転生したから世界一のサイドバック目指す 作:口の端にほっぺが!
「中央突破が多かったのは、パワプロがわざと許していたってことでいいんだな?」
「はい。ツカサたちが守れる範囲でですけど」
ハーフタイムになり、給水しながら選手やコーチ陣を交えて戦略を確認し合う。監督は俺が中央で何度も剥がされかけたのを気になったようで声をかけてきた。
「あー。パワプロお得意の罠か。いったいどこでマリーシアを学んだのやら」
「ツカサ、それに沼野。さっきみたいに俺が中央で剥がされるプレーはもうしない。向こうも警戒するだろうし、これ以上やると点を取られかねねえし」
「うん。割と危険なシーンはあった。パワプロがなにか考えてるのはわかったけど、あれで一点でも決められてたらぶん殴ってた」
鶴屋監督に交えてDF陣とも話す。矢部坂はべたーっと寝っ転がって体力を回復していた。コーチからは見計らって攻撃参加もするように言われている。ただ、監督が声をかけた時にはすぐに下がるようにも伝えられていた。
選手交代は、飛鳥と沼野だ。試合終了近くなれば俺も変えられるのだろうが、堀場が離脱するまで抜けるつもりは無い。それをコーチに話したら、六庵コーチにわけを聞かれる。話せば「しょうがないわね」と認めてくれた。
たかが試合中の一言だろうが、チームメイトを「下手くそ」だと侮った言葉を許すつもりは無い。徹底的にやるのだ。
その後もプレスの生き方やマークの付き方、詳細な局面ごとのアドバイスを簡単にし合って後半に入る。相手監督がなにか話したのか、相手選手のほとんどがチラチラと俺の顔を見ていた。気分がいいな。
相手は右WG、CBの茶髪じゃない方、そしてGKまで変えるらしい。相手ベンチを見れば前半のGKの姿はない。もしかすると俺のシュートで指とかをやってしまった可能性がある。
怪我をさせるつもりはなかったので、
堀場を見てみれば、試合開始時点では涼し気な顔をしていたのに、今は気分が悪いように口元を歪めている。そこそこ中央からチャンスを作っていたのに追加点が来ず、自分のミスで追いつかれたと思っているのだろう。安心しろよ。そのうち悩まなくて良くしてやる。
そして後半が始まり、すぐに試合が動いた。
俺は尊史のワンタッチのあと、ハーフラインより少し後ろでボールを受ける。フィードを峰の頭に合わせた。峰は茶髪CBとせる。コーチから飛ぶタイミングを指摘されたようで、少しはマシに競れていた。だが、相手の方が空中戦に強いのは間違いない。
ただ、前半と違うのは尊史がサポートに来ていることだ。峰が何とか落としたボールを尊史が回収し、突破をはかる。
以前の身体能力を生かした推進力の他に、パスを練習したり個人でジンガを練習していた。わざわざブラジルやポルトガルの音楽まで買って、リズムに合わせてボールを扱い、ジンガをしてきたらしい。元々ダンスを習っていたとかで、随分楽しげにやっていたのを思い出す。
だが、その技術は確かにドリブルに現れていた。
尊史に着いている片方を足裏でボールをコントロールしながら交わす。もう1人はボールをスペースに出してスピード勝負にする。相手は武士で、二人で押しあったのだが、軍配は尊史に傾いた。武士が体勢を崩して失速する。尊史がボールに追いつくと、峰と競った茶髪CBが戻ってブロックをする。そいつに大して、シュートフェイントをしてかわしに行く。まだCBもついてくる。もう一度かわす───。
しかし、まだ着いてきた。再び尊史は右足で蹴ろうとしたところで、すっと軸をずらしてボールを左に持ち変える。半歩分ずらして撃ったシュートは、体勢が左に偏っていた茶髪CBでは防げない。GKも思わぬ方向からのシュートに反応出来ず、ボールはゴールに吸い込まれた。
「ナイス、尊史!!」
