転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
そういえば、この世界のことについてあまり説明してなかった。
ここは前世とは違う。クリ○ナやメッ○、もちろんロベ○ルなどの選手はいるのだが、知らない名前の選手も多く台頭していた。その分だけバロンドール*1選手も変わっていたり、Wカップ優勝国も違っている。
何より、この世界では男女入り乱れてサッカーをする。子供も、そしてプロでもだ。
どうやらこの世界では、女性の身体能力が男性とあまり変わりないようだ。日本の高校サッカーに目をやっても、少ないながら女子選手も大会に参加している。女子カテゴリーもあるにはあるようだが、男女混合が一般的らしい。
もしかして大人の女性って男性みたくゴリゴリなんじゃなかろうか───と思って調べて見たが、見た目は前世のとそう変わらない。良かった、体まで男らしい女性が多かったら発狂していたところだ。というか、調べる前に自分の母を見ればよかった。ちゃんと女性らしい体じゃないか。......気持ち悪いこと考えたな。
ともあれ、この世界では男女共にスポーツをやるのが当たり前だった。その分知らないルールやマナーもあるのだが、いずれ中学生になった時にでも調べればいいことだ。
なぜ今になって気になったかと言えば、ついこの間ツカサに尋ねられたからだ。
「中学はどうするの?」と。同じ学校に行ってそこで部活に参加するのか、クラブでステップアップしていくのか、あるいは───。という話だ。そのときに、やけに一緒のクラブか部活でやることにこだわっていたため、「中学からは男女別れるんじゃないの?」と聞いてみたらおかしな返事が返ってきたのだ。
気になって、父に許可をもらいパソコンで色々調べてみたところ、前世とは色々違うことに気がついた。
普通に過ごしていれば気づきそうなものだが、父から「パソコンは大きくなってからな」と釘を刺されていたので、今更知った。
そんな疑問が払拭されてから、今度はツカサへの返事を考えている。内容が決まっていないのだ。もちろん、中学の部活に行くよりかはJ下部組織の方がいいはずだ。下部組織の方が、設備が整っている場合が多い。......もしかすると私立では違うのかもしれない。調べる必要が出てきたぞ。
ただ、何よりの迷いは、海外の下部組織に進むかどうかだ。もちろん入団テストで落ちる可能性もあるが、受かる可能性もある。仮に受かったとして、俺は海外に行くべきなのだろうか。
小学1年生の頃から、俺は英語の復習と並行してスペイン語を習っている。一番行きたいのがバル○ロナのカンテラ*2だからだ。そこは前世と同じく、育成に絶対の評判があった。
サッカーが上手くなりたいのなら、行くべきだろう。世界で指折りの選手が集まり、そんな選手を生み出そうと育成のスペシャリストが集まっているのだ。行って間違いは無いはず。
だけど、漠然と俺の脳みそは嫌がっている。
その理由を、俺は見つけられないでいた。
見つけられないから決心もつかないし、諦めることも出来ない。ツカサの問いに答えることが出来ない。
もう小学4年生になる。決断は早めがいい。それにお金の都合もあるだろうから、親にも予め説明する必要がある。
俺は、少し焦っていた。
☆
小学4年生に進級して、体操教室をやめた。あとは、自力でのマッサージやストレッチで補うことにした。
その背景には、塾が忙しくなったのとJ下部組織内でステップアップしたことがある。塾は週2から週4に増え、U-12選抜での毎日の練習はかなりキツかった。初日の練習の翌日は筋肉痛で歩くのさえ億劫だったほどだ。
塾は、中学受験に向けてスパートを切り始めた。内容はまだまだいけるのだが、いかんせん拘束時間が長い。宿題を猛スピードでこなしても小学校の友達と遊ぶ時間がないくらいだ。
もちろん、両親とは交渉した。母は、どっちつかずの返答をくれた。父には「この子が言うならいいだろう」作戦が役に立たず、父自身の昔話を聞かされた。思ったより頭が硬かった。
結局、俺は子供になりきれなかった。仕方がない、と大人ぶって唯々諾々と従った。ツカサに聞いてみれば、彼女は両親の期待に応えたいから週4日通うのを決めたそうだ。俺とは大違いだな。
あちこちに不安と悩みを抱えたまま、時間だけが過ぎる。無情にも時はそれを解決してくれる気がないようで、本当にあっという間に過ぎていった。
