転生したから世界一のサイドバック目指す   作:口の端にほっぺが!

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準決勝

12月の終盤。俺たちは全国選手権の会場である鹿児島へと向かった。東京は寒波が厳しかったが、ここはまだ暖かい。メンバーはクラブのメンバーに加えて保護者たちと監督陣、そしてゆうるちゃんだ。

 

ゆうるちゃんとは、夏からあまり話せていない。もちろん散歩で会ったりもするがギクシャクしてしまうのだ。直接的ではなかったが、告白されて振ってしまった。今までのように気軽に話せない。

 

ただ、後悔はしていてもあの時の選択を間違っていたとは思わない。いずれどこかで決着をつけたいが、その余裕はまだなかった。

 

ゆうるちゃんはツカサとは今まで通り仲良くやっている。今回の観戦も彼女に誘われたのだろう。俺以外との関係が崩れていないのは、ひとつの安心材料だ。

 

今日は既に準々決勝を勝ち上がり、午後の準決勝が控えている。グループステージを難なく突破した俺たちは、先程の試合も4-1の好スコアで下してここまで来た。

 

この大会の試合時間は40分だ。前半後半で20分に分かれていて、準決勝からは10分間の延長戦も追加される。それでも勝負が決まらなければPK戦だ。交代要員は8人と多く、何度でも交代していいことになっている。一度交代して試合から出た選手が再び入ることも可能だ。

 

次の対戦相手はFCレグルス。神奈川県予選を勝ち抜いた勢いのあるチームだ。

 

会場に入り、アップを開始しているとぞろぞろと相手チームも入ってくる。去年のように、有名な選手に興奮するようなチームメイトはいない。俺たちは優勝を目指しているのだ。こいつらも、踏み越えていくべき相手だ。

 

身長に差がだんだんなくなってきた尊史とペアを組んで体を伸ばしていると、誰かが近づいてくる。顔を見れば、見覚えがあった。

 

「パワプロ、久しぶりだね!」

 

「あ、金木くんオッスオッス~」

 

「俺は吉野だ! 吉野武士だよ!」

 

「ああ、そんな名前してたな。覚えてる」

 

そうやってすぐに叫ぶとことかバッチリ覚えている。女の子に声かけまくっていたことも、俺の代わりにMVPに選ばれていたことも。

 

「夏のセレクション、MVPに選ばれてたけどどこか海外に行くのか?」

 

そう聞くと、待ってましたと言わんばかりに顔をほころばせた。

 

「聞いて驚くな、ビジ〇レアルだよ。スペインの名門! 四月から参加出来ることになったんだ」

 

「そうか、おめでとう」

 

「お前のおかげでもあるんだぜ、いいパスくれたし───」

 

だが、それ以上は聞きたくない。妬んでしまうからだ。俺はまだどこに行けるかが決まっていないし、タイムリーな話で明日の決勝戦が終わり次第両親に教えてもらうのだ。あまり気にしては試合に差し障る。

 

「へえ。君がパワプロくんって言うんだあ」

 

すると、初めて見る選手がちょうどいい具合に吉野の話をぶった切って話に混ざってきた。ボサボサの白髪に黄色い瞳。いかにも漫画キャラですといった風貌の少年が俺の目の前に立つ。

 

「君は?」

 

「ボクは堀場練人(ほりばれんと)。よろしくねえ」

 

「ああ。よろしく」

 

手を差し出してきたので俺も握手をした。ちゃんと右手だ。すると彼はもう用が済んだようで、その場を後にする。

 

「せいぜい楽しませてよ。全国一位なら、ねえ?」

 

という捨て台詞を残して。

 

吉野は苦笑いしていたが、俺も尊史も似たような顔だ。堀場とか言うやつがどれだけ上手いかは分からないが、上手いぶってるやつなどたかがしれている。あまり気にならなかった。

 

......ついでにとばかりに武士がツカサや飛鳥の名前を聞こうとしていた。可愛い子に目がないのは俺も同じだが、とりあえずはたいて追い返しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の相手のレグルスは、この代では初めて戦う相手だ。春はコーベと接戦の末に敗退して三位。ほかの大会でも好成績を残している強豪だ」

 

いつものように鶴屋監督から試合前の確認が入る。前日に俺やツカサ、峰あたりには詳しく説明を終えていて、本当に確認のみだ。

 

FCレグルスは、近年力をつけてきたJリーグの育成組織だ。トップチームはここ十年で二度J1優勝するほどの強豪クラブだが、育成世代がここまで成績を伸ばしたことはあまりないらしい。

 

プレースタイルは俺たちとそう変わりはなく、ポゼッションを至高とするパスサッカー中心のチームだ。2-4-1を基本フォーメーションにしているが、かなり流動的に選手が動く。どの選手も基本能力が高く、色んなポジションでプレーできるのが強みらしい。

 

監督は相手が自陣に引いてカウンターを狙ってくる可能性も考えていたが、あくまでポゼッションをしてくると見て攻略方法を俺に伝えた。

 

「言えることは一つだけだ。お前たちのサッカーをしろ」

 

「「「うっす!!」」」

 

ほかのコーチ陣も特に話すことはないようで、レギュラーメンバーは各々ピッチに出ていく。特に怪我をする選手もなく、先程の試合で控えの選手を使えたこともあり体力も不安はない。正真正銘本気メンバーが揃っている。

 

俺も以前より体力がついてきていて、バ〇サの合同練習が終わってから調子も戻りつつある。負ける気はしない。

 

相手チームには、当然のように登場人物がいる。武士もそうだし、あの堀場も間違いない。ナチュラルボーン白髪なんて普通はいないのだ。それに、昆布みたいな髪型のやつもいるし、黒髪だが容姿端麗で、気迫を感じる青年もいる。茶色い短髪の長身男も、それらしい感じがした。

 

整列して挨拶をする。武士との握手の際、いい試合にしようぜ、と言い合う。こいつには負けられない。

 

そして円陣のためにチームメイトで集まる。俺も含め、8人全員が5月から成長している。峰はさらに背が高くなったし、体も少し分厚くなった。尊史もそうだ。飛鳥もそこそこ背が伸び、髪も伸ばしてポニーテールにしていた。サボっているやつらへのお小言は切れ味を増している。沼野は相変わらず岩のようで、川原はそこまで背が高くないが、体のバネが著しく成長した。ツカサの成長はほとんど毎日会っているため分からないが、どんどん幼さが抜けているように見える。矢部坂は成長がないんじゃないかな。

 

「準決勝。ここを勝てばあとひとつ。いつも通り、支配して、圧倒して勝つよ!」

 

キャプテンの川原が気合いを入れる。

 

「ファイト!」

 

「「「おう!!」」」

 

向こうでも掛け声が上がり、ピッチに歓声と拍手が響いた。武士と目が合う。野性味溢れる笑みをしていた。

 

笛がなり、試合が始まった。

 

 

 

最初の五分は、中盤でのボールの奪い合いがメインの戦場になった。俺やツカサのフィードは茶色の短髪CBが跳ね返し、相手の昆布や武士、堀場からのスルーパスやフィードはツカサがカットして幅んでいる。沼野も空中戦で積極的に跳ね返していた。

 

味方中盤はもっぱら俺のテリトリーだが、相手チームは2人がかりで俺を抑えようとしてきている。昆布と武士だ。昆布の方が高い位置を取り、武士はボランチのように最終ラインをカバーしている。二人でサンドするのが目的だろう。

 

さすがに数的不利ではルーズボールも拾いにくい。ワンタッチで最終ラインの裏を狙うようなクリアボールしか撃てない。それもCBに弾き返されるため、MFだけでなくWGやSBも絡んで中盤のボールの奪い合いが続いた。

 

抜け出したのは、相手WGだった。堀場が味方右サイドを駆け上がる。矢部坂が出かけていて空いていたスペースだ。咄嗟にツカサも対応するが、一気にサイド深くまで持ち込まれてしまう。俺達もすぐに下がって、守備ブロックを形成した。

 

ツカサはそのまま堀場につき、矢部坂はそのカバーに回っている。本来ツカサが埋めるべきスペースは沼野がスライドして埋めていた。

 

堀場の近くに武士がサポートにいく。更にはオーバーラップして、堀場からボールを受け取った。矢部坂もついて行くが、左足でクロスをあげられる。

 

「ふん!」

 

沼野がはじき返す。が、体勢を崩されていたようでコーナーになってしまった。相手CFの黒髪少年が競っていたらしい。

 

左サイドのコーナーキック。キッカーは昆布だ。武士、堀場と言葉を交わしてからボールをセットする。武士が近くに残っているあたり、ショートコーナーを狙ってくるだろうか。

 

やはりそうだった。矢部坂が詰めていくが、ボールを受けた武士はペナルティボックスの外をなぞるようにパスを出す。出し先には堀場がいて、足を振りかぶっていた。

 

「ブロック!」

 

「俺が!」

 

ツカサの声にすぐに俺が出る。が、あと一歩間に合わない。堀場の右足が振られ、ボールが打ち出された。

 

その後に鳴ったのは、ネットの音。誰かの体に当たったような鈍い音でなく、今まで幾度となく聞いてきた乾いた音。

 

「れんとお!!」

 

「よっしゃ、先制だ!」

 

「近寄るなしい。こんくらい決めて当然だっての」

 

堀場のシュートは、敵味方乱れるボックス内の地面を鋭く転がり、ゴールの右端に吸い込まれていた。ブラインドになっていた川原は反応できない。

 

俺があと一歩体を出せていたら、ブロックできていただろう。

 

「すまねえ」

 

「ううん、今のはしょうがない」

 

「切り替えよう、神谷。まだ開始間もないんだ」

 

ツカサや川原たちともタッチを交わしていく。今のセットプレーは予め用意されていたのだろう。意表を突かれたことと、堀場のシュートが上手かったこと。ふたつが失点の要因だ。

 

「落ち着け! セットプレーのときはフリーの選手がどこにいるか共有しろ! 前半はパワプロがつけ! あとはいつも通り、心配すんな!」

 

鶴屋監督からのメッセージに、選手一同は改めて気合いを入れ直す。どうも、一筋縄ではいかない相手のようだ。

 

試合が再開する。俺たちはいつも通りのポゼッションを始めるためにツカサにボールを預ける。俺がフィードして峰にポストプレーをさせるという、もうひとつの手段もある。が、今のところ相手CBの方が空中戦に打ち勝っている。背丈が互角だが、相手は飛ぶタイミングや体の乗せ方などが非常に上手い。

 

ツカサのビルドアップは以前より上達してきた。わざわざ俺が降りなくとも、相手のプレスにかからないように上手く体の向きを使って相手を止め、ボールを捌いている。

 

今までは、ロングレンジのパスを蹴れるのが俺だけだったが、ツカサも相当なレベルに仕上がってきていた。

 

左WGの尊史にボールが渡る。相手は守備ブロックを作る時は3-3-1で守るようで、尊史には相手右SBと右SHが囲んで対応している。相手右SBには攻撃時CBの選手で、左SBは武士だ。

 

コンバートしたために矢部坂のサポートはないが、こいつにそんな心配はいらない。

 

体勢を右にずらす。カットインで中にはいられることを警戒した相手SHが、僅かに反応した。その瞬間に足裏でボールをコントロールして、二人の間を突破した。

 

ジンガだ。

 

二人が慌てて足を出し、体を入れようとするが尊史はリズムをつけて左に右に軸をずらし、相手に触れさせない。

 

そのままゴール前に迫り、右足でシュートを放つ。しかし、ファーへのシュートはキーパーの足に弾かれ、ルーズボールになった。

 

いつもだったらゴールだったが、今回はビッグセーブにあった。

 

「戻れ! カウンター!!」

 

耳朶に響くツカサの大声に、思わずハッとする。いつもなら決まっていたシチュエーションだったために思わず気を抜いてしまっていた。

 

振り返って咄嗟に走り出せば、ディレイに徹しているツカサの前に黒髪CFがドリブルして機会を伺っていた。味方は他に沼野だけで、相手は堀場、黒髪、右WGの三人。

 

必死に走るが、追いつく前に黒髪が堀場にお膳立てする。決死の判断でツカサが刈り取りにいった。だが、堀場は僅かにボールを浮かせ、自分も跨いでツカサの足を避ける。

 

そのままニアを撃ち抜き、ネットが揺れた。

 

「オフは!?」

 

ライン上の審判を見るが、旗は下がったままだ。堀場の周りに相手選手が集まる。堀場は面倒くさそうに選手を押しのけていた。だが、観客も含めてすごい喜びようだ。

 

「すげえ、武蔵相手に2-0だぞ!?」

 

「あの白色の子上手すぎ」

 

「こりゃ勝負あったろ。まだ前半10分も経ってないんだぜ?」

 

手前の観客席から口々に堀場を称える声が聞こえる。ここ一年、FC武蔵は無敗だ。こういう反応にもなるんだろうが、鬱陶しかった。

 

「決めきれなかった俺のせいだ。次は決める」

 

「ならそうしろ......。だが俺もすぐに戻るべきだった。気が抜けちまってた」

 

済まない、とDF陣に声をかければ、ツカサに背中を叩かれた。

 

「みんな、気合い入れ直そう! この勝負タダじゃ終わらないよ!!」

 

キーパーの川原に続き、ツカサも周りにコーチングしていく。とりあえず、大崩れすることは無さそうだ。

 

「矢部坂、体力きついか?」

 

が、一人だけ気になる選手がいる。矢部坂だ。こいつはいつもなら堀場にボールが渡ったところで追いついてもおかしくなかった。チーム随一の瞬足だ。体力が無くなっただろうか。

 

「きつくはないでやんす。走れないわけでもないでやんす。今回のは少し転んだだけでやんす......」

 

「本当だな? 足を捻ったとかじゃないんだよな?」

 

「問題ないでやんすよ。ただ、あの真っ白けに突き飛ばされて遅れたんでやんす」

 

話を聞く限り、堀場は自分にマークについている矢部坂を押して、そのまま上がってきたらしい。おそらくファウルにならないくらいの強さで、押したのを自分の初速に繋げて走り出したのだろう。上手な選手はよくやることだ。

 

尊史や峰も矢部坂の様子を見て声をかけてきたが、2人に対する対応を見る限り、体調に問題は無さそうだ。

 

ただ、給水が終わって自陣に向かう堀場に向かって、矢部坂が吠えた。

 

「そこのしろんぼ! 卑怯でやんす、あれはファウルでやんす!! そんなんで得点して嬉しいでやんすか!?」

 

「はあ? 軽く肩がぶつかっただけじゃん。君が勝手に倒れたんだから文句言うなし」

 

堀場は眠たげな目を半眼にして矢部坂を睨み、だるそうに言い返す。その言い分に少し苛立つが、実際どの程度だったかは見ていないので何も言い返せない。矢部坂も接触プレーに弱いところはあるし、こういう時ほど冷静に矢部坂を諫めなくてはならない。

 

「矢部坂、落ち着け。今度はこうげ───」

 

だが、堀場というやつも、言われるだけの男ではなかったようだ。

 

「矢部坂って言ったっけ? 下手なんだから黙ってろよ。下手くその癖にそうやって暑苦しいの、まじでウザイ」

 

「な、この白髪男がでやんすーーー!!」

 

そう捨て台詞を履いて、自陣に戻っていく。思わず固まってしまった。堀場はレフェリーに注意されていたが、まさかここまではっきり言ってくるやつがいるとも思わなかった。

 

「やべくん、それに二人とも。僕たちの思いはひとつだ」

 

「ああ」

 

「そうだな、───やるなら徹底的にだ。あいつが二度とボールに触りたく無くなるくらい、心が折れて粉々になるくらい追い込んでやる」

 

じっと堀場を見つめる。

 

背後で矢部坂がガタガタ震えていたが、いつもその役割だった峰すらも瞳が燃えている。尊史は言わずもがなだ。

 

あと30分。FC武蔵には異様な闘志が宿っていた。

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