転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
この代のラ・マ〇アは、そこそこ優秀と評価されている。黄金世代と言うにはまだ弱いが、どのポジションも逸材がいる世代だ。
だが、俺たちから見れば「驚異的」の一言。転生してようやく手に入れた俺の左足と同精度のキックを打てる選手がいれば、ツカサのようにディフェンスラインを整え、積極的にビルドアップに参加出来るDFもいる。とにかく足元の技術とサッカーIQが高いのだ。
尊史や矢部坂みたいな、身体能力に特化したような選手はいない。だが、それを補ってあまりある技術力だ。
俺は白チームのMFを務める。桜羽がCFだ。
「試合見てたよー。どこでもいいから───じゃなくて、オレを見て、オレの欲しいところに出して。だって、できるでしょ?」
「任しとけ。オーバーヘッドでもサソリでも、お前が打ちたいところに送ってやるさ。それに、桜羽は自力で突破もできるだろ? 後ろは俺がフィルターになるし、怖がらずしかけろよ」
「アハハ! なんかシロちゃんみたいなこと言うじゃん。りょーかい、じゃんじゃん決めてくるよ」
「犬みたいな名前だな」
誰かと聞けば、コーベの青髪MFのことらしい。鬼のような強面に岩のような巨体の男だ。あれはそんなチワワみたいな名前の犬じゃない。むしろ番犬だ。
すぐに試合が始まる。この後に交流会があるため、試合時間は短めだ。15分一本勝負。
相手ボールが俺たちの守備の隙間をするすると動いていく。スペインの選手たちはどんどん立ち位置を変える。2人の選手の間にたってボールを受けたり、俺たちの背後から選手の間に一瞬で飛び出して縦パスを受けたり、とにかく嫌なことをしてくる。
「ぐっ!」
「ナイスセーブ!」
「二列目もっと絞れ! 間に通されてるぞ!」
監督の檄が飛ぶ。二列目はWG二人と俺だ。桜羽でコースを限定しているはずだが、二人の相手CBは迷わず難しいコースも通してくるし、だし先で捕まえようにもワンタッチで逃げられる。WG二人も腰が引けていてなかなか前に出れない。特に俺とWGの間にはひっきりなしに選手が顔を出していて、俺もかなり意識が散ってしまう。
「人基準でつこう! 俺は桜羽とプレスに出る!」
さすがに俺のタスクが多すぎる。クラブのメンバーのように意思疎通ができている訳では無い。ゾーンだとマークの受け渡しが厳しくなっている。
味方SB選手の一人に相手CFに着いてもらい、味方WGには同じく相手WGについてもらう。最終ラインは味方CBとSBの二人が残った。
「神谷さん、プレスどうやってかける?」
「そうだな、俺と二人で前出よう。鶴瓶の動きだ。桜羽はそっちが持った時前出て、俺は下がって中閉じる。あっちが持った時は役割逆だ。ボランチのコースだけ消すの意識しよう」
桜羽とはプレスのかけ方を共有した。ボランチを背中で消しつつ相手CBに圧力をかけるのだ。二人のCBでボールを回されれば捕まえることはできないが、少なくとも中央に簡単に通されることは無くなる。
だが、ラ・マ〇アの選手も素早く対応してきた。相手CFが降りてきたり、WGの選手も張らずに中に入ってくることもある。マークに着いている味方選手をブッキングさせて剥がすなど、上手く守備の穴を着いてシュートまで持ち込んでくるのだ。
相手WGからのバックパスをカットし、ようやく俺たちの番が来た。ボールが奪われたあとの反応は思ったほどじゃない。トランジションが欧州で注目され始めるのはまだ先のことだ。浅くプレスをかけてきた。
が、練習試合で大活躍していた桜羽はすぐにタイトにマークがついた。中央で受けた俺がパスできる選択肢は少ない。WGも狙われていたので後ろに戻した。
その後は最終ラインで回してパスコースを探すが、俺たちがやったことと似たようなことをされる。俺も降りて受けようとするが、俺の時は警戒しているようで、相手MFがガッツリプレスに来た。パスを狙えない。
