピーターパンに相対する。

 

「へへへ、この剣の錆となれ、ピーターパン!」

 

その一部始終を見て、鎌野はなにかハッとした様な顔をした。そして───

 

「仲間を大事にしないやつに、僕は負けない。来いっ、フック船長!」

 

あろうことか、アドリブを決めやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アドリブまで決める余裕があったんだな。すげーよ鎌野は」

 

教室に戻って装備を外していく。何気に鎧が重かった。装飾班が凝りに凝ったらしい。鎖やら生首やらが沢山付属していたのだ。いらねーだろこんなもん。

 

たくさんの賞賛や激励を浴びて戻ってきた鎌野は、驚いた顔で俺を見た。

 

「パワプロくんだって同じことしたじゃん。それにみんな笑ってたし、パワプロくんの方がすごいよ」

 

「あー。まああれは矢部坂の機転というか───」

 

劇が終わったあとのクラスメイトはこぞって同じことを言う。確かにハプニングを上手く利用して笑いに繋げたが、それは矢部坂の一言目が良かったからだ。あの場面、俺の内心は焦ってしょうがなかった。悔しいが、今回は矢部坂に礼を言わねばなるまい。

 

俺が苦々しい顔になるのを必死に抑えていると、鎌野が言葉を続ける。

 

「パワプロくんが全国優勝できるのとかも、こういう余裕があるからなんだろうね。すごく勉強になったよ」

 

そして、お互い頑張ったね、と微笑んできた。

 

まあ、俺にとっても彼にとってもいい教訓になった。彼も覚えるのに精一杯で余裕がなかったら、他人のハプニングでセリフをど忘れしてしまう可能性もあったのだ。俺が彼に余裕の大事さを身をもって教えた。そういう美談だったことにしておこう。

 

「パワプロくん。オイラはバニラアイスを奢って欲しいでやんす」

 

「......」

 

「なら、冬河ちゃんに『パワプロくんがお礼をしてくれない。酷い』って伝えるでやんす」

 

「わあーったよ。今日はよくやった。ありがとうな!」

 

「素直じゃないでやんすね......。しょうがないから、今回は新作のヤヴァンゲリオンプラモで許してやるでやんす」

 

今日は利き足のコントロールが乱れるかもしれないな。シュート練習で気を付けないと、誰かの後頭部に直撃する恐れがある。そんな気がした。

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