尊史もいつも通り膝スラをする。俺たちが追いつく前に立ち上がって観客を手で煽っていた。
「尊史、3-2だ。このままいくぞ」
「パワプロくん。クロスもっと上げていいよ。コツを掴んできた」
峰も乗ってきたようで、俺に要求をしてくる。俺も尊史も頷いた。
そして、試合が再開する。相手ボールでポゼッションが始まるが、前半のように簡単に回させはしない。WGに少し中をカバーしてもらうように声をかけた。俺はMF二人の中間に立つ。峰のプレスの角度に合わせて立ち位置を変え、中にボールが入らないように圧力をかけた。
相手CBは、決してパスが上手いわけではない。武士や堀場、昆布に入れば怖いが、今は下がらなければ受けられないようになっている。何度もポジションチェンジを繰り返しているが、それを見逃したりはしない。
が、武士が俺がプレスに行きにくい場所で受けて、俺がつられたところで一度相手CBに落とし背後に下がる。中盤にスペースが出来た。そのスペースで武士がボールを受け直す。ツカサも出ようとして出れない位置で受けていた。簡単だが非常に厄介なプレーだ。
今のところ選択肢は結構ある。昆布は尊史が見ているが、ツカサが武士と黒髪CFの二人をみなければならない状態はまずい。
すぐにプレスバックに行く。ボールは相手左WGの堀場に渡った。矢部坂との1VS1。堀場は中盤に来る機会が減り、かわりに矢部坂への仕掛けが多くなっている。確かに得点チャンスが大きくなるところに攻めるのは当たり前だ。
矢部坂は、やはりあっさりと抜かされる。守備が軽いのはあまり成長していないのだ。堀場が中を見る。
「どおりゃああああでやんす!」
だが、その一瞬で矢部坂は引き返し、ボールを取り返した。そうだ、矢部坂にはこのスピードがある。初速も早いし、持久力もあるこいつのスピードに勝てるやつはそう居ない。
矢部坂からツカサにボールが渡り、一気に右WGの元に届く。名前を
押し込まれたところからのスピードは飛鳥よりもあった。
当然相手も着いてくるが、構わずに爆走してクロスをあげる。中は見ていないので、当然峰には合わない。が、峰は茶髪CBの前に右足だけ割り込ませた。
そして相手がクリアする前に右足を軽くふるってシュートする。GKに弾かれたが、こぼれ球が峰と茶髪CBの前に転がる。今度は左足で押し込んだ。
「四点目だ! まだとるぞ!」
峰がゴール前で大声をあげる。マッチアップしていた茶髪DFが睨んでいるが、意にも介さないように尊史たちとハイタッチを交わしていた。
これで4-2。だが、まだまだ止まらない。
ケチャドバ*1というように、二失点後に四得点をあげた俺たちの勢いは止まる気配がなかった。
試合が再開して、すぐに俺たちボールになる。俺を中心に何度も致命的なチャレンジをし、数本のシュートを放つ。ルーズボールも俺やツカサ、そして矢部坂ですぐさま回収し、分厚い攻撃を続けていた。
だが、それでも疲れは出てくる。ルーズボールを相手に拾われ、一気にカウンターになった。矢部坂は出ているために、DFラインにはツカサと、沼野の代わりに入った千倉だけ。
だが、俺も低めの位置をとっている。
武士が回収したボールを堀場に預けようとパスをする。だが、下がって対応しようとしていた俺はすぐさま引き返して堀場に食らいつく。足を伸ばして一気にボールをかっさらった。
「なあ!? クソオッ!」
すぐに顔をあげる。前線を見て、ゴールの可能性を模索した。
「矢部坂!!」
そして、一秒も経たないうちにフライパスをあげる。狙うのは、最前線で残っている矢部坂。俺がすぐにボールを奪い返したために、高い位置でフリーになっていた。彼のスピードを考えて、少し前に落ちるように、鋭く、バックスピンのかかったスルーパスを送る。
「戻れ!!!」