俺たちのチームは攻撃時は3-3-1に戻っている。味方SBが際どいコースを通して桜羽につける。桜羽はタイトに着いていた相手をターンで剥がし、前を向く。そのままシュートを打った。が、すぐにカバーした相手DFにブロックされてキーパーがキャッチした。DFのフィジカルが強い訳では無いが、正確に対応してくる。
───中々、思った通りのプレーをさせてくれない。
再びスペインボール。今度は相手WGが相手CBの脇に降りてボールを受けた。マークについているはずのWGは一歩遅れている。中盤にパスが差し込まれた。
「ぬっ」
「ボランチ詰めろ!」
俺の背後で受け取った相手ボランチが相手CBにはたく。前後とボールが動いたので咄嗟に動けない。相手ボランチはワンツーで受け取り直した。まずい。
SBが最終ラインで指示を出す。相手ボランチは俺と桜羽でコースを切っていたが、今は剥がされてマーカーがいない。味方の一人がマークを捨てて前に出るが、その度にフリーの選手にボールが渡って最終ラインにスルーパスが通った。味方DFは素早く回される連携を眺めてしまう。その背後からWGが飛び出して、あっさりゴールを決めてしまった。
「っ、すまねえ!」
屈辱だ。MFを続けて一年半経ったが、ただのワンツーで剥がされたことなどそうない。脇に降りたWGがフリーでボールを受け取り、思わずどう対応するか考えてしまった。
それに、ラ・〇シアの選手は味方のパスへの反応が全国大会の比じゃない。
日本のコーチが最初に伝えていた3-3-1の陣形を崩して対応したあとの失点だ。コーチングして戦術を変えた俺への印象は悪いだろう。俺と桜羽で見ていたボランチがフリーで受け取れたのも痛い。
味方の監督はどのチームの指導をしているのか知らないが、試合中に「もっと激しく行け!」や「WGも前でプレスかけろ!」と具体的なことを話してくれない。俺は試合中に積極的にコーチングをしたことはないが、鶴屋監督やツカサの見よう見まねで指示を出した。それが仇となったのだろうか。
だが、最初のゾーン守備よりもマシではあるはずだ。監督も俺を叱りつけるばかりで守備のことは何も言わないし、このまま続けるべきだろう。
今度は日本ボールで始まったが、相変わらず俺と桜羽には強烈なプレッシャーがかかる。相当警戒されているようだ。ほかのメンバーはパスも悪くないのだが、WGは突破全振りみたいな選手だし 、SBはほとんど数合わせのように身体能力の高い選手が置かれている。CBは足元の技術がある現代型だが、自由自在にという訳にもいかない。
ウィングが一枚剥がしてクロスをあげようとするが、相手のカバーも早いのだ。無理クロスは弾き返され、ロストが怖くなったWGはバックパスしか選択に無くなる。
「だーっ! ボールが来ない!」
さすがに桜羽もじれてくる。そして、少しでも焦りが伝播すればパスがずれてあっという間に相手ボールだ。監督がしきりに叱咤している。鶴屋監督のように修正するでもなく、モチベーションをあげようと声を張り上げているのだ。いかに自分のクラブの監督が役に立っているかはよくわかった。だが、彼はろくに選手のことを知らないでチームの監督を任されたのだ。こればっかりは合同練習の仕組みが悪い。
左サイドからクロスが上がる。散々揺さぶられたせいで、守備意識の低い味方WGはマークに行けていない。フリーで上がったクロスは、味方CBを外した相手CFにボレーで合わせられる。0-2。
「大友しっかりマークつけ! 神谷、さっきの積極性はどうした! ボール持ったら狙ってけよ! 桜羽は少ないチャンスをものにするんだ!」
青筋の浮いた監督が選手に怒鳴る。まあ、まさにその通りだ。俺はロストしても回収できたからこそ、危険なチャレンジを繰り返せていた。今は一度ロストしてしまえば相手のターンがずっと続くという、不愉快極まりない状況だ。それに、俺の近くに複数人張り付いたりして意識を散らしてくる。目が回りそうな忙しさだ。
だが、こういう時こそチャレンジするべきだ。数少ないチャンスをものにするというのは、強靭なメンタルを必要とする。一流の選手には、それが必要なはず。
「神谷さん、この際文句言わないからどんなボールでもちょうだい。オレだってこのままボール来ないのはやだよ!」
「───わかった。あと一回しかチャンスがないとしても、無理やり狙ってやる」
「待ってるよ!」
再び俺たちのボールで試合が始まる。
ワンツーではがそうとしても、最終ラインで持とうとしても、練習試合でいいパスを出しまくった俺には強烈なマークがつく。無理やりパスを出しても、おそらく相手に当たるか、コースを読まれてカットされるだろう。
だからなんだ。俺には左足がある。生まれてここまでどんな難しいパスでも通してきたじゃないか。ロストがなんだ。どんな小さな針の穴でも通すのが、俺の至高とするパサーだろうが。
最終ラインでパスを回し、半身でパスを貰い直す。首を振った。半身であるために出せるコースは少ない。だが、桜羽は信じて走り出している。
裏へ抜け出した桜羽の前、GKが届かないところに落ちるフライパス。相手CBも追っているが、狙い通りの位置だ。
「行ける!」
思わず叫んだ。ボールは桜羽のすぐ足元に落ちる。どんぴしゃりだ。桜羽は当然のように太ももで柔らかくトラップして、ボレーで振り抜いた。GKは反応出来ず、ゴール右上に突き刺さる。
「よっ───」
「オフサイド!!」
「まじかよーっ!」
「クソッ」
だが、相手のディフェンスラインも一筋縄ではいかない。俺がいいパスを出せるのをわかっていてラインをあげたのだ。桜羽だってかからないように膨らんで*1助走をつけていたはず。
おそらくギリギリだったのだろうが、オフサイドトラップを成功させたのだ。
思わず顔を顰めてしまう。仲間は次々に背中を叩いてくれるが、残り五分。またチャンスが来るとは思えない。
「神谷さん」
桜羽が拳を突き出す。
「悪い、少し遅れ」
「いや、ゴールだよ! 正式にはゴールじゃないけど、オレは確かにネットを揺らした。マークつかれてもいいボール出せんじゃん」
もう一発! と元気よく桜羽は俺の拳に自分の拳をぶつける。確かにオフサイドにさせられた。だが、もうひとつのチャンスを信じて走り、頭を使うしかないのだ。
「きばるぞ、体力は全然減ってないんだ。プレス怠るな」
「おっしゃ! 」
まだ牙は抜けていない。
再びスペインボール。中央を締める意識が強い日本に対し、ラ・マ〇アは明確にサイドで揺さぶるようになった。プレスやマークが外れたらすぐにパスを通してくる。監督の指示ですぐさまプレスバックに行くが、中の選手はそれをしっかり感じてフリーの選手に戻す。そうして、俺たちの隙間を狙っているのだ。
相手CBが縦パスを通す。相手CFがフリーになっている。慌ててマークにつき直しているが、パスを受けた選手は楽にはたいていた。
その出し先に、俺が猛烈にプレスバックする。俺は足が長い方で、こういうボール奪取は大の得意だ。その気配を読み取ったのか、相手選手は慌ててWGに送る。
ボールが乱れ、味方WGが寄せるまで時間が出来た。味方もコントロールをしそこなった相手に強くプレッシャーを仕掛け、ボールを奪う。だが、ルーズボールとなって中盤に転がった。すぐさま味方が体を入れる。相手選手もよってくるが、プレスに勢いはない。徐々に引いていった。
そして、俺にボールが渡る。相手もプレスに来ているが、帰陣のさなかということもあって、そこまで強くない。だが、桜羽も準備が終わっていなかった。
鋭いパスをWGに送る。左WGは感じ取ったようで、仕掛けて一気に相手最終ラインを押し上げた。俺達も詰める。味方WGはクロスをあげられないと察したのか、バックパスで戻してきた。