スポーツとは繊細なもので、こうも心に溜まっているとプレーにも支障をきたしてしまう。
せっかくU-12に選抜されたというのに、俺のプレーはいつになく精彩を欠いていた。東京中から集まっている選手の中で、次第に埋没していく恐怖が増す。
今日も、試合があった。
小さなカップ戦などではない。全国大会だ。この大会で優勝すれば日本一のクラブが決まる、そんな大会だ。
俺のクラブは順当に全国への切符を手にした。今日は各地方の予選を通過したクラブが集まって決勝トーナメントを争ううちの、グループリーグの試合だった。
当然、俺に出番は無い。ベンチにすら名前は無い。あれだけ信頼していた左足は俺の足じゃなくなったかのようにズレるし、練習試合中も俺一人だけ水の中にいるようだった。
まあ、至極当然で、プロになるようなやつはこれくらいで足踏みをしちゃいけないのかもしれない。今日の試合を終えて荷物を整理して帰る準備をするチームメイトを見ながら、ため息をこらえた。
「......ん」
ぼーっとしている俺を、ツカサが手を引っ張って帰路につかせる。今日の試合でも張り切って指示を出していたのに、彼女は俺の隣で何も言わずに歩く。それが、気遣われているようで無性に腹が立った。理不尽だとわかっていても、ひたすらに。
ツカサは俺と同じタイミングでステップアップを果たし、しかし俺とは違って順調に立場を確保しつつある。第2CB*3ということで、ターンオーバー*4や途中出場で安定した活躍を見せていた。
俺とは大違いだ。
1年前は、毎回の練習が楽しくて帰路は話が弾んでいたはずだ。遠い昔の出来事のようだった。周りの奴らが「疲れたー」「シュート上手かったろ?」なんて呑気なことを話しているのに、俺とツカサの周りだけ空気が凍えているようだった。
申し訳なくて、それも俺の心をぐちゃぐちゃにする。
あっという間にチームメイトは過ぎ去り、とぼとぼと歩く俺とそれに合わせているツカサはあっという間に2人きりになった。聞こえるのは風が木を鳴らす音と、耳鳴りだけ。
そこで、ツカサは何か言おうとしたようだった。
「......あのさ」
返事はしたくない。
「......な、何か悩みがあるんだったら、私に話してよ」
言いたくない。言ったら負けが確定する気がする。ツカサに頼るのは、抵抗がある。
「話したら楽になるって言うし」
......私も、助けになりたい。
思わず、何かが振り切れそうになった。
お前に何がわかるって言うんだ。俺は転生してまでこのザマだ、話したら自分が惨めになるに決まってる。お前は失敗している俺のそばで上手くいってるじゃねえか。今日の試合だって勝って、無失点で、アシストまでして、チームメイトと楽しそうだったじゃねえか。俺の気持ちなんか分からねえよな。俺にだってプライドがあるんだよ───。
一瞬の激高だ。手を振り上げることも大声を出すこともしない。
ただ───ただ、繋いでいた手を振り払った。
口をひらけばなにか言ってしまいそうで、何も返事はしなかった。
「ぅあ......」
ツカサはそのまま呆然と立ち尽くし、しばらくしてから「ごめん」と呟いて歩き始めた。何事も無かったかのようにとぼとぼと歩く。
ツカサパパが車のそばで待っていた。彼は俺たちを見て、思わず何かを言おうとして、「帰ろう」とだけ呟いた。
俺たちふたりは、何も返事をしなかった。
薄暗い車の中で、俺は一人思考に吹ける。
なんのことは無い、やってしまったという後悔が心を占めているのだ。どうにかして言い訳をみつけようにも、誰が悪いのかは明らかだった。十中十俺で、百中一万俺に非があった。俺がしょうもない理由で、八つ当たりしてしまった。それだけが事の顛末だ。
ふと、ツカサの方を見る。
目線だけ動かして、顔を見た。あれだけ酷いことをしてしまったのだ。彼女の善意を無下にしてしまったのだ。少なくとも、泣くくらいしてるかもしれない。
そんな罪悪感から、彼女の顔を見た。
そして、酷く後悔した。
ツカサは、歯を食いしばって、目をかっぴらいて、目に溜まった涙がこぼれないように必死にこらえていた。
嗚咽も殺して、誰にも悟られないように黙っていた。
ツカサは見た目以上に大人で、俺は見た目相応に子供だったのだ。救いようがない馬鹿だったのだ。ひたすらに申し訳なくなった俺は、どこにも目をやれず俯くしか無かった。