相手監督も必死に声をあげる。矢部坂は一人抜け出している。守備に戻ろうと急いで戻っていたためオフサイドもない。そして、反転して今度は俺の出したボールに追いつこうと全力で駆けているのだ。相手DFはあっという間に引き離された。
だが、相手キーパーは飛び出した。矢部坂よりも早くボールにたどり着けると考えたのだ。
矢部坂はボールと、目の前のGKを見て、ジャンプした。空中を飛んでいるボールを頭で下から叩き、コースを変える。
ボールは、GKの真上をふわりと飛んでいった。慌ててGKも戻るが、ボールは無慈悲に、ダッシュした彼の目の前でゴールに吸い込まれた。
「ごぶっ! ......やったでやんす! ───オイラは、下手なんかじゃないでやんす!」
無様に倒れた矢部坂が両手を上げて叫んで、ゴールを認める笛がなった。5-2だ。体を投げ出した矢部坂に味方がどんどん集まり、ゴールを称えた。峰なんかは思いっきり抱きしめて持ち上げている。
「ナイスゴール。ちゃんと追いついたな」
そう労ってやると、矢部坂は嫌そうな顔をした。
「いつもあんなボール出してるんでやんすか? 全く鬼でやんす......。オイラが全力で走ってようやくなんてスパルタにすぎるでやんすよ」
「当たり前だろ。ゴールの可能性をあげるなら、受け手の限界に合わせた方がいい」
「オイラ、その考えには全く反対でやんすね」
まあ、武士のプレスが迫ってきていたのもあって少しズレたのは内緒だ。だけど、矢部坂は追いつけて挙句にはゴールも決めた。それで十分だろう。
他の奴らにも声をかけて労っていたが、俺は相手ベンチの様子を見て歩き始めた。その様子を見て、矢部坂は最後に俺に声をかけた。
「パワプロくん。それにタカくんもコーセイくんも、他のチームメイト全員に言えることでやんすけど、オイラはいい仲間に恵まれたでやんす」
「そうだな。まあ、ちょっとお別れの挨拶をしにいくだけさ」
それだけ言って、その場を後にする。俺が向かったのは、交代要員の待つピッチ外へと向かう堀場だ。
「おい」
と声をかけて堀場を呼び止める。彼が振り向いたところで、手を差し出した。反射的に堀場も手を出して握り返す。そこで彼はようやく握手の相手が誰か認めた。
傍から見れば、健闘を称えあったスポーツマンシップ溢れる絵だろう。前半に二得点をあげた堀場は、少し違っていればFCレグルス決勝進出の最大のMVPになったはずだ。
だが、実際は見たものと程遠い。俺は堀場を罠にはめた。トリッキーなプレーを見抜いてボールを奪い、同点弾を献上させた。そして3点差となる矢部坂の追加点も、俺がこいつからボールを奪ってから始まった。
だから、俺は握手しておきながら、嘲るような目を向けてやった。お前が奪われたボールは、お前が下手だと罵った矢部坂にゴールにされたんだ。今、下手なのはどっちか考えてみろよ───。
口では何も言わない。審判に悪印象を持たれたくはないからだ。だが、じっと堀場の目を見て、最後には嘲笑ってやった。そうして手を話す。
堀場はガックリとうなだれていた。それを見届けて、俺も鶴屋監督に交代をお願いする。
「......えげつないな」
「ま、そうだろうな。だが、チームメイトを下手だと罵ったのはあいつだ」
武士が顔を顰めて俺に声をかける。俺の一部始終の行動に怒りか、あるいは他の負の感情が溜まったのだろう。だが、勝ったのは俺らだ。何も言わせない。
「まあ、心配に思うなら気にかけてやれよ。本当に上手いんだったら、すぐに立ち直るさ」
と、無責任なことを言ってベンチに下がった。
当然、鶴屋監督には怒られたが、あまり反省はしていない。するつもりもない。その後は試合をベンチで眺め、6-2のスコアで試合終了の笛がなった時は拍手を送った。
☆
「正直、オイラはそこまで望んじゃいなかったでやんす。あれはパワプロくんの暴走で、オイラには全く関係なかったでやんすー!」
「ああん? 下手の横好き矢部坂くん、君のゴールはだーれがアシストしたんですっけ?」
「むしろあの状態なら別の人のパスが良かったでやんす! 高見ちゃんとかならオイラが余裕で撃てる場所にくれるでやんすよ」
「なんだよ。飛鳥好きなのか?」
「いやいやいや! 全くなんのことか分からないでやんすね! それにオイラは永遠のハーレム太郎。一人の女性とちぎりを結ぶことはないでやんすよ」
「ふーん背中から刺されちゃえ」
「そのままお返しするでやんす!」
宿の温泉を上がって、矢部坂とロビーを歩く。フルーツ牛乳を飲みたい気分なのだ。風呂前の自販機では売り切れていたが、矢部坂が売店に売ってあったのを覚えていた。
やいのやいの言い合いながらロビーを歩いていると、三人の大人が見えた。鶴屋監督と俺の両親だ。
「父さん。海外のことありがとう」
「お、パワプロ。おつかれ、試合のことは母さんから聞いてる。よくやってるな」
身長が190cmを超える父が、優しい顔で笑顔を浮かべた。鼻の高いところが俺とよく似ているが、鋭い目とかが俺とは全く違う印象を与えている。仕事が出来そうな鬼畜公務員の見た目だ(偏見)。
ちなみに実際は外資系の仕事をしている。詳しくは聞いていないが、向こうで俺の手続きを進めている間にも仕事をしているらしい。道理で外国語に強い知り合いがいるわけだ。
ちなみに鶴屋監督は名前の割にチャラい見た目をしている。短髪をハーフアップにした、涙袋が印象的な人だ。まだ三十代にも辿り着いていないらしい。俺の魂年齢より年下だ。若造め。
その中でも一際小さな母が、俺の頭を撫でる。本人は労っているつもりなんだろうが、これは非常に恥ずかしいのだ。必死に振り払うのを我慢していると、笑いを堪えるのに必死な矢部坂が目に入った。あいつぜってーころす。
「パワくん、明日は決勝なのよね?」
「うん。今のところアシスト数も一位ぽいし、そっちの賞も狙ってる」
その俺の言葉に、両親も鶴屋監督も満足そうにうなずいた。
「そうね。最後のチャンスだけど、いつも通りやるのよ」
「うん。おやすみ」
「おやすみなさい、応援してるわ」
「おやすみ、パワプロ」
「おやすみなさいでやんす」
「二人とも夜更かししないで早く寝ろよー?」
就寝前の挨拶をして、その場を後にする。
「いやーパワプロくんには全くにつかない母親だったでやんす。父親の方もパワプロくんとは違って実直で誠実なイメージがしたでやんすね」
「両親にいいイメージを持ってもらって嬉しいが、俺はお前を殴る。覚悟しろ」
「暴力反対でやんすー!」
廊下を進み、エレベーターに乗り、部屋のある六階までやってきた。そこで、ふと矢部坂が思い出したように口にする。
「パワプロくんのママさんが『最後のチャンス』って言ってたでやんすよね? あれは海外下部組織の話でやんすか?」
「ああ、そう......」
「へえ、パワプロくんも苦労してるでやんすね。とりあえず明日は、コーベとのダービーを制するでやんすよ」
「俺の母さん、なんて言ってたっけ」
「はあ? もう忘れたんでやんすか? 明日が決勝なのか聞いて、『明日が最後のチャンス』だから頑張ってねって───。パワプロくん? どうしたでやんすか?」
明日が、最後のチャンス。
確かに元々そういう考えでいた。だが、俺がバルサのセレクションに合格していたら、絶対に出ない言葉だ。受かっていたら明日はなんのチャンスでも無くなる。最後のチャンスだなんて言葉は使わない。おそらく口が滑ってしまったのだろう。
俺は、落ちたのか。
堀場くんの心を折ってけちょんけちょんにしようと考えたのはパワプロくんだけですわ!
進藤くんと峰くんはたくさん点取って見返そうと考えただけですわ!