俺は一瞬桜羽を見た。ディフェンスラインの手前で体を引いている。助走をつけてヘディングか。あるいはマイナスでボレーか。
───だが、あの姿勢は覚えがあった。それをイメージして左足でワンタッチクロスにする。
アウトスイングの回転のかかったクロス。DFの頭上で、ディフェンスラインのやや手前。キーパーでは届かないため、DFがヘディングして跳ね返すことになる。
───だが、その前に足が届く。頭の上を超えて振るわれる足。オーバーヘッドだ。桜羽の手前で落下するように回転をかけたボールは桜羽の左足にジャストミートする。そして、弾かれた。
ボールは、ゴール前で一度バウンドしてゴールマウスに吸い込まれる。DFもGKも、想像だにしないシュートに硬直してしまった。
「「「おおおおおおおお!!」」」
「オーバーヘッドだ!!」
『なんというシュート!』
桜羽の左足が、再びネットを揺らす。今度こそ認められたゴールに、桜羽は飛び上がって俺にハイタッチしてきた。
「 やばい、やばいって!!」
「ナイスゴール。すげえな桜羽」
「そうじゃなくて、神谷さんのクロス! 打ちたい場所に、ピッタリ来たよ!!」
興奮した桜羽は、試合終了の笛がなっても、うずうずしたように両手をワキワキさせていた。相当ジャストミートしたんだろう。試合には負けたのに、目をキラキラさせていた。
「いっつもあんなパス出してるんだ、羨ましいなあー! こんなボールでアシストされたら癖になっちゃうじゃん」
「そりゃ、俺の左足だから」
それにしても、こいつは本当に嬉しそうに喜ぶな。試合に負けてラ・マシ〇に選抜される可能性が格段に低くなった。俺はその事が脳裏にチラついて、ちっとも喜べない。
だが、こいつの喜びようを見ているとなんだかこっちも嬉しくなってくる。桜羽のオーバーヘッドは一度目にしているのだ。どこに欲しいかは見当が着いたし、その通りに桜羽も飛んでくれた。
俺はパスの受け手になることはほとんどない。極上のパスが来たら、こんな気持ちになるんだろうか。
俺が感じられることはないだろう感覚を、なんだか羨ましく感じた。
その後は、両監督交えての全体の評価を貰い交流会に映る。個人評価はあとから通知されるはずだ。その時に、ラ・マ〇アに呼ばれるかどうかもわかる。12月の終わりごろ、それこそ全国大会のさなかになるはずだ。それまで待つしかない。
『すごいパス上手いね。どんな練習してるの?』
「多分君たちとそう変わらないよ。短いパスから長いのまでひたすら練習するんだ」
『最後のオーバーヘッドとか凄かったね! よく話してるけど、同じチームだったりするのか? そうだったら本当に怖いよ』
交流会は、簡易的なものだ。近くの河原でBBQをするというもので、これは日本側が提案したそうだ。当然費用は日本もちだが、コーチ陣は熱心にスペイン人監督と話している。スペインの選手たちも食事を楽しんでいて、スペイン語を習っている幾人かの選手は彼らの談笑に混ざりに行った。その中には当然俺もいる。
今日の試合では、やはり最後のクロスが印象強かったらしい。ほかの功績で言えば、プレスだったり何度もボールに絡んだりしたことだろうか。それにクラブでもやっていたことだが、プレスのかけ方を工夫して得意な中央攻撃を塞いだりもした。こればっかりは失点もあって良くない評価をされるだろうが、どうにか加点して欲しいものだ。
それに、やはりこの中に入ってサッカーをするのは、魅力がある。俺の大好きな、支配的なサッカーができるのだ。
焼いた串肉を食べながら、選手たちと談笑に勤しむ。
ともあれ、大一番は終わったのだ。果報は寝て待てとも言う。
次は、全国だ。
アンケートの回答ありがとうございますですわ!
ちなみにわたくしは毎日プレーしておりますの。
パワサカを洋菓子と思ってこの作品を読んでらっしゃる方も一部いて少し驚きましたわ。
それと新しい学校、サクセスストーリーが開放されるみたいですわね。明後日が楽しみですわ!