転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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『』内は他言語
「」内は日本語ですわ。


助走

朝起きて、顔を洗って歯を磨いてボールを蹴って。シャワーを浴びて朝食を食べてツカサに会って学校に行って授業を受けて。下校して着替えて電車に乗って。練習に参加して塾に行って帰宅して。風呂はいってご飯食べてマッサージして宿題して眠って。

 

そして再び起きる。

 

そうやって毎日を過ごしていると、あっという間に時が過ぎる。いくら祈っても、いくら願ってもその時は訪れるものだ。前世に何度も味わった事だし、これから何度も味わうことだ。

 

「パワくん。You can do it! 平常心よ!」

 

母が、席に腰掛けてすね当てをつける俺を鼓舞する。俺に似て髪がサラサラとしていて、目がぱっちりとした女性だ。その額に「できる!」とかかれたハチマキを巻いて、両手にスポドリを持っていた。

 

とにかく、いつも今までも母が俺を応援し続けてくれているのは知っている。俺はそれにあまり応えられてないし、母が望むように甘えたり親孝行できているわけでもない。

 

「......行ってくる。全力出すよ」

 

「うん! 応援してるわ、パワくん。いってらっしゃい」

 

これが俺でなきゃ、親に「いつもありがとう」とかなんとか言って、駆け出していくんだろう。残念ながら、俺にその余裕はない。

 

天然芝で、鋭くボールが動いている。どこもかしこもハイレベルなパスがなされている。日本語の他にスペイン語も飛び交い、アップのくせにハイクオリティの練習になっていた。

 

これがラ・マ〇アに入る最後のチャンスだ。

 

俺はピッチに足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『では、簡単にロンドをしてください。まずは四人一組、鬼は一人です』

 

「えーっと、ロンドをやるそうだ。四人一組鬼一人。さあ、近くのやつと組め!」

 

今日は、あのバルセロナのカンテラ、ラ・マ〇アのメンバーとの合同練習だ。彼らは日本で強化合宿を行っているようで、今回の合同練習もその一環だ。クラブから申請して、見合う結果を出していなければ参加すらできない。狭き門をくぐり抜けた先にあるセレクションだ。周りのヤツを見ても、全国大会で顔を見たようなやつばかり。

 

『よろしく、よろしくー』

 

「ぐらっしゃーす。あっ」

 

ラ・マ〇アのメンバー二人に無理やり目を合わせてチームを組み、もう一人近くにいた適当なヤツを呼ぶと、その適当なヤツが声をあげた。

 

なんだと振り返れば、例の金髪クソガキだった。

 

「桜羽......」

 

「え、なんだってオレを睨んでくるんだよ。むしろオレの方が睨みたいんだけど! 負け続きだし」

 

「睨んでたかい? そりゃ錯覚だよ」

 

「そうかー?」

 

コーベ・シティのエースストライカー、桜羽竜騎(さくらばりゅうき)だ。俺よりひとつ年下の金髪マンバン風クソガキだ。

 

こいつは何度も雑誌に取り上げられているファンタジスタだ。俺よりも得点に絡んだりプレーに華があるからか、メディア露出が多い。別に悔しい訳では無いが、とりあえずこいつはクソガキだ。今日はこいつも参加するらしい。

 

だが、あまり突っかかっている訳にもいかない。そんな余裕はないのだ。

 

スペイン人コーチから指示が出される。それに従って練習を始める。

 

手始めに四人一組のロンドだ。くっそ、レベルが鬼のように高い。二人がスペイン人だから当たり前だが、もうひとりも桜羽だ。全員足元の技術が小学生のレベルを逸脱している。

 

俺はロングレンジのパスを得意とする、いわばスナイパーみたいな選手だ。何度も体のバランスをリセットして、短いパスを早いリズムで繋ぐのはそれほど得意としない。練習はしているが、それでやっとという感じだ。

 

ルックアップ、ルックアップ......。と意識して顔を上げていると、ほとんど下を見ずにパスを出しているラ・マシアの一人と目が合った。そいつは薄く笑って、俺にパスを出した。

 

それは、パスというよりシュートだった。ゴール前で打つような、芝を掠めるように僅かに宙に浮いたシュート。

 

「っ! っと」

 

勢いに逆らわないよう、足を引きながらトラップする。ロングフィードが最も得意だが、左足ならトラップもシュートもパスも高精度でできる。ピタリと足元に止めてみせると、シュートパスを打った選手が僅かに驚いた顔をしている。

 

だから、俺も同じようなことをして見せた。桜羽がプレスをかける股の下を狙うように見せかけ、警戒して止まった所をノールックで打つ。やや左側に移動していた彼の足元に放たれたシュート性のパスは、当たり前のように足に吸い付いていた。そいつは上手、上手とでも言うように拍手してやがる。

 

それから次第に練習は高度になる。六人一組で二人鬼、そこから人数を増やし、いくつかの色のビブスを来てルールが付与されたり。やったようなものも経験ないものも混ざっていて、なかなか頭を使う練習が多かった。

 

知っている仲間だからか、俺と桜羽はそれとなく一緒のグループになっている。ただ、それで安心出来る訳でもない。互いにライバル視しているために、むしろ全く気が抜けなかった。

 

そして、試合練習となる。とはいえ、5対5のミニゲームだ。狭いフィールドで、確かな技術が要求される。

 

「パス!」

 

何度もボールを要求する。俺は自分で突破できるような選手では無い。味方を使う側の選手だ。相手の斜め後ろに立ってパスを呼び、相手のプレスが来る前にフリーの選手に預ける。

 

その中で、積極的に致命的なパスを狙っていった。日本人には基本的にドリブルで抜きたがる選手が多く、足元ばかりに欲しがる。そういう選手にも分け隔てなくばら撒きながら、いい動きをする選手にはどんどんパスを放る。

 

パスには、回転がある。バックスピンがかかれば落下地点で減速しやすくなるし、横回転なら複雑なパスコースも通せたりする。

 

味方にトラップをさせるパスもあれば、トラップをしないでも打てるパスもある。

 

たった3ヶ月程の練習で身についてはいないが、付け焼き刃の技術も駆使してパスを送った。

 

背の高いやつには空中で滞空時間の長いふわりとしたボールを。裏抜けして足元に欲しいやつにはトラップ不要のベルベットパスを。ドリブルで壁ワンツーをしたいヤツには彼の望んだ位置に、再びタッチしやすいボールを。そして、何も無いようなところから、鋭いスピードのパスや、回転のかかったボールでチャンスメイクを。

 

いつもやっていることを、より集中して、より丁寧に、より積極的に行った。何度もミスするが、チャレンジする度に成功率も上がっていく。ひたすらにトライした。

 

『いいパス! 次はどんなの出すんだ?』

 

「もっと足元くれ! 俺にもドリブルさせろ!」

 

「おい、ここ───そう、ナイス!」

 

『フリーだ───よっし、ゴラッソ!!』

 

次第に俺のチームは俺を司令塔と認めてパスを欲しがるやつが増えていく。俺は何度も首を振り、いい選手を見つけてはパスを出す。相手にマークされようが頻繁に立ち位置を変え、当たりが強ければワンタッチ目で捌く。

 

相手が俺を捕まえきれずにイライラしたところで、俺もターンをしたりかわしてみたりと仕掛ける。既にかなりの点差が開いているのだ。焦っている相手ならいつもより容易に仕掛けられる。

 

そうやって何戦か戦っていく。中にはボールを全く奪えない選手もいたし、俺並みにパスの上手い選手もいた。どこからでもゴールを狙える選手も、面白いように突破できる選手もいる。

 

去年はレベルの高さに圧倒されるだけだったが、今年はこれ以上なく楽しかった。自分の思うようにプレーできていて、気持ちよかった。

 

「───以上の選手が、紅白戦に参加する。お前たちは、いわば日本代表だ。勝て、と言いたいところだが、何より楽しんでプレーしてこい」

 

練習を通して日本人コーチが生徒が選抜し、ラ・マ〇アの8人と紅白戦を行うことになった。当然俺も選ばれて、桜羽も同じように選ばれていた。

 

去年は、ここで選ばれず壁を見たのだ。

 

あとは、ここからだ。紅白戦で大車輪の活躍をすれば、ラ・マシア加入の道は開く。当然この後も他の国の選ばれたメンバーを交えたセレクションがあったり、大会に出場する必要があるかもしれないが、まずはここで活躍すること。

 

桜羽を見てみれば、ワクワクした瞳の中に、熱い炎を燃やしている。きっと俺も同じだろう。

 

さあ、本番だ